2019年06月01日

ランブリン・ジャック・エリオット The Essential

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The Essential Ramblin' Jack Elliott
(Vanguard)


音楽としての”フォーク”は、元々は「古い民謡」という意味であり、”フォーク・シンガー”と呼ばれる人達というのは、主にアメリカ南部の白人黒人両方に伝わるバラッドと呼ばれる伝承歌を歌う人達でありました。

これが戦後、いわゆるポピュラー・ミュージックとしての”フォークソング”になり、日本で流行った頃は青春と連帯の象徴のような音楽になっておったような気がします。

つまりフォークってのは、戦後になって「売れる音楽」になってから、古い伝統の殻を脱ぎ捨てて、何か全く別の新しい音楽ジャンルに生まれ変わった。不思議です、本当に不思議です。


というわけで、元々は素朴な伝承音楽であった”フォーク”が、ポピュラー・ミュージックとして広く歌われる”フォークソング”になったきっかけは、戦後のビートニクに始まった「見つめる文化」というのがきっかけでありましょう。

「見つめる文化」ってのは、アメリカ型の「新しく派手なものをとにかくじゃんじゃん作って消費しようぜ」という資本主義文化へのカウンターとして生まれた「いや、ちょっと待て。消費してるうちに俺達は大事なものを見失ってきたんじゃないか?今世の中で何が起こってるのかとか、俺達がどこから来てどこへ行くのか、ちょっと立ち止まって見詰め直してはみないか」みたいな運動のことを、アタシが勝手にそう呼んでおるのです。

この「見つめる文化」の旗手として、オリジナルの「フォークソング」を多数作詞作曲し、一気に世界的な流れにしたのは、言うまでもなくボブ・ディランなんですが、今日はそんなディランが「僕は彼の(音楽的な)息子なんだよ」と公言してはばからなかった程に大きな影響を与えたフォークの巨人、ランブリン・ジャック・エリオットという人のお話であります。

この人は1940年代から50年代にかけて、ピート・シーガー、ウディ・ガスリーといった、いわゆる戦後フォークの立役者達と共に世に出て来た大御所の1人です。

彼らの時代の”フォーク”は、戦前の古いバラッド(伝承歌)や白人も歌ってたブルース(アイリッシュ系などの貧しい白人達は黒人と同じ環境で働き、自然と交流があったためブルースも歌ってました)、そして社会問題を歌うプロテストソングなどが歌われておりました。

よく並び称されるウディ・ガスリーは、南部で生まれ育ち、不況の煽りを受けて一家離散、日雇い労働を転々としながら各地を歌い歩き、労働組合の運動に参加した事がきっかけでオリジナルのプロテスト・ソングも作るようになったという、典型的なフォークシンガーでありますが、エリオットの場合は、大都会ニューヨークの裕福な医者の家に生まれ、ある日サーカスで見たロデオのショーに感動し「俺はこれになりたい!」と、何と15歳の時に家出して、そのまんま旅から旅のミュージシャン稼業にいつの間にかドップリ染まっていたという、なかなかに変わった経歴を持っておる御仁であります。

放浪しているうちに、ウディ・ガスリーと知り合って意気投合をし、一緒にさすらいの旅もやっていたようです。


元々が大都会ニューヨークにて、ユダヤ系というある意味生粋に都会っ子として育ったエリオットにとっては、アメリカの古い伝承音楽の世界は、全くの未知な刺激に溢れたものでありました。

特に彼は他のフォークシンガー達よりも、黒人音楽でありますブルースに深く傾倒しておりました。

「移民の国であるアメリカの音楽ってのは、アフリカから奴隷として連れて来られた黒人音楽が、その精神的な柱になっとるんじゃあなかろうか」

と、本人が語っておった訳ではないんですが、独特ののほほんとしたフットワークの軽い声とは裏腹に、まるで自分自身の”放浪の民族”としてのアイデンティティをそこに厳しく求めているかのように、エリオットは「そんな曲までやるんだ!」とびっくりするぐらい、有名曲から戦前にしか歌われてなかったようなマイナー曲まで自身のレパートリーに取り込んでおります。

「フォークソング」っていうのは、伝承歌の事ではあるんですが、その伝承というのが最初から色んな人種の人達の、それぞれ違った境遇から生まれ、それが人種や境遇を越えて共有されて「フォークソング」になる。


ランブリン・ジャック・エリオットという人は、そのことを最も教えてくれる人であります。




Essential Ramblin' Jack

【収録曲】
1.Roving Gambler
2.Will the Circle Be Unbroken
3.Diamond Joe
4.Guabi Guabi
5.Sowing on the Mountain
6.Roll on Buddy
7.1913 Massacre
8.House of The Rising Sun
9.Shade of The Old Apple Tree
10.Black Snake Moan
11.Portland Town
12.More Pretty Girls Than One
13.San Francisco Bay Blues (Live)
14.Buffalo Skinners (Live)
15.Sadie Brown (Live)
16.Don't Think Twice, It's All Right (Live)
17.Blind Lemon Jefferson (Live)
18.Ramblin' Round Your City (Live)
19.Talkin' Columbia (Live)
20.Tennessee Stud (Live)
21.Night Herding Song(Live)
22.Lovesick Blues (Live)
23.I Belong to Glasgow (Live)


実は87歳になる今も現役で、相変わらずギター1本持って飄々と変わらぬスタイルで歌い続けているランブリン・ジャック・エリオット。アルバムもそれこそ膨大な量リリースされていて、しかもその全てが時代に合わせて作風を変えたとか、アレンジを今風にしたとかそういうのが全くない、実に自然体のものばかりなんです。

どれもハズレはないからと、また簡単に思ってしまいがちなんですが、最初に聴くにゃ最適なのが、コチラの60年代フォークの大手、ヴァンガード・レコードからリリースされたベストアルバムが良いでしょう。

深刻な内容の歌でも、マイナーコードが絡むやや重たい曲でも、カラッと軽妙な語り口で歌って、リズミカルなコードストロークで軽妙に聴かせるのがこの人の最高にイカした所です。

ちょいと鼻をつまんだような声と砕けた歌い方は、そのまんまボブ・ディランへと受け継がれておりますね。

カントリーの前身であるヒルビリーも、レッドベリー、ブラインド・レモン・ジェファソン、ジェシー・フラーらが歌った古いブルースも、まんべんなく収録されております。特に後半がライヴなんですが、この肩の力がまったく入らない、ステージなんか感じない、あぐらかいた真ん中でのほほんと歌ってるようなアットホームな雰囲気が最高なんです。

フォークってのが元々どんな空気から生まれたのか?というシリアスな問いをお持ちの方には、このどこまでも作ったところのない自然体なノリを楽しみながら噛み締めて頂きたいし、フォーク何それ?な人も、弾き語りの最高にセンス良い人としてランブリン・ジャック・エリオット、楽しんで頂けると思います。いやほんと、色々ともっと深い事言いたかったんですが「この人かっこいいんですよ」で、とりあえずはいいんじゃないか、それ以上の説明はいらんじゃないかと、今ほへ〜っと聴きながら思うに至りました。



















『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
http://ameblo.jp/soundspal/
posted by サウンズパル at 22:37| Comment(0) | ロック/ポップス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする