2019年07月18日

ジョン・コルトレーン ザ・コンプリート1961 ヴィレッジ・ヴァンガード・レコーディングス

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John Coltrane/The Complete 1961 Village Vanguard Recordings (4CD)
(Impulse!)



かっこいいアーティストやバンドってのは、もちろんスタジオで丹精込めて作り上げたアルバムはもちろんですが、必ずと言っていいほどライヴ名盤というのがあります。

というよりも、考えてみたら音楽家が演奏をする現場というのは、年に多くても数回のレコーディングよりも、毎日のようにプレイしているライヴの現場ですもんね。で、そんなライヴを毎日のようにこなしているミュージシャンのライヴ盤だから、そりゃあもう悪かろうはずがございませんね。

そこでコルトレーンなんですが、えぇ、スタジオ・アルバムもオフィシャルなライヴ盤も、プライベート録音のライヴもたくさん出ております。

そりゃあお前、ジョン・コルトレーンなんて言ったらジャズの超有名な人の中でも更にめっちゃ有名人じゃないか。そんなもんたくさん出てるだろうと言われる向きもいようかと思いますし、アタシもそう思ってはいるんですけどね、コルトレーンって実は、ジャズの世界でソロ・アーティストとして活動したのって、ほんの10年ぐらいなんですよ。

1956年にマイルス・デイヴィスのバンドにスカウトされて、その翌年にPrestigeでソロ・デビュー・アルバムを、30歳にしてようやく出してもらい、あれよあれよという間に、いつの間にか「マイルスの所にいる何か面白いテナー奏者」から、ジャズを代表する革命的ミュージシャンにまでなり、そしてあっという間に悪かった肝臓をこじらせて天国へ行ってしまいました。

昔の(特に初期に在籍したPrestigeの)レコーディング事情が実にいい加減だったとはいえ、その10年の間にソロ名義のものだけで30枚以上のアルバムを出しているんです。で、更にそのボリュームに負けないぐらいのライヴ盤が出ていて、その上死後発見されたテープから、2000年代になってからもアルバムが作られてリリースされている・・・。

えぇと、何を言いたかったのか、ちょっと忘れてしまうほど気が遠くなってしまいましたので、強引に話をまとめると「コルトレーンのライヴ盤って凄いのよ」という事です。

テンションがヤバいとか、演奏全体が明らかに沸騰してるのが分かるぐらいの熱気がヤバイとか、お客さんが明らかに引き込まれて圧倒させられてる雰囲気が音だけでも見えてきそうでヤバいとか、色々とヤバイところだらけなのがコルトレーンのライヴ盤です。とにかくもう生演奏という制約のほとんどない空間で、好きなだけ尺を取ってアドリブを吹きまくってるコルトレーンを聴いてみてちょうだいよもー!と、体験者(はぁいアタシ)は語ります。

とまぁのっけからアツく語ってしまいましたが、アタシと同じように「コルトレーンのライヴってばすげーカッコイイしヤバいからみんなに聴いて欲しいなー」と思った人が、インパルス・レコードのプロデューサー、ボブ・シールだったという事は、ジャズファンやアタシみたいなコルトレーン者にとっては救済のような事柄です。

1960年、コルトレーンはメジャー・レーベルのアトランティックにおりましたが

「いやもうアンタの演奏は素晴らしい!でも今のメジャーなレコード会社の中ではアンタの才能は埋もれてしまうような気がする。だってアンタにはもっともっと誰も聴いたことのない音楽をやってやろうって気持ちがあるだろ?どうだいウチは全く新しい出来たばかりのレコード会社なんだが、まずモットーにしてるのが、売れるとか売れないとかいうよりも、みんながびっくりするような新しい音楽を作ろうってことだ。ウチに来ないかい?アンタがやりたい事はいくらでも好きにやっていいし、何ならレコーディングしたいって思った時はいつでも好きなだけスタジオに入っていい。もちろんギャラはちゃんと払う」

と、願い倒してインパルスにスカウトしたのがボブ・シールです。


「ほんとっすか?俺がやりたいことをやりたいようにやっていいんですか?スタジオも入り放題?うんうん、うんうん、それなら行く」

と、アトランティックに残っていた「あと、アルバム何枚分」という契約をとっとと終わらせるためにスタジオに入ってちゃっちゃとレコーディングして契約は無事終了。翌61年には早速インパルスでのレコーディングを開始します。

「なんかこう壮大なものを表現したい」

と言っていたコルトレーンの要望を叶える形でレコーディングしたのが、レギュラーバンドに大勢のブラス・セクションを付けてレコーディングした『アフリカ/ブラス』

このアルバムのレコーディングは、コルトレーンにとってもインパルス・レコードにとってもなかなかに好感触なもので、コルトレーンもプロデューサーのボブ・シールのテンションも大いに上がりました。

「いいね!」

「いいねぇ!」

と盛り上がった2人

「いやぁ、いい!でもさぁ、俺は君のライヴも凄く好きなんだ」

「いやぁ、俺もライヴをもっと色んな人に聴いて欲しいし、ライヴでも新しいことやりたいんだ」

「じゃあさ、レコーディングしてみる?」

「レコーディング?何をだい?」

「君のライヴだよ!」

「うわぁマジか!?やるやる!!」

と、インパルス2作目のレコードが、何と異例のライヴ・アルバムという事になったのであります。



「何か面白いことやってくれそうな新しいレコード会社と契約したコルトレーンが、ヴィレッジ・ヴァンガードで新しいグループを引き連れてライヴする!」と、耳の早いニューヨーク子達の間では早速話題となり、そして1961年11月1日から11月5日の4日間のぶっ通しで、ジョン・コルトレーン・グループ、ヴィレッジ・ヴァンガードでのライヴは行われたのです。


この時の演奏からベスト・テイクを選んでリリースされたオリジナル・ライヴ・アルバムが『ライヴ・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード』↓





まず最初に言っておきますが、これ凄くいいアルバムなんですよ。詳しくはリンク先のレビュー読んでくださればと思いますが、収録時間の都合で、入ってるのはたった3曲。でも、この3曲に凝縮された演奏の密度とか気迫とか、そういうのがもう最高。

ところが、やっぱりこの時の演奏の凄まじい演奏は、このアルバムだけに収まるものでは到底なく、トレーン存命中に『インプレッションズ』という、スタジオ音源とライヴ音源の抱き合わせ盤が出て、コレの”ライヴの部”がこん時のヴィレッジ・ヴァンガードでの演奏。しかも楽曲が未発表の『インディア』という曲で、アタシにとってはこの、タイトル通りのインド音楽のラーガみたいな、心地良いトランス感に溢れた曲が「ヴィレッジ・ヴァンガードやべぇぇぇぇ!!」の決定打でした。


ところがですね、ヴィレッジ・ヴァンガードでの録音は、がっつり4日分あるんです。それもライヴ会場に簡単な録音機材持ってってホイと録音したようなプライベート録音ではなく、インパルス・レコードが最新式の機材を運んだレコーディングのためのライヴ録音。当然そのマスターテープは大事に保管されていたんですな。

それらの音源はコルトレーンの死後に発表されました。

アタシもまず2枚組になって収録曲が倍の6曲になった『ヴィレッジ・ヴァンガードのコルトレーンとドルフィー』というLP盤を持っております。

やった!収録曲が倍になって、大好きな『インディア』も入ってる!これでコルトレーンの1961年のヴィレッジ・ヴァンガードでの演奏は全部


・・・な訳がなく、その全貌は1997年に

『CD4枚組、全曲22トラック完全収録のコンプリート盤』


という形で遂にこの世に現れたのであります。


The Complete 1961 Village Vanguard Recordings

【パーソネル】
ジョン・コルトレーン(ts,ss)
エリック・ドルフィー(as,bcl,fl)
マッコイ・タイナー(p)
ジミー・ギャリソン(b)*disc-1A,disc-3@,disc-4B
レジー・ワークマン(b)*disc-1@B〜E,disc-2,disc-3A〜E
エルヴィン・ジョーンズ(ds)*disc-1,disc-2@B〜D,disc-3,disc-4
ロイ・ヘインズ(ds)*disc-2A
アーマッド・アブダル=マリク(oudo)*disc-1@,disc-2B,disc-4D
ガルヴィン・ブッシェル(oboe,contra-basoon)*disc-1@,disc-2BC,disc-4CD,


【収録曲】
(Disc-1)
1.India
2.Chasin' The Trane
3.Impressions
4.piritual
5.miles' Mode
6.Naima

(Disc-2)
1.Brasilia
2.Chasin' Another Trane
3.India
4.Spriritual
5.Softly As In A Morning Surise

(Disc-3)
1.Chasin' The Trane
2.Greensleeves
3.Impressions
4.Spiritual
5.Naima
6.Impressions

(Disc-4)
1.India
2.Greensleeves
3.Miles' Mode
4.India
5.Spiritual


(録音:1961年11月1〜3,5日)


はい、コチラがその怒涛の4枚組CDボックスです。

単純に録音した演奏の全てが入ってるというだけでなく、4枚それぞれが日付毎に分けられて、曲順も実際に演奏した順番にキチンと整理された親切仕様。ほぼ全ての曲が10分越えの壮絶な熱演なんですが、みなぎる緊張感よりも、その演奏の気迫に圧倒されて、ついつい聴き入ってしまうが故に、時間などあっという間に過ぎてしまいます。

ジャズの過激さ、ジャズのカッコ良さ、思考と想像力を刺激するアドリブの連続が、聴いている間中五感を刺激し、まるで新しい感覚すらも開いてくれそうな、そんな激しさの奥底にある荘厳さに、このライヴ演奏は満ち溢れているんです。

もっとも、コルトレーンはこの後もどんどん独自の進化を遂げ、その音楽性を更に孤高の極みまで押し上げるんですが、演奏のテンションそのものは、この時期既に絶頂に達しております。

インパルスに移籍するちょい前に、コルトレーンはようやく自分のバンドを持つ事が出来ました。コルトレーン(テナー、ソプラノサックス)、マッコイ・タイナー(ピアノ)、レジー・ワークマン(ベース)、エルヴィン・ジョーンズ(ドラムス)のレギュラー・カルテットがそれなんですが、このヴィレッジ・ヴァンガードでのライヴの時点では、正式メンバーとしてもう一人の管楽器奏者(アルト・サックス、バス・クラリネット)のエリック・ドルフィーと、後に正式メンバーとなって、コルトレーンを最後まで支えたベーシストのジミー・ギャリソンが「曲によって参加するセカンド・ベーシスト」として加入しております。

更にこのアルバム、というかインパルス時代のコルトレーンのひとつの大きなキーワード「スピリチュアル」ですよね。

彼は若い頃からインド哲学やアフリカの土着宗教、東洋思想を真剣に勉強しており、ソロになって楽曲にはそれら思想や宗教の影響が顕著に表れるようになってきます。

その「エスニックでスピリチュアルな表現」これこそが、冒頭ボブ・シールが言ってたような「コルトレーンが本当にやりたかったこと」だと、その後の作品を聴くにつけ思います。

そう、コルトレーンは常に「新しいジャズをやろう」という熱意に燃えるミュージシャンでもありましたが、それ以上に「ジャズを越えて”音楽”として、人々の心を深く打つような表現がしたい」と切実に願う表現者でもありました。


丁度時代は60年代、便利さのみを追求してきた文明社会への疑問が人々の中で生じ、人種差別などのアメリカが元々抱えて来た問題も、色んな形で表面に出て来て、民衆がそれらの社会の様々な問題に向けて思考を拡げていた時代の空気と、コルトレーンの表現衝動とは見事に合致し、コルトレーンの音楽はそれ故先鋭と深化の権化と化す訳です。コルトレーンもインパルス・レコードも、そういった”新しい音楽”を激しく求め、彼らの共同作業からは、正しくそんな音がするのです。

アタシがこのライヴ盤に収録されているインドのラーガみたいな『インディア』に特別惹かれる理由もそこにあります。

レギュラー・カルテットにもう一人のベース奏者、ジミー・ギャリソン、ウード(中近東の琵琶みたいな弦楽器)のアーマッド・アブダル=マリクと、日によってカルヴィン・ブッシェルのオーボエを加えた特別編成は、コルトレーンの「ジャズって枠に収まらない音楽をやるぞ!」という、並々ならぬ意気込みを感じますし、実際出て来る音がその通りです。フォーマットはあくまでジャズで、強いて言うなら「インド風」ではあるんですが、その激しく荘厳(もうね、そうしか表現できんのですよ、凄すぎて)な演奏の奥底のコアの部分には、コルトレーンの思考と音楽の血肉となったインドの哲学が、瞑想のムードとしてしっかりと活きております。


そして全曲で凄まじいのはやっぱりコルトレーンとドルフィーのアドリブでのガチンコのやりあいです。

フレーズというよりも「その音の放出にどれだけの情念を乗っけることが出来るか」に限界まで迫って吹きまくるコルトレーンだけで凄いんですけど、その後に全く違う異次元アプローチで吹きまくるドルフィー、更にドルフィーの異次元を受けてもっともっと情念をぶつけてくるコルトレーン、そのやりとりの過程で2人のソロのみならず、バンド全体の音までもどんどん研ぎ澄まされて凄い事になっている。全編そんなですよ、もう細かくなんて解説しておられないんです。


4枚組なんでちょいと値段は張りますが、ジャズという音楽に、何か深いものを感じる全ての方に、これだけは絶対にオススメです。









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サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
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posted by サウンズパル at 16:02| Comment(0) | 大コルトレーン祭 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする