2019年10月10日

ビル・エヴァンス タイム・リメンバード

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ビル・エヴァンス/タイム・リメンバード〜モア・フロム・ザ・シェリーズ・マン・ホール(Milestone)


10月になり、日中の日差しも幾分やわらいで、空気にも秋らしさがやっと入り混じるようになったので、ビル・エヴァンスを聴きたい気持ちになってきました。

そういえばこのブログでも、毎年秋になるとエヴァンスの事を書いております。

彼のピアノはとことん切なく美しく、やっぱりそんな演奏が合うのは、空気が何となく寂しさを帯びてくる秋。

ただ綺麗なだけじゃなくて、優しい音色やフレーズは、実はとことん鋭利で、ある日突然聴く側の心の奥深くにざっくりと斬り込んできて、ヒリヒリ、ヒリヒリと感情の一番底の方にある痛い所にとことん染みる。

丁度、つい最近彼の伝記映画『タイム・リメンバード』が公開され、そこで彼の繊細な美の結晶とも言うべき音楽と、その裏付けとなった、繊細過ぎるが故の悲劇に彩られた人生とに感銘を受けて、エヴァンスのファンになる人も増えたという話を聞きました。

うん、そうですね。感動とか共感っていうのは、何も明るく前向きなストーリーからだけ生まれるものじゃない。

むしろ人間が人間であるがゆえの、どうしようもない部分の中に輝く情や業といったものの、もう本当にどうしようもない美しさというものを、私達は本能的に知っているし求めている。

だから音楽やその他の芸術は、うんと昔のものであっても心の奥底にダイレクトにくるものがある。いや、むしろ時代とか時間とか関係なく、そういうのを越えて触れる側の心の一番痛い部分に飛び込んでくる。そう言えるんじゃないでしょうか。

はいはい、秋だからちょいと感傷的になってしまいました。センチメンタルごめんなさいねぇ。。。

おぉ、今日は何だか感傷モード危険です。あんまりヤバいゾーンに入らないうちに、今日のビル・エヴァンスをご紹介しておきますね。

丁度映画のタイトルと同じ『タイム・リメンバード』というアルバムがありますので、本日はコレを。

まず、エヴァンスという人は、ジャズの中でもとりわけ人気の高い人で、初心者向けジャズHow To系の本やサイトなんかにも、必ず登場します。

ほいでもって「初心者にオススメはコレだ!」というアルバムというのがあって、それはもちろん名盤と呼ばれるのはなるほど確かにとアタシも納得するぐらい出色の出来のアルバム達です。

具体的に言えば、エヴァンスが最初に結成したトリオでレコーディングした『ワルツ・フォー・デビィ』『ポートレイト・イン・ジャズ』の2枚です。









この2枚は若きエヴァンスの研ぎ澄まされたリリシズム(狂おしく美しい感じ)と、自由自在に動き回るスコット・ラファロのベース・プレイが火花を散らして本当にもう最高なんですが、エヴァンスの色んなアルバムを、より広く深く聴き込んでゆくと、辿り着く2つの大きな道があります。

ひとつは、エヴァンスのどんどん内に沈み込んで行く魅力が味わえるソロ・ピアノ、もうひとつが、スコット・ラファロ亡き後にエヴァンス・トリオのベーシストになったチャック・イスラエルのプレイです。

この話をすると

「え?ソロはわかるけどチャック・イスラエル?いやぁ、悪くはないけど一番影薄くない?」

って言われる事が多いんです。


まー、そうなんですよねー。スコット・ラファロと、イスラエルの次のベーシストで、エヴァンスとは一番長く活動したエディ・ゴメス。この2人は物凄いテクニック持ってる人達で、いつも斬新なフレーズでエヴァンスのプレイを支えるというより、一緒になって盛り上げてた感じがして、参加してるアルバムの熱量というのも相当なもんです。

でも、アタシはイスラエルの「物静かだけどエヴァンスのピアノの哀しさと一番寄り添えているプレイ」と、何よりもその、豊かな木の響きが演奏全体を潤しているような、いかにもウッドベースな暖かい音色がとても好きなんです。




Time Remembered

【パーソネル】
ビル・エヴァンス(p)
チャック・イスラエル(b,E〜L)
ラリー・バンカー(ds,E〜L)

【収録曲】
1.ダニー・ボーイ
2.ライク・サムワン・イン・ラヴ
3.イン・ユア・オウン・スウィート・ウェイ
4.イージー・トゥ・ラヴ
5.サム・アザー・タイム
6.ラヴァー・マン
7.フー・ケアズ?
8.恋とは何でしょう
9.ハウ・アバウト・ユー
10.エヴリシング・ハプンズ・トゥー・ミー
11.イン・ア・センチメンタル・ムード
12.マイ・ハート・ストゥッド・スティル
13.タイム・リメンバード

(録音:1958年12月15日-D,1962年4月10日@〜C,1963年5月30日E〜H,1963年5月31日I〜L)


さてさて、そんなエヴァンスのソロと、チャック・イスラエルが参加したトリオの魅力が凝縮されたようなアルバム、あります。

このアルバムはですのぅ、例えば『ワルツ・フォー・デビィ』とかの有名なアルバムを聴いて、または映画『タイム・リメンバード』なんかを見て「あぁ、ビル・エヴァンスっていいわぁ・・・」と思った方ぜひ聴いてください。

や、最初に聴く1枚でも全然いいんですが、どちらかというと、聴いて衝撃を受けるとかいうよりは、じっくり聴いてその素晴らしさ、何ともいえないエヴァンスという人の優しくも悲しく狂おしい個性みたいなものを、じっくりと胸に刻むのに適してるアルバムのような感じがする。えぇ、するんです。

チャック・イスラエルが参加した時期のライヴ・アルバムに『ライヴ・アット・ザ・シェリーズ・マン・ホール』というのがありまして、このアルバムは、その続編としてリリースされた・・・はずなんですが、実はシェリーズ・マン・ホールの未発表テイクと、全く違う時期のソロ・ピアノ未発表音源が入っているという、何ともスグレものなアルバムなんです。

ソロは1958年、まだトリオ結成して有名になる前のエヴァンスが、スタジオで録音したもの。

恐らくは一人でピアノの向かいながら演奏に没入しているのを、ずっとテープを回して記録していた音源と思います。

とにかくこのアルバムの多くのファンの方は「あのダニー・ボーイが凄い!」と絶賛する『ダニー・ボーイ』で幕を開けます。

ダニー・ボーイって、ジャズ・スタンダードというよりも、ポピュラーソングとしての超有名曲なんですが、最初のピアノの音が響いた瞬間から、もう「ふわぁぁあああ」となります。美しいです。

メロディとしては完璧な、あのテーマ部分を3分近く繰り返して弾くエヴァンスのピアノがどんどん深みに入り、アドリブになった時に見せる幻想的な絵画のような世界観、余りにも繊細で言葉を失います。

ソロ演奏5曲の後に、トリオ演奏がやってきます。

まずはリラックスしたエヴァンスのピアノと、しっとり美しいイスラエルのベース、そして堅実なリズムでそれらを支えるラリー・バンカーのドラムとの一体感が溶け合うバラードから、演奏は徐々に熱を帯びて、8曲目、9曲目でテンポを上げたクライマックスに。そしてまたミディアムテンポに戻って儚く終わる。

この”儚さ”の空気を醸しているのが、イスラエルのベースです。エヴァンスのアドリブがそっと始まった時にボーンと柔らかく鳴るベースが、その後のアドリブで寄り添い合って、違う楽器で同じ歌を歌っているようであります。うん、たとえがちょっと意味不明ですが、この”共鳴”のグッとくる感じを言葉で伝えるには、もう意味不明をやらざるを得んのです。

ラリー・バンカーの「崩さないギリギリのラインでちょっとだけ前に出たドラム」も良いんですね。そしてやっぱりこの人のドラムもまた、ピアノやベースと同じ歌を歌っておるように溶け合っております。









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『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
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posted by サウンズパル at 22:12| Comment(0) | ジャズ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする