2021年02月13日

ピーティ・ウィートストロー ザ・デヴィルズ・サン・イン・ロウ

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ピーティ・ウィートストロー/ザ・デヴィルズ・サン・イン・ロウ
(Pヴァイン)


戦前に撮影されたブルースマン達の白黒、あるいはセピア色の写真を見るのが好きです。

ほとんどの写真は、当たり前ですが画質も粗く、顔の細かい部分が潰れてしまってぼんやりしていたり、またはあからさまに加工されているのがあったりして(ブラインド・レモン・ジェファソンのあの写真が、実は体の部分が絵だったというのとか、色々ありますネ)、確かにそれは古い時代の未発達な技術の産物だったりするんですが、そういった粗い画質やあからさまな加工が、確かにいた被写体の実像を、どこかこの世ではない異世界の存在と、見る人に感じさせる。そう思いながら戦前ブルースマン達の写真を眺めていると想像がどんどん拡がって実に飽きません。音質の悪さやノイズの多さで籠った声や、SP盤に録音する際に早めた回転数によって演奏スピードが上がり、ピッチが不自然に上がった音によって醸される違和にすらも、同様に”この世ならざるどこか”を感じる事があります。

十代の頃は、それこそ「知らない世界を知ろう」とばかりに、ロバート・ジョンソンの2枚組CD『コンプリート・レコーディングス』のブックレットを皮切りに、ブルースのガイドブックなんかを買っていくうちに、数々の印象的な白黒のポートレイトを目に焼き付けましたが、その中に一人、何かのガイドブックに載っていた、ダブルのスーツをパリッと着こなし、ブルースの象徴ともいえる金属製のリゾネーターギターをかまえ、何とも鋭い目付きとふてぶてしい笑みを浮かべた不穏な表情で写っている男の写真にアタシの目は釘付けになり「誰だこの人は?どんなブルースを歌うんだ?」と、ずっと思っておりました。

その男こそがピーティ・ウィートストロー。セントルイスを拠点に活躍したシティ・ブルースの人であり、ロバート・ジョンソンには作曲法や歌い方、そして歌詞でもって多大な影響を与えた、と。

そして、彼は自分を売り出すために『悪魔の養子』とか『地獄の保安官』と自ら名乗ったんだとか。そしてこの写真で見る彼のルックスが、アレですよ、ほれ、映画『クロスロード』に出てくる”悪魔”の風貌と何だかとてもよく似てると思ったんですね。

おぉ!つうことはこの人こそ正にロバート・ジョンソンが「クロスロードで悪魔と取引した」とかいう伝説の、なんつうか元ネタっぽい話の人なんではないか!と、頭の悪い高校生だったアタシは早速興奮し、ピーティ・ウィートストロー聴くべとCDを探し回ったんですが、1990年代の始まり頃ってのは戦前ブルースなんてものは田舎ではなかなか入手出来ず、2曲入ってるという情報を頼りに入手したのがオムニバス盤の『RCAブルースの古典』。




写真だけを見て想像していたのは、物凄いアクセントトを付けてバリバリにスライドとか弾きまくっているような感じでしたが、この人のメインの楽器はピアノ。そしてシティ・ブルースと言うだけあって、楽曲もデルタブルースとかのそれに比べると割と淡々とした、落ち着いたものでありました。

が、その重く暗いものを言葉や声の内に含ませながら、そこらへんに乱暴に吐き捨てるようなべらんめぇなヴォーカルの魅力(魔力と言うべきか)には想像以上のインパクトをズシンと感じてしまいました。

ピーティ・ウィートストローという人は、やはり戦前のブルースの人らしくその人生は謎に包まれております。生年は1902年とハッキリしておりますが、生まれはテネシー州という説と南部アーカンソーという説があり、また、1941年に39歳という年齢であっけなくこの世を去っており、例によって残された写真もリゾネーターギターを持った1枚しかないようであります(もう1枚、昔のレコードでココモ・アーノルドとのカップリング盤で使われているのがあったと思うのですが、それがピーティー・ウィートストローの写真かどうかちょっと分かりません。知ってる方いたら教えてください)。

色々と本を読んでも、ネットで検索しても、その実彼のパーソナリティなこと、特に「アイツはこういうヤツで、こんな事をやっていた」みたいな情報が極端に少ないんですね。けれども1930年から1941年までに何と161枚のレコードを出していたという事は、やはりちょっとしたスター並みの人気で、それこそ色んな逸話がガサゴソ出てきてもおかしくはないのですが、ほとんどありません。「自分の誕生日を祝う飲み会のその日、酒が足りなくなって友人らと車に乗って別の酒場目指して走っていたところ、停止していた貨物車に激突して即死」という死亡時のエピソードだけが不気味なリアリティで持って突出しているだけであります。

そのヴィジュアルや音楽的なインパクトと裏腹な、実在した人物としての存在の曖昧さが、これまた戦前ブルースの深い闇のようなものを感じさせるからたまんないんですね。実に魅力の尽きない人です。



ザ・デヴィルズ・サン・イン・ロウ

【収録曲】
1.Don't Feel Welcome Blues
2.Tennessee Peaches Blues
3.Ain't It A Pity And A Shame
4.Long Lonesome Drive
5.The Last Dime
6.Numbers Blues
7.Doin' The Best I Can
8.The Rising Sun Blues
9.Good Whiskey Blues
10.Slave Man Blues
11.King Spider Blues
12.King Of Spades
13.Johnnie Blues
14.No Good Woman (Fighting Blues)
15.When I Get My Bonus (Things Will Be Coming My Way)
16.Meat Cutter Blues
17.Remember And Forget Blues
18.Little House(I'm Gonna Chase These Peppers)
19.Peetie Wheatstraw Stomp
20.Working On The Project
21.Shack Bully Stomp
22.What More Can A Man Do?
23.Gangster's Blues
24.Bring Me Flowers While I'm Living


そんな謎めいた大物、ピーティー・ウィートストローのアルバムは、Documentから全7枚という驚異のボリュームで完全音源化されておりますが、とりあえずどんな音楽をする人だったかを知るにはPヴァインから出ている国内盤CDがオススメであります(これでも全24曲という凄いボリュームです)。

収録曲はほぼほぼキャリアの初期から後期に向かって順を追って聴けます。前半はピアノ弾き語りにギターのみを付けた、1920年代から30年代前半まで流行したシティ・ピアノ・ブルースのオーソドックスな形式で、べらんめぇながら奥底にじわっと滲む情緒や情念をヒリヒリと染み渡らせる、この人ならではの個性が全開。

伴奏もロニー・ジョンソンやビッグ・ビル・ブルーンジィなどの超一流どころを従えていたピーティー、そのギタリスト達のツボを押さえた見事なプレイも楽しめます。個人的にはヴォーカルと呼応するもう一人のヴォーカルのように絶妙な間と合いの手を入れるケイシー・ビル・ウォルデンのスライド(GH)にゾクゾクきました。

中盤からは30年代半ばから本格的に流行したブギ・ウギ・ピアノやストンプを取り入れ、よりダイナミックなピアノに拍車がかかり、更に後半亡くなる直前のセッションではグッと洗練されたジャズ的フィーリングが、これがもうたまんなくカッコイイんですね。ロニー・ジョンソンの軽妙なギターに乗せてゆったり歌う『What More Can A Man Do』、コルネットとドラムスを従えた『Gangster's Blues』で「おお!」となり、トドメはテナーサックス参加の『Bring Me Flowers While I'm Living』。南部生まれのゴツゴツしたブルース・フィーリングが洗練されたテナーの寄り添いによって時空に溶けて行くかのような不思議な感覚をも覚えさせてくれるこの感じ、CDが終わった後もしばらくほぅ〜っとなってしまいます。


ピーティ・ウィートストローは、その裏声混じりの「フ〜ウェ〜(ル)」という、その後ほとんどのシンガーが真似をした歌い出しのフレーズといい、僅か10年程の活動期間の間にスタイルを結構変えているのに、ワン・アンド・オンリーのヴォーカルの持ち味によって、表現の1本太い筋みたいなものが終生ブレなかった人でもあります。こういう人がいるから戦前ブルースはやめられません。


















”ブルース入門編 〜初心者のための優しいブルース講座〜”


『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
http://ameblo.jp/soundspal/
posted by サウンズパル at 23:22| Comment(0) | ブルース | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする