2019年06月13日

ロン・カーター オール・ブルース

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ロン・カーター/オール・ブルース
(CTI/キングレコード)


今の時代「音楽を聴く」っていう行為そのものが、向き合う事より自分とちょいと離れた所に流してそれを眺めるといった感じに近いものになっているような気がします。

えぇ、いきなり何を言ってるのかよくわかんない感じですいません。


アタシの場合は、音楽とはなるべく正面からガップリ四つに向かい立って、その衝撃も何もかも、正面から受け止めたい派です。あんまり「流して聴く」って事はしないかも知れない。

もちろんこれは、人それぞれです。どっちが正しいとか偉いとか、そういう問題じゃあないのは当たり前です。

暑い夏に暑苦しいブルースとかロックとかジャズとか聴いて

「ぬほぉぉ!うぐぅっ!!」

とか言ってるのは、そりゃ楽しいんですが、まぁそうですねぇ、たまに疲れてきてしまいますね(汗)


そういう時に、重宝しているのが、ある年代のジャズであります。

「ある年代」ってのは、1970年代ですね。

この時期にジャズという音楽は、それまでのガッチリした4ビートのチーチキなモダン・ジャズがあんまり受けなくなってきて、試行錯誤して色んなスタイルが生まれたのですよ。

その中で一番受けたスタイルが「ちょっと軽めのサウンドで、真面目に聴いてもいいし、もうちょっと肩の力を抜いて聴いてもいいような感じのジャズ」というやつです。

後にノリやすいビートやサウンドの軽さと、フレーズの洗練というのがひとつの型として出来上がったものが「フュージョン」と呼ばれるようになるのですが、まだこの時代はそこまで行かない。

ビートとかは確かに新しいし、アレンジにも電気ピアノやイージー・リスニング調のストリングスとかを加えちゃったりして、随分とポップな感じがあったりするけど、それを演奏しているのが、50年代とか60年代にバリバリの4ビートなモダン・ジャズをやってた人達だったりする。そいでもって演奏の骨組み自体はしっかりとジャズの硬派な部分を残しているという。

そんな”不思議な中間”を専門にやるレーベルとして、CTIというレーベルがありまして、今日皆さんにご紹介するのは、その中の一枚。ロン・カーターの『オール・ブルース』というアルバムです。

ロン・カーターといえば、今やジャズを代表する”ミスター・ベースマン”でありますね。

あのマイルス・デイヴィスのバンドで、ウェイン・ショーターやハービー・ハンコック、トニー・ウィリアムスら、同年代の才能溢れる凄腕のメンバーの一角として、いわゆるアコースティック・マイルスの時代の最後の黄金期を飾ったという事もありますが、その長身でいかにもジャズマン!っていう風貌と、細身の体にピタッと合った洒落たスーツ姿の、まぁ一言でいえば「オシャレ」なカッコ良さで、あれは確か80年代のバブルの頃だったと思うんですけど、ウイスキーのCMに出て、それが”ジャズの人ロン・カーター”の知名度を、お茶の間レベルにまでグッと高めたんだと思います。


今も割とお茶の間レベルで人気者のロン・カーターなんですが、本人のベース・プレイそのものは、割とお茶の間の人達がイメージするような「正統派モダン・ジャズ」のそれじゃなくて、実は結構際どい。

よく言われるのが「サウンドが不安定」ということで、ハッキリと言ってしまえばチューニングがズレてるのか、フレットを押さえる左指の押さえ方が独特なのか、よくわかりませんしご指摘も別に要りませんが、パッと聴いた感じでもそれとわかる独特の”ズレ”が音程にあるんですね。


で、初期のロン・カーターって人は、その”ズレ”から来る特有の不穏でダークなフレーズがうねうねぐにゅぐにゅしているプレイでもって、割とジャズの主流から外れたアンダーグラウンドな風を持つ人達と一緒にプレイしていた。

ミンガスのバックで、フリーフォームから戦前風のブギウギピアノっぽいことまで派手に弾き散らかしていた、ピアノの怪人ジャッキー・バイアードとか、後はアタシの大好きなエリック・ドルフィーのバックとか、とりわけアタシは最初に聴いたエリック・ドルフィーのアルバム『アウト・ゼア』が、ロン・カーター初体験の盤で、このアルバムでの空間捻じ曲げ系のチェロには「うひゃー、何じゃこりゃ!」と、かなり衝撃を受けて、何度も何度もアホみたいに聴いたものです。





そう、アタシの中ではロン・カーターという人は、初めて聴いた時からずっと『ジャズベースのダークヒーロー』であり、どの音源で弾いている時も(自分のリーダー作ですら!)、心地良い異物としてのカッコ良さを教えてくれる人でありました。

大好きな”正統派”のジャズ・ベーシストといえば、やっぱりチャック・イスラエルだし、オスカー・ペティフォードとかポール・チェンバースとか、レイ・ブラウンとか、ベースだけ聴けば十分に王道なチャールス・ミンガスも実にいい。それとリロイ・ヴィネガーにレジー・ワークマン、あぁキリがありませんが、これらアタシの好きなベーシスト達と、色んな意味で「何だか違う」「どうも浮く」ロン・カーター、それゆえにアタシは”特別”を感じます。



オール・ブルース


【パーソネル】
ロン・カーター(b,piccolo-b)
ジョー・ヘンダーソン(ts,@B〜D)
ローランド・ハナ(p,@ACD)
リチャード・ティー(el-p,B)
ビリー・コブハム(ds,@〜D)


【収録曲】
1.フィーリング
2.ライト・ブルー
3.117スペシャル
4.ルーファス
5.オール・ブルース
6.ウィル・ユー・スティル・ビー・マイン


(録音:1974年10月24日)


昨日からですね、実はこのアルバムをボケーっと聴いておりました。

これはですのぅ、ロン・カーターが色んな濃い連中とやって、マイルスのバンドもやり終えて、ようやくソロとしての活動を本腰入れて始めるようになった、1970年代半ばの頃のアルバムですね。

ちょいと過激なのもオーソドックスなのも一通り経験してきた彼が、CTIというちょいとライトな聴きやすさが売りのレーベルでリリースした、オーソドックスなモダン・ジャズ・アルバム。

テナー・サックスに、60年代”モード・ジャズ”っていう、一言で言えばキメと不確かの間をほよほよした、非常に未来的なスタイリッシュさ(で、いいんだべか)を持ったスタイルの同志であるジョー・ヘンダーソン。ピアノは端正でカチッとした、かつ華やかさのあるプレイにかけては抜群のローランド・ハナ。ドラムスは基本的に4ビートなんだけど、ファンクやフュージョンなどの新世代感覚も持つ若手のビリー・コブハム。それと1曲だけエレキピアノ(フェンダーローズ)のリチャード・ティーが参加しております。

つってもよくわからん人には「何だそれ?」だと思いますが、この人選はですね、割と伝統派なピアノと、ちょいと前の世代の最先端と、これからの時代のスタイルを持った人達という、意見バラバラなスタイルを持つ人達がロン・カーターのベースの元に集まったという、おいおいどうすんだこれ、まとまるもんもまとまらんだろーと思わせる、はい、あくまで「思わせる」メンバー構成なんですね。

世代もスタイルも、サウンドのクセも全くバラバラのメンバーが、ロン・カーターのベースを中心に、びっくりするぐらいしっかりと個性を発揮しながらまとまってるんです。

まぁそのー、「誰とやっても俺節」なジョー・ヘンダーソンはともなく、誰の音とも喧嘩しないジェントルマン中のジェントルマン、ローランド・ハナだし、ビリー・コブハムがどこか新しい4ビート(3曲目だけしっかりファンクビート)で先輩達に必死に呼びかけてるのが分かるぐらい頑張ってるし、このアルバムはみんなが素晴らしいってのは判るんです。

で、ロン・カーターのベースは、キッチリと「カッコイイ異物」をやっておりまして、まるでプラモデル作った時の接着剤の如く、うっすらとどの展開でも気持ち良くはみ出してるんですね。

ところがそこらへんは、流石に場数を踏んできたセンスでありまして、カッコイイんですよ。独自開発の、ベースよりちょい高い音が出るピッコロベース(この発想自体がもうはみ出すこと前提でイカすんですよー)をベンベン弾きながら、メンバー達のスタイル的な距離感にジワジワとロンのプレイが染み渡って、結果その距離をしっかりと溶かして埋めている。

全員が一丸となってゆらぎながらキメてゆく1曲目の『フィーリング』、リチャード・ティーのエレキ・ピアノとベースも溶け合って響き合うゆんわかファンクの『117スペシャル』なんかも実にオシャレだと思います。

そして、個人的に最高なのが、やっぱりローランド・ハナのシャキッと美しい音色と弾力のあるベースが不思議と寄り添う『ライト・ブルー』『ウィル・ユー・スティル・ビー・マイン』の心地良さが絶品です。

アルバム全体として、とても良い塩梅で「ふつうなものとそうでないもの」が豊かに響き合う空気感は、やっぱりロン・カーターのベースでしか味わえないオツなもんだと思いますし、それなりにクセのあるものを上手に聴きやすいものにしてしまう、CTIというレーベルのセンスの良さも光っております。







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『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
http://ameblo.jp/soundspal/
posted by サウンズパル at 23:33| Comment(0) | ジャズ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする