2020年04月12日

ホレス・シルヴァー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズ

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ホレス・シルヴァー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズ
(BLUENOTE/EMIミュージック)

「ジャズの世界では言わずと知れた名盤なんだけど、何故かレビュー書いてなかったシリーズ」の第二弾は、もうちょっと別のアルバムをと思っていたのですが、せっかくジャズ・メッセンジャーズの事を書いたので、本日はそのままの流れで元祖ジャズ・メッセンジャーズのアルバムをご紹介しましょう。

「ん?ジャズ・メッセンジャーズっつってもホレス・シルヴァーじゃん、アート・ブレイキーじゃないじゃん。どうなってんの?」

と思ったアナタ、その疑問はかなり的を得ております。

実はですね、この”ジャズ・メッセンジャーズ”というのは誰がリーダーという訳ではなくて、皆が平等な立場である事を知らしめるために、リーダー名を付けず、作品を発表する時もコンサートの時も「〇〇のジャズ・メッセンジャーズ」というのではなく、シンプルにグループ名を表記しようという主旨だったんですね。

このグループは、色々と新しい作曲のアイディアを持ったピアニストであるホレス・シルヴァーと、色々と新しいリズムのアイディアを持ったアート・ブレイキーとが中心になって結成されたグループでした。ところがグループを結成したばかりの時に二人はどうもカネの事で仲違いしてしまい、シルヴァーの方がメンバーを引き連れて脱退し「ジャズ・メッセンジャーズ」という名前はブレイキーの元に残されます。

それ以後の1950年代後半から60年代、ブレイキーはジャズ・メッセンジャーズで大ブレイク、そしてシルヴァーはよりラテン風味やR&B風味などを取り入れたファンキー路線が当たりに当たり、どちらもこの時代を代表する優れたバンドリーダーとして評価されることになりました。

いや〜良かった。だってお笑いコンビとかでもよくあるじゃないですか、一方がブレイクしたらもう一方がまるで運気を全て相方に持って行かれたように転落人生を送るっていうのが。どちらかがそういう事にならず、本当に良かった。

大体グループを脱退したシルヴァーの方が、ブレイキーに対してあんまり怒っておらず

「そうだね、あの頃アートは悪いクスリに手ぇ出していて、そのカネ欲しさに出演料をちょろまかして懐に入れるなんてことがあったのサ。俺?怒ってないよ。ジャズミュージシャンならまぁあることだし、プレイに支障が出るほどハマッてたって訳でもなかった。ただね、あのまま安定した仕事が得られるグループとしてカネがすんなり手に入る状況を作るのはちょいとばかりヤバいなって思ってオレは手を引いた方がいいなって思ったんだよ。アートがギャラを独り占めしてるのをユニオン(ミュージシャンン組合)に淡々と訴えてね。何となく罪悪感みたいなのがあったんだろうね。それからあの人は俺を遠ざけた。だもんで俺も脱退を告げたんだ”バンドの名前はアンタにやるからリーダーとして1からグループやってよ”って。バンドリーダーになったらクスリを断ってちゃんとしなきゃいけねぇだろ?ほんで、あの人なら生活を改めてちゃんとやると思ったね。結果は見ての通りだ」

んで、ブレイキーとシルヴァーはその後何となーく気まずい感じだったんですが、シルヴァーの方はインタビューで

「アート・ブレイキーにはとても感謝してる。彼を通じて私の初期の作品が次々世に出ることになった。それらの作品は今でもお気に入りだし、私はアートの事が今でも大好きだ」

と言った。それをたまたま聞いてたブレイキーが

「あぁ、ヤツは俺の事怒ってないんだ。それにしても若気の至りとはいえ、オレもあの時は悪い事をしたもんだ・・・」

と、反省したのか、80年代末のある日同じコンサートで対バンがあった時、自分のグループの演奏を終えて舞台袖からジャズ・メッセンジャーズの演奏を見ていたシルヴァーをアートが見付け「ちょっと来いよ!」とステージに呼んでピアノに座らせ

「アレやろうぜ、昔一緒によくやった”メイリー”♪」

「オーケーやろう♪」

と、無事仲直りも果たしたんですね。

で、その後1年も経たないうちにブレイキーが亡くなっておりますから、ますますこの2人の運命的なものを感じずにはおれません。

シルヴァーとブレイキーは、やっぱり共に新しい音楽、それも頭に描いていたものがほぼ一致する、稀有なパートナーだったと初期の共演盤やその後それぞれのグループで活躍した両者のアルバムなんかを聴くとしみじみ思います。

特にピアニストとドラマーという違う楽器の演奏家でありながら”リズム”という面で、二人の呼吸はまるで双子のようにピッタリ合ってるんだよなぁと感動します。

では、そんな2人の息もピッタリなアルバムとして、本日は『ホレス・シルヴァー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズ』をご紹介いたしましょう。




ホレス・シルヴァー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズ

【パーソネル】
ホレス・シルヴァー(p)
ケニー・ドーハム(tp)
ハンク・モブレー(ts)
ダグ・ワトキンス(b)
アート・ブレイキー(ds)


【収録曲】
1.ルーム 608
2.クリーピン・イン
3.ストップ・タイム
4.トゥ・フーム・イット・メイ・コンサーン
5.ヒッピー
6.ザ・プリーチャー
7.ハンカリン
8.ドゥードリン

(録音:1954年11月13日,1955年2月6日)


最初に言っておきますが、実はこのアルバム「ジャズ・メッセンジャーズ」と銘打っておきながら、実はジャズ・メッセンジャーズ結成直前にレコーディングされた、実質的なホレス・シルヴァーのリーダー作です。

実際ブルーノーとから最初に10インチレコードでリリースされた時は確かリーダーのホレス・シルヴァー名義でした。その後10インチでリリースされたアルバムをブルーノートは全て12インチ化した時にジャケットやタイトルを変えてリリースしなおして、その時に活動していたジャズ・メッセンジャーズの名義にしたのでしょう。

でもまぁメンバーはシルヴァーとブレイキーとケニー・ドーハム、ハンク・モブレー、ダグ・ワトキンスというジャズ・メッセンジャーズの面々なので「ジャズ・メッセンジャーズのプレ・リリース盤」として聴くと良いでしょう。うん、ちょいとややこしいんですがそういうことで中身を解説します。

シルヴァーもブレイキーも、そのちょいと前の”ビ・バップ”の時代に世に出てきたジャズマンであります。ブレイキーは元々ビッグバンド出身で、シルヴァーはビ・バップ・ピアノの第一人者として人気絶頂だったバド・パウエルの影響を受けた若手の一人だったんですが、デビューする頃にはビ・バップの刺激的ではあるけれどやや単調なリズムから、より新しいリズムをジャズに取り入れたくてウズウズしてた。

そして、マイルス・デイヴィスがそう思っていたように、シルヴァーとブレイキーもまた「ただ熱狂するだけじゃなくて、じっくり聴いて楽しめるようなジャズを作りたい」と思っていた。

特にシルヴァーは両親が西アフリカに浮かぶ旧ポルトガル領ガーボベルデという国の出身で、ラテン系のルーツがあり、これを自分の音楽の前面に押し出したいという野望があった。ブレイキーもルーツであるアフリカン・ドラムやラテン・パーカッションなど様々なリズムを研究しながら、全くオリジナルなリズムで新しいジャズを作りたいという気持ちがあった。

そんなこんなで2人がガッツリ手を組んだこのアルバム。ほとんど初顔合わせに近いということで、全体的には「よく練られたアレンジがかっこいビ・バップ」な感じでありますが、それでもブレイキーが繰り出す小技がたくさん効いた立体的なグルーヴの上をこれでもかとピョンピョン跳ねるシルヴァーのピアノがもう水を得た魚みたいにカッコイイんですが、2人の凄さはテナーのハンク・モブレーやトランペットのケニー・ドーハムがソロを取ってる時のバッキングですよね。

ガンガンおかずを繰り出して煽りに煽るブレイキーと一緒になって、左手でもってガッコンガコン強烈なコードを叩き付けて煽るシルヴァーのピアノがすこぶるカッコイイ。いやもうカッコイイを通り越してヤバイ感じすらするのですよ。

アップテンポの1曲目『ルーム608』とか『ストップ・タイム』とか、ミディアムテンポでブレイキーがさり気なくルンバ混ぜてくる後のソロでグッとドスを効かせたブルージーなソロを取るシルヴァーも素晴らしいですなぁ。ハンク・モブレーのややダークなテナーのトーンも、ドーハムの1歩引いた知性溢れるトランペットも、いい味を出しながらピアノとドラムを見事引き立てております。

あと、このアルバムの目玉といえば、カラッと明るいファンキーナンバーの『ザ・プリーチャー』これですね。プリーチャーってのは説教師のことで、言うまでもなくゴスペルの雰囲気を曲にしたものですが、ニューヨークみたいな都会の教会の雰囲気ではなくて、南部の田舎の教会みたいな素朴な雰囲気です。

ブルーノートのオーナーのアルフレッド・ライオンはこの曲を聴いて「う〜ん、何だか古いデキシーランドジャズみたいな曲だなぁ。これはレコーディングできないよ」と難色を示しましたが「いや、オレらはこの曲は一周回って新しいと思ってる。レコーディングできないっつうんならアルバムのレコーディング自体辞めていいよ」と脅すような感じで迫り、レコーディングを強行させた訳なんですが、ハードバップの時代にはこういったゴスペル感覚が都会の若者に「ヒップだ」と大いにウケて流行する訳ですから、世の中何があるか分かりません。

あと、アタシはこのジャケットも好きなんですよね。何のポーズだかわかんないけど、このシルヴァーのおどけた表情とポーズだけ見ても「あぁ、このアルバムはいいやつだな」と思えてきますよね。










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『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
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posted by サウンズパル at 00:10| Comment(0) | ジャズ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする