2020年01月11日

オーティス・ラッシュ コールド・デイ・イン・ヘル

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オーティス・ラッシュ/コールド・デイ・イン・ヘル
(Delmark/Pヴァイン)

1月の奄美は、重くどんよりした雲がかかる、終始不穏な空模様です。

春から秋にかけての強烈な日差しが降り注ぐ中、汗をかきながら聴くブルースも最高なんですが、寒い日の不穏な空の下で聴くブルース。これもまた、心に響くものがあります。

オーティス・ラッシュの感情のドロドロを溜めて溜めて溜めて吐き出すヴォーカルと、鋭く胸を突き刺すギターがたまらなく聴きたくなりました。

元々弾き語りのカントリー・ブルースが好きで、チョーキングキュイーンのモダン・ブルースにはそんなに食指が動かなかったハタチそこらの頃のアタシは、オーティス・ラッシュの初期コブラ音源に「こ、こ、こんなヘヴィでえげつないブルースやってる人がおったんだ・・・」と衝撃を受け、以来すっかりこの人のファンになってしまいました。





で、すっかりファンになってしまったからには、この人の他のアルバムも聴きたい、いや聴かねば、買わねば。あぁうっ!!となって、さて、コブラッシュの次は何を買えばいいのかと情報を集めていたのですが、色んな書籍などで見る”コブラ以外のオーティス・ラッシュ”の評価というものが、あんまり芳しくない。

「ラッシュは50年代にコブラから強烈な作品を出したが、その後コンスタントなリリースに恵まれず、好不調のムラがそのまま演奏に出るようなものも多かった」と。

つまり、コレはラッシュへのネガティヴな評価です。ところがアタシ、こういう評価を読んで、ますますオーティス・ラッシュという人に、他にはないとことん人間的な魅力を感じ「いや、ますます聴いてみたいです」となってしまった。

そもそも、ラッシュの魅力は、歌やギターが上手いとかどうこうよりも、そのエモーショナルな感情表現です。コブラ録音は、本当にこれ以上感情が張り裂けたら演奏全体が崩壊してしまうんじゃないかと思わせる異様な緊張感に満ち溢れていて、アタシは全然知らないながら、そこに惚れてしまった訳です。

で、考えた。そんな際どい感情表現なら、きっと走り過ぎて壊れてしまうこともあるだろうし、エモーションが空振りして不発に終わることもあるだろう。いや、むしろそれこそがこの人の通常運転な訳で、むしろリアルで生々しいオーティス・ラッシュを聴きたいのなら、その好不調のムラが出てると言われている”その後”の音源にこそ神髄があるのではないかと。


都内の大きなCDショップに行くと、流石に長いキャリアを持つ人だけあって、色々なアルバムが置いてありました。その中でアルバムジャケットと帯の、ほぼ茶色で統一された魅力的な色合いのアルバムを「これ良さそうだな、買お♪」と手にいたしました。『コールド・デイ・イン・ヘル』がそれでございます。




コールド・デイ・イン・ヘル

【収録曲】
1.Cut You A Loose
2.You're Breaking My Heart
3.Midnight Special
4.Society Woman
5.Mean Old World
6.All Your Love
7.Cold Day In Hell
8.Part Time Love
9.You're Breaking My Heart (alt. take)
10.Motoring Along


”ラッシュの2枚目がこれ”だったことは、アタシにとっては本当にラッキーでした。

というのもですね、このアルバムはラッシュの実質的なセカンド・アルバム。録音は1975年で、何とファースト(というかレコードデビュー作)のコブラ録音からは20年経っております。

調べたらラッシュが所属していたコブラ・レコードは、オーナーがギャンブル好きで、その借金に絡むトラブルでギャングに殺され、レーベルは自然消滅。その後渡り鳥の如くあちこち点々としていたラッシュは本格的なアルバムのレコーディングを2度行いますが、いずれもオクラ入りに。

「ラッシュはあらゆるハードラックを背負っていた」とよく言われますが、これは本当にやりきれません。50年代シカゴでマジック・サム、バディ・ガイらと共に三羽烏と呼ばれ、期待を一身に背負っていたのに、名を挙げるチャンスであり、せっかく精魂込めてレコーディングに臨んだアルバムのリリースは、本人の知らぬ所で棚上げにされてしまう。

これはラッシュでなくとも精神的にかなりキツい出来事であります。

60年代から70年代、失意のラッシュはとにかく生演奏で稼ぐ以外になく、アメリカ国内ばかりでなく、ヨーロッパにもツアーに出かけ、ライヴを重ねます。

その時に実は、ほぼプライベート録音に近い形でレコーディングもやってるのですね。ところがその時の音源が、エモーションが空振りしてかなり苦しい内容のものが多かった。

ほいでもって、アメリカに帰国してやっとこさ掴んだこのブルース愛に溢れたレーベル、デルマークでの録音も、一般的には「かなり苦しい内容」と言われる事があるアルバムです。

実際に聴いてみると、確かに歌詞が飛んでしまったのか、うめき声ともわめき声とも言えぬ奇声を張り上げる後半の歌には、痛々しいものを感じますが、50年代の録音に比べて鋭さに加えて豊かな”箱鳴り”も感じさせるギターの音色、太さを増した声、程よい”間”を活かした暖かみのあるバンド・サウンドなど、全体的にはあの感想すら寄せ付けないほどの緊張感がみなぎっていたコブラ録音に比べ、かなり聴きやすく、楽曲もノリノリとスローとのバランスがとても良く、70年代のモダン・ブルースのアルバムとしては、これはかなり良い作品ではないだろうかとアタシは思いました。

先ほど痛々しいと言ってしまった後半の歌の部分も、これはラッシュの有り余る感情が行き場を失って暴発した結果です。むしろコブラ録音よりも、いかにも人間らしいラッシュの感情表現の生々しさがダイレクトに胸をかきむしって、このアルバムの見事なハイライトとなっております。

ラッシュのアルバムはこれ以後のアルバムに、安定したカッコイイものが多くリリースされておりますが、アタシはやっぱりラッシュといえば、この鬱屈としたエモーションを装飾ナシでありのまま叩き付けたこのアルバムにトドメを刺すんじゃないかと思っております。









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サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
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posted by サウンズパル at 17:49| Comment(0) | ブルース | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする