2022年08月29日

ジョン・コルトレーン ジュピター・ヴァリエーションズ

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ジョン・コルトレーン/ジュピター・ヴァリエーション
(Impulse!/ユニバーサル)

コルトレーンが1960年代の初め頃から率いてきた、マッコイ・タイナー(p)、ジミー・ギャリソン(b)、エルヴィン・ジョーンズ(ds)のカルテットは、およそ5年間の活動の中で多くの作品を世に出し、その中でコルトレーンというミュージシャンを、単なるジャズ・テナーの巨人という評価にとどまらない60年代最高のカリスマという位置にまで押し上げてきましたが、このカルテットは1965年に更なる音楽の探究に乗り出したいコルトレーンと、他のメンバー達との理想の食い違いによってあえなく崩壊してしまいます。

で、コルトレーンは新たにファラオ・サンダース(ts)、アリス・コルトレーン(p)、ラシッド・アリ(ds)という若手をメンバーに加え、大胆なフリーフォーム、1曲20分は超える長時間演奏という過激なアップデートを経た演奏を武器に再出発します。

ところが、この頃既にコルトレーンの体は深刻な病魔に蝕まれており、新バンド結成から僅か1年程、まだまだこれからというところであの世へと旅立って行ってしまいます。

後にファン達が「晩年のコルトレーン」と呼ぶようになる新生コルトレーン・クインテット、活動期間は僅か1年、その間にリリースしたスタジオ・アルバムは『エクスプレッション』のみだったという事は、なかなかに重い事実であります。

しかし、新バンド結成から亡くなるまで、コルトレーンはこれまで以上に精力的に活動して、ひっきりなしにライヴを行い、スタジオにも入っておりました。

オフィシャルなものでもライヴ盤は生前に出された『ヴィレッジ・ヴァンガード・アゲイン』があり、死後も『ライヴ・イン・ジャパン』や、近年では『オラトゥンジ・コンサート』『ライヴ・アット・ザ・テンプル大学』などなど、そしてスタジオ盤ではラシッド・アリとのデュオ『インターステラー・スペース』『ステラー・リージョンズ』など、これが何で発表されなかったんだろうと思えるほどの素晴らしいクオリティを誇る作品がリリースされております。

スタジオ録音に関しては、コルトレーンがスタジオで回していたテープを奥さんのアリスが譲り受け、それを発掘のプロであるマイケル・カスクーナが中断部分やミステイクを丹念に削って作品化し、色んな手続きを経て世に出された。という訳なんです。

さて、本日ご紹介しますアルバム『ジュピター・ヴァリエーション』は、晩年のコルトレーン・クインテットの未発表スタジオ録音最大の成果と言って良いほど見事な「作品」であります。

実は、このアルバムに入っている演奏は、コルトレーン死後に一度世に出た事があります。

まずは2曲目の「ピース・オン・アース」、これは『ライヴ・イン・ジャパン』における美しい名演で知られる曲ですが、アリスがコルトレーンに死後、スタジオテイクに自身がアレンジしたストリングスとチャーリー・ヘイデンのベースをオーバーダビングしてリリースした『インフィニティ』というアルバムで聴けます。

そして、3曲目『ジュピター(ヴァリエーション)』と4曲目『レオ』は、ご存じラシッド・アリとのデュオ盤『インターステラー・スペース』のボーナストラックとして聴けるのですが、ここで「なーんだ、他で聴けるんならこのアルバムいらねぇや」と思うのはちょーーーっと待ったぁーーー!なのであります。

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【パーソネル】
ジョン・コルトレーン(ts,,bells-@A)
ファラオ・サンダース(ts,tambourine,wooden fluteA)
アリス・コルトレーン(p,@BC)
チャーリー・ヘイデン(b,@)
ジミー・ギャリソン(b,@BC)
ラシッド・アリ(ds)
レイ・アップルトン(perc,@)


【収録曲】
1.ナンバー・ワン
2.ピース・オン・アース
3.ジュピター (ヴァリエーション)
4.レオ

(録音:@1967年3月7日,A1966年2月22日,BC1967年2月22日)


まず、このアルバムが”作品”として非常に優れているのですよ。前半2曲をクインテットの演奏、後半2曲をコルトレーン×ラシッド・アリのデュオにした事で、聴きどころが非常に鮮明になって、4曲の緩急豊かな流れからダレることなく聴き通せる(それでも1曲の密度がかなり濃くてヘヴィなので心して聴くべし、なのですが、それはまぁこの時期のコルトレーンの演奏全部がそうだと思ってください)し、そういう流れで聴くと、特に後半のデュオが、全編デュオの『インターステラー・スペース』とはまた違った感じでより生々しく輪郭が浮き上がってくるんです。

1曲目『ナンバー・ワン』は、新生コルトレーン・バンドの自己紹介のようなフリーフォーム・ナンバー。不穏な空気が螺旋状に渦巻きまがら、コルトレーンが叫ぶ11分強の演奏です。ラシッド・アリがシャンシャンと細かくシンバルを刻み、アリスがカラコロガラゴロとちょっと儚い感じの鍵盤を転がしてジミー・ギャリソンが「ボウン、ボウン」と入魂の弦を弾く。そしてコルトレーンがアツくなればなるほどバックの醸す雰囲気がどんどん深い所へと沈み込むような、一言で”フリー”とは言えない荘厳な雰囲気であります。

2曲目『ピース・オン・アース』は、何と言ってもメロディが綺麗です。コルトレーンが吹くメイン・フレーズが徐々に形を変えたり崩したりしながら、感情の奥底から湧いてくるような希求のようなものを描きます。細かい”リズムのないリズム”を淡々と刻んでいるラシッド・アリのドラムと、クラシックの印象派のようなアリスの美しいピアノが涼やかに鳴り響いていて、ファラオの木製フルートがチラッと出てきて温もりを置いてゆく。ライヴ・イン・ジャパンの25分越えの陶酔感にどっぷり浸れるヴァージョンも良いですが、このギュッと凝縮された8分間もなかなか良いもんです。

そして後半のラシッド・アリとのデュオ。まずは『ジュピター(ヴァリエーション)』。コルトレーンとアリのデュオは、単純な”クインテットの他の楽器を抜いたもの”ではありません。コルトレーンもアリも、バンドのメンバーという枠を取っ払って、それぞれが一人の表現者として裸で向き合っている感じがします。「ゴボッ!ゴボッツ!」とひとつひとつの音を強めに吹くコルトレーンに対し、細かい音の拡散で上昇気流を作り、その上で更にコルトレーンが飛べるように空気を作ってゆくアリ、よく聴くと絶妙なアクセントでバスドラも細かく踏んでいて、ドラムの打撃の音域全体にも鋭く神経通しております。

ラストの『レオ』は、更にコルトレーンのテンションが上がり、最初からフルに飛ばしていて、これは本作中最も熱い演奏です。アリも物凄く力が入っていて、「スネア→タム→シンバル→」と、ぐるぐるぐるぐるリズムを旋回させて、高高度でコルトレーンのテナーと激しい一騎打ちを繰り広げている感じで、スネアを刻むアクセントの「タタタタタタ!」にバスドラが加わって、更にタムの連打も併せて「ズドダダダダダダダ!!!!」になるところなんか、もうね、もう凄くカッコイイですね。

ラシッド・アリは元々マックス・ローチのドラミングを凄く研究していて、特にソロ楽器のアドリブに対応するローチの細やかなリズム・チェンジを自らのドラム奏法に取り入れているそうです。ローチはあくまでオーソドックスなスタイルのドラマーではありますが、なるほどコルトレーンがサックスを吹き止めて鈴を鳴らしている時のドラムソロみたいなパートを聴くと、ローチの細かくたたみかけるソロからの強い影響が感じられるような気もしますが、何より「パシィ!」と響く出音の鋭さに「おぉ、確かにそうだ!」となって興奮しちゃいます。すいません、今正に聴きながら興奮しながら書いてますんで文章がちょっと先走ってる感満載なんですが、そこはご容赦ください。

『ジュピター・ヴァリエーション』前半の人数多めの演奏が内省的で、後半のデュオがハイテンションなんですよね。というか、これこそが晩年のコルトレーンの”色”だと思います。発掘モノとくればファン向けで〜と思う人もおるかも分かりませんが、この作品は「コルトレーンの晩年のフリーになった演奏ってどんななんだろう?聴いてみるべか」とお試しになりたい人にとっては特にこの時期のコルトレーン・サウンドを無駄なく分かりやすく伝えてくれる作品なんじゃなかろうかと思います。






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posted by サウンズパル at 22:27| Comment(0) | TrackBack(0) | 大コルトレーン祭 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする