2019年11月11日
ブルー・ミッチェル ブルース・ムーズ
ブルー・ミッチェル/ブルース・ムーズ
(Riverside/ユニバーサル)
ケニー・ドーハムをずっと聴いておりましたらすっかり何年ぶりかのケニー・ドーハム・ムーヴメントが来てしまい、毎日が至福です。
で、今日もケニー・ドーハムといきたかったのですが、ちょいとごめんなすって今興奮気味ですので、少し頭を冷やすために「こんな素晴らしいジャズ・トランペットのアルバムもある」という意味で、知られざる味わいのトランぺッターを皆さんにご紹介したいと思います。
とはいっても、今日皆さんにご紹介するアルバムは、実はジャズファン、トランペット好きの間では有名なアルバムです。
これまた強烈なインパクトがあるとか、ジャズ名盤特集みたいなので必ず取り上げられるとかそんなんじゃなくて、存在自体は多分B級なんですが、ジャズが好きで色々と聴いている人が「トランペットだったらコレがいいんだよ〜」と何故か取り出す確率はかなり高く、そしてそれを見た他のジャズ好きが「アンタもか!?いや、実は私も好きなんだよ。これはいいよね〜」となる確率はもっと高い。
そう、これこそが「知名度とか歴史的重要性とかはどうでもよくて、とにかく内容が良いからみんなが”これいいよね”ってなれるアルバム」であり、ある意味そういうのこそが名盤と言えるんじゃないか?とアタシは思う、何というかジャズの良心の部分を凝縮してパッケージしたような、ジャズ好きのジャズ好きによる、ジャズを愛する心の一番深いところにす〜んと届いていつまでも鳴り響くエヴァーグリーンのよきムードに溢れた作品なんです。
はい、ブルー・ミッチェルの『ブルーズ・ムーズ』でありますねぇ。
ブルー・ミッチェルという人は、前回ご紹介したケニー・ドーハムと比べてもなかなかにジャズの世界では地味な存在の人ではあります。
1930年フロリダ生まれ。高校時代にトランペットを始め、卒業後はR&Bの楽団に入ってホーン・セクションのアンサンブル要因としてのキャリアをスタートさせ、ドサ回りに明け暮れますが、やがてキャノンボール・アダレイに認められ、1958年にアダレイのリーダー作『ポートレイト・オブ・キャノンボール』に参加して、その年のうちにはもうリーダー作『ビッグ6』をレコーディングします。
ミッチェルという人は、元々がR&B畑の出身で、バリバリの超絶テクニックはありませんが、その明るく素直な音色から滲むブルース・フィーリングや独自のファンキーなノリがなかなかに個性的だった人で、そのファンキーな持ち味を好むキャノンボールやホレス・シルヴァーといった大物達のバックアップを得て、50年代後半から60年代にかけて「これぞファンキー!これぞハードバップ!」という味のある作品を、RiversideやBLUENOTEといったファンキー好みなレーベルに、コンスタントに録音して行くんですね。
で『ブルーズ・ムーズ』なんですが、コレはそんなコンスタントな録音の中の、ミッチェルにとっては「通常営業な1枚」だったんです。
リリースされた60年から、恐らく彼が亡くなった77年以降しばらくも、このアルバムは特にバカ売れした訳でもなく
「ブルー・ミッチェル?あぁ地味だけどファンキーでなかなか味のある良いトランぺッターだよね」
ぐらいの評価の中に、長年埋もれていたアルバムであったと思います。
ところが根強い人気はじわじわと長い年月をかけて広がり、90年代後半ぐらいの時期には「これは隠れ名盤だぞ」という評価がぼちぼち出てきました。
そういう評価が出てから、往年のジャズファンの間で「そうだろ?オレもそう思ってたんだよ!」という声が挙がるようになりました。そして、もう名盤とかモダン・ジャズとかフュージョンとかそういうスタイルは関係ない若い世代の人達の間で
「いや、フツーにいいっすよコレ」
と見直され、今やネットを開いて検索すると、普通に名盤としての評価を不動のものにしている。
そんな感じがいたします。
あの〜、ブルー・ミッチェルはですね、実は70年代に多くのマイナー・レーベルに残したジャズ・ファンクなアルバムが結構良くてですね。この辺のアルバムが(しつこいようですが良いんですよ)90年代のレア・グルーヴ・ブームで正当に評価されて、アタシら世代(今の40代前半から30代後半)の中で”ブルー・ミッチェル”という名前の知名度がある程度浸透したことも、その前のハード・バップ時代のミッチェルの再評価に繋がってると思うんですが、そこんところはどうなんでしょ?まぁいいか。
ブルーズ・ムーズ
【パーソネル】
ブルー・ミッチェル(tp)
ウィントン・ケリー(p)
サム・ジョーンズ(b)
ロイ・ブルックス(ds)
【収録曲】
1.I'll Close My Eyes
2.Avars
3.Scrapple From The Apple
4.Kinda Vague
5.Sir John
6.When I Fall In Love
7.Sweet Pumpkin
8.I Wish I Knew
(録音:1960年8月24日、25日)
個人的にミッチェルは「遅れてきたハードバッパー」だと思います。
現に活動が軌道に乗り始めた1950年代末の頃といえば、同じトランペッターであるマイルス・デイヴィスが、アルバム『カインド・オブ・ブルー』をリリースし、このアルバムがより高度で複雑な理論を用いた”モード”という新しいスタイルのジャズを定義し、続く若手トランぺッター達も、この流れに乗り遅れるまいと、次々と斬新なコンセプトの演奏に取り組み、方やより新しい”ファンキー”を開拓すべく、8ビートや16ビート、つまりより踊れてよりコマーシャルなスタイルのジャズへと一気になだれ込みました。
それまでのR&Bで培ったスタイルでもってハードバップの世界へ乗り込んだミッチェルは、後にジャズファンク路線で本領を発揮しますが、この時点ではまだまだ純粋にハードバップスタイルで勝負せざるを得ない状況でありました。
丁度、その『カインド・オブ・ブルー』のセッションを最後に、マイルスのグループを「新しいスタイルには適さない」という理由でクビになったピアニストのウィントン・ケリーを伴って、1960年の8月に、ミッチェルはワン・ホーンの作品を録音すべく、リヴァーサイドのスタジオに入ります。
このアルバムこそが、実に素直なプレイとサウンドによって、ジャズの、50年代ハードバップの”粋”をありのまま刻んだ素晴らしいアルバムとなって、リリースから50年以上経った時代にも「これは良いね」と語り継がれる名盤となりました。
まずは冒頭の『アイル・クロール・マイ・アイズ』です。
タイトルからしてバラードかと思いきや、軽快なミディアム・テンポに乗ったミッチェルの曇りのない音色に微かな哀愁が滲むトランペットの音、続くケリーの何ともハッピーにスウィングするピアノとが見事なコントラストを描き、理想的な「素直なメロディを最高の演奏で楽しめるジャズの醍醐味」が味わえます。
あぁ、これは曲のメロディが素直で親しみやすいだけに、何度聴いても飽きませんねぇ。最初にテーマと軽いソロを吹いたミッチェルからケリーのピアノ・ソロが終わってから再びソロで登場するミッチェルのアドリブの、何と朗々として歌心に溢れていることか。弾力のあるトーンのサム・ジョーンズのベース、小粋で弾むリズムのロイ・ブルックスのドラムと共に、誰一人無理せず無駄ない演奏が平等に響き合って実に良い雰囲気です。
続く『エイヴァーズ』は、ややダークな曲調ですが、繊細な吹きっぷりの中に深いブルースを感じさせるトランペットがとても良い。アップテンポの『スクラップル・フロム・ザ・アップル』も、アドリブは凝ったテクニックに走らず、サラッと吹き切る姿に好感度はグッと上がりますし、バラードの『ホエン・アイ・フォール・イン・ラヴ』も、敢えてハリのあるトランペットらしい明快なトーンが爽やかな愛の告白という感じでありますが、目玉はやはりミッチェル、ケリー、サム・ジョーンズそれぞれの”ブルース心”の深さが滲み出る『キンダ・ヴァーグ』。これは単調なリフの繰り返しとシンプルなアドリブが時間をかけてジワジワきます。ケリーのプレイが噛めば噛むほど味の出るするめみたいなアーシーぶりでとてもよろしいです。
ミッチェルは派手なプレイヤーじゃなくて、ケニー・ドーハムみたいに「実はバリバリ上手いし個性の塊」みたいな底無しの味わいに凄味がある訳でもないです。どちらかといえばテクニックやフィーリングは一旦置いて、その素直な、やや線の細い音色にそこはかと滲む哀愁と、アドリブにおけるメロディーが素直に歌ってる快感をジワッと楽しませてくれる気さくなキャラクターのトランぺッターであります。こういう人の演奏って、最初はそれほどとは思えなくても、一度「お、いいかも」と思ったらそこからがずっと飽きることなく味わえるんですよね。
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2019年11月08日
ケニー・ドーハム ジャズ・コンテンポラリー
ケニー・ドーハム ジャズ・コンテンポラリー
(TIME/SOLID)
アタシ自身がテナーサックスをちょこっと吹くということもあって、このブログでのジャズのオススメで管楽器奏者を紹介する時は、どうもサックスに偏ってるフシであるぞと思ったのがちょうど去年ぐらい。
ほんで、慌ててトランぺッターのアルバムで好きなものをピックアップするという作業をちょこちょことやっております。
前も書いたような気がするのですが、トランぺットというのは非常に派手な音が鳴る、存在が派手な楽器です。
何と言っても音がデカいし、その特性を活かしてソロというものを最初に吹くようになった楽器です。
ジャズが生まれた地、ニューオーリンズでは、そのデカい音で豪快に吹きまくるソロでもって初代ジャズ王と呼ばれたのが、コルネットというトランペットのご先祖楽器の名手、バディ・ボールデンであり、その後を受け継いで2代目ジャズ王を名乗ったのがキング・オリヴァー、
そしてバディ・ボールデン、キング・オリヴァーと受け継がれたコルネット花形ソロイストの役割は、ルイ・アームストロングによって大成され、そこからトランペットの時代となって多くの奏者達が彼らのスタイルから独自の個性を発展させて行く訳です。
余談ですがこのバディ・ボールデンからキング・オリヴァーの間に、個人的にはボールデンの弟分でオリヴァーのちょい先輩であるフレディ・ケパードを挟んで欲しいと思うのですが、や、これは完全な余談です(汗)
やがて1940年代の後半に、派手に全盛を極めておりましたビッグ・バンド/スウィング・ジャズがもろもろの事情で衰退へ向かった時、基本「サックス+トランペット+ピアノ+ベース+ドラムス」という小編成で、音楽的にはよりアドリブの自由度を高めてテンポもクレイジーと呼ばれる程に増強したビ・バップというスタイルが誕生します。
この時にビ・バップ・ムーヴメントの主人公といえるアルト・サックス奏者、チャーリー・パーカーの相方トランぺッターとして、その超絶テクニックと力強い音色でもって、パーカーに負けず劣らずの存在感を示し、ジャズ・トランペットの奏法に革新的な飛躍をもたらした天才が、ディジー・ガレスピーです。
そのガレスピーの後任として、後の”ジャズの帝王”と呼ばれるマイルス・デイヴィスがトランぺッターとしてパーカーのグループに加入。その頃のマイルスはもちろん優れた技量を持ったトランぺッターでありましたが、とにかく派手に吹きまくって盛り上げてなんぼのビ・バップに早々と飽きたマイルスは、若い仲間達らと共にもっとアレンジやリズム、ハーモニーに凝った新しいジャズを作って演奏すべく、独自の道を歩みます。
そんなパーカーのグループに、マイルス・デイヴィスの後釜として参加したトランぺッターがケニー・ドーハムなんです。
多くのジャズファンに、ケニー・ドーハムといえば「派手じゃないけど何かいい味の渋いトランぺッター」として知られております。
アタシもドーハムのちょいとくすんだ音色で、どんなテンポやアレンジの曲でもひとつひとつの音を丁寧に吹き、えもいえぬ深い余韻を残すトランペットは”華”よりも”味”の人だと思いますし、最初に挙げた「デカい音、派手な存在感」というトランペットの特性を、ある意味ガン無視した、ひたすら穏やかに聴かせるトランペットという意味で大好きです。
もちろん朴訥で聴かせるだけの人じゃなくて、実に熱のこもったアツい演奏もちゃんと出来る人ではあるんですが、どうしてもこの人の演奏は、ミディアム・テンポの心地良い曲を中心に、自宅でまったりくつろぎながら「く〜、たまらんね」なんて言いつつ聴いていたくなっちゃうんですよ。
この人の影のある音色、タメを効かせたアドリブでじっくり聴かせるプレイ・スタイルというのは、いわゆる”タメのある渋い感じ”のするモダン・ジャズ/ハードバップのスタイルに、実にピタリとハマります。
ジャズ・コンテンポラリー
【パーソネル】
ケニー・ドーハム(tp)
チャールズ・デイビス(bs)
スティーヴ・キューン(p)
ジミー・ギャリソン(b,@〜BGH)
ブッチ・ウォーレン(b,C〜FI〜L)
バディ・エンロウ(ds)
【収録曲】
1.ア・ワルツ
2.モンクス・ムード
3.イン・ユア・オウン・スウィート・ウェイ
4.ホーン・サルート
5.トニカ
6.ディス・ラヴ・オブ・マイン
7.サイン・オフ *
8.ア・ワルツ (テイク5) *
9.モンクス・ムード (テイク2) *
10.ディス・ラヴ・オブ・マイン (テイク1)*
11.ディス・ラヴ・オブ・マイン (テイク2) *
12.ディス・ラヴ・オブ・マイン (テイク3) *
(録音:1960年2月12日)
代表作で『静かなるケニー』という、ジャズ好きにこよなく愛される一枚がありますが、今日は個人的に「このアルバムの雰囲気最高だな」と思ってやまない隠れ名盤の『ジャズ・コンテンポラリー』というアルバムを紹介します。
ドーハムは、派手なヒットやジャズの歴史を変える革新的なアルバムとはやや距離のある、ひたすら堅実なプレイヤーでした。
だからこそ50年代からブルーノートやプレスティッジといったモダン・ジャズ全盛時に多くのスタープレイヤー達が籍を置いたレーベルで作品を多く残せているんです。これらの名門に残されたドーハムのアルバムはどれも「あぁ、ジャズっていいな〜」と思わせる素敵な説得力に満ちた作品ばかりですが『ジャズ・コンテンポラリー』は、ブルーノートでもプレスティッジでもない、タイムという小さなレーベルにドーハムがそっと録音したアルバムです。
レーベルの知名度ゆえか、ともすれば見過ごされてしまいそうなアルバムではありますが、とにかく良いのです。メンバーは、バリトン・サックスのチャールズ・デイヴィス、ピアノにスティーヴ・キューン、ベースが曲によってジミー・ギャリソンとブッチ・ウォーレン。ドラムがこの音源以外での活動が記録にない、当然バイオグラフィ的なことも全く分からない謎ドラマーのバディ・エンロウであります。
アタシがこのアルバムを聴くきっかけとなったのが、やはりスティーヴ・キューンの参加です。
キューンは耽美派の白人ピアニストで、とにかくその冷たく美しく官能的な音世界が魅力の人。当時アタシはアート・ファーマーの『ブルースをそっと歌って』というアルバムで、ファーマーの詩的でまろやかなフリューゲルホルンのプレイと対照的な硬質で狂おしい情念渦巻くピアノで溶け合う演奏にいたく感激し「じゃあファーマーに近い味わいのドーハムとの相性もきっと良いだろう」と思ってアルバムを購入しました。
ところがアルバム全体のムードは、ファーマーの耽美とはまた違う、フロントのドーハムの味わい深いトランペットと、デイヴィスの硬派なバリトンがしっかりとサウンドをリードする、グッと詰まったダンディズムが際立つ音世界。キューンはそのバックを歌心ある演奏でしっかりと支えるプレイを展開しつつ、ソロのちょっとした場面の中で品良く狂っておりますね。いや、予想とは違うけど期待した以上にコイツはゴキゲン。
チャールズ・デイヴィスはサン・ラーやアーチー・シェップなんかと絡みのある、どちらかというと前衛的なゴリゴリのスタイルで評価のある人なんですが、コチラもキューン同様一歩引いてドーハムのプレイスタイルに合わせての、ブルージーな味わいが濃厚なバップ・スタイルで良い感じ。ベースのジミー・ギャリソンとブッチ・ウォーレンに関しては言わずもがなの実力派で、このアルバムではドーハムとは付き合いも古く、終始的確なラインでバックアップするウォーレン、ゴリッと存在感のある音色が良いインパクトになっているギャリソンと、それぞれの個性がバックでさり気なく際立っております。
で、謎ドラマーのバディ・エンロウがこれまた良いんですよ。ほぼミディアムからバラードのゆったりテンポで統一された楽曲のリズムを、丁寧に丁寧にさばいてゆく見事なプレイ。特に繊細なブラッシュワークが実に歌っていて素晴らしく、実は名のあるドラマーが契約の都合とかで偽名を使っているのでは?とも邪推してしまうぐらい上手いです。『モンクス・ムード』での緊張を素敵に織り込んだ静寂を醸すプレイなんて、並のドラマーには出来ない芸当だと思うのですが、ほんと誰なんだバディ・エンロウ。
そんな個性派溢れる名手達の個性と「楽曲はミディアムかバラードのみ」という思い切った選曲の中で、コクと香り高い持ち味を存分に発揮したドーハム。何度でも聴きたくなるし聴く毎に良いです『ジャズ・コンテンポラリー』。
”ケニー・ドーハム”関連記事
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2019年11月02日
モーターヘッド No Sleep 'til Hammersmith
Motörhead/No Sleep 'til Hammersmith
(Sanctuary)
『モーターヘッド、ロック殿堂入り』という嬉しいニュースがつい最近飛び込んで来ましたが、考えてみればモーターヘッドの”顔”であり「ワイルドはちゃめちゃ破天荒なロックスター」のアイコンそのものであったフロントマンのレミー・キルミスターが亡くなって、もう4年も経つんだなぁ。。。と思うと何だか複雑に淋しい気分になってしまいます。
モーターヘッドはイギリスで1975年に結成され、1979年にメジャーデビュー。いわゆる「元祖ハードロック」と呼ばれるバンドの中でも最も重要なバンドのひとつでありますが、同時期のどのバンドよりもラウドで荒々しいサウンド、酒で潰したようなレミーの野太いヴォーカル、そして革ジャンやジーンズでワイルドにキメたバイカー・ファッションでもってサウンドとビジュアルの両方のインパクトは、誰もが想像する「ロック」そのもので、1980年代においてワイルドでラウドなバンドをやりやいキッズ達のお手本として、その憧れを一身に集めておったスーパーバンドなんです。
実際にアタシも、洋楽に目覚めた1980年代後半から90年代の頭の時期に、ガンズやメタリカ、パンテラにスキッド・ロウといった、リアルタイムで夢中になって聴いていたバンドのメンバー達が口を揃えて「モーターヘッドはクールだぜ」というインタビュー記事を読み、それをまんま受け入れてモーターヘッド聴いたクチであります。
そんでもってワクワクでサウンズパルに行き、親父に名盤『エース・オブ・スペーズ』を勧めてもらい、ソイツを爆音でやべーやべー言いながら聴いてました。
そのサウンドは正に「ゴリゴリ」という言葉ばハマりすぎるぐらいにぴったりハマるバコンと強いハードロック・サウンド。90年代以降、特にパンテラ以降のハイとローをめちゃくちゃに上げた音圧と鋭さの強い、いわゆる”ドンシャリ”のサウンドを聴き狂っていたアタシは、最初
「まー、言うても80年代のハードロックだから、今のに比べたら音は悪いんだろうなー」
と、正直ナメておりましたが、ドンシャリとは真逆の、音圧が真ん中にギュッと集まって、ソイツがスピーカーから出る時にやかましく拡散されて「ドカッ!!」と全身に正面からぶつかってくる迫力。いやもうこれは機材どうのとかテクニックどうのとかじゃねーわ、この人達に気合いだわ。ほんとやべーほんとやべーわと、激しくボコボコにされて以来、それ以後どんな音楽にハマッている時でも何かムシャクシャした時や、特別に気合いが必要な時は、モーターヘッドのラウドな破れハードロック・サウンドを浴びるように聴いております。
No Sleep 'til Hammersmith
【収録曲】
1.Ace of Spades
2.Stay Clean
3.Metropolis
4.The Hammer
5.Iron Horse
6.No Class
7.Overkill
8.(We Are) the Road Crew
9.Capricorn
10.Bomber
11.Mot Rhead
12.Over the Top
13.Capricorn (Alternate Version)
14.Train Kept-A-Rollin
モーターヘッドというバンドは、レミー以外のメンバーというのが結構入れ替わっております。
で、時期によってサウンドも微妙に変わってたりしておりまして、それぞれの時期にそれぞれの良さがありますが(何つっても基本ポリシーである「3ピースのシンプルにラウドな音」というのは一切変わりませんから)、全盛期というか「この時期の荒々しさが最高!」という時期というのがありまして、それが『エイス・オブ・スペーズ』を生んだ1980年代前半、メンバーが
レミー・キルミスター(vo,b)
”ファスト”エディ・クラーク(g)
フィルシー”アニマル”テイラー(ds)
だった時期であります。
結成後、メンバーがなかなか安定しなかったモーターヘッドでありますが、この2人が加入してからサウンドのベクトルが一気に定まって、「攻撃的なリフ、煽りまくるヘヴィなリズム、鋭角なスピード感」という3拍子が揃い、モーターヘッドは強固なオリジナリティを得るに至りました。
実際レミー自身も回想で「エディとフィルが加わってからだな、アイツらが入ってくれたお蔭でモーターヘッドは特別なバンドになったんだ」と語っております。
フィルの天性の”煽り”の才能が爆発した、ガンガン前に出て攻めまくる、ほいでもそのリズムは常にバンド・サウンドの中心にあって強烈なグルーヴを維持している、ロック・ドラムの理想形のようなドラミングについては言わずもがな。アタシも最初にモーターヘッド聴いた時は、それまでドラムなんて全然意識したことなかったのに、何よりも強烈に惹き付けられ、生まれて初めて「ドラムって凄いんだ」と思わされたぐらいの凄まじさであります。
エディ・クラークは、その通り名の”ファスト”が示すように、速弾きのギタリスト。といっても世間一般で言うギターソロを物凄い高速で弾きまくる速弾きではなくて、ロックンロールの要であるギターリフをハードロックの高速仕様に耐え得るスピードに魔改造した偉大な功労者。ほれ、たとえばアタシみたいなクソガキがエレキギター買ってすぐの時、色んなバンドのリフを「これ弾きたい!」と思って、まだロクにコードも覚えてないくせに、それだけ一生懸命覚えて弾くでしょ?そしたら友達に「お前すげーなー」と言われてエヘヘとなるでしょ、そういうリフの大本を作った人なんですよ。凄いんです。
まぁそんな凄い人材を「あらよっと」で従えて自分もガンガン飛ばせるレミーがやっぱり一番凄い訳なんですけれども、今日のオススメはその”エディとフィルがいた頃のモータヘッドのヤバさ”が、これまで書いたアタシの能書き全部吹っ飛ばして体現できる素晴らしいライヴ・アルバム『No Sleep 'til Hammersmith』です。その昔国内盤のタイトルで『極悪ライヴ』っつう最高に頭の悪い邦題が付いてた、ほんとそのまんまのアルバムです。
ハッキリ言ってモーターヘッドそんなに興味ない人は、コレだけ聴いてりゃいいぐらいのアルバムだと思います(分かりますか?アタシは今かなーり優しい口調で語っております)。
のっけから音圧ぶっちぎりそうなギターがゴワーンと炸裂してドラムがバシャバシャドスドス畳み掛けて、ベースがゴリゴリ鳴り響いて、レミーの声が喉も潰れろとばかりに絶叫する。や、最初はそうなんだろうけど中盤とかダレるんじゃないの?後半にバラードとか入って聴かせる展開もあるんでしょ?とか思ってたら、最後まで一気に同じテンション。どころか一番ダレそうな中盤に、一番極悪な、フィルのドラムがそれこそいきなり2バスで暴れまくるという驚異のハイテンション曲『オーヴァーキル』が入ってて、聴いてるこっちの血圧が治まる暇がありません。
で、やっぱり1981年録音のライヴ盤だから、音は微妙にゴモゴモしてて粗いです。でも、その”ゴモゴモ”から突き抜けてくる演奏の、何と堅実でしっかりしていることか。モーターヘッドの魅力は何と言ってもラフで粗削りなその演奏スタイルにあるんですが、こういう演奏こそしっかりとしたテクニックとバンド全体のグルーヴのしっかりとしたまとまりがないと絶対に出来ません。
若い頃はただひたすら「すげーやべー」と聴いてましたが、大人になって改めて聴くと、モーターヘッドというバンドが如何にラウドで粗削りでも、演奏の根底にあるテクニックというのがズバ抜けていたんだと、別の意味での脅威をひしひしと感じます。
『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』
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