
アレサ・フランクリン 貴方だけを愛して+3
(Atlantic/ワーナー)
大体アタシは根が暗〜いネガティヴな人間ですから「ポジティヴ」という言葉が苦手です。
「前を向いて」
「自分を信じて」
「ありのままで」
と言われると、妙な鳥肌がぞぞぞぞわーと立ったりします。
あ、いえ、これは生理的な問題であって「好き/嫌い」の問題じゃあありません。あくまでアタシの体質とか性格のアレですんで・・・。
しかし、そんなアタシでも「このポジティヴなら信じてもいい」
と思うものがあります。
はい、それがソウル・ミュージックの持つポジティヴ・パワーです。
なかんづく”クイーン・オブ・ソウル”アレサ・フランクリンの力強くも、どこまでも深い慈愛に満ちた歌声からビンビン伝わってくるそれは、無条件で「気持ちを委ねてもいい・・・」と、なってしまうものであります。
最初にアレサの歌声を聴いたのが、映画「ブルース・ブラザーズ」でした。
この映画は、ブルースやR&B、ソウルの超の付くほどの大物がしれっと脇役として出演していて(レイ・チャールズが楽器屋の親父、俺達のジェイムス・ブラウンが牧師、ジョン・リー・フッカーがストリートで唄うブルースマン役・・・てな感じ)、これはもうブラック・ミュージック好きにはたまらん映画なんですけどね。
えぇと、確か主役2人がムショから出所して、バンドを再結成するために、今はバンドを辞めてファースト・フード店を営んでいたかつての仲間のギタリスト(それもマット・ギター・マーフィー、わぉ!)に「またバンドやろうぜ」て誘うんですけど、それに腹を立てた嫁さんがいきなり「Think!(アンタよく考えなさいよ!)」と、物凄いパワフルな声で唄うんですが、まずコレにヤラレた
「あのブルース・ブラザーズに出てたマット・ギター・マーフィーの奥さん役のおばちゃんがメチャクチャカッコイイ!!誰よ!?」と、親父に訊いたら
「そりゃあカッコイイだろう、アレサ・フランクリンだから当たり前じゃー」
と、カウンターを喰らったんですが、それから色々調べて「あのおばちゃんは女性ソウルシンガーの中でも最高レベルに凄い人」と知り、納得しました。
どのアルバムが有名か?とか、ロクに知りもせんで最初に買ったのは、実はソウルの作品じゃなくてレコード2枚組のゴスペル・アルバムだったんですけどね。それに「うはぁ!これこそポジティヴだ!!」と、衝撃を受けて「ちゃんとアレサを聴こう」と思って買ったのがこのアルバム。
アレサって当たり前だけど唄すっげぇ上手い。
まず声量がハンパなくて、パンチも効いてる。
もちろんブルース・フィーリングも天性のものを持っているんだけど、その上にやはり一味洗練を加えたグルーヴも持っている。
プラス繊細な女心みたいなものも表現できる、もうシンガーとしては何も言うことないぐらい完璧なんですよね。
10歳前後の頃から、教会のリード・シンガーとして鳴らし、その才能に惚れ込んで「君、ゴスペルもいいけど、ちょっと本格的にR&Bのシンガーとしてデビューしてみないか?」と、何と19歳にして大手コロムビア・レコードから声がかかります。
が、コロムビア時代はアレサの才気の塊のような凄いヴォーカリズムを上手に活かせるプロデューサーともバックミュージシャン達とも出会えず、アレサはヒットに恵まれないまま契約を打ち切られます。
ところが「いや、アレサは凄ぇよ、本気出したらあんなもんじゃねぇよ」
とは、彼女の歌声に直に接した人間なら誰もが知るところでありまして、それから10年近く後、アレサは当時オーティス・レディングやレイ・チャールズといった、錚々たるR&Bのスター達がヒットを連発しまくっていたアトランティック・レコードと運命の出会いを果たします。
【収録曲】
1.リスペクト
2.涙に濡れて
3.貴方だけを愛して
4.ソウル・セレナーデ
5.夢をさまさないで
6.ベイビー、ベイビー、ベイビー
7.ドクター・フィールグッド
8.グッド・タイムズ
9.恋のおしえ
10.セイヴ・ミー
11.ア・チェンジ・イズ・ゴナ・カム
12.リスペクト (モノ・ヴァージョン)
13.貴方だけを愛して (モノ・ヴァージョン)
14.恋のおしえ (モノ・ヴァージョン)
はい、1967年作の、この「あなただけを愛して(I Never Loved A Man The Way I Love You)」は、「ソウル・クイーン・アレサ」の記念すべき第一歩が、ノリノリのグルーヴィーな曲アリ、グッときまくるバラードありで見事刻まれたアトランティックでのデビュー作であります。
冒頭の「リスペクト」は、先輩であるオーティス・レディングの代表曲のひとつでもある、グイングインに盛り上がるムディアム・ファンキーの曲調に、アレサの力強い歌声が伸び伸びと聴く人の心を打ち、シングルカットされるやたちまち元祖オーティスの記録を塗り替え、オーティスをして「あの娘は凄いね、完全に持ってかれちゃったヨ」と言わしめたほどの曲です。
アレサのアルバムは、これ以降「100%ソウル」で、駄作は一枚もないし、このアルバムも見事なぐらい捨て曲というものがない。バラードの「恋の教え」なんか、彼女のゴスペルで鍛えた声の”伸び”に載せる感情の切なさがもう感涙だったりするんですが、アルバムを延々リピートで聴いてもひとつも飽きないし、聴き込む毎に心がグングン元気になります。
あれ?俺にもこんなポジティヴな感情あったんだ(笑)
と、アレサ聴くといつも思います。
パンチではエタ・ジェイムス、しなやかさの中にある女性的な繊細さではバーバラ・リン推しのアタアシですが、やっぱり女性ソウルときたら「アレサ基準」で聴いてしまいます。
『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』
サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
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