2019年06月21日

エロール・ガーナー ミスティ

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エロール・ガーナー/ミスティ
(Mercurry/ユニバーサル)

ここんとこ突っ走り気味でしたので、今日はジャズの美しいピアノ曲でも紹介して落ち着きたいと思います。

ジャズのスタンダード曲で『ミスティ』という美しい曲がありまして、サラ・ヴォーンという凄いヴォーカリストがいるのですが、この人の歌うヴァージョンが大ヒットした事で、色んな人が歌ったといういわくのある曲なんですね。

ミスティってのはつまり霧の事なんですけどね

『私はアナタにこんなにも夢中で、こんなにもこんなにもときめいているのに、アナタは私の気持ちに全然気付いていない。私はこんな霧のような想いの中できっと迷子になってしまうんだわ』

という歌詞だったと思います。

前半は恋にときめく気持ちをウキウキで描写してるのに、後半はそれが片想いであるという切なさが、切々と歌われる。それも絹のような儚い浮遊感の溢れるメロディーで。という、えぇ、とても美しい曲なんです。


この曲の作曲者が、ピアニストのエロール・ガーナーであります。

1921年生まれで、1940年代から活躍。つまりジャズという音楽のスタイルが、戦前のスウィングからいわゆるモダン・ジャズと呼ばれるビ・バップへと変わる丁度その直前ぐらいにデビューして、モダン・ジャズの全盛期に戦前の陽気でハッピーなスタイルで演奏しておった人であり、後のピアニスト達に与えた影響もかなり大きい。

バラードでは、その粒立ちの整った美しい音色で、淀みなく出て来るメロディアスなアドリブでどこまでも上品に音を紡ぎ、アップテンポの曲では、両手をダイナミックに躍動させて、リズムとメロディを惜しみなく繰り出す!はい、間違いなく実力者です。一流のピアニストであります。

エロール・ガーナーはお父さんと兄弟が全員ピアニストという家に生まれ、何と3歳からピアノを弾いていたそうです。

これはもうよっぽどのキチンとした英才教育を受けた人だと思いきや、親がどんなに基礎や譜面からピアノを弾かせようとしても一切従わず、独学でポンポン弾いてるうちに、何と譜面が生涯読めないまま、驚異的なテクニックを身に付けた。

というのも、この人はものすごく耳が良かった。エロールが若かった頃のピアニストの仕事といえば、酒場とかラウンジとか、そういう人の集まる所でお客さんの「あれ弾いてくれ」ってリクエストに応えて弾く事が多かったんです。

だからリクエストされたら、ジャズでもブルースでもポップスでも何でも弾けなきゃいけない。でも弾ける弾けない以前に言われた曲を知ってて覚えてなきゃいけないという問題がここで生じるんですが、エロールは天性の耳の良さと、同じぐらい驚異的な記憶力で、どんな曲でもほとんどスラスラ弾けたという話もありますね。




ミスティ

【パーソネル】
エロール・ガーナー(p)
ワイアット・ルーサー(b)
ユージン”ファッツ”ハート(ds)

【収録曲】
1.ミスティ
2.イグザクトリー・ライク・ユー
3.ユー・アー・マイ・サンシャイン
4.恋とは何でしょう
5.フラントナリティ
6.アゲイン
7.いつかどこかで
8.ラヴ・イン・ブルーム
9.スルー・ア・ロング・アンド・スリープレス・ナイト
10.ザット・オールド・フィーリング

(録音:1954年7月24日)



ほんで、話は『ミスティ』に戻るんですが、エロールはこの曲のメロディを飛行機の中で移動中に思い付いた。ところがエロール、譜面に落とせないので、記録が出来ない。もちろん彼の時代にはボイスレコーダーとかそんなものはありません。

そんな状況でエロールどうしたのか?移動中の何時間もの間、そのメロディをずーーーーーーーっと口ずさんで覚えていたらしいです。

で、家に帰って「あぁぁピアノピアノ!」と、大慌てでピアノに向かって演奏し、オープンリールテープにそれを録音したところ、何とも幻想的な美しい曲に仕上がった。

で、友達にそれを聞かせたら「何だか霧の中にいるようなぼんやりした曲だねぇ」と言われ、それでもってタイトルを「ミスティ(霧)」にしようと思ったところでこの名曲が完全に生まれたんだと。

はい、アタシはずっと『ミスティ』の話してて、この曲の話だけで今回はレビューを終わろうと思います。

このアルバムはその『ミスティ』のオリジナル・ヴァージョンが収録された記念すべき作品ですので、ジャズ好きピアノ好き、そして音楽好きの皆さんは、ぜひこの美しい曲を一度彼のピアノトリオで演奏されたヴァージョンのカッコ良さに撃たれてください。



あのですね、実はエロールには、バラードだけじゃない「ノリノリの曲の凄さ」もあって、アメリカとかではそっちの評価が凄く高いんですが、それはこのアルバム中盤からの凄まじくグルーヴィーな展開があって、そっちで体験できます。「ノリノリなエロール・ガーナーの凄さ」は、何かアタシがごちゃごちゃ言うより、体験してもらった方が良いような気がします。バラードとノリノリの両方で撃たれてください。
















『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
http://ameblo.jp/soundspal/
posted by サウンズパル at 00:30| Comment(0) | ジャズ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする