2019年11月08日

ケニー・ドーハム ジャズ・コンテンポラリー

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ケニー・ドーハム ジャズ・コンテンポラリー
(TIME/SOLID)


アタシ自身がテナーサックスをちょこっと吹くということもあって、このブログでのジャズのオススメで管楽器奏者を紹介する時は、どうもサックスに偏ってるフシであるぞと思ったのがちょうど去年ぐらい。

ほんで、慌ててトランぺッターのアルバムで好きなものをピックアップするという作業をちょこちょことやっております。

前も書いたような気がするのですが、トランぺットというのは非常に派手な音が鳴る、存在が派手な楽器です。

何と言っても音がデカいし、その特性を活かしてソロというものを最初に吹くようになった楽器です。

ジャズが生まれた地、ニューオーリンズでは、そのデカい音で豪快に吹きまくるソロでもって初代ジャズ王と呼ばれたのが、コルネットというトランペットのご先祖楽器の名手、バディ・ボールデンであり、その後を受け継いで2代目ジャズ王を名乗ったのがキング・オリヴァー、




そしてバディ・ボールデン、キング・オリヴァーと受け継がれたコルネット花形ソロイストの役割は、ルイ・アームストロングによって大成され、そこからトランペットの時代となって多くの奏者達が彼らのスタイルから独自の個性を発展させて行く訳です。

余談ですがこのバディ・ボールデンからキング・オリヴァーの間に、個人的にはボールデンの弟分でオリヴァーのちょい先輩であるフレディ・ケパードを挟んで欲しいと思うのですが、や、これは完全な余談です(汗)

やがて1940年代の後半に、派手に全盛を極めておりましたビッグ・バンド/スウィング・ジャズがもろもろの事情で衰退へ向かった時、基本「サックス+トランペット+ピアノ+ベース+ドラムス」という小編成で、音楽的にはよりアドリブの自由度を高めてテンポもクレイジーと呼ばれる程に増強したビ・バップというスタイルが誕生します。

この時にビ・バップ・ムーヴメントの主人公といえるアルト・サックス奏者、チャーリー・パーカーの相方トランぺッターとして、その超絶テクニックと力強い音色でもって、パーカーに負けず劣らずの存在感を示し、ジャズ・トランペットの奏法に革新的な飛躍をもたらした天才が、ディジー・ガレスピーです。

そのガレスピーの後任として、後の”ジャズの帝王”と呼ばれるマイルス・デイヴィスがトランぺッターとしてパーカーのグループに加入。その頃のマイルスはもちろん優れた技量を持ったトランぺッターでありましたが、とにかく派手に吹きまくって盛り上げてなんぼのビ・バップに早々と飽きたマイルスは、若い仲間達らと共にもっとアレンジやリズム、ハーモニーに凝った新しいジャズを作って演奏すべく、独自の道を歩みます。

そんなパーカーのグループに、マイルス・デイヴィスの後釜として参加したトランぺッターがケニー・ドーハムなんです。

多くのジャズファンに、ケニー・ドーハムといえば「派手じゃないけど何かいい味の渋いトランぺッター」として知られております。

アタシもドーハムのちょいとくすんだ音色で、どんなテンポやアレンジの曲でもひとつひとつの音を丁寧に吹き、えもいえぬ深い余韻を残すトランペットは”華”よりも”味”の人だと思いますし、最初に挙げた「デカい音、派手な存在感」というトランペットの特性を、ある意味ガン無視した、ひたすら穏やかに聴かせるトランペットという意味で大好きです。

もちろん朴訥で聴かせるだけの人じゃなくて、実に熱のこもったアツい演奏もちゃんと出来る人ではあるんですが、どうしてもこの人の演奏は、ミディアム・テンポの心地良い曲を中心に、自宅でまったりくつろぎながら「く〜、たまらんね」なんて言いつつ聴いていたくなっちゃうんですよ。


この人の影のある音色、タメを効かせたアドリブでじっくり聴かせるプレイ・スタイルというのは、いわゆる”タメのある渋い感じ”のするモダン・ジャズ/ハードバップのスタイルに、実にピタリとハマります。





ジャズ・コンテンポラリー

【パーソネル】
ケニー・ドーハム(tp)
チャールズ・デイビス(bs)
スティーヴ・キューン(p)
ジミー・ギャリソン(b,@〜BGH)
ブッチ・ウォーレン(b,C〜FI〜L)
バディ・エンロウ(ds)

【収録曲】
1.ア・ワルツ
2.モンクス・ムード
3.イン・ユア・オウン・スウィート・ウェイ
4.ホーン・サルート
5.トニカ
6.ディス・ラヴ・オブ・マイン
7.サイン・オフ *
8.ア・ワルツ (テイク5) *
9.モンクス・ムード (テイク2) *
10.ディス・ラヴ・オブ・マイン (テイク1)*
11.ディス・ラヴ・オブ・マイン (テイク2) *
12.ディス・ラヴ・オブ・マイン (テイク3) *

(録音:1960年2月12日)


代表作で『静かなるケニー』という、ジャズ好きにこよなく愛される一枚がありますが、今日は個人的に「このアルバムの雰囲気最高だな」と思ってやまない隠れ名盤の『ジャズ・コンテンポラリー』というアルバムを紹介します。


ドーハムは、派手なヒットやジャズの歴史を変える革新的なアルバムとはやや距離のある、ひたすら堅実なプレイヤーでした。

だからこそ50年代からブルーノートやプレスティッジといったモダン・ジャズ全盛時に多くのスタープレイヤー達が籍を置いたレーベルで作品を多く残せているんです。これらの名門に残されたドーハムのアルバムはどれも「あぁ、ジャズっていいな〜」と思わせる素敵な説得力に満ちた作品ばかりですが『ジャズ・コンテンポラリー』は、ブルーノートでもプレスティッジでもない、タイムという小さなレーベルにドーハムがそっと録音したアルバムです。

レーベルの知名度ゆえか、ともすれば見過ごされてしまいそうなアルバムではありますが、とにかく良いのです。メンバーは、バリトン・サックスのチャールズ・デイヴィス、ピアノにスティーヴ・キューン、ベースが曲によってジミー・ギャリソンとブッチ・ウォーレン。ドラムがこの音源以外での活動が記録にない、当然バイオグラフィ的なことも全く分からない謎ドラマーのバディ・エンロウであります。

アタシがこのアルバムを聴くきっかけとなったのが、やはりスティーヴ・キューンの参加です。

キューンは耽美派の白人ピアニストで、とにかくその冷たく美しく官能的な音世界が魅力の人。当時アタシはアート・ファーマーの『ブルースをそっと歌って』というアルバムで、ファーマーの詩的でまろやかなフリューゲルホルンのプレイと対照的な硬質で狂おしい情念渦巻くピアノで溶け合う演奏にいたく感激し「じゃあファーマーに近い味わいのドーハムとの相性もきっと良いだろう」と思ってアルバムを購入しました。

ところがアルバム全体のムードは、ファーマーの耽美とはまた違う、フロントのドーハムの味わい深いトランペットと、デイヴィスの硬派なバリトンがしっかりとサウンドをリードする、グッと詰まったダンディズムが際立つ音世界。キューンはそのバックを歌心ある演奏でしっかりと支えるプレイを展開しつつ、ソロのちょっとした場面の中で品良く狂っておりますね。いや、予想とは違うけど期待した以上にコイツはゴキゲン。

チャールズ・デイヴィスはサン・ラーやアーチー・シェップなんかと絡みのある、どちらかというと前衛的なゴリゴリのスタイルで評価のある人なんですが、コチラもキューン同様一歩引いてドーハムのプレイスタイルに合わせての、ブルージーな味わいが濃厚なバップ・スタイルで良い感じ。ベースのジミー・ギャリソンとブッチ・ウォーレンに関しては言わずもがなの実力派で、このアルバムではドーハムとは付き合いも古く、終始的確なラインでバックアップするウォーレン、ゴリッと存在感のある音色が良いインパクトになっているギャリソンと、それぞれの個性がバックでさり気なく際立っております。

で、謎ドラマーのバディ・エンロウがこれまた良いんですよ。ほぼミディアムからバラードのゆったりテンポで統一された楽曲のリズムを、丁寧に丁寧にさばいてゆく見事なプレイ。特に繊細なブラッシュワークが実に歌っていて素晴らしく、実は名のあるドラマーが契約の都合とかで偽名を使っているのでは?とも邪推してしまうぐらい上手いです。『モンクス・ムード』での緊張を素敵に織り込んだ静寂を醸すプレイなんて、並のドラマーには出来ない芸当だと思うのですが、ほんと誰なんだバディ・エンロウ。


そんな個性派溢れる名手達の個性と「楽曲はミディアムかバラードのみ」という思い切った選曲の中で、コクと香り高い持ち味を存分に発揮したドーハム。何度でも聴きたくなるし聴く毎に良いです『ジャズ・コンテンポラリー』。









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サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
http://ameblo.jp/soundspal/
posted by サウンズパル at 22:01| Comment(0) | ジャズ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする