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2015年06月06日

ブラインド・ウィリー・マクテル アトランタ・トゥエルヴ・ストリング

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ブラインド・ウィリー・マクテル アトランタ・トゥエルヴ・ストリング
(Atlantic/ワーナー)

*この記事は「ブラインド・ウィリー・マクテル戦後音源」の続きです*

私が大好きな、戦前の弾き語りブルースマン(カントリーブルースと呼ばれておりますな)の中でも、その個性存在感において一際異彩を放っておるのがブラインド・ウィリー・マクテル。

人生の悲哀やハードライフを、力強い声とパーカッシブなスタイルで泥臭く唄うのが、一般的に「戦前ブルース」という言葉からイメージするミシシッピ・デルタのそれでありますならば、マクテルその甲高くかすれた声で、たくましくも繊細に、12弦ギターという特種な楽器を巧みに操るスタイルは実に個性的であります。

かのボブ・ディランが「ブラインド・ウィリー・マクテルのようにブルースが唄える人は誰もいないだろう」という予言の通り、その余りにもワン&オンリーなスタイルを後継する人もなく”ブラインド・ウィリー・マクテル”というブルースの化身は、黄泉の国からやってきて、また黄泉の国へと永遠に旅立ったのでありました。

生まれつき盲目で、恐らくは並外れた聴覚やその他の感覚を持っておったんでしょう。その行動範囲は広く、本拠地であるジョージア州アトランタ近辺からセントルイス、ルイジアナ、ミシシッピ、そしてテキサスと、南部一帯を一人で回ったとか、あのレッドベリーに12弦ギターを弾くことを奨めたのが実はこのマクテルさんであるとか、それこそもう「え?ウソでしょ?」という数々の伝説を持った人であります。

その伝説を裏付けるかのように、彼の戦前の録音はどれも幻想美(ブルースにはちょっと不似合いな言葉かも知れませんが、そうとしか表現しようがないのです)に満ち溢れていて、バイオグラフィ的なことが調査によってかなり判明し、残された写真もたくさんあるにも関わらず「コノ人は本当にこの世に実在した人物だったんだろうか・・・?」という不思議な感覚は、今も私の脳裏から消えることはありません。


さてさて、そんなブラインド・ウィリー・マクテルの”特殊能力”のひとつに「誰かがマクテルのレコーディングをしたいと思った時、どこからともなくフラッとスタジオに現れる」というのがありました。

「んなまさか!?」

って思うでしょ?でもこれは本当の話です。

このアルバムがレコーディングされた経緯も、実はそんな感じの「伝説」の一環なんでございますね。

時は1949年、第二次大戦が終わって4年といいますから、アメリカは戦勝ムードに沸きかえっておりました。

ブルースも、都市部への人口流出に伴って徐々に都市化/バンド化されていった時代、マクテルは相変わらず南部を拠点に、12弦ギターを一本かついでストリートや富裕層の主催するパーティーに出かけ、結構な稼ぎを得ていたようです。

実際にマクテルは、1940年に民俗学者アラン・ロマックスが国会図書館の資料用としてのレコーディングも行っておりますが、同時期にこの国会図書館用のレコーディングを行ったのがマディ・ウォーターズやサン・ハウスという面々で、ブルースファンとしてはそれだけで鳥肌モノなんですが、話を続けます。

ちょうどこの時、トルコからアメリカに移民してきた一人の若者が「ブラインド・ウィリー・マクテルというブルースマンがおって、この人が何というかちょっと凄いんだ、フツーじゃないんだ」という話を小耳に挟んで「やべぇ、その人のレコードを世に出してぇ」と思っておりました。

この若者の名前はネスヒ・アーディガン。

そう、あのオーティス・レディングやレイ・チャールズを世に出し、アレサ・フランクリン、パーシー・スレッジ、ドリフターズなど、ソウル/R&B時代を代表する素晴らしいアーティスト達の数々の名盤を多く手がけてきた、ブラック・ミュージックを語る上で絶対に外せない超名門レーベルの創始者その人であります。

彼が「マクテルのレコーディングをしたいなぁ・・・」と思っていたらマクテルがフラッとスタジオに現れたのが1949年のある日のこと。

「ウソだろ!?ブラインド・ウィリー・マクテルだ、ワォ!」と、青年アーメットが興奮したのは想像に難しくありません。

そんな中マクテルはマイクの前で次々と持ち歌を披露して、あっという間にアルバム1枚分のレコーディングが終了します。

戦前は「幽玄」とも言える妖艶なスタイルで異界を見せてくれたマクテルですが、このアルバムでは(恐らくレコーディング技術の発達の成果もあったでしょう)より力強く、エッジの効いた12弦ギターの音と、深みを増した声である種の生々しさを備えたブルースを、例によって掠れた声で活き活きと唄うマクテルが聴けます。

のっけからマクテルが得意としたホウカム調「キル・イット・キッド」「ザ・レイザー・ボール」「リトル・デリア」の3連発でノリノリですが、ここではやっぱりアタシの「運命の1曲」だった「ブローク・ダウン・エンジン・ブルース」や、ブラインド・レモン・ジェファソンの名演でおなじみ「ワン・ダイム・ブルース」(コチラのタイトルは「ラスト・ダイム・ブルース」)での12弦ギターの相変わらずの達者ぶり、そして後半、喋り口調のようなニュアンスの美しいスライドが聴ける「マザーレス・チルドレン・ハヴ・ア・ハード・タイム」「アイ・ゴット・トゥ・クロス・ザ・リヴァー・ジョーダン」「ユー・ガット・トゥ・ダイ「エイント・イット・グランド・トゥ・リヴ・ア・クリスチャン」そしてこれは「ブルースマンが唄うゴスペルの決定的名唱」として、ぜひCDを買って子々孫々まで語り継いで頂きたい「パーリー・ゲイツ」と、晩年のマクテルが深く系統していたスピリチュアル(黒人霊歌)で、しみじみ聴かせます。

最近、このアルバムを聴くにつれ、後半のスピリチュアルが凄くいいなぁと思うんですよね。

何というか、全盲というハンデをハンデとも思わずにたくましいブルース人生を生き抜いてきたタフなマクテルが、最終的に強く思っていたのは「音楽で人々に救いを届けたい」というものだったんじゃないかなぁと、しみじみ思うんです。




【収録曲】
1.キル・イット・キッド
2.ザ・レイザー・ボール
3.リトル・デリア
4.ブローク・ダウン・エンジン・ブルース
5.ダイイング・クラップシューターズ・ブルース
6.パイントップス・ブギ・ウギ
7.ブルース・アラウンド・ミッドナイト
8.ラスト・ダイム・ブルース
9.オン・ザ・クーリング・ボード
10.マザーレス・チルドレン・ハヴ・ア・ハード・タイム
11.アイ・ゴット・トゥ・クロス・ザ・リヴァー・ジョーダン
12.ユー・ガット・トゥ・ダイ
13.エイント・イット・グランド・トゥ・リヴ・ア・クリスチャン
14.パーリー・ゲイツ
15.スーン・ディス・モーニング


さてこのアルバム、1949年に録音はしたものの、あっという間に時代の流行がR%Bへと移り変わり、アーメットの会社(アトランティック)もあっという間にその新しい時代の音楽をリリースして稼ぐのでいっぱいいっぱいになってしまい、レコードとしてマトモに発売されたのが、何と1972年のことだったんですね。

この時アトランティックが一番力を入れていたのがレッド・ツェッペリンだったということを考えると、音楽というのは広大で深遠な旅を続けておるんだなぁと、言い知れぬ感慨が溢れてきます。

いずれにせよマクテルの唯一の「戦後メジャー」からの作品にも関わらず、長年オクラ入りしていて、再発もなかなかされないこの幻の名盤。ワーナーが素晴らしい価格で再発してくれている今だからこそ、一人でも多くの音楽好きに聴いていただきたいなと思うのです。ブルースとかブラック・ミュージックとか関係ナシに「音楽」という言葉に少しでも反応できる人ならば、マクテルの渾身の「唄と12弦ギター」は、その人の心を根底から揺さぶるだろう、きっと。

と思うのです。



”ブラインド・ウィリー・マクテル”関連記事

『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
http://ameblo.jp/soundspal/

BASEショップもありますよ(ここでしか買えない商品アリ)http://soundspal.thebase.in/
posted by サウンズパル at 17:17| Comment(2) | ブルース | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
今、ちょうど彼のPヴァイン編集盤を聴いてますが、スライドの妙があったり、シティ・ブルースぽかったり、多彩ですよね。ところでその盤の鈴木啓志さんの解説だと、12弦ギターはレッドベリー→マクテルの順みたいに書いてありました。推測みたいですが・・・。あと、ロマックスが車にマクテルだけを乗せて地元の道路を走ってたら道案内してくれてビックリしたとか書いてありました。辻井伸行さんも初めて訪れたホールでも広さが判ると言いますから凄い能力を感じますね。
Posted by k.m.joe at 2017年03月08日 14:44
joeさんこんにちは!コメントありがとうございます。

マクテルとはブルース聴き始めの頃からの長い付き合いですが、今でも昔気付かなかった魅力にハッとさせられることの多いブルースマンです。洗練の皮を被ったプリミティブなフィーリングと、相反する泥臭さの中に光る都会的なセンスを両方持ってる、本当にその盲目ゆえの不思議なエピソードと同じく、謎の深いブルースマンです。

あ、マクテルやバーベキュー・ボブに12弦を教えたのがレッドベリーでした。ここは訂正しておきます、ありがとうございます(^^;

> k.m.joeさん
>
> 今、ちょうど彼のPヴァイン編集盤を聴いてますが、スライドの妙があったり、シティ・ブルースぽかったり、多彩ですよね。ところでその盤の鈴木啓志さんの解説だと、12弦ギターはレッドベリー→マクテルの順みたいに書いてありました。推測みたいですが・・・。あと、ロマックスが車にマクテルだけを乗せて地元の道路を走ってたら道案内してくれてビックリしたとか書いてありました。辻井伸行さんも初めて訪れたホールでも広さが判ると言いますから凄い能力を感じますね。
Posted by サウンズパル at 2017年03月08日 20:30
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