
エタ・ジェイムス/アット・ラスト
(Cadet/ユニバーサル)
やっぱり何といっても元祖”ディーヴァ”といえばエタ・ジェイムスだと思います。
あぁ、いきなりですいません。
アタシはブルース経由でソウルを知りました。
「戦前ブルースしか聴けない病」を、耳に「ブルースなら何でも」の絨毯爆撃で克服し、ライトニン・ホプキンスとかエルモア・ジェイムスとかもちくしょーカッコイイなー!と思ってたある日
「そういえば女のブルース・シンガーでカッコイイ人っているのかしら。今んとこオレが知ってるのはベッシー・スミスとマ・レイニーとメンフィス・ミニーぐらいだが、そういえば戦後ブルースの女性シンガーって知らんよなー」
と、思ってた矢先、ブルース本を買ったんです。
この本は、ブラインド・レモン・ジェファソンからはじまって、ロバート・ジョンソン、B.B.キング、Tボーン・ウォーカーなどなど、ブルースの錚々たるメンツのドキュメンタリーを渾身の筆力でまとめた素晴らしい本だったんですが、コレにベッシー・スミスと共に”女性ブルース・シンガー”として掲載されていたのがエタ・ジェイムス。
正確にいえばエタは「ブルース・シンガー」というよりも、ソウル・シンガーの草分けで、ブルース・フィーリングたっぷりに、R&Bやジャズ、ポップスも唄うんですが、その本を「ふむふむ」と読んでそのまんま近所の中古レコード屋さんに直行して購入したのが、エタ・ジェイムスの2枚組ベストでした。
何でエタを聴こうという気になったのかといえば、彼女がシカゴ・ブルースの名門「チェス・レコード」からデビューして、代表作がチェス(傘下の「アーゴ」というレーベルでしたが)に集中しているということからです。
そのベスト盤の中に収録されていた楽曲の中で「うはぁ、すげぇ!」とノックアウトされたのが、ジミー・リードのコテコテブルース「ベイビー・ホワット・ユー・ウォント・ミー・トゥ・ドゥ」のライヴと、ストリングス入りの美しいバラード曲「アット・ラスト」だったんです。
方や観客のテンションが異常で、バックもゴリゴリのブルースで「パンチ」というより他ないエタさんのキョーレツなヴォーカルが炸裂してて、方やシルクのような洗練されたバックの上を、情感豊かに繊細に物語を紡いで行くようなヴォーカルが圧巻で、でも「すげぇ、コノ人バックとか曲調が全然違っても、ちゃんと唄い分け出来てるのに芯が一切ブレてない・・・」と驚愕しました。
2枚組ベストはレコードで、毎日のように聴きまくりましたが、やっぱりそうなってくるとオリジナル・アルバムがどうしても欲しくなりますよね。
で、最初に買ったのは、火傷する程アツいブルース・スピリッツが炸裂している「ロック・ザ・ハウス」これはもうどんな風に言われようとブルース・アルバムであり、アタシの大好きな「アブナい香り」もプンプンします。
で、「次はエタのバラードが聴きたい。すこぶるつきの、洗練されたストリングスバンドをバックにしたやつ・・・」と思って購入したのが「アット・ラスト」
【収録曲】
1.エニシング・トゥ・セイ・ユーアー・マイ
2.マイ・ディアレスト・ダーリング
3.トラスト・イン・ミー
4.サンデイ・カインド・オブ・ラヴ
5.タフ・メアリー
6.アイ・ジャスト・ウォント・トゥ・メイク・ラヴ・トゥ・ユー
7.アット・ラスト
8.オール・アイ・クッド・ドゥ・ワズ・クライ
9.ストーミー・ウェザー
10.ガールズ・オブ・マイ・ドリームス(レンダード・アズ・ボーイ・オブ・マイドリーム)
コレはもう本当に凄いんですよね。
バックはガッツリストリングス(小編成の管弦楽団)がガッツリ最初から最後までバックアップしていて、収録曲のほとんどがバラード。
タイトル曲でもあり、彼女の代表曲のひとつでもあるFはもちろん言うまでもなく名唱ですが、それ以前にもうね@ABCと、エタの、いや、初期ソウルを代表するぐらいのクオリティと言ってもいいバラード名曲が、聴く人の心をガッシリ捉えて離しません。
エタさんの歌声は、何て言えばいいんでしょうかねぇ・・・。パワフルといえば確かにズバ抜けてパワフルではあるんですが、その凄まじい出力を生み出している感情の部分が、もうとてもとても繊細で美しいもので出来てるんだと思います。
英語の歌詞だから、聴いてるだけじゃどんなこと唄ってるか分からなかったけれど、エタさんの声で唄われると、悲しい女の恋の物語が、映像として流れてるような、そんな気持ちになっちゃうんですよね。女心、分からない男子のかなり上位に入るはずのアタシにも「これが女心よ、分かる?坊や」と、エタさんは唄で実感させてくれるんですよねぇ・・・。
洗練された雰囲気、「アット・ラスト」というタイトルから、購入当初は「エタさんがチェスに残した最後のアルバムか・・・感慨深いな・・・」とか妙にしんみり聴いてましたが、後に「いや、これはデビュー・アルバムだよ。エタの歌声にとことん惚れ込んだレナード・チェスが”このコは絶対売れるから、デビュー作からストリングス付きの豪華なバンドで演らせよう”って意気込んで作ったアルバムだよ」ということを知って、改めて「デビュー作でコレかよ・・・」と絶句しました。だって凄いクオリティなんですもん、唄もバックも・・・。
ほとんどがバラード〜ミディアム・テンポの曲の中で、ちょいと泥臭いDEがまたいいアクセントです。
特にチェスの先輩マディ・ウォーターズの「アイ・ジャスト・ウォント・トゥ・メイク・ラヴ・トゥ・ユー」なEは、御大も「おぉ、やるじゃねぇかあのコ」と恐らくは言ったであろうコブシとパンチ(あ、また言っちゃった)の効いたお見事なブルース・チューン。
多分エタさんがこのアルバムでデビューしなかったら、その後のアレサ・フランクリンもジャニス・ジョプリンもなかったんだろうなぁ・・・と、今ひしひしと考えます。そう、後のソウルとロック、両方にエタ・ジェイムスが与えた影響というのは、多分アタシが思ってるよりずっとデカいんじゃないかと思います。
オマケ↓
映画「キャデラック・レコード」でのビヨンセの迫真の名演技。
「At Last」コチラはご本人によるライヴ。持病がかなり悪化した晩年の映像ですが、声は全然衰えておりません。
『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』
サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
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