2020年05月12日

アリス・イン・チェインズ Alice In Chains

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アリス・イン・チェインズ/Alice In Chains
(Sony)

さて、連日のアリス・イン・チェインズのレビューもいよいよ佳境に入ってきました。

まずは個人的なことをお話しするのを許して頂けますれば、アタシにとってアリス・イン・チェインズというバンドは「グランジかって言われたら微妙だけどカッコいいヘヴィバンド」。

そう、グランジでもなければヘヴィメタルとも微妙に違った、もっとダークでドロドロしたラインにあるアリス・イン・チェインズのサウンドというのは、自分でヘヴィバンドとかいう新しい言葉を作って、そこで大切に聴くという感じでした。

でも、グランジというひとつの流行の枠で語られながらも、その音楽はそんな流行なんぞ知らん。ミーハーは勝手にやってろな、パンクな姿勢を感じさせるものであり、正直なところアタシはもしかしたらそのダークでヘヴィでうねりまくるサウンドよりも、その孤高の姿勢とか存在感とか、そういったものに最初惹かれたのかも知れません。

そんなこんな言ってるうちに流行はグランジからあっという間にメロコアなる、何だかよくわかんない明るく健康的な臭いのするパンクロックに変わりつつあった1996年、衝撃的なアルバムを彼らはリリースしました。

アリス・イン・チェインズの、オリジナル・メンバーでの事実上のラスト・アルバムである『アリス・イン・チェインズ』は、1995年に世界同時リリースだったのですが、3本足の奇形の犬や、俗に言うフリークスと呼ばれる人達の写真をあしらったジャケットや裏ジャケットのデザインが日本側の規定に引っ掛かり、1年後に「全て真っ白のジャケットにしてリリースする」というバンド側が妥協した形でのリリースが決まりました。

それがために国内でのリリースは1年遅れの1996年、世間ではもうグランジのムーヴメントは過ぎ去っておりましたが、それだけにあの名盤『ダート』よりも更に深淵の極みへ沈み込んだようなサウンドと、暗闇の中で何か救いのようなものを求めているかのようにギリギリのテンションで歌うレイン・ステイリーの声の純粋な美しさが、同じ時代の他のどの「ロック」とも違う、もう完全にオリジナルな何かとしてとぐろを巻いておりました。

当時の彼らといえば、アルバム『ダート』が大売れして、そのアルバムツアーでそれこそ世界中を回り、更なる人気と喝采を獲得した直後でした。アルバムは売れてツアーは大成功だったのですが、このツアーは元々繊細なレインの心身をかなり消耗させ、元々の悪癖であった麻薬に、更にのめり込ませる引き金となってしまいます。

レインの不調により、アリス・イン・チェインズは長いツアーが出来なくなってしまい、巷では解散説までささやかれました。

実際バンドはかなり危機的な状態だったと思います。そんな過酷な状況の中でレコーディングされたのが本作『アリス・イン・チェインズ』であります。




ALICE IN CHAINS

【収録曲】
1.Grind
2.Brush Away
3.Sludge Factory
4.Heaven Beside You
5.Head Creeps
6.Again
7.Shame In You
8.God Am
9.So Close
10.Nothin' Song
11.Frogs
12.Over Now


実際ツアー生活(と、多分レインを中心としたバンド内のギクシャクした雰囲気)に音を上げたベースのマイク・スターが脱退。新メンバーとしてオジー・オズボーン・バンドにいたマイク・アイネズが加入し、レコーディングは恐らく異様な緊張感が漂う中行われたことと思います。

楽曲はジャム・セッション風の「繰り返し繰り返しのリフとうわごとのようなヴォーカル」という、初期から見られた路線から更に徹底してキャッチーな要素や演奏の中でのアクセントとなる展開が削られ、即興性の強いものになっております。

実際楽曲も長く、全体を通して聴く側にも独特のヘヴィなプレッシャーを与える作りになっており、このプレッシャーこそが彼らのサウンドのコアな部分だったのだと、聴いているうちにジワジワと染みてくる、そんな”ならでは”の中毒性がこのアルバムにはあります。

もうひとつサウンド面で変化したのが、恐らくスタジオにこもって徹底的に自己の音作りに没頭したであろうジェリー・カントレルのギターであります。

この時期のメタリカやパンテラにも迫る、オクターバーやコンプレッサーを効果的に使用した、粒の揃ったディストーション・サウンドでザクザク刻まれるリフと、ワウやフランジャーで奇妙に輪郭がひしゃげた生き物のようなソロやオクターブ、はたまた重く透明なクリーン・トーンなど「エフェクトをかましたエレキギターサウンド」の理想的なサウンドが、アルバム全体で隙間なく鳴らされていて「やべ、このギターの音はメタリカ超えてる!」とか、勝手にわいわい盛り上がっていたものです。


そして、より陰惨で沈鬱な歌詞をうわごとのように、或いは呪詛のように吐き出すレインのヴォーカルも、地声とエフェクト音とをまるで幽霊のように浮遊したり這いずったりしながら行き来していて、コチラはジェリーのギターの力強いバケモノぶりとは真逆の、得体の知れない恐ろしさすら感じさせます。


どの曲も良い意味で聴く人を甘やかさない、尖った緊迫感とドロドロな感触しかない非常に厳しい音ですので、最後まで一気に聴くとドッと消耗する、本当の意味でヘヴィなアルバムです。

しかし、この妥協のないサウンド、救いも何もない荒涼とした壮大な心象が広がるアルバムは、アリス・イン・チェインズという他のどのバンドとも似ていないし、どんなジャンルにもその存在が綺麗に収まらない孤高のバンドの、孤高である所以が間違いなく刻まれた。ロックの核がこれ以上なく美しく刻まれた作品だと思うのです。


残念ながらアリス・イン・チェインズは、オリジナルのメンバーでのオリジナル作品をこの後リリースすることはなく、2002年にレインがドラッグのオーバードーズで、2011年には旧メンバーのマイク・スターが恐らくドラッグ絡みの事故でそれぞれ亡くなっておりますが、レイン・ステイリー在籍時の3枚のアルバムはどれも重く激しく、そして美しいです。






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『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

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posted by サウンズパル at 23:38| Comment(0) | ロック/ポップス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする