
Brownie McGhee & Sonny Terry/Sing
(Smithsonian Folkways)
前回までのお話は、戦前のアメリカ東海岸にはブラインド・ボーイ・フラーという素晴らしいブルースマンがいて、その人が南部やシカゴとはまた違う洒落た感じの味わいのイカしたブルースのスタイルを作り上げたよというお話でした。
そんな東海岸のアコースティック・ブルースは、戦後になってあるコンビの登場によって一気に世界でも有名なスタイルとなるのです。
はい、1950年代から70年代にかけて大活躍して、それぞれのソロも含めると、実に何十枚という数のアルバムを色んなレーベルから出しているという、正にオリジナル・ブルース・ブラザーズな人気者、ブラウニー・マギーとサニー・テリーのコンビを今日はご紹介します。
とにかくこの人達を語る時はずせないのは、1950年代から60年代にかけてのアメリカの一大ムーヴメント「フォーク・ブルース・リヴァイバル」です。
多くの伝説のブルースマン達が、アメリカ南部の奥深くから次々発見され、その深淵なるブルースの世界を白人の若者達に知らしめていたその時、ぽーんと出て来て丁々発止のゴキゲンなブルースで若者達を大いに沸かせ、あっという間に絶大なる人気を獲得したのがこのコンビであります。
「ブルース」それも戦前からのアコースティック・スタイルといえば、どうしても渋いご老人が、人生の辛酸をなめまくった、辛口のものというイメージがあり、確かに多くのレジェンド達は、そんなイメージに違わない見事なブルースの苦味を様々なスタイルで噛み締めるように歌っておりましたが、この2人の場合は、そんなイメージも何のその。両人共にカラッとした朗らかな歌いっぷりと、ズクズクと小気味よく刻まれるギター、まろやかかつ力強い、ポジティヴな味わいに溢れた生ハープの音、何よりもその”覚えやすくノリやすい”楽曲とアレンジで、強烈に異彩を放っておりました。
さてさて、そんな2人ですが、ブラウニー・マギーは1914年生まれ、サニー・テリーは1911年生まれ。
サニー・テリーは8歳の頃からハープを吹き、10代の頃に農作業中にうっかり木片が目に当たって失明。更に数年後に友人の投げた鉄
破片が見えている方の目当たり、ほとんど盲目に近い弱視になってしまいました。
彼の実家は小作農でしたが、目に重い障害があると農作業が出来ないので、本格的に音楽で食っていく事を決意。ある日路上で聴いた「とびきりイカしたギター」に惹かれ、思い切ってそのギターの主に
「なぁアンタ、オレはハープ吹くんだが、どうだい?一緒に演らないかい?」
と、声をかけ、そのギタリストの相方として、1930年代半ば以降、共に演奏をしたり、レコーディングに付き合うようになります。
そのギタリストこそが、当時ノース・カロライナを中心に人気を博していたブラインド・ボーイ・フラーであります。
残されたフラーの音源で、テリーのハーモニカは、フラーの独特の疾走感あるビートを繰り出すギターと、ピッタリ息の合った見事な合奏ぶりを見せてくれます。また、味わい溢れるスロー・テンポのブルースでも、まるで肉声のコーラスのように感情豊かなプレイで応えております。
一方のブラウニー・マギーは、父がギタリスト、叔父がフィドル(バイオリン)奏者で、南部一帯を旅する巡業一座の家に生まれ、やはり幼い頃からギターに親しんでおりました。
4歳の頃小児麻痺にかかり、右足が左足より短くなってしまうというハンデを背負ってしまいましたが、生活にはさほど影響せず、1930年代には独立して独自の活動を始めるようになり、ソロで弾き語りをしたり、ジャグバンドのメンバーとなったりしながら、故郷テネシー州の周辺を廻りながら、やがてノース・カロライナに移り住んだ頃、憧れだったブラインド・ボーイ・フラーの死を知って、何と”ブラインド・ボーイ・フラーNo.2”を名乗って活動しておりました。
(多分)その芸名が功を奏したのか、ノース・カロライナで自身のギターとハーモニカ、そしてウォッシュボード(これはフラーが得意としていたバンド・スタイル)のトリオバンドを結成。そのバンドのメンバーの紹介で「かつてフラーと共に演奏していたハープ吹き」サニー・テリーと知り合い、コンビとなって活動するようになりました。
性格的な相性は最悪で、ステージ降りたらほとんど口もきかなかったという2人でしたが、そんな不仲も関係ないとばかりに2人は地元で人気者となり、戦後のアコーステリック・ブルース不況の時期も、これだけで食っていくことが出来ていたそうです。
そして程なく白人若者達の間で巻き起こったフォーク・ブルース・リヴァイバル。
彼らの音楽性は、ディープ・ブルースに馴染みのない白人の若者もすんなりと理解できるぐらいにポップで洗練されたものでありましたし、また、ニューヨークからそんなに遠くないノース・カロライナという場所に居たお蔭で、まずは東海岸の大都市ニューヨークの、学生やミュージシャン、詩人や画家などが集まるコーヒーハウスで歌えば多くの賞賛を集め、あれよあれよという間に彼らは都会から湧き起こったムーヴメントの中心におりました。
Brownie McGhee & Sonny Terry Sing
【収録曲】
1.Better Day
2.Confusion
3.Dark Road
4.John Henry
5.Make a Little Money
6.Old Jabo
7.If You Lose Your Money
8.Guitar Highway
9.Heart in Sorrow
10.Preachin' the Blues
11.Can't Help Myself
12.Best of Friends
13.Boogie Baby
とにかくこの2人の演奏は、起承転結がハッキリしていて、歌もギターやハープのフレーズも、聴く人のノリと心に易しく引っかかるようにキチンと作り込まれていたものであり、それゆえにワンパターンとか、ブルース・フィーリングに欠けるというそしりを受けることもありましたが、いやいや、これだけ洗練された完成度の高い演奏を、しっかりと味わいを感じさせながら聴かせることが出来るというのは、一流の芸の奥底に流れる豊かなフィーリングあればこそだと思わざるを得ません。
得意とするのは、やはり共通のルーツであるブラインド・ボーイ・フラーが得意とした、ミディアム・テンポの軽快なナンバーですが、その中でマギーはド派手に弾き倒すことなく、しっかりとしたリズムで伴奏を刻みながら、時折「おっ!」と耳を惹き付けるメロディアスなソロやオブリガードで、一流のギター・ピッカーぶりを見せつけます。程良く濁りのある、絞るようなヴォーカルもまた深い味であります。
サニー・テリーのプレイは、しっかり者のマギーに対し、豪快でコミカルでややべらんめぇな感じが実に魅力ですね。強さだけでなく「ぷわぁ〜ん」と南部の空気を目一杯吐き出すかのような、戦前を生きたハープ吹きにしか出せない牧歌的な味わいと、あだ名の「ウーフィン」の元となった、歌ってる途中にいきなりいれる「ホォォ〜ォウ!」という掛け声も、演奏の中で見事な”盛り上げポイント”になっております。
今日ご紹介するアルバムは、入手しやすい『Sing』で、コチラは耳に心地良いオリジナルのブルースから南部古謡であるバラッドまでサクサクと小気味よく聴き進められて、かつピードモント・スタイルと呼ばれる、戦後最も洗練されたアコースティック・ブルースの醍醐味も楽しみながら味わえます。つうかこのコンビのアルバムはどれも楽しみながら深く味わえる、本当の意味で”ちょうどいいアルバム”ばかりなので、サクッと入手してサクッと聴きましょう。良いよ。
ブルース入門編 〜初心者のための優しいブルース講座〜
『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』
サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
http://ameblo.jp/soundspal/