
Lightnin' Hopkins/Blues In My Bottle
(Bluesville/OBC)
お酒を全く飲めないくせに、いきなり酒の話をしますけれどもね。「お酒はぬるめの燗がいい、肴はあぶったイカでいい」なんて歌がありますように、お酒が好きな人ってのは、酒の味そのものを楽しむために、ツマミはするめとか塩辛とか、そういうちょっとしたものだけがいいんだって言う人がおりますね。
それであの〜、テキーラってあるじゃないですか。そうそう、メキシコのすこぶる強い酒らしいんですが、すこぶる強いくせに「ライムをかじった口の中がすっぱいうちにショットグラスっていう小さいグラスに入ったテキーラを一気に飲み干す」という、なかなかに
飲めないアタシには、テキーラの正しい飲み方なんてのはさっぱり分かりませんが、ハタから見ていると、はしゃぎながらショットでガンガン飲んで、後で苦しそうにしてるのより、自分のペースで美味しそうに味わいながら飲んで悪酔いもしないって人の方が、まぁ何か間違いなくいい思いをしてそうだなぁとは思います。
んで、こういう「ツマミは塩だけ」みたいな話になると、どうしても連想する音楽というのがあって、それはつまりアコースティック・ギター1本だけをバックに、じっくりじんわりと歌われているブルースだったりします。
大体ブルースマンなんて人達も人生ぶっ壊してしまうぐらいの酒飲みが多いし、酒の楽しさとかヤバさとかを歌ったブルースもいっぱいある。だからアタシなんかは飲めなくてもブルースを聴くだけで、凄く美味しい酒を、それこそ塩かあぶったイカ程度のツマミをやりながらじっくり味わった気になってしまうんですが、皆さんはどんなもんでしょうかね?
で、ライトニン・ホプキンス。
資料によりますとライトニンって人は、レコーディング・スタジオでは常に自分のすぐ横に、バーボンのボトルとグラスを用意させて、ギターを弾く前にまず飲んでたんだと。あー、弾くかな〜と思ってたらそのまんま「おゥ、いいねぇ、じゃあもう一杯」と酒飲んで、いい感じにデヘデヘになってリラックスした状態で「じゃあやるか、デヘヘ」と歌い始めるのが多かったんだと。
残された色んな写真見てても、とりあえず携帯用のアルミのボトルを持ってますわね、まーこれは相当なもんでございます。
ライトニンという人は人気者だけあって、生涯物凄い数のアルバムを色んなレーベルから
で「ツマミは塩だけ!」のような、極めてツウ好みの辛口な味わいに満ち溢れておりますのが、1960年代にリリースした、有名なジャズ・レーベルのPrestigeの子会社『Bluesvill』から出されたアコースティックな作品群。
60年代のフォーク・ブルース・リヴァイバルの人気に乗じて、Prestigeがライトニンに
「レコーデイングのギャラ(印税とは言ってない)はもちろん出すよ、そんでスタジオでは全ての酒が飲み放題だ。どんな銘柄でもアンタの好きなボトル置いとくし、それを好きなだけ飲んでいいからさぁ」
とか何とか言ってライトニンをその気にさせて結構な数のレコーディングを残したんです。
や、ミュージシャンに日銭”だけ”を渡してレコーディングしまくるPrestigeも相当なヤクザなのですが、多分ライトニンの方も
「おゥ旦那ァ、ニューヨークってとこはバクチのレートが高すぎてどうもいけねぇ。つまりカネがなくなった。レコーディングするからカネくれや」
とばかりにPrestigeオフィスに押しかけてきてたであろう事は想像に難しくありません。
とまぁそんなヤクザonヤクザでありますから、Prestigeのライトニンのアルバムはどれもおしなべて、以下の「ライトニン・ホプキンスらしさ17箇条」のうちの実にほとんどをしっかりと遵守した、素晴らしく自然体なブルースがそのまんま収録されておるのであります。
≪ライトニン・ホプキンスらしさ17箇条≫
1.気負いがない
2.無理しない
3.でも無茶はする(特にエレキ持った時に歪み過ぎてたり変なエコーかかってたり)
4.どの曲もブギかスローかの2パターンだけで、それぞれのパターンはほぼ一緒
5.明らかに酔っぱらっている
6.故にスタジオ盤だろうが何だろうが関係なく、曲中に喋る
7.MCの途中”デッヘッヘ”という笑い声が入る
8.曲中でもよく”デッヘッヘ”と笑う
9.(歌詞読んでも)何が可笑しいのか不明の場合が多い
10.ライヴだろうがスタジオだろうが”オレんち”であるかのようにくつろぎまくる
11.チューニングが微妙にズレている(大抵の場合半音高い)
12.アコギとかエレキとかどうでも良い、思い切った弾きっぷり
13.変に自己主張する共演者がいない
14.いたとしても”ココで一番偉いのはワシなんじゃ、ワレはすっこんどれ”と言わんばかりのマイペースぶりで押さえ込む
15.明らかに”今思いついただろそれ!”って曲がある
16.でもブギかスローかの”どっちかのパターン”でしかないので大した問題ではない
16.全体的に”テキトー”である
17.だがテキトーな時ほどノッている
Blues in My Bottle
【収録曲】
1.Buddy Brown's Blues
2.Wine Spodee-O-Dee
3.Sail On, Little Girl, Sail On
4.DC-7
5.Death Bells
6.Goin' To Dallas To See My Pony Run
7.Jailhouse Blues
8.Blues In The Bottle
9.Beans, Beans, Beans
10.Catfish Blues
11.My Grandpa Is Old Too!
で、本盤『Blues In My Bottle』ですが、これはもう全編アコギで収録曲のほとんどがスローブルースという訳で、ライトニンのアルバムの中では地味な部類に入りますが、ジワジワと腹にくるスロー・ブルースとカラカラと乾いた音で鳴る生ギターの迫力がとことん辛口で、これぞ正に「テキーラに塩!」な、味わい濃厚盤。
ジャケットも内容をドンピシャで現すモノトーンのシンプル・イズ・ベストなものでありますね。シンプルなだけに何度眺めても飽きが来ません。
所謂名盤のジャケットのように強烈なインパクトがあるような類のものではありませんが、「何かあるぞ〜」という臭いをプンプン放つストーリー性抜群のドキュメントタッチが素晴らしい。実にハードボイルドな一枚なのです。
タイトルがまたイイですね『ブルースぁ俺のボトルん中に入ってる』。骨の髄まで酒とブルースが染み込んだ男にしか吐けない台詞なんですが、中身はもちろんタイトルを凌駕しております。
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『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』
サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
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