2019年07月29日

トミー・フラナガン ザ・キャッツ

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トミー・フラナガン/ザ・キャッツ
(Prestige/OJC)

皆さま改めましてこんばんは。

いやぁ暑いですね、コチラも連日猛暑と呼ばれる気温で日中は強烈な日差しが肌に刺さって痛いぐらいですが、皆さんがお住まいの地域はどうでしょうか?熱中症対策にはこまめな水分補給と言いますが、濡らしたタオルを定期的に首筋に当てるのも、なかなかに大事ですのでぜひ試してみてくださいね。

アタシは本日もこのクソ暑いのに、ある意味で暑苦しさが倍になりそうな(失礼!)コルトレーンを聴いております。

気温の重苦しさよりも更に荘厳な重苦しさで忘れさせてくれる後期のやつをガーッと浴びるように聴いてそして初期、オリジナルのスタイルを必死で模索しながらもビシッとカッコ良く吹きまくっているコルトレーンを聴く。

するとどうでしょう、世間では「暗い」「重い」「暑苦しい」と、マイナスな言葉で語られる事もあるコルトレーンのテナー・サックスの硬質なサウンドが、まるで水の中を泳ぐ魚のように、爽やかで気品溢れる印象で耳に心地良くスイスイと入ってくるではありませんか。

そうなんです、考えてみればコルトレーンの才能が特別である事を最初に確信してメンバーにしたマイルス・デイヴィス。この人は「それまでにないスマートな音楽性」を目指しておりました。

コルトレーンのフレーズっていうのは、確かに同時代の他のテナー奏者達に比べると、何だかたどたどしくて、低音の豊かな響きや情感を現すヴィブラートなんかは希薄です。でも、フレーズをじっくり聴いてみると、確かにその音色とフレーズは、余計なものがないスマートな質感であったりするんです。

いつの時代も「まったく新しいもの」を生み出す人間の評価というのは、遅れてやってくるもんですね。

今聴くとその当時「ヘタクソ」と揶揄されてたコルトレーンの演奏、全然下手じゃありません。むしろ流麗なマイルスの引き立て役として、アンサンブルの中でキッチリと役割をこなしつつ、しっかりと自分の主張も通せております。

マイルスは最初、既に人気者だったソニー・ロリンズをテナー奏者として考えていたようですが、仮に雄弁でパワフルなスタイルを既に完成させていたロリンズがマイルスのバンドに入っていたとしたら、マイルスの小粋とロリンズの粋で、丁々発止のアツいやりとりは凄いことになっていたでしょうが、果たしてマイルスの求めていたスマートな音楽性が、アンサンブルとしての響きを得る事が出来たかどうか、それには果てしなく疑問符が付くと思います。

1957年、コルトレーンはマイルスのバンドをドラッグ問題でクビになってしまいましたが、それでも腐る事無く、いや、むしろそれまで以上に「新しい音楽」の探究に燃えました。

もちろん常習していたドラッグの悪癖から脱するために、恐ろしく苦しい断薬治療をせねばなりませんでしたが、バンドをクビになって時間があったという事と、セロニアス・モンクという素晴らしい師に巡り合った事が、コルトレーンの更生の後押しになった事は言うまでもありません。

モンクのバンドに加入して、本格的なレコーディング作業に入るまでの間に、コルトレーンはプレスティジのスタジオに頻繁に呼ばれ、多くのセッションに参加しまして、先日ご紹介したマル・ウォルドロンの『マル2』もその中の1枚なんですが、実はマルのレコーディングに入る前の日に、すんばらしいセッションがありまして、本日はコチラをご紹介。



Cats


【パーソネル】
トミー・フラナガン(p)
アイドリース・シュリーマン(tp,@B〜D)
ジョン・コルトレーン(ts,@B〜D)
ケニー・バレル(g,@B〜D)
ダグ・ワトキンス(b)
ルイス・ヘイズ(ds)

【収録曲】
1.マイナー・ミスハップ
2.ハウ・ロング・ハズ・ディス・ビーン・ゴーイング・オン?
3.エクリプソ
4.ソラシウム
5.トミーズ・タイム

(録音:1957年4月18日)


プレスティジはニューヨークにあったレーベルです。ニューヨークには、全国各地から腕利きの連中がいっぱい集まってくる土地で、そこにやや離れたデトロイトから集まった連中もいたんですね。

デトロイトという街は、自動車産業で有名ですね。そこには戦前から工場での仕事を求めて南部から黒人労働者が多く集まっていた街です。

そんな環境ですから音楽も盛んで、特に50年代は活きの良いR&Bが大流行りして、そういったバックバンドのメンバーとして鍛えられた人も多くいたでしょう。とにかくこの地からニューヨークに出て来てジャズやってる人達というのは、もちろん個人としての確かな技量や華もあるんですが、それ以上にバンドの中で的確に他のメンバーをサポートしつつ個性を輝かせるいぶし銀の魅力を持つ人が多いです。

『ザ・キャッツ』は、そんなデトロイト人脈(?)のジャズマンが終結した中に、非デトロイト人脈のコルトレーンとトランペットのアイドリース・シュリーマンがホーン隊として参加したセッション・アルバムです。

フロントの2人は次なるマル・ウォルドロンのセッションでも参加しておりますが、クセの強いメンバー達との独特な緊張感が溢れるアチラのセッションとは違い、コチラは終始リラックスした中で、それぞれの個性とか味とかが存分に発揮されております。

まず、アタシはジャケットのかわいいかわいい猫ちゃんに惹かれて「お、コルトレーンの名前が載ってるなぁ。内容はどんなだろう?まぁいいか」と、割と軽い気持ちで買ったんです。

ほんで、快調なコルトレーン、キリッとした強さが味わいのシュリーマン、端正でそこはかとないブルース・フィーリングが滲むフラナガン、いぶし銀の見事な職人ギターのバレル、太く豊かな音を響かせるダグ・ワトキンス、とにかくハズレのない堅実なルイス・ヘイズの純正ハード・バップ・ドラムスに「ふんふん、心地いいね♪」と聴いているうちにリズム隊の人達が持つ、隠し味的な深い味わいの魅力にぞっこんになってしまい、すっかりハマッて聴くようになってしまいました。

プレスティジのセッションものといえば、とりあえず人数集めてスタンダード中心の選曲でざっくりと好きにやらせるというのが基本で、レコーディングの日にちもバラバラ、ラフで大味な所は魅力といえば魅力なんですが、作品としてはやや”投げっぱなし”になるものも多いんです。それがこのセッションは主にトミー・フラナガンにオリジナル曲を作らせて、セッションも1日でキッチリ終わり。アルバムとしての完成度はやたら高く、気品すら溢れるハード・バップの旨味が凝縮されてようなアルバムになってるんですよ。

何と言っても後に「名盤請負人」とまで言われる程、この人がサポートした大物ミュージシャンの作品はことごとく名盤になっているトミー・フラナガンのプレイが、実に微に入り細に入り、気配りが行き届いております。

冒頭の『マイナー・ミスハップ』や、明るいラテンナンバーの『エクリプソ』なんかでは、しっかりとバッキングするピアノのリズムに乗って、前で心地良く吹きまくるコルトレーンやシュリーマンのプレイが、まるで何年も一緒にやってるメンバーとのプレイであるかのように、活き活き伸び伸びと輝いております。

グイグイに押しまくるんじゃなくて、絶妙な”引き”も心得た、ダグ・ワトキンスのベースと、ルイス・ヘイズのドラムも凄いんですよ。派手さは計算して押さえてるし、フロントを全然邪魔してないのにしっかりと存在感のあるリズム隊ってすごくカッコイイですよね。この2人のプレイは正にそれ。

で、ソロ弾いてもバックでコード弾いても、てろ〜んと奏でるちょっとしたフレーズから夜の香りが漂っているのがケニー・バレルのギターです。コルトレーンとシュリーマンにフラナガンのトリオだけでも、このアルバムは十分名盤になったかも知れませんが、バレルの醸す上質なブルースムードが、全体の味わいをグッと深いものにしております。あぁたまらん。

「オリジナルな表現を厳しく追究することを一瞬忘れるほど、肩の力を抜いて大好きなジャズを吹く事に夢中になっているコルトレーン」が聴けるのは、もしかしたらこのアルバムだけかも知れません。もちろんコルトレーンは気を抜いている訳でなく、ハードバップ・サウンドにしっかりと溶け込みながら突き抜ける、最高のプレイをしております。あとしつこいですが猫ちゃんがかわいいんです、猫ちゃんが。














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『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』


サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
http://ameblo.jp/soundspal/
posted by サウンズパル at 21:42| Comment(0) | 大コルトレーン祭 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする