2019年08月13日

マッコイ・タイナー リーチング・フォース

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マッコイ・タイナー/リーチング・フォース
(Impulse!/ユニバーサル)

1950年代末に結成され、60年代初頭に大々的に世に出たジョン・コルトレーンのカルテットは、コルトレーンのプレイのみならず、そのバンド・サウンドの突き抜けた個性的な演奏が注目されました。


その中でインパルス・レーベルが真っ先にソロ・アルバムの売り出しにかかったのが、ピアノのマッコイ・タイナーでした。


マッコイは、コルトレーン・カルテットのプレイは激しく吹きまくるコルトレーンを支え、というよりは真っ向からそのフレーズを受けて一緒に燃え上がるような壮絶な演奏でありましたが、単独のピアニストとしては、この時代の新しいジャズの理論である「モード」というものを理解した有望な若手としての評価も固めておりました。

そこでインパルスは1962年、コルトレーン・カルテットゆかりのメンバーで固めたピアノ・トリオ・アルバム『インセプション』を録音してリリースしました。





そしてそれから1年も経たないうちに、今度はメンバーを変えてまたもピアノ・トリオ・アルバムの『リーチング・フォース』をレコーディングしました。


これはですね、本当に異例というか、インパルスがいかにマッコイを特別なピアニストとして見ていてたかということの現れなんですね。

まず、ピアノという楽器は、まだまだジャズの世界では「フロントのホーン奏者を支えるリズム楽器のひとつ」という考えが根強く残っておりました。もちろん50年代から実力のあるピアニストのトリオ作はそれなりに人気があり、リリースもされておりましたが、アメリカではどうもピアノトリオってのは「良い感じのBGM」以上の評価はなかなかされないようで、バド・パウエルやセロニアス・モンクなど、一部の例外を除き、どちらかというと小粋だったりファンキーだったり、そういう心地良いものが好まれる傾向が、確かに今もあります。

そう、実はこの流れにちょっとした風穴を最初に空けたのが、モード・ジャズだったんです。

モードの金字塔と呼ばれるマイルス・デイヴィスの『カインド・オブ・ブルー』これに参加して、見事に芸術性の高いサウンドのキーマンとなったピアニストのビル・エヴァンス。彼が「新しいジャズを追究するためのピアノ・トリオ」を結成し、リリースしたのが『ポートレイト・イン・ジャズ』をはじめとするいくつかのトリオ・アルバム。

この、エヴァンスのトリオがジャズの世界におけるピアノ・トリオという編成に、一個の芸術表現をするフォーマットとしての確固たる地位
を与え、加えて多くの新しい表現への探究に燃えるピアニスト達へ大きな間口を開いたんです。

で、マッコイのまさかの2枚連続のピアノ・トリオでのリリースです。

もちろんマッコイは先にも述べたように「コルトレーン・カルテットのピアニスト」というネームバリュー以上に、新しいモードの手法を修めたピアニストとして既に独自のスタイルを持っており、もしかしたらインパルスは当時注目を集めていたビル・エヴァンスへの有力な対抗馬として”ピアニスト・マッコイ・タイナー”を売り出したかったのかも知れません。



リーチング・フォース

【パーソネル】
マッコイ・タイナー(p)
ヘンリー・グライムス(b)
ロイ・ヘインズ(ds)

【収録曲】
1.リーチング・フォース
2.グッドバイ
3.アーニーのテーマ
4.ブルース・バック
5.オールド・デヴィル・ムーン
6.ジョーンズ嬢に会ったかい

(録音:1962年11月14日)


実際にデビュー作の『インセプション』そして次の『バラードとブルースの夜』なんかを聴くと、そのスタイルはビル・エヴァンスと共通するリリシズムが底の方に漂っている印象を受けます。というか、コルトレーン・カルテットでの激しくヘヴィなプレイも、70年代以降のアグレッシブ路線の奥底にも、どうしようもなく狂った切なさのようなものが胸にグサグサと刺さるから、アタシはマッコイが好きなんです。はい、本質的にはこの人”切なさ”の人です。

さてさて本作『リーチング・フォース』ですが、前作と代わってマッコイのバックに付くのは、ベースがヘンリー・グライムス、ドラムがロイ・ヘインズであります。


うひゃーキタキタ!これはもうアタシ大好きなメンツです。

ドラムのロイ・ヘインズは、チャーリー・パーカーとも共演したベテランですが、何といってもコルトレーンやエリック・ドルフィー、ブッカー・アーヴィンといった、物凄くクセの強いホーン奏者のバックで叩く時の、その細やかなスネアさばきから繰り出されるスピード感が何と言ってもたまらん人で、こりゃもう同じく独自のスピード感持っとるマッコイとの相性は言わずもがな抜群です。

マッコイと最高に相性の良いパートナーといえばもちろんエルヴィンで、これにはアタシも全く異論はございませんが、エルヴィンと組んだ時の安定感とはまたちょっと違う、マッコイのスピード感が華やぐか、それともヘインズのスピード感が上を行くかのこの緊張感、もう1曲目の『リーチング・フォース』から激しいスリルを孕みながらデッドヒートしてますが、はい、もうたまらんです。


ヘンリー・グライムスは、個人的にバリッバリのフリージャズでありますアルバート・アイラーのアルバムでのプレイに衝撃を受けて大好きになったベーシストです。

この人は音に物凄く特徴があって、すごく太いんです。その太い音をグワッと鷲掴みにしてぶっ放しながら、空間を歪めて行くような強烈に豪快なスタイルの持ち主なんですが、バラードなんかでは実に的確なウォーキングで、時に弓弾きも披露しますがそのどちらもメロディアスなんですよね。やや屈折した感じの憂いが溢れるバラード『グッドバイ』や、ビル・エヴァンスとスコット・ラファロの演奏と間違えそうなぐらい端正な『アーニーのテーマ』で聴ける豪快な音と繊細な音符使いのベースプレイが、はい、もうたまらんです。


全体的にスピード感とバラードでのリリカルぶりがパワーアップして、どの曲でも彼の本領が発揮されております。特にマッコイ個人の”本領”の部分は後半、しっかりブルース形式、でもやはり解釈には独自のものがある『ブルース・バック』、得意のモーダル大全開な『オールド・デヴィル・ムーン』に刻まれております。これも本当に良いアルバム♪


















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『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

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posted by サウンズパル at 16:42| Comment(0) | ジャズ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする