2019年10月20日

Fukai Nana can i love you?

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Fukai Nana/can i love you?
(Kerosene Records)

アタシが音楽というものを自発的に聴くようになった頃、メディアといえばテレビとラジオと雑誌ぐらいしかなくて、でも、ちょいとチャンネルを合わせると、ワクワクするような「知らない音楽」と沢山出会う事が出来ました。

特にテレビは夕方にも夜にも深夜にも音楽番組があって、昼と夜に流行を追っかけて、深夜に他人が知らない珍しいバンドの情報を仕入れては、そのバンドの記事が載ってる音楽雑誌に赤線引いたりして、まぁ楽しかったんです。

今はメディアの在り方もすっかり変わって、テレビや雑誌での情報収集は本当に難しくなりました。

反対に、ネットを通しての情報収集や発信のスピードは、もう昔とは全然違って、誰がどこに居ても最新のバンドの演奏から、古い時代のマイナーな音楽にまで、簡単に触れる事が出来るし、または自宅で作った音楽のようなものにでも、一人で本格的に凝ったアレンジを付けて世界中に発信することも可能になってきました。



そう「で」なんですよ。

Youtubeとか、その他配信で10代とか20代とかの若いバンドの人や個人の演奏なんかを見ていると、10年前とかより「おおお!!すげぇ!!」と思う演奏が、今凄く増えてる感じがするんです。

音楽やる人って、多分「とにかくたくさんの人に共感してもらえるようなものを作りたい」って人と「評価より何より、自分の表現意欲を満たしたい」って人とが居ると思うんですけど、この10年でCDが売れなくなったとかミリオンが出なくなったとか(えぇ、アタシも店舗のCD屋は閉じました)、何かとネガティヴに音楽事情が語られるようにはなったんですが、いやちょっと待て「音楽が思ったようにカネにならない」という事が、逆に「表現を極めたい」という人達のサウンドをジワジワと表に出してるような環境が出来てきてるんじゃね?と、何となくですがアタシゃ最近思うようになってきてるんです。


これはついこないだの話ですが、身内から「このバンドいいよ」と聴かせてもらったバンドで『Fukai Nana』というバンドがありました。

ディスクユニオン・インディーズのレーベルからリリースしたデビューEP『can i love you?』というアルバム。「ほぉぉ〜」と思ったのですが、ジャケットからは、果たしてどんな音を出すバンドなのか、良い意味で想像も尽きません。で、インディーズらしくスリムな紙ジャケにCDが入っていたので、何故だかアタシは「こりゃいいぞ」と思って早速音だけを聴いたのですが、いや、これは色んな意味で予想と違って期待通りの「今の時代のロック」もっと言えば、音楽が本当に好きで楽器初めてバンドやって、で、自分達が「これはいいぞ」と思った音楽のエッセンス、そのピュアな部分へのリスペクトが、演奏の内側にある個人としてのヒリヒリとした感情と美しく絡み合って、そして切なく煌めいている。

ここまで書いてて、ちょっと詩的な表現になり過ぎてる?このレビュー。と思ったのですが、や、このままいきましょう。Fukai Nanaのサウンドは、嘘偽りなく聴く人をそういう詩的な気分にさせてくれるし、これから聴いてみようかなという人にこそ、演奏の細かい部分より先に、詩的な狂おしさとか切なさとか、そっちに触れて欲しいとアタシはストレートに思ったんです。





can i love you?

【収録曲】
1.飛び込む
2.愛ができない
3.Intro
4.春物語
5.Stelle Cadenti


あらかじめ、メンバーがどういった人達で、何歳ぐらいで・・・というのは訊いて知ってはいたのですが、いや、音を聴いて本当に驚きました。

楽曲のスタイルは一言でいえばオルタナティヴとか、ポスト・ロックとか、そういう区分で語られるようなものでしょう。プラス00年代以降例えば日本やヨーロッパのインディーズ・シーンで一大勢力となっていた、音響系と言われていたバンド達のような、独特の”ゆらぎ”のある空間感覚を持つ、切ないリフと儚いギター・ノイズ。

個人的には、アタシが18,19の頃、バンド仲間達とパンクがどーのグランジがどーの言ってた時、オルタナよく分からなかった私に、友達がアパートの部屋で、やっすいラジカセで聴かせてくれたソニック・ユースやピクシーズ、ダイナソーJr.なんかを聴かせてもらいながらワクワクしてたあの感じが、Fukai Nana聴いてると胸の奥からリアルに蘇ってきます。

そう「え?この人達ほんとに20代前半の人達なの??」と、びっくりするぐらい、彼らのサウンドは90年代の、良質なインディーズバンドが次から次へと未知の素晴らしいサウンドをひっさげてアタシらクソガキの耳を刺激しつづけてくれていたあの時代のサウンドに限りなく近い。

インディーだろうが宅録だろうが、今の時代やたら鮮明で刺激が強くて綺麗に粒の揃った音は、いくらでも加工して作れるんです。

でも、彼らのサウンドは敢えてくぐもった音の塊が、中心に”ギュッ”と集まった音。粗いままに放たれるリフやアルペジオが、そのくぐもった音の塊の一部となって、時にそれを突き破り、時にそれをすり抜けて耳に届く時、言葉に出来ない部分のヒリヒリした感情もサウンドに乗っかっていて、心は気持ち良く掻き乱されます。

あぁ、何か最後まで抽象的な詩的レビューになっちゃいましたが、音楽ですもんね、たまにはいいでしょう。

ひとつだけ、これだけ「90年代インディーズ」を感じさせるサウンドなんですが、全然「懐かしいな」だけに収まらなくて、今の最先端な音楽の感じが凄くします。というよりも、今の時代の主流である、ハッキリクッキリした厚いバンド・サウンドから無駄なものをどんどん削っていった音が、多分たまたまこういうサウンドになったと思います。しかしその”たまたま”をここまでしっかりとした形に出来るのって、相当に音に対する真摯な探究心がないと出来ませんし、色んな音楽を知って「どう響かせれば気持ちいい」(サウンドだけじゃなくて、メジャーとマイナーが美しく混ざり合うメロディーとリズムの進行も)というヴィジョンがしっかりと定まってないと出来ません。

色々と感覚で書いてしまいましたが、とにかくアルバムを通して聴いて、ラストのギター・ノイズが「キキキ...」と切なく虚空に響くまでを心に刻んでみてください。















『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

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2019年10月15日

トロピカル・スウィンギン! キューバ 楽園のギタリストたち

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V.A./トロピカル・スウィンギン! キューバ 楽園のギタリストたち
(アオラ・コーポレーション)


10月になると本土の皆さんは、もうすっかりめっきり秋を感じておられることと思います。

秋になるとすっかり気温も下がって、陽が落ちるのも早くなって、何だかこう切ないというか淋しいというか、ちょっぴりセンチな気持ちになってきて、まぁアタシもビル・エヴァンスなんか取り出して「あぁ・・・このピアノ切ない!やっぱり秋はエヴァンスだわ」とか、一丁前に分かったような口を利いている訳なんでございますけれどももね、あのねぇ、奄美ぜんっぜん秋めいてこないんですよ!!(怒)

このやろー!このやろー!今日も暑いんじゃー!と、10月になってからほぼ毎日言ってます。

しかしまぁ、あんまり「暑い、嫌だ」とばかり言ってても、しょーもない人間になって終わりっぽい気がしたので「よし、これはひとつ気候のこういう不快な夏っぽさを心地良さで上回るゴキゲンなサマー・ミュージックを聴いて、徳の高い人間になってやろう」と、ほぼやけくそに思い立ちました。アタシ偉い。

ゴキゲンなサマー・ミュージックといえば皆様、やっぱりラテンですよね。

情熱的なサルサやマンボのリズムに乗って、エモーショナルなヴォーカルにサックスにトランペット、ほいでもってトロピカルなギターとかピアノが鳴り響く。どうですこれ、良いですよえぇ。

特にアタシは個人的に、今の最新技術でのクリアな録音より、どこかこう粗くてあったかみのある、例えば屋外のラジオとかから流れてくるような音質の、つまりは古い時代のラテン音楽に、たまらない魅力を感じるんです。

なので、今日は1960年代に最も面白かったキューバ音楽のシーンで活躍したギターの名手達を集めた日本独自規格のオムニバス『トロピカル・スウィンギン!キューバ楽園のギタリストたち』を聴きつつ、これすごく良いよと皆さんにご紹介したいと思います。

はい、キューバといえば、1990年代の後半に、ライ・クーダー監修の映画とそのサントラ盤『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』で、多くの人々に知られるようになり、今じゃたとえばロックやジャズやブルース聴いてる人達の間でも「キューバいいよね」という話題が当たり前に出るようになりました。

アタシも「ブエナ・ビスタ」に感激して、そこに参加しているアーティスト達の作品を聴きながら、少しづつキューバ音楽を知っておりましたが、ここへきて2018年に、そこからさらに突っ込んだこういう内容のコンピが出るのは凄く嬉しいし、聴き続けてもうかれこれ20年近くになりますが、ちっとも深まらないアタシのキューバ知識の補充にも物凄く役に立ちます。えぇ、有難いですね。




トロピカル・スウィンギン! キューバ 楽園のギタリストたち


【アーティスト/収録曲】
1.ウィルソン・ブリアン/南京豆売り
2.ウィルソン・ブリアン/第三の男
3.ウィルソン・ブリアン/ブルース
4.セネン・スアレス /私はカンペシーノ
5.セネン・スアレス/ベリンダ
6.セネン・スアレス/ソン・デ・ラ・ロマ
7.フアニート・マルケス/Llavimaso ジャビマソ
8.フアニート・マルケス/ヒタ・ノバ
9.フアニート・マルケス /トゥンバオNo.1
10.カルロス・エミリオ・モラレス /君は愛をわかっていない
11.カルロス・エミリオ・モラレス /デスカルガを楽しめ
12.カルロス・エミリオ・モラレス /ワン・ミント・ジュレップ
13.マヌエル・ガルバン/私の悲しみ
14.ホセ・アントニオ・メンデス/マンボのテーマ
15. ニーニョ・リベーラ /モンテ・アデントロ
16.アルセニオ・ロドリーゲス/ソン・パチャンガ
17.パピ・オビエド/ラ・ブローチャ
18.パピ・オビエド/トレスを弾いてくれ
19.パブロ・カノ/デスカルガ・ア・ロ・ロジェール
20.パブロ・カノ/アンダルシア
21.パブロ・カノ/イパネマの娘



さてさて、このコンプレーションなんですが、「最近ズバ抜けて攻めてる楽器専門誌」としてギター弾き以外のハートも射抜きまくっているギターマガジン監修で、我が国では屈指のカリプソ・ギタリストのワダマコトさん(カセットコンロス)解説のコンピであります。

内容は、主に50年代から60年代にかけて活躍した、キューバやカリブ諸国では伝説の巨匠としてかの地の音楽史を語る上でも、ラテンのギター演奏を語る上でも超絶有名な人達の名演を「これでもか!」というぐらいの質量で収録してあるスグレものです。

キューバという国は、地理的にはアメリカのすぐ下にあって、かつ同じ島の中にアメリカの中の自治領というかなり特殊なプエルトリコという国があり、古くからアメリカとの関わりが深いんです。キューバが社会主義国となって、アメリカとは敵対関係になってからも、移民としてニューヨークに住むキューバ人は多く、例えば大都市ニューヨークなんかでは、キューバやプエルトリコから来た人々が、独自のコミュニティを作って、大きな文化圏を作ったりしております。

だもんで、ここで聴かれる60年代キューバの音楽というのは、昔からの土着のリズムやパーカッション・アレンジの中でソロを取るギターやアレンジの中で主要な位置を占めるホーンセクションなんかは、実はかなりアメリカのジャズやR&Bの影響を受けてるんですね。それらは周波数をいじくれば流れてくるアメリカのラジオ放送からダイレクトに受けたものでもあり、またはアメリカに居る同胞達からもたらされた、新鮮な”生”の情報だったりしていた訳で、そんな中でアメリカとキューバ、互いに影響を受け合い与え合いしていたものが、くんずほぐれつでそれぞれの新しいサウンドを生み出していた、ちょうどそんな時代の、混沌とした活力が、名手達のギター・プレイにはピュアな形で反映されております。

たとえばジャケットに写ってるコンラード・ステン・ウィルソン・ブリアン。ジャマイカ出身のこの人のプレイなんかは、タイトルに偽りナシのトロピカルなムードの中、ジャンプ・ブルース系の実に鋭くアグレッシヴなソロでいきなり異彩を放っております。

それぞれに実に個性的で「誰が誰だかハッキリと違いが分かるぐらいに個性の塊」のプレイヤー達の中で、最もテクニカルなモダン・ジャズのマナーに斬り込んだプレイを聴かせてくれるファニート・マルケスのべらぼうに速く滑らかなフィンガリングなんかも「キューバ=のんびりでヨイヨイな感じ」をイメージしていたアタシには寝耳に落雷ぐらいの衝撃でした。解説によるとキューバでいち早くエレキギターを手にし、近年はプロデューサーとしても大活躍とか。

ごった煮の魅力が終始満載のアルバムのラストで、見事なボサ・ノヴァを披露してれるパブロ・カノの、クールで知的なプレイも実にジャズ的な洗練を感じますね。特にちょっとしたフレージングの歌わせ方には、単純にボサ・ノヴァとかキューバとか、地域性では括れないフィーリングの深さがあるような気がしてなりません。


しかしこの、今の綺麗な録音と違って、それぞれの楽器がガッチャガッチャ鳴ってる全体にもわんとエコーがかかってる録音がとてもよろしいですな。家で聴いててもキューバの街の露店にあるラジオから聞こえてくるようなこの空気感も演奏同様クセになります。







(↑特集記事が素晴らしいギターマガジンもぜひ)























『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

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2019年10月10日

ビル・エヴァンス タイム・リメンバード

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ビル・エヴァンス/タイム・リメンバード〜モア・フロム・ザ・シェリーズ・マン・ホール(Milestone)


10月になり、日中の日差しも幾分やわらいで、空気にも秋らしさがやっと入り混じるようになったので、ビル・エヴァンスを聴きたい気持ちになってきました。

そういえばこのブログでも、毎年秋になるとエヴァンスの事を書いております。

彼のピアノはとことん切なく美しく、やっぱりそんな演奏が合うのは、空気が何となく寂しさを帯びてくる秋。

ただ綺麗なだけじゃなくて、優しい音色やフレーズは、実はとことん鋭利で、ある日突然聴く側の心の奥深くにざっくりと斬り込んできて、ヒリヒリ、ヒリヒリと感情の一番底の方にある痛い所にとことん染みる。

丁度、つい最近彼の伝記映画『タイム・リメンバード』が公開され、そこで彼の繊細な美の結晶とも言うべき音楽と、その裏付けとなった、繊細過ぎるが故の悲劇に彩られた人生とに感銘を受けて、エヴァンスのファンになる人も増えたという話を聞きました。

うん、そうですね。感動とか共感っていうのは、何も明るく前向きなストーリーからだけ生まれるものじゃない。

むしろ人間が人間であるがゆえの、どうしようもない部分の中に輝く情や業といったものの、もう本当にどうしようもない美しさというものを、私達は本能的に知っているし求めている。

だから音楽やその他の芸術は、うんと昔のものであっても心の奥底にダイレクトにくるものがある。いや、むしろ時代とか時間とか関係なく、そういうのを越えて触れる側の心の一番痛い部分に飛び込んでくる。そう言えるんじゃないでしょうか。

はいはい、秋だからちょいと感傷的になってしまいました。センチメンタルごめんなさいねぇ。。。

おぉ、今日は何だか感傷モード危険です。あんまりヤバいゾーンに入らないうちに、今日のビル・エヴァンスをご紹介しておきますね。

丁度映画のタイトルと同じ『タイム・リメンバード』というアルバムがありますので、本日はコレを。

まず、エヴァンスという人は、ジャズの中でもとりわけ人気の高い人で、初心者向けジャズHow To系の本やサイトなんかにも、必ず登場します。

ほいでもって「初心者にオススメはコレだ!」というアルバムというのがあって、それはもちろん名盤と呼ばれるのはなるほど確かにとアタシも納得するぐらい出色の出来のアルバム達です。

具体的に言えば、エヴァンスが最初に結成したトリオでレコーディングした『ワルツ・フォー・デビィ』『ポートレイト・イン・ジャズ』の2枚です。









この2枚は若きエヴァンスの研ぎ澄まされたリリシズム(狂おしく美しい感じ)と、自由自在に動き回るスコット・ラファロのベース・プレイが火花を散らして本当にもう最高なんですが、エヴァンスの色んなアルバムを、より広く深く聴き込んでゆくと、辿り着く2つの大きな道があります。

ひとつは、エヴァンスのどんどん内に沈み込んで行く魅力が味わえるソロ・ピアノ、もうひとつが、スコット・ラファロ亡き後にエヴァンス・トリオのベーシストになったチャック・イスラエルのプレイです。

この話をすると

「え?ソロはわかるけどチャック・イスラエル?いやぁ、悪くはないけど一番影薄くない?」

って言われる事が多いんです。


まー、そうなんですよねー。スコット・ラファロと、イスラエルの次のベーシストで、エヴァンスとは一番長く活動したエディ・ゴメス。この2人は物凄いテクニック持ってる人達で、いつも斬新なフレーズでエヴァンスのプレイを支えるというより、一緒になって盛り上げてた感じがして、参加してるアルバムの熱量というのも相当なもんです。

でも、アタシはイスラエルの「物静かだけどエヴァンスのピアノの哀しさと一番寄り添えているプレイ」と、何よりもその、豊かな木の響きが演奏全体を潤しているような、いかにもウッドベースな暖かい音色がとても好きなんです。




Time Remembered

【パーソネル】
ビル・エヴァンス(p)
チャック・イスラエル(b,E〜L)
ラリー・バンカー(ds,E〜L)

【収録曲】
1.ダニー・ボーイ
2.ライク・サムワン・イン・ラヴ
3.イン・ユア・オウン・スウィート・ウェイ
4.イージー・トゥ・ラヴ
5.サム・アザー・タイム
6.ラヴァー・マン
7.フー・ケアズ?
8.恋とは何でしょう
9.ハウ・アバウト・ユー
10.エヴリシング・ハプンズ・トゥー・ミー
11.イン・ア・センチメンタル・ムード
12.マイ・ハート・ストゥッド・スティル
13.タイム・リメンバード

(録音:1958年12月15日-D,1962年4月10日@〜C,1963年5月30日E〜H,1963年5月31日I〜L)


さてさて、そんなエヴァンスのソロと、チャック・イスラエルが参加したトリオの魅力が凝縮されたようなアルバム、あります。

このアルバムはですのぅ、例えば『ワルツ・フォー・デビィ』とかの有名なアルバムを聴いて、または映画『タイム・リメンバード』なんかを見て「あぁ、ビル・エヴァンスっていいわぁ・・・」と思った方ぜひ聴いてください。

や、最初に聴く1枚でも全然いいんですが、どちらかというと、聴いて衝撃を受けるとかいうよりは、じっくり聴いてその素晴らしさ、何ともいえないエヴァンスという人の優しくも悲しく狂おしい個性みたいなものを、じっくりと胸に刻むのに適してるアルバムのような感じがする。えぇ、するんです。

チャック・イスラエルが参加した時期のライヴ・アルバムに『ライヴ・アット・ザ・シェリーズ・マン・ホール』というのがありまして、このアルバムは、その続編としてリリースされた・・・はずなんですが、実はシェリーズ・マン・ホールの未発表テイクと、全く違う時期のソロ・ピアノ未発表音源が入っているという、何ともスグレものなアルバムなんです。

ソロは1958年、まだトリオ結成して有名になる前のエヴァンスが、スタジオで録音したもの。

恐らくは一人でピアノの向かいながら演奏に没入しているのを、ずっとテープを回して記録していた音源と思います。

とにかくこのアルバムの多くのファンの方は「あのダニー・ボーイが凄い!」と絶賛する『ダニー・ボーイ』で幕を開けます。

ダニー・ボーイって、ジャズ・スタンダードというよりも、ポピュラーソングとしての超有名曲なんですが、最初のピアノの音が響いた瞬間から、もう「ふわぁぁあああ」となります。美しいです。

メロディとしては完璧な、あのテーマ部分を3分近く繰り返して弾くエヴァンスのピアノがどんどん深みに入り、アドリブになった時に見せる幻想的な絵画のような世界観、余りにも繊細で言葉を失います。

ソロ演奏5曲の後に、トリオ演奏がやってきます。

まずはリラックスしたエヴァンスのピアノと、しっとり美しいイスラエルのベース、そして堅実なリズムでそれらを支えるラリー・バンカーのドラムとの一体感が溶け合うバラードから、演奏は徐々に熱を帯びて、8曲目、9曲目でテンポを上げたクライマックスに。そしてまたミディアムテンポに戻って儚く終わる。

この”儚さ”の空気を醸しているのが、イスラエルのベースです。エヴァンスのアドリブがそっと始まった時にボーンと柔らかく鳴るベースが、その後のアドリブで寄り添い合って、違う楽器で同じ歌を歌っているようであります。うん、たとえがちょっと意味不明ですが、この”共鳴”のグッとくる感じを言葉で伝えるには、もう意味不明をやらざるを得んのです。

ラリー・バンカーの「崩さないギリギリのラインでちょっとだけ前に出たドラム」も良いんですね。そしてやっぱりこの人のドラムもまた、ピアノやベースと同じ歌を歌っておるように溶け合っております。









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