2019年06月27日

ライトニン・ホプキンス Blues in My Bottle

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Lightnin' Hopkins/Blues In My Bottle
(Bluesville/OBC)


お酒を全く飲めないくせに、いきなり酒の話をしますけれどもね。「お酒はぬるめの燗がいい、肴はあぶったイカでいい」なんて歌がありますように、お酒が好きな人ってのは、酒の味そのものを楽しむために、ツマミはするめとか塩辛とか、そういうちょっとしたものだけがいいんだって言う人がおりますね。

それであの〜、テキーラってあるじゃないですか。そうそう、メキシコのすこぶる強い酒らしいんですが、すこぶる強いくせに「ライムをかじった口の中がすっぱいうちにショットグラスっていう小さいグラスに入ったテキーラを一気に飲み干す」という、なかなかに頭のおかしい豪快な飲み方というのがあって、若い人なんかは大好きらしいのですが、とある酒好きの人は「やっぱりネ、テキーラってなぁ美味しいお酒なんだから、あんな一気飲みみてぇな飲み方じゃあ馬鹿みたいに酔っぱらっちまうだけでちっとも美味しく味わえねぇ。こうやって飲むのが一番なんだよなぁ」と、コップに入ったストレートのテキーラを、静かに塩だけを舐めながら、チビチビとやっておりました。

飲めないアタシには、テキーラの正しい飲み方なんてのはさっぱり分かりませんが、ハタから見ていると、はしゃぎながらショットでガンガン飲んで、後で苦しそうにしてるのより、自分のペースで美味しそうに味わいながら飲んで悪酔いもしないって人の方が、まぁ何か間違いなくいい思いをしてそうだなぁとは思います。

んで、こういう「ツマミは塩だけ」みたいな話になると、どうしても連想する音楽というのがあって、それはつまりアコースティック・ギター1本だけをバックに、じっくりじんわりと歌われているブルースだったりします。

大体ブルースマンなんて人達も人生ぶっ壊してしまうぐらいの酒飲みが多いし、酒の楽しさとかヤバさとかを歌ったブルースもいっぱいある。だからアタシなんかは飲めなくてもブルースを聴くだけで、凄く美味しい酒を、それこそ塩かあぶったイカ程度のツマミをやりながらじっくり味わった気になってしまうんですが、皆さんはどんなもんでしょうかね?

で、ライトニン・ホプキンス。


資料によりますとライトニンって人は、レコーディング・スタジオでは常に自分のすぐ横に、バーボンのボトルとグラスを用意させて、ギターを弾く前にまず飲んでたんだと。あー、弾くかな〜と思ってたらそのまんま「おゥ、いいねぇ、じゃあもう一杯」と酒飲んで、いい感じにデヘデヘになってリラックスした状態で「じゃあやるか、デヘヘ」と歌い始めるのが多かったんだと。

残された色んな写真見てても、とりあえず携帯用のアルミのボトルを持ってますわね、まーこれは相当なもんでございます。

ライトニンという人は人気者だけあって、生涯物凄い数のアルバムを色んなレーベルから節操のカケラもなくめちゃくちゃ精力的にリリースしてた人なんですが、どれも濃厚な、度数の強いアルコール臭がいたします。

で「ツマミは塩だけ!」のような、極めてツウ好みの辛口な味わいに満ち溢れておりますのが、1960年代にリリースした、有名なジャズ・レーベルのPrestigeの子会社『Bluesvill』から出されたアコースティックな作品群。


60年代のフォーク・ブルース・リヴァイバルの人気に乗じて、Prestigeがライトニンに


「レコーデイングのギャラ(印税とは言ってない)はもちろん出すよ、そんでスタジオでは全ての酒が飲み放題だ。どんな銘柄でもアンタの好きなボトル置いとくし、それを好きなだけ飲んでいいからさぁ」

とか何とか言ってライトニンをその気にさせて結構な数のレコーディングを残したんです。

や、ミュージシャンに日銭”だけ”を渡してレコーディングしまくるPrestigeも相当なヤクザなのですが、多分ライトニンの方も

「おゥ旦那ァ、ニューヨークってとこはバクチのレートが高すぎてどうもいけねぇ。つまりカネがなくなった。レコーディングするからカネくれや」

とばかりにPrestigeオフィスに押しかけてきてたであろう事は想像に難しくありません。


とまぁそんなヤクザonヤクザでありますから、Prestigeのライトニンのアルバムはどれもおしなべて、以下の「ライトニン・ホプキンスらしさ17箇条」のうちの実にほとんどをしっかりと遵守した、素晴らしく自然体なブルースがそのまんま収録されておるのであります。



≪ライトニン・ホプキンスらしさ17箇条≫

1.気負いがない

2.無理しない

3.でも無茶はする(特にエレキ持った時に歪み過ぎてたり変なエコーかかってたり)

4.どの曲もブギかスローかの2パターンだけで、それぞれのパターンはほぼ一緒

5.明らかに酔っぱらっている

6.故にスタジオ盤だろうが何だろうが関係なく、曲中に喋る

7.MCの途中”デッヘッヘ”という笑い声が入る

8.曲中でもよく”デッヘッヘ”と笑う

9.(歌詞読んでも)何が可笑しいのか不明の場合が多い

10.ライヴだろうがスタジオだろうが”オレんち”であるかのようにくつろぎまくる

11.チューニングが微妙にズレている(大抵の場合半音高い)

12.アコギとかエレキとかどうでも良い、思い切った弾きっぷり

13.変に自己主張する共演者がいない

14.いたとしても”ココで一番偉いのはワシなんじゃ、ワレはすっこんどれ”と言わんばかりのマイペースぶりで押さえ込む

15.明らかに”今思いついただろそれ!”って曲がある

16.でもブギかスローかの”どっちかのパターン”でしかないので大した問題ではない

16.全体的に”テキトー”である

17.だがテキトーな時ほどノッている







Blues in My Bottle

【収録曲】
1.Buddy Brown's Blues
2.Wine Spodee-O-Dee
3.Sail On, Little Girl, Sail On
4.DC-7
5.Death Bells
6.Goin' To Dallas To See My Pony Run
7.Jailhouse Blues
8.Blues In The Bottle
9.Beans, Beans, Beans
10.Catfish Blues
11.My Grandpa Is Old Too!



で、本盤『Blues In My Bottle』ですが、これはもう全編アコギで収録曲のほとんどがスローブルースという訳で、ライトニンのアルバムの中では地味な部類に入りますが、ジワジワと腹にくるスロー・ブルースとカラカラと乾いた音で鳴る生ギターの迫力がとことん辛口で、これぞ正に「テキーラに塩!」な、味わい濃厚盤。

ジャケットも内容をドンピシャで現すモノトーンのシンプル・イズ・ベストなものでありますね。シンプルなだけに何度眺めても飽きが来ません。

所謂名盤のジャケットのように強烈なインパクトがあるような類のものではありませんが、「何かあるぞ〜」という臭いをプンプン放つストーリー性抜群のドキュメントタッチが素晴らしい。実にハードボイルドな一枚なのです。

タイトルがまたイイですね『ブルースぁ俺のボトルん中に入ってる』。骨の髄まで酒とブルースが染み込んだ男にしか吐けない台詞なんですが、中身はもちろんタイトルを凌駕しております。











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2019年06月23日

ジェスロ・タル 日曜日の印象

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ジェスロ・タル/日曜日の印象
(ワーナー)

引き続きジェスロ・タルを聴いてるんですが、いやぁ〜いいですよ、ジェスロ・タルかっこいいですよ。

ビートルズやストーンズやツェッペリンのようなモンスターバンドではないのですが、同じ時代のどのバンドとも違うサウンドで、群を抜いて独創的であるにも関わらず、結局この人達からモロに影響を受けてサウンドやスタイルを似せたバンドがその後現れなかったって凄くないですか?

そりゃ確かにロックサウンドにフルート入れたら、どんなバンドでもジェスロ・タルになっちゃうかも知れない。でも、単純に「ロックバンドなのにフルートがいる!しかも、そいつ、フロント!うひゃ!!」っていうのだけじゃないんですよね。ジャズやブルースやトラッドフォークをドカッと全部ブチ込みつつも、それらがちょいとこの世とは違う世界の中で溶け合って響き合っているこの絶妙さ。これですね。この「俺達フツーにやってるだけだよ、やりたいことをね」とサラッと言いそうなこの感じ、これが「ジェスロ・タルってクセになる」ということなのかも知れません。


まーとにかく、ジェスロ・タルを聴いてると、ロックという音楽が生まれたてのまだよくわからない音楽だった時代に「これもロックか?よしオッケー、じゃあコレは?オッケー何でも来い」と、色んな音楽を取り入れながらというよりも、いろんな「良いもの」を手作りでこね回しながら独自の「良いもの」を新しく生み出していったその空気を、音を聴きながら目一杯吸い込んでる気持ちになれるんですよね。あぁほんと素晴らしい。

という訳で、先日彼らの音楽的な完成度が最高に完成された形で作品になった5枚目のアルバム『ジェラルドの汚れなき世界』をご紹介しました。ほんで、久々に「あ〜、ファーストもいいよな〜、聴いてみよう♪」と思ってファーストアルバム『日曜日の印象』を聴いてたんですが、いやもう良い!これは『ジェラルドの汚れない世界』と全然違って良い!でも、しっかりと何か見えない大切な部分でしっかりと繋がっていて良い!

さて、ジェスト・タルの音楽は美しい混沌でありますが、バンドそのもののデビューはリアルな混沌からスタートしておりました。

中心人物のイアン・アンダーソン(ヴォーカル&フルート)と、ベースのグレン・コーニックは、元々ジョン・エヴァン・バンドというブルースロックのバンドを組んでいたのですが、このバンドはメンバーが安定せず、誰か加入したと思ったらすぐ抜けて、常に空中分解中という酷い状態であったそうです。

そんなだったから”ジョン・エヴァン・バンド”でライヴハウスに出演しても、大体1回だけの仕事しかもらえずに後が続かない。だから「どうせ1回で断られるしメンバーも入れ替わってんだからテキトーな名前付けてオファーされに行こうよ」と、たまたま知った18世紀の植物学者”ジェスロ・タル”という名前を付けてライヴやったら、これが次にオファーももらえたからということで、たまたまテキトーに付けたバンド名が、音楽史に残る偉大なバンド名になってしまったという訳なんです。

という説もありますが、実際はマクレガーズ・エンジンという、これまたブルースロックのバンドから、実力派のギタリスト、ミック・エイブラムスと、ドラムのクライヴ・バンカーが、ジョン・エヴァン・バンドに合流する形で参加し、演奏が安定し、バンド名も変更。

このメンバーで出演した『ナショナル・ブルース・アンド・ジャズ・フェスティバル』というイギリス最大規模のジャズとブルースのフェスで他の出演者が霞むぐらいの素晴らしい演奏をした事で評判となって、メジャー・デビューがあっという間に決まったそうであります。




日曜日の印象

【収録曲】
1.日曜日の印象
2.いつか太陽は沈む
3.ベガーズ・ファーム
4.ムーヴ・オン・アローン
5.カッコー・セレナーデ
6.ダーマ・フォー・ワン
7.イッツ・ブレイキング・ミー・アップ
8.キャッツ・スクワレル
9.ジェフリーへ捧げし歌
10.ラウンド


さて、アルバムを聴いていると、冒頭から泥臭いカッティングのギターが炸裂する、実にヘヴィなロックでございます。

そして2曲目、3曲目はブルースロックというよりはド直球のブルースで、イアンの味わい最高なブルースハープと、短いながらフィーリングに溢れたミックのソロが実に素晴らしい。

ミック・エイブラムスという人は、単なるブルースファンという程度ではなく「ブルースじゃない音楽なんて全部クソ!」と言い切ってしまうぐらいの強烈なブルース・フリークで、まぁそれがジャズもトラッドも何でも取り入れてロックすりゃいいじゃないかというイアン・アンダーソンとは合わず、このアルバムリリース後にすぐ脱退してしまうんですが(だからデビュー直後の『ロックンロール・サーカス』では、代役として急遽トニー・アイオミがギターを弾いていた)、いや、この時代に、しかもイギリス人とは思えないぐらいにブルースが骨の髄まで染み込んだギターを弾けてしまうというのは、もう気持ちからそれぐらいにならないとダメだったんだろうなと思ってしまいます。

中盤以降はみんなが大好きイアン・アンダーソンのフルートが大々的にフィーチャーされております。


最高なのが5曲目の『カッコー・セレナーデ』。あのですね、イアン・アンダーソンはジャズマンのローランド・カークという人の大ファンで、この人は3本サックスくわえて同時に吹くとかいう凄い奏法が話題になる人なんですが、実はフルートも「ぶふっ、ブふっ」とか「ぶぎゃらぎゃらぎゃっひゃっひゃ!」という、呼吸音なのかそれとも歌ってるのかよく分からん声を混ぜながら、カッコ良くブルースにまみれたフレーズを吹きまくる人なんですが、ここでのイアンのプレイはまんまカークです。

そのフルート聴いてるだけでこっちも「あひゃひゃ!」となってしまうぐらい気持ちいいんですが、バックでオシャレなジャズ・コードをサラッと弾けてしまうミックと、静かに煽る見事なジャズビート叩けてしまうクライヴ・バンカー、やっぱりただの偏屈なブルース狂なだけじゃなく、確かな実力派だと思い知らされます。


「ファースト・アルバムには粗削りなカッコ良さがある」というグレイトなロックバンドの定説に漏れず、ジェスロ・タルのこのファーストも、グレイトなロックバンドならではの粗い魅力があります。

流石に後の英国トラッドフォークな幻想的な美しさはまだないのですが、それでもデビュー作でロックにブルースにジャズにと、ギリギリのクロスオーバーな要素を、トータルな枠組みの中で洗練された完成度でもって、しっかりと聴かせる仕上げを、何とファースト・アルバムでちゃんとこなしてるんですよ。ファンは歓喜し、ミュージシャンや音楽関係者は「末恐ろしい・・・」と戦慄を覚えた事でありましょうね。





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ジェスロ・タル ジェラルドの汚れなき世界

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ジェスロ・タル/ジェラルドの汚れなき世界
(ワーナー)


アタシがローリング・ストーンズという真にグレイトなロックバンドのカッコ良さに目覚めたアルバムが、1969年に製作され、1996年突如として世に出た『ロックンロール・サーカス』でありましたが、実は後になって、このアルバムで「コイツらヤベぇな!」と興奮したバンドがありました。






それが、コンサートのオープニングを飾ったジェスロ・タルでありました。

あのですね、ロックバンドのくせにフルートですよ、フルート吹いてる奴がメインなんです。

で、最初「ジャズかな〜?」と思わせて、曲が展開する毎にそこにブルースや骨太なロックのノリもガツガツ入ってきて、一言で言えば「色々入り過ぎて何ていうジャンルかよくわからない混沌とした感じの音楽」を、物凄い勢いで展開するんですよ。

アタシの世代だったら、激しいロックにファンクとかヒップホップを足したよーな音楽をミクスチャーって言ってて、直感で思ったのは「あ、これはミクスチャーの元祖みたいなもんだね、えらく自由でカッコイイぜ!」というような事でした。

「これはジャンルで言えばどんな感じになるんですかね」

と、先輩に訊いたら

「おぅ、コイツぁプログレだな」

と言うので、なるほどこういうのがプログレかーと思って、キング・クリムゾンとかピンク・フロイドとか、マグマとか、いわゆる”プログレ”の大物なるバンドを聴いてジェスロ・タルと比べたりしてみましたが、それらとはちょいとまた毛色の違う、ハードで知的な演奏ながら、どこかとっつきやすいポップな感じと、ジャンルごちゃまぜ以前に、どこかこう英国のトラッドとか、伝承とかそういう部分と深くコミットしているような、ヨーロッパの土着性みたいのを強く感じて、これを一言で何何だっていうのは、やっぱりちょっと違うなと、今でもずっと思っております。

で、ロックンロール・サーカスってのは、実はCDの方がサントラで、本編はビデオの方なんですね。

リリースしてほどなくしてから、見せてもらう機会があって、それのジェスロ・タルを観たのですが。。。

か・・・カッコイイ!!


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フロンロマンでフルート&ヴォーカルのやつ(イアン・アンダーソン)が、長髪のヒゲ面で、しかも19世紀の辻芸人みたいな恰好で、フラミンゴみたいに片足上げてフルート吹いている。その姿と楽曲の雰囲気とが、サーカスのテント小屋っていう異空間の演出に本当に、ある意味他のどの出演者よりもピッタリ合っててですね「もうコレ!絶対コレ!!」と、何がコレなのだか、何が絶対なのだかわからんのですが、とにかく興奮して狂喜乱舞致しました。

単純な「ジャンルの融合」というのよりも、もっと何か深い部分で共鳴する音楽の集合体のような、そういう本質的なヤバさみたいなものを感じたんですね。

色々と興味持って調べてみたら、デビュー前から音楽と演劇やパントマイムなどを融合させた、独特なステージをやっていたり、フルート&ヴォーカルのイアン・アンダーソンは、元々ギターを弾いてたんだけど、他の連中がみんな自分より上手いから、これは何か別の楽器をやらねばと思って楽器店に行った時、ヴァイオリンとフルートで迷って「どの楽器が簡単かな?」と店員に訊いたら「フルートの方が簡単だよ」と言われて「じゃあフルートで」と決めたとか、もう何かそういう所からして面白いんです。

で、その雑多な音楽性も、大道芸人のような独特のパフォーマンスも「道化になってやろう」という本気の覚悟でもって生み出されたものと聞いて、アタシはますます好きになりました。



ジェラルドの汚れなき世界

【収録曲】
1. ジェラルドの汚れなき世界 (パートI)
2. ジェラルドの汚れなき世界 (パートII)
3. ジェラルドの汚れなき世界 (1978年マディソン・スクエア・ガーデンのライヴ)*
4. インタヴュー:ジェスロ・タルのイアン・アンダーソン、マーティン・バレ、ジェフリー・ハモンド=ハモンド*

*ボーナストラック



で、恐らくは「道化」に徹した事が功を奏したか、60年代後半からロックシーンの中で常に何かがはみ出る程の異彩を放ち、70年代になるとあっという間に世界でも人気のバンドになったジェスト・タル。

「成功の秘訣は?」と本人達に訊いたら

「秘訣?う〜ん何だろ?好きな事を好きにやったからなんじゃないのぉ〜?」

とでも答えそうなぐらい、その雑多な音楽性と、ルーツへの深い探究は、キャリアのどの時期でも徹底しております。


初期のジャズとブルースとロックが混沌として入り混じったアルバムもすごく好きですが、アタシ個人的には完成度の高さに衝撃を受けたのが5枚のアルバム『ジェラルドの汚れなき世界』であります。

「8歳の天才詩人、ジェラルド・ボックスが、詩のコンテストで受賞した長編詩に、ジェスロ・タルが楽曲を付けた衝撃の問題作!」

という触れ込みで、しかもオリジナルのレコード盤は、あたかも新聞記事であるようなデザインでありますよ。

もちろん「8歳の天才詩人、ジェラルド・ボックス」は架空の人物で、作詞/作曲のクレジットには、しっかりとイアン・アンダーソンの名前が記されております。何でこんな事をしたのかというと、この前にリリースされたアルバムが、評論家から「何かコンセプト・アルバムみたいだね」と、皮肉交じりに言われた事に腹を立てて「じゃったらホンモノのコンセプト・アルバム作っちゃるけぇ耳かっぽじいてよく聴きないや!」と、本気で作ったコンセプト・アルバムになったんだとか。

で、中身の方も「コンセプトぶり」徹底しております。

何つっても収録されている曲は「A面B面で1曲」になるような、恐ろしく長い組曲です。

加えて「ジェラルド・ボックスの詩(設定)」というのが、まーこれはいかにも18世紀とか19世紀の詩人が書きそうな、非常に高度なレトリックを駆使した、皮肉と嘲笑とスマートなユーモアに溢れたもの。

えぇ、長いので詩は省略しますが、これをですね、あたかも英国伝統の吟遊詩人が残した音楽であるかのように、ヨーロッパの土着性たっぷりのトラッド・フォークのアレンジを基調に、妖しくも美しいフルートや、情感豊かでかつ異次元のグルーヴ感に溢れた、展開しまくりなリズムとで、スケールの大きな組曲に仕上げ一気に聴かせてくれるのです。


英国ロックといえば、レッド・ツェッペリンの名曲で『天国の階段』という曲があり、アレも組曲風の壮大なアレンジとめくるめく展開で聴かせる名曲ですが、このアルバムは、丸々1枚それに近い空気です。ただ、英国トラッドフォークとハードロックの純粋なクロスオーバーっぽいツェッペリンよりも幾分ひねくれた構造と、更に劇薬っぽくまぶされたロックの毒が効きまくってて、実にシビレる、ジワジワ感動しながら興奮してしまう、不思議な不思議な中毒性があって、やっぱり一概にロックとかプログレとか、そういう風には括れない奥深さがあります。

今でもジェスロ・タルってアレですよね、ジャンルや時代の云々じゃなくて、音楽で異世界を見たい人のために、その深淵な間口を開けて獲物を待ち構えているようなバンドに思えますね。

















『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

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posted by サウンズパル at 23:09| Comment(0) | ロック/ポップス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする