2019年09月03日

ジェイバード・コールマン ブルース・ハープのパイオニア

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ジェイバード・コールマン/ブルース・ハープのパイオニア
(Pヴァイン)


しばらくのご無沙汰です。

9月も終わって10月になりましたが、こちらちっとも涼しくなる気配もなく、夏に目減りした体力がジリジリと限界に近づいているような気がします。あぁ、台風のムシ暑さもあって嫌ですねぇ。


はい、はい、嫌な事を口にすると、嫌な事が寄ってくると言いますので、この辺にしときましょう。

じとっと粘って絡み付くような暑さには、やっぱりブルースです。

特に戦前のアメリカ南部のブルースには、戦後のエレキギターぎゅいんぎゅいんの激しい暑苦しさとはまた違う、ジリジリと空気を焦がすような雰囲気があり、気持ちが上手に起動しない時期にぼへ〜っと聴くのは大変よろしい。

戦前のブルースってのはアレですよ、まだ「ブルース」っていう形式がカチッと決まってない時代のものもあるし、ブルースマン達もレパートリーにはバラッドと呼ばれる民謡がブルースとごちゃまぜに入ってたりして、コレがフォークやカントリーに近かったり(というかフォークやカントリーのルーツなんですよ)して、ぼへ〜っと聴くと気分が最高にほわほわとのどかなもんになって来て大変よろしかったりするんですが、一方「ブルース」の方に耳を向けると、これがとことんディープで、シンプルで余分な音がない分聴く方の感情を、どんどんヤバい深さまで引きずり込んだりするんで、大変よろしいに加えてなかなかにあなどれない。

昔、20代の頃のアタシの話で恐縮なんですが、ロック好きの友人をアパートに招いて、家にあるCDやレコードをあれやこれや聴いてました。

共通して好きなのはスティーヴィー・レイ・ヴォーンとかジミヘンとかオールマン・ブラザーズとか、つまりその友人は「ブルースにも興味がある奴」だったので、夜の8時頃から談笑しながらあれやこれや聴いているうちに、シカゴブルースから戦前ブルースの話になってきました。

調子に乗ったアタシは「これいいぞ」「これもいい」と、徐々にかけるレコードを戦前の方に持って行きました。

ビッグ・ビル・ブルーンジィからブラインド・ブレイク、そしてブラインド・ウィリー・マクテルとかブラインド・レモン・ジェファソンとか、色々とかけてくうちに、最初は友人も「すげぇ!」「やべぇ!」と、ノリノリで聴いておったのですが、途中から

「何か・・・戦前のブルースって、独特な怖さがあるよな・・・」

と、珍しく真面目な顔で言い出したんです。

「おお、そうか。じゃあ他のにするか?」

と言ったら「いや、待て。この感じは何か・・・いいかも。俺ブルースってここまでゾクッとくるような音楽だとは・・・正直思ってなかったもんだから」と。

「おっ! 」

と思ったですねぇ。

それをいいことに、アタシは個人的に感じている「戦前ブルースの闇」の話をして、そういうのを感じる音源をいくつか聴いてもらいました。ブラインド・ウィリー・ジョンソン、ロバート・ジョンソン、トミー・ジョンソン、テキサス・アレクサンダーなどなど、それぞれに友人は「むぅ・・」とか「うわぁ・・・」とか言いながらそりゃもう真剣に聴き入っておりましたが「これが一番ヤバいかも」と言ったのが、ジェイバード・コールマンのブルースハープ吹き語りモノでした。





ブルース・ハープのパイオニア

【収録曲】
(ジョージ・ブレッド・ウィリアムス)
1.Touch Me Light Mama
2.Frisco Leaving Birmingham (take 2)
3.Frisco Leaving Birmingham (take 3)
4.The Escaped Convict
5.Middlin' Blues
(ジェイバード・コールマン)
6.My Jelly Blues
7.Mill Log Blues
8.Boll Weevil
9.Ah'm Sick And Tired Of Tellin' You (To Wiggle That Thing)
10.Man Trouble Blues
11.Trunk Busted-Suitcase Full Of Holes
12.I'm Gonna Cross The River Of Jordan-Some O' These Days
13.You Heard Me Whistle (Oughta Know My Blow)
14.No More Good Water-'Cause The Pond Is Dry
15.Mistreatin' Mama
16.Save Your Money-Let These Women Go
17.Ain't Gonna Lay My 'Ligion Down
18.Troubled 'Bout My Soul
19.Coffee Grinder Blues
20.Man Trouble Blues
(Ollis Martin)
21.Police And High Sheriff Come Ridin' Down
(Daddy Stove pipe)
22.Sundown Blues
23.Stove Pipe Blues


ハープ吹き語り、これはある意味ブルースの最もプリミティヴなスタイルかも知れませんね。

ギターならば歌いながらコードやアルペジオ何かで歌を装飾することが出来るんですが、ハープってのはハーモニカですから、歌ってる間は音が出せない。だから歌って、吹いて、歌って、吹いてを繰り返さなきゃいけない。

必然的に物凄くシリアスな演奏形態になります。

同時に伴奏がない訳で一切の誤魔化しが出来ませんので、よほどの腕前を持つ人じゃないと、聴かせられるものにはならない。

えぇと、アタシがこのスタイルを初めて知ったのは、アーフーリーから出ていたテキサス・ブルースに収録されていたビリー・バイザーの演奏でした。この人は戦後の人で、ライトニン・ホプキンスとよく共演してることで有名なんですが、何つうかもう腹からテキサスの乾いた空気と共に出てるような声とハーモニカの音、演奏がどうとかそういう細かいこと全部すっとばして、ダイレクトに撃ち抜かれました。

で、このスタイルに興味を持った時に出会ったのがジェイバード・コールマン。このスタイルの最初の頃の名人として知られる、主に1920年代の後半に活躍した、南部アラバマ出身のハープ吹きであります。


このCDには、ジェイバード・コールマンと、同じく吹き語りも聴かせるハープの名手、ジョージ・ブレッド・ウィリアムスを中心に、4人の”吹きものブルース”の至芸が収録されておりますコンピレーション。

まずのっけから、ジョージ・ブレッド・ウィリアムスの「うぁ〜う、うぁ〜う」という甲高い声を織り交ぜたパワフルなブロウに鳥肌が立ちます。この人のスタイルは、ブルースよりもっともっと古い、フィールドハラー(屋外で作業をしている時の独特の響かせ方をする歌唱法)からの影響を強く感じる、まるで民族音楽のような、プリミティヴ極まりないスタイル。

続くジェイバード・コールマンの全音源は、吹き語り系のものと、彼が組んでいたバーミンガム・ジャグ・バンドとの音源があり、収録曲もいきなりピアノなどの伴奏と、謎の女性ヴォーカル入りの曲から始まって一瞬びっくりしますが、演奏の途中でソロを取るハーモニカと、その後の吹き語りものの圧倒的な緊迫感は鳥肌モノ。生ハープなのにこんなにも迫力があって、ヴォーカルもややドスの効いた感じで実にダークな渋味があるところにグッと引き込まれます。

とにかくもうジョージ・ブレッド・ウィリアムスとジェイバードのディープ極まりない、それこそ一気に聴くと胃ももたれてきそうなぐらい重圧の強いブルースにめたくそにされてしまいます。

そんなところに後半ちょろっと入っている、オーティス・マーティンとダディ・ストーブパイプの演奏が、ディープな中にほんわかした明るさがあって丁度良い。ジェイバードとは仲間で、スプリチュアル曲の12曲目『I'm Gonna Cross The River Of Jordan-Some O' These Days』では見事に息のあったハーモニカ同士の伴奏とフレーズ応報の駆け引きを聴かせてくれます。これがソロとなると一気に素朴度と”良いおっちゃん度”がアップしてとても和むんです。

そしてラストのダディ・ストーブパイプ。え?ストーブパイプってあのストーブの煙突のことじゃなかろうね?と思ってたらやっぱりそうらしく、RCAブルースの古典では、女性シンガーとのコミカルな掛け合いと共にジャグのぶおんぶおん音に似た、達者なストーブパイプさばきも披露してくれる彼ですが、コチラでは自身のジャグ・バンド(つうか「ストーブパイプバンド」か!?)の演奏から、ハーモニカの訊いた2曲が収録されておりまして、コチラもウキウキしちゃうのどかなナンバー。

いやぁそれにしても前半から後半までのほとんどを占めるジョージ・ブレッド・ウィリアムスとジェイバード・コールマンの、ほぼ吹き語りだけで聴き手を深淵に引きずり込むプレイだけでもう言葉が出ないぐらいの衝撃にやられてしまいます。生活に深淵が足りなくて困ってる方は多分そんなにいないかと思いますが、いや、いなきゃダメだぞ、深淵大事だぞ。と申し上げつつこの悪魔のようなCDをそっとオススメに入れておきます。









ブルース入門編 〜初心者のための優しいブルース講座〜



『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

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2019年09月01日

マッコイ・タイナー バラードとブルースの夜

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マッコイ・タイナー/バラードとブルースの夜
(Impulse!/ユニバーサル)


みなさんこんばんは。

9月になりましたが、まだまだ気候は夏の奄美です。

夏が終わってもちょいと動けば汗ばむぐらいの暑さ、去年は11月の半ばぐらいまで続きましたが、今年はどんだけ続くんでしょうね。。。

という訳で、夏の名物『大コルトレーン祭』は終わりましたが、余韻はまだまだ残っておりますので、今日はコルトレーン黄金の60年代前半から半ばまでを支えたピアニスト、マッコイ・タイナーをご紹介します。

タイナーに関しては、前もちょこっと書きましたが、もう大好きなピアニストにも関わらず、このブログでキチンと紹介しなかった事を痛恨として、彼のリーダー作はちょこちょこと定期的に紹介して行こうと思っております。

本日ご紹介するのは、恐らくこれはマッコイの数ある作品の中でも一番人気の作品でありましょう『バラードとブルースの夜』です。

マッコイ・タイナーが好き、或いはマッコイ・タイナーというピアニストが、自分の中の「好き」ではかなり上位に来るという人は、恐らくはコルトレーンの作品で彼の狂おしく情念が咲き散るプレイに心を打たれた人だと思います。アタシもその一人であります。

でも、このアルバムに関しては、コルトレーンのバンドでのマッコイをあんまり知らない人でも、いや、コルトレーン・バンドでのマッコイをあんまり知らない人の方が好意的に聴いていたと思います。

そう、このアルバムはマッコイ・タイナー3枚目のアルバムで、特にこの辺りまでの「初期」と呼ばれるマッコイのアルバムはどれもコルトレーン・バンドでのあの激烈なプレイから軽やかに距離を置いた、クールで耽美ですらあるピアノ・プレイがトリオ編成で聴ける。なかんづく本作『バラードとブルースの夜』は

「ジャズで何か落ち着いて聴けるやつある?う〜ん、ピアノがいいかな」

と、お店でリクエストしてくるお客さんからは、それこそ絶大な支持を集めていたアルバムでありました。

ちょこっと知ってる人になら

「これ、実はコルトレーンのバックでピアノ弾いてたマッコイ・タイナーなんですよ」

「えぇ〜!全然別人じゃん!!」

という会話が瞬時に成立しますが、「ジャズでなんかいいやつ〜」と言ってくるお客さんにはそれが通じず

「これ、実はコルトレーンのバックでピアノ弾いてたマッコイ・タイナーなんですよ」

「へーそうなんだ。コルトレーンって何か名前は聴いたことあるなぁ」

で、虚しく会話が終了したりしてたんですが、いやいや、それもまた味ってもんで、アタシはこういう会話の後に

「あぁ、コルトレーンをあんまり知らない人がマッコイ・タイナーを気に入ってくれている。じゃあそのうちコルトレーンも。いっひっひ・・」

と邪悪な笑みを心の中に浮かべておりましたねぇ、いけんやつです。これは相当ワルい・・・。

それはさておき、マッコイ・タイナーのインパルス初期のトリオ・アルバム。とりわけ3作目の『バラードとブルースの夜』は、単純に「カッコ良くて心地良いピアノが聴きたい」と思っている方に、理屈抜きでオススメ出来るアルバムです。

お前はオススメって言うけど、具体的にどうなんだと言われましたらば、アタシの敬愛するジャズサイトで『塩サバ通信』というめちゃくちゃ気合いの入ったサイトがあるんですけど、ここの管理人のサバさんが、一言で見事にこのアルバムの本質を、このような感じで評しております。


『すっげぇ怖い兄ちゃんが”ちょっと顔貸せ”と言うから恐る恐る入ったら”ちょっと恥ずかしいんだけど僕の作った詩集買ってくれませんか”と言われた』






バラードとブルースの夜


【パーソネル】
マッコイ・タイナー(p)
スティーヴ・デイヴィス(b)
レックス・ハンフリーズ(ds)

【収録曲】
1.サテン・ドール
2.ウィル・ビー・トゥゲザー・アゲイン
3.ラウンド・ミッドナイト
4.フォー・ヘヴンズ・セイク
5.スター・アイズ
6.ブルー・モンク
7.グルーヴ・ワルツ
8.酒とバラの日々

(録音:1963年3月4日)



何かもう、このアルバムを的確に表せる他の言葉をアタシは未だに知りませんが(汗)アタシもめげずに紹介します。

何度も言いますが、このアルバムは「バラードとブルース」というより全編ほとんどバラードで、マッコイの繊細な感性が奏でるミディアム以下のナンバーで綴られた、正に詩集です。


1曲目の『サテン・ドール』から、もうめちゃくちゃにメロディアス。デューク・エリントンの代表曲のひとつであるこの曲は、ちょいとウキウキした感じの弾むようなアレンジのカヴァーも多い中、マッコイは終始落ち着いた弾き方でじっくりと美しい旋律を紡いでおります。

中盤から後半に『ラウンド・ミッドナイト』や『ブルー・モンク』等の、バラードと呼ぶにはちょいとハードボイルドなセロニアス・モンク・ナンバーが入ってくるんですが、こちらもそれまでの甘美な流れを全然変えない。変えてない。これが凄いんですよね。

ちょいとハードな曲が入っても、どうしてマッコイのバラードは変わらず凛として美しいのか?ということをずっと考えておりましたが、うん、いや、これはきっと逆だという事に気付きました。

つまりマッコイのバラードは、どんなにメロディアスに鍵盤を転がしても、どんなに甘美な表現に没入しようと、核の方にあるものはきっと反骨精神に溢れた揺るぎない美学なんだと思います。

バックのスティーヴ・デイヴィス(ベース)とレックス・ハンフリーズ(ドラムス)がまた良い仕事をしております。

前2作ではエルヴィン・ジョーンズ、ロイ・ヘインズという超個性派ドラマー達と、寄り添い合いながらしっかり火花を散らしていた訳ですが、本作ではバック2人はしっかりとマッコイのフォローに専念しております。

スティーヴ・デイヴィスもレックス・ハンフリーズもアトランティック時代のコルトレーンを支えた人達です。特にレックス・ハンフリーズは派手にドコスカ叩くプレイ(ドナルド・バードとかデューク・ピアソンのブルーノートのアルバムで聴けるぜぇ♪)もカッコイイ人なんですが、ここでは終始ブラッシングでもしかしたらマッコイのピアノよりも繊細なんじゃないかと思えるぐらいの細やかで軽やかなリズムでもって好サポートを聴かせます。

全編美しいし、それがまた軟弱じゃない芯のある美しさです。美しいピアノが聴きたい方にはこのアルバムと前の2作はこらどーしても聴いて欲しい、切実に思います。




















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posted by サウンズパル at 22:28| Comment(0) | ジャズ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする