2019年08月11日

マッコイ・タイナー インセプション

625.jpg
マッコイ・タイナー/インセプション
(Impulse!/ユニバーサル)


私はマッコイ・タイナーというピアニストが大好きです。

コルトレーンのバックでは、ひたすら力強く情念を噴き出すようなプレイに没頭するピアノ、コルトレーンのバック以外では、情念を吐きつつも、どこかクールな知性を感じさせるピアノ。そしてどちらにも共通するのが、この人のピアノ・スタイルは、とにかく「硬派で耽美」ということ。

本当に大好きなんですが、やっちまいました。

何と、このブログでまだマッコイの単独アルバムを1枚も取り上げてないんですよ〜!(泣)

「ほらお前のそういうところよ!」

はいィ...アタシのこういうところです。

という訳で、本日からしばらく「マッコイ強化月間」として、マッコイ・タイナーのソロ・アルバムの紹介をいたします。いや、ごめんなさい、させてください。

マッコイ・タイナーといえば、このブログをご覧の皆様にとっては、コルトレーンのレビューですっかりおなじみの、コルトレーン長年の相棒とも呼べる、彼のバンドのメロディとリズムの両方を支える、いなくてはならないピアニストでありました。

残念ながら晩年のコルトレーンの目指す音楽性と彼の音楽性とが接点を見出すことなくエルヴィン・ジョーンズと共に脱退してしまいましたが、彼もエルヴィンも、コルトレーンの事はずっと尊敬し、その音楽的な影響を元に、それからの表現に活かしていた人達でありました。

特にマッコイに関しては、彼の後任でコルトレーン・バンドに加入したアリス・コルトレーンは、ラシッド・アリがエルヴィンとは全然違うアプローチでリズムの根幹をガラリと変えてしまったのに対し、マッコイのプレイ・スタイルを受け継ぐような感じでコルトレーンのフリー・フォームなサウンドに重く寄り添っており、もしかしたらアリスに対してコルトレーンから「マッコイみたいに弾いてくれないか」という指示があったのかも知れません。


さて、マッコイ・タイナーは1938年生まれでモダン・ジャズ世代のジャズマンとしてはかなり若い世代となります(年齢でいえばコルトレーンよりも12歳年下です)。

地元フィラデルフィアで10代の頃からバンド活動をしており、その後ニューヨークへと拠点を移し、1959年にはベニー・ゴルソンのジャズテットのメンバーに抜擢、それから1年後にはコルトレーンの新バンドのメンバーとして加入。この時何と22歳ということでしたから、早い時期から才能があったというより、しっかりとした世界観を内側に持っていた人だったんだなという事が伺い知られます。


その才能というか世界観が、プロデビューしていきなりのコルトレーン・カルテットで磨きに磨かれて花開いたのがマッコイ。つくづくスタイルも経歴も、特異中の特異であると言えるでしょう。

マッコイとエルヴィンは、コルトレーン・カルテットの中にあって、そのサウンドカラーを決めた強烈な個性的スタイルの持ち主であります。

ところがですね、この2人、コルトレーン・カルテットに居た時期とか、加入前とかの、コルトレーン以外での音源を聴いてみると「全くの別人」ばりにクールでスマートなプレイを楽しませてくれるんです。







インセプション

【パーソネル】
マッコイ・タイナー(p)
アート・デイヴィス(b)
エルヴィン・ジョーンズ(ds)

【収録曲】
1.インセプション
2.ゼア・イズ・ノー・グレイター・ラヴ
3.ブルース・フォー・グウェン
4.サンセット
5.エフェンディ
6.スピーク・ロウ

(録音:1962年1月10日,11日)


今日はマッコイ・タイナーのソロ・デビュー作『インセプション』をご紹介します。

このアルバムは1962年、マッコイがコルトレーン・カルテットのメンバーとして在籍して、毎晩のようにバリバリの情念が沸きまくって吹きこぼれていた丁度その頃にレコーディングされたアルバムです。

ここではコルトレーン・カルテットの同僚であるエルヴィン・ジョーンズ、コルトレーンとは仲良しで、色んなセッションにもちょくちょく呼ばれて参加しているアート・デイヴィスを従えてのトリオ演奏で、これはもうメンツからして「コルトレーン抜きのコルトレーン・バンド」な感じ、のそれはそれはヘヴィで熱い演奏が聴けるのかと、緊張気味に身構えておりましたが、聴いてみたらコレがびっくりするぐらいクールでオシャレですらある、いわゆるモード・ジャズ・ピアノのスタイリッシュな空気に満ちた作品でした。

ここで演奏されているのは、いわゆるスタンダード曲ですね。マッコイのピアノは、極力粘らない、跳ねない、でもグルーヴィーに細かい音符をアドリブで重ねる毎に、ゆわっとした独自のグルーヴを出してて、その知的で端正なグルーヴ感は、同じ時代のピアニストで言うならばビル・エヴァンスに近い。

もっとも、エヴァンスはグルーヴィーに流れる局面でも、てんめりと盛られた”情”の部分の内側に沈み込んで行くような儚さとあやうさがありますが、マッコイのピアノは情感にゆらぐことなく、あくまでキリッとフレーズをちりばめて行きます。先ほど「知的で端正」と書きましたが、その音の立ち方や無駄のないフレーズ展開はやはり「硬派」と呼ぶに相応しいものだと思います。

そしてエルヴィン。コルトレーンのバックではブ厚く重いリズムの塊を豪快に連発する、文字通り重厚でパワフルなドラマーという印象の強いエルヴィンが、マッコイのピアノをブラッシュワークでの繊細なサポートに徹していて、これもまた「えぇ!?あのエルヴィン・ジョーンズなの!!??」と、最初びっくりしましたが、タタン!タタン!としなやかに力強くリズムが折り重なってゆく独特の畳み掛け方は、この人ならではのもの。繊細さの奥底にしっかりと持つ硬派な気迫が、マッコイ同様好印象です。

とにかくこのアルバムでは、気品あるバラードはもちろんですが、収録されているアップテンポの曲のスピード感が非常に斬新で「モードジャズって何?」と聴かれて理論的な説明を省いて簡潔に言うなら「このスピード感!」と言いたいぐらいです。3曲目の『ブルース・フォー・グウェン』とか、ブルースと言いながらほとんど全く粘らない、高速でシャキシャキ流れてゆくこのフレーズ。今の時代はこういったスタイルは主流になっておりますが、この時代のリスナーにとっては、とても衝撃的なものだったに違いありません。

最初は「何かフツー」と思ってたマッコイの初期アルバムですが、これは聴き込む毎にとてつもなく斬新で、爽やかにアウトしてゆく知性が凝縮された素晴らしい作品だなぁとしみじみ思って、もうかれこれ20年聴いてます。が、いやはや全く飽きるどころかますますクセになります。












”マッコイ・タイナー”関連記事




『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
http://ameblo.jp/soundspal/
posted by サウンズパル at 00:15| Comment(0) | ジャズ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする