2019年04月16日

ブルース・ピアノ・オージー

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ブルース・ピアノ・オージー
(Delmark/Pヴァイン】


大体アタシが金持ちだった事などないんですが、ハタチぐらいの頃はそりゃもう貧乏でした。

社会というものに放り出されたてホヤホヤの時期で、真面目に正社員の職なんてやっておる訳がないのですが、それでも自活するために仕事をせにゃあならん。


でも、元来が不器用なにで、自分が好きな仕事というよりは出来る事しか仕事に出来ません。

というわけでどこかレコード屋さんのバイトなんかないだろうかと、埼玉から東京エリアをあちこち物色してたんですね。

そんで運良く東京は中央線沿いにあるレコード屋さんに潜り込む事が出来ました。

フリーターというやつなんでしょうが、家業もCD屋だし、修行するには丁度いいなんて偉そうにしてました。

まぁそれでも最初のうちはそれ1本で自活するにはもう爪に火を灯すような生活をせざるを得ません。

何にせよ東京でカネがかかることといえば移動のための電車賃であり、一人暮らしでカネがかかるといえば、食費と光熱費でございます。

ここはとことん切り詰めました。

ほいでもって皆さんもそうだった(今、そうである)と思うんですが、ハタチなんて年の頃はレコードとかCDとか本だとかが一番欲しい時期ですよね。

しかもアタシの場合は職場がまずレコード屋で、駅前にある職場と、その駅の反対側にあった自宅アパートの間に、いい感じの古本屋があって、しかもここが丁度仕事が終わる頃の時間帯から表にワゴンを出して¥100〜¥300のセール品を放出する良心的なお店ときた。

月に何冊かセール品の古本(主に音楽本と哲学本と現代詩本)を買い、月に何枚か切実に欲しいCDやLPを、泣く泣く厳選に厳選を重ねて買う訳なんですが、買う訳なんですが、知識が増えると欲も増えるというのは本当で、知ってる事と「こんなのもあるんだ!」という新鮮な”知らない事”が増えると必然的に欲しいものが多くなってくる訳なんですよ。


そこでアタシはどうしたかというと、オムニバス盤を買いまくりました。

特にブルースは「この人知らない!」のオンパレードでしたので、まずは色んな人の音源がたくさん聴けるオムニバスを買って知ってみようと、個別のアルバムはそこで気に入った人のを買えばよろしかろうと。

それが結果的には泥沼への第一歩ではあったんですが、まぁ何せオムニバスというのは中古では単体アーティストのアルバムより常にちょいとだけ安かったりしたし、実際に重宝したんです。

とある日に国立のレコード屋さんで、ジャケットがすこぶるカッコいいレコードを見付けた。

それが1960年代のピアノ・ブルースマン達の名演を集めた『ブルース・ピアノ・オージー』でありました。

「オージーって何だ?オーストラリアのブルースか?まぁいいや、オーティス・スパン入ってるしジャケかっこいいしこれは買いだべ」

と、なけなしの¥980をはたいて中古の「ジャケットややスレあり」のレコードを買ったんです。



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【収録曲】
(スペックルド・レッド)
1.ブルース・ハート・マン・トング・トゥ・トーク
(ルーズヴェルト・サイクス)
2.ドレッサー・ドロワーズ
3.コンセントレーション・ブルース
4.キッキン・モーター・スクーター
5.(ニュー・イヤーズ)レソリューション・ブルース
(サニーランド・スリム)
6.マイ・ベイビーズ・カミン・ウィズ・ア・マリッジ・ライセンス
7.プア・ボーイ
8.エヴリ・タイム・アイ・ゲット・トゥ・ドリンキン
9.ディープレッション・ブルース
(リトル・ブラザー・モンゴメリー)
10.スタンダール・ストンプ
11.トレンブリン・ブルース
12.ノー・スペシャル・ライダー
13.ベース・キー・ブギー
(メンフィス・スリム)
14.ファイヴ・オクロック・ブルース
15.ナット・ディー・スペシャル
(カーティス・ジョーンズ)
16.ロンサム・ベッドルーム・ブルース
17.テイキン・オフ
18.ティン・パン・アレィ・ブルース
(オーティス・スパン)
19.スリー・イン・ワン・ブルース


ブルースっていえば大体がギターです。

中学の頃からぼちぼち聴いてはおりましたが、ロバート・ジョンソンにマディ・ウォーターズにミシシッピ・フレッド・マクドウェルにレッドベリーにブラインド・レモン・ジェファソンにバディ・ガイに・・・。と、十代までのアタシが知ってたブルースマンもまた、大体がギタリストでした。

でも、ピアノもカッコイイよね。ピアニストって誰がいたかな?リロイ・カーだね、リロイ・カーはいいぞ、ハウロング・ブスースだ。あとは・・・えぇとほら、マ、マディ・ウォーターズのバンドの舎弟頭みたいな・・・渋いけどすごく存在感のある・・・あのニューポートのライヴで最後に歌ってた・・・そうそうオーティス・スパンね。あとはえぇと・・・し、しまった、ほとんど知らんぞ。これは一大事、困ったもんだ。

というのがその頃のアタシの正直な心境でしたので、じゃあピアノ・ブルースを知って楽しむために何かを聴きましょうと、想い焦がれていたところにこのアルバム(というかジャケット)は、正に天啓でありました。


内容に関しては言わずもがな!戦前から戦後にかけて活躍した、ブルース・ピアノのえりすぐりの名手、ホント「ブルース・ピアノ」というタイトルでコンピを作るとしたら、絶対にハズせないメンバーで固めた凄い人選ですが、この凄い人達の音源を、このシカゴのマイナーレーベルだったデルマークが全部自前でレコーディングしてたってことでしょ!?と、内容とは別にデルマークというレコード会社のブルース愛にもシビレてしまいます。


まずは1曲目、ブギ・ウギ・ピアノの名人として、ブルース/ジャズ両方のファンをとりこにするスペックル・レッドのユルめのブギウギと力強いヴォーカルの『ブルース・ハート・マン・トング・トゥ・トーク』にド肝を抜かれ、戦前から両巨頭としてブルース・ピアノの王道の両横綱であったルーズヴェルト・サイクスとリトルブラザー・モンゴメリーの深い味わいが後からジワジワと染みてきます。

それから戦前南部〜戦後シカゴを股にかけて活躍したサニーランド・スリムの、全体の渋さとピアノプレイの豪快なタフネスもこれグッときますな〜。

戦後モダンなスタイルのピアノでエレキ化したバンドブルースにも対応したメンフィス・スリムやオーティス・スパンも、ここではグッと重心の低いソロ・ピアノのヘヴィなブルースを聴かせます。

特に最後の最後に入ってるオーティス・スパンはインストで、ガラガラと転がる左手のアタックの強さ「バーン!」と叩き付ける鍵盤の隙間から漏れてくる情感が、もう本当にブルースとしか言えないようなもので、レコードの針が上がった後もしばらく固まっておりました。

オムニバスで、それぞれ個性豊かなピアノマン達が、それぞれ違ったスタイルを聴かせるんですが「あれもありますこれもあります」のまとまりのないコンピではなく、ほぼ全員の演奏を、弾き語り中心の音数を絞った編成でまとめ、作品としてのまとまりも素晴らしい。

最初に聴いてからしばらくして、早速ルーズヴェルト・サイクスやリトルブラザー・モンゴメリー、サニーランド・スリムなんかは、食費を切り詰めに切り詰めてアルバムを買いに走った訳ですが、それらにシビレてもなお、このアルバムで聴けるそれぞれの演奏の味わい深さが薄まることはありません。

ピアノ・ブルースって本当に素晴らしいので、ブルースはギターを中心に聴いている人にもこのオムニバスはいい感じの気分転換になるとは思います。そしてジャズ好きの方が聴いたら色んな発見がもっといっぱいあるんじゃないかな〜と思っておりますよ〜♪







ブルース入門編 〜初心者のための優しいブルース講座〜



『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
http://ameblo.jp/soundspal/
posted by サウンズパル at 23:24| Comment(0) | ブルース | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする