2019年07月03日

J.B.ルノアー 1951-1954 His JOB Recording

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J.B.Lenoir/1951-1954 His JOB Recordings
(JOB/Paula Records)


突然ですが皆さんに、とってもお得なというか、豊かになれる音楽の聴き方をお教えします。


まずですね、誰かお気に入りのアーティストがいるとします。

そしたら、その人のアルバムを次々とおっかけて行くのはもちろん最高なんですが、そこでちょいと寄り道して、その人が所属しているレーベルというのがあったら、ぜひそのレーベルの知らないアーティストの作品もツマミ食いしてみてください。


そしたらですね、何となくアナタが好きなアーティストのサウンドに近いものが見付って、何か得した気分になるということがあるんです。

しかし、この”レーベル聴き”の本当の醍醐味というものが実はありまして、それが実は

「自分が全然知らなかった、想像すらしてなかったようなキャラクターのアーティストに出会える」

ということなんです。


はい、ブルースのレーベルといえば、これは誰もが通る道でありますところのシカゴのチェス・レコード。

言うまでもなくアタシも、本格的に戦後のブルースも聴いてみようと思った時、マディ・ウォーターズとハウリン・ウルフぐらいしか知らなかったので、じゃあそのマディやウルフがいるチェスってレーベルの知らない人のを買っちゃえと思い、何となくジャケットの雰囲気が良さそうだったので買ったのが、J.B.ルノアーの『ナチュラル・マン』というアルバムでした。

聴いてみてびっくりしたのは、ドロッと粘り付くような濃厚なフィーリングがみなぎっているものの多いチェス・レーベルの中にあって、実にカラッとした味わいの、洗練された「都会」を感じさせるサウンドに、変声期の少年のようなハイ・ピッチなヴォーカル。

「へぇぇえ、こういうのもシカゴ・ブルースなんだ」

と、柔らかくも嬉しい衝撃を受けて、聴き入っていたものです。

大体ブルースを好きになってからは、衝撃がガツンとくるようなキョーレツなものに興奮して、そういうやつばかりを追いかけておりましたが、このJ.B.ルノアーという、名前も経歴も全然知らなかった謎のブルースマンの声には、それまでの「ブルースっていいな」が、90度ぐらい覆されたような気持ちになりました。

特にそのハイ・ピッチな声の魅力には、いつの間にやら完全に憑りつかれておったようで、特に何か心がどうしようもなく渇いてる感じがする時によく聴いています。ゴリ押しでなく、聴く人の心を自然と解放してくれるような声、うん、実に気持ち良く染みます。

J.B.ルノアーはいつの時代の人かというと、1923年生まれで、マディ・ウォーターズよりひと世代若い。つまりリトル・ウォルターやボ・ディドリー、チャック・ベリーとかと近い世代ですね。幼少時にブルースを覚え、青春時代にはR&Bの先例を受け、50年代から60年代にかけて新しいスタイルのブルースを切り開いて行った世代であります。

ルノアーはどうかと言いますと、これが割と早熟の天才であります。

アメリカ南部ミシシッピの、貧しい小作農一家に生まれ、貧しいながらも家族全員音楽好きでお父さんも他の兄弟達もギターを演奏してブルースに親しんでいた環境で育ち、十代になる頃にはやっぱりギター片手にアメリカ南部を歌い歩いております。

そうこうしているうちにニューオーリンズに辿り着き、そこでサニーボーイ・ウィリアムスンやエルモア・ジェイムスなどとギグをこなし、いよいよミュージシャンとして成功したいと強く願うようになり、ついには1949年、親戚のつてを頼って大都会シカゴへ出て行くのですが、ここで出会ったのが、当時シカゴの顔役として、自身も人気ミュージシャンでありながら、南部から出て来る若手ミュージシャン達に仕事を紹介したり生活の面倒を見ていたボスマン、ビッグ・ビル・ブルーンジィ



(マディとビッグ・ビルの泣けるお話はコチラに書いてあるぞ)


「お〜う、キミはいい声をしてるね。うん、ギターもなかなか俺好みの流麗なスタイルだ。どうだいコイツらとちょっと共演してみないかい?」

と、ビッグ・ビルに紹介された”こいつら”というのが、何とメンフィス・ミニーにビッグ・メイシオ、そして一足先にシカゴに出て来たマディ・ウォーターズという凄い面々。

彼らとのセッションは見事成功し、特にマディ・ウォーターズとは、歳は10歳ぐらい離れているけど、共に最近シカゴに来た者同士で気が合ってちょくちょくクラブで共演していたそうです。


「ミシシッピからやってきた、無名の個性派シンガー」

は、あっという間に話題になり、シカゴで一発当てたい小規模レコード会社がこぞって彼のレコーディングをしたがりました。

紆余曲折あって、最初に彼の音源を公式にレコーディングしてリリースしたのが、JOBというレーベル。後にチェス、VeeJayというシカゴ・ブルースを代表するレーベルに録音を残し、60年代はヨーロッパでも人気を博したルノアーですが、今日はシンプルな編成で、彼の味わい深い声の魅力がたっぷり味わえるJOB盤をご紹介いたしましょう。




1951-1954 His J.O.B. Recordings

【収録曲】
1.Let's Roll(Take2)
2.People Are Meddling (In Our Affairs)
3.I Have Married
4.I'll Die Tryin'
5.The Mountain
6.How Much More
7.Let's Roll (Take1)
8.The Mojo (Take1)
9.Slow Down Woman (Take1)
10.I Want My Baby (Take1)
11.How Can I Leave
12.Play A Little While
13.Louise
14.The Mojo (Take4)
15.Slow Down Woman (Take2)
16.I Want My Baby (Take2)
17.When I Was Young
18.Bassology
19.Worried About My Baby
20.Livin' In The White House
21.Please Don't



ゼブラ柄のタキシードでビシッとキメて、ウキウキするようなロッキンなブルースでクラブを沸かせていたJ.B.ルノアー。その飄々としたキャラクターとは裏腹に、歌詞は社会批判や時事ネタにまで突っ込んだ、なかなかに知性溢れるもので、それを少年のような甲高い声で歌うものですから、もうどれだけ個性的で、当時群を抜いた存在感を放っていたか、想像するだけでクラクラします。


さてさてJOBでの基本編成は、ルノアーの声とギター、そしてピアノにベースというトリオであり、後半のセッションではサックスなども加わって、程良く賑やか(この”程良く”ってのがいいんですよ)。

楽曲そのものは、流石に1940年代から50年代前半のスタイル、つまり、戦後50年代半ば以降の、間合いと粘りと爆発みたいなああいうノリではなくて、ピアノやギターのバッキングが綺麗に整った「4」を刻んでいるような、ある意味平坦なリズムが演奏の基軸であります。

が、リズムを切り裂くルノアーのハイトーン、そして前半で大暴れする、鍵盤をガラゴロ言わせながら強烈な音塊を叩き込んでくるサニーランド・スリムのピアノ、これがまぁ最高で、ユルい雰囲気の中で炸裂する狂気みたいなものをビシバシとスピーカーから飛ばしてくれます。

そして後半はJ.T.ブラウンというサックス奏者が加わり、グッとオシャレなニューオーリンズR&Bみたいなノリになっておりますね。ここでバッキングはスムースに粋に、そしてソロではガツンと決めるJ.T.ブラウンのサックス、コレが前半のサニーランド・スリムとはまた違った、攻守織り交ぜた個性で良いのです。うん、良い良い♪

ルノアーは68年に不幸にも交通事故で亡くなってしまいました。世代的にはR&Bでありながら上質な「ブルース」を歌う事に生涯を懸けたような硬派な人で、表現の幅は年代毎に豊かに拡がっており、弾き語りからバンドスタイルまで色んなブルースを聴かせてくれますが、やっぱりブルースのコアな衝動がギッシリ詰まった原点であるところのJOB盤と、チェスの『ナチュラル・マン』の味わいは薄れません。


















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『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
http://ameblo.jp/soundspal/
posted by サウンズパル at 21:14| Comment(0) | ブルース | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする