2015年10月29日
ガトー・バルビエリ In Search Of The Mystery
Gato Barbierri/In Search Of The Mystery
(ESP)
ジャズの中でも、その哀愁溢れる音色と、腹の底から情念を絞り出すブロウで、デビューから50有余年多くの中毒者を生み出している、まったく罪なテナー吹き、ガトー・バルビエリ。
アタシも「チャプター・ワン」を聴いて以来、すっかりその”ラティーナの土着の色気”なるものにすっかりメロンメロンになりまして「ガトーならば何でも聴く!」というぐらいに惚れてしまったものです(今も惚れております)。
で、人間というのは「惚れた男の過去」というものが気になるもんです。
なかんづく
「最初どんなだったか?」
という事柄ってのはすごーーーーーく気になるもんです。
ほいで、ちょいと過去を探ってみました。
ガトー・バルビエリ、1932年アルゼンチン生まれ。十代の頃にチャーリー・パーカーに憧れてクラリネットを購入、その後アルト・サックスを買い、ジャズを志すようになる。
ふむふむ
地元のバンドに加入して、テナー・サックスを手にし、1953年にピアニスト/アレンジャーとして有名なラロ・シフリンのオーケストラに入団する。
なるほど、十代でジャズにときめいて、ハタチそこらで一流オーケストラのメンバーに入るなんて、当初からなかなかの腕があったようです。
1950年代、血気盛んな20代の頃のガトーの夢は、本場アメリカのジャズ・シーンに出て、恐らくはソニー・ロリンズやコルトレーン、ハンク・モブレーみたいな「モダン・ジャズの人気テナー奏者」になることだったでしょう。
しかし、当然と言えば当然ながら、アメリカには腕の立つテナー吹きはごまんとおりました。
アルゼンチンから出てきた無名の若者が「あの〜、演奏させて欲しいんですけど・・・」と言っても、ほとんど相手にされないか、ちょろっと出させてもらっても(恐らくは)まだ自分のスタイルを完成させる前のガトーの音は、聴衆の記憶にもミュージシャン仲間の「お前、面白いなぁ」というレーダーにも引っかからなかったのだろうと思います。
そんなこんなでくすぶっているうちに、アメリカのジャズ・シーンはどんどん進化していきます。
モダン・ジャズは60年代を迎える頃にはもう「ちょっと古臭いかな・・」と言われるようになり、多くのミュージシャン達が稼ぎを得るためにヨーロッパに移り住みます。
で、ガトーも「この際だから移住しちゃえ」と、ヨーロッパに向かいます。
これが1962年のこと。
んで、この時にある人物と運命的な出会いを果たして、その人のバンドに参加したことがきっかけで、それまでくすぶっていた彼の才能が、一気にスパークします。
そのバンド・リーダーの名はドン・チェリー。
そう、1950年代に「最も過激なバンド」オーネット・コールマン・カルテットの2枚看板であったトランペット奏者であり、60年代のジャズに「フリー」という言葉と概念を刻み付けた立役者の一人です。
60年代以降のドン・チェリーは、ただ過激な演奏をするだけでなく、自身の「アフリカン・アメリカン」というルーツを表現の中に見出し、アフリカや中近東、アジアなどの民族音楽なども研究し、即興演奏の中に取り入れたステージを、ヨーロッパで繰り広げて、意欲的な作品も次々とリリースしておりました。
ヨーロッパで出会った”師匠”の開かれた感性に大いなる刺激を受けたガトーの中では、沸々とたぎるものが出てきはじめておりました。
「アルゼンティーナとしての自分自身」という熱い血であります。
ドン・チェリーのバンドでガトーは、何かふっきれたような、力強いブロウで聴衆を圧倒します。
ヨーロッパでの人気は、そこそこあったようで、そこに目を付けたESPレコードという、ニューヨークの「アンダーグラウンドな音楽”しか”リリースしない!」という実に奇特なインディーズ・レーベル(フリー・ジャズだけじゃなくて、サイケとかアシッド・フォークとか、もーホントに凄いのよこのレーベル・・・)が、1966年、ドン・チェリーのライヴ盤「Live at Cafe Montmartre」をリリースします。
ここでのガトーは、当時世界的に注目を集めていたジョン・コルトレーン・カルテットに加入したニュー・カマー、ファラオ・サンダースのような、激烈猛烈な「フリーク・トーン炸裂しまくりィク!!!!」な熱演を繰り広げておりますが、多分そのインパクトにESPの製作陣が
「なぁ、そこのテナーのキミ、ウチでアルバム作らないかね?」
と、声を掛けたんだろうと思います。
そんなこんなで翌1967年に、ESPからリリースされたガトーの記念すべきデビュー・アルバムがコチラ
「In Search Of The Mystery」
であります。
【パ−ソネル】
Gato Barbieri(ts)
Calo Scott(cello)
Norris Jones(Sirone)(b)
Bobby Kapp(ds)
【収録曲】
1.In Search of the Mystery/Michelle
2.Obession No.2/Cinemateque
3.Obsession No.2
4.Cinemateque
もうね、「あの”チャプター・ワン”での、ラティーノ炸裂のガトーのデビュー作、そしてドン・チェリー・グループでの”ジャズのフォーマットに則りながらのオーバーブロウ製造マシンなガトーが、初リーダー作でどうなっちゃってんのか」
て、すごーく期待して買ったんですよね。
そしたらコレが、「ラテンなガトー」でも「ジャズのガトー」でもない、実にキッパリガッツリの”フリー・ジャズなガトー”♪
オリジナルはたったの2曲収録なんですけど、10分経っても20分経っても曲が終わんないんです。
「チェロ入りピアノなし」
という珍しい編成のバックが「どよーん」「でろーん」と、ひたすら不穏なムードを作ってくれるその上で、ガトーは全リミッター解除状態で
「ビギィィィーーーー!!」
「バギャァァァアーーーー!!!!」
と、吹きまくり。
一言でいえば荒削り、うん、これほどまでに「演奏と感情」が直結したアルバムはないでしょうね。
ただもう波状攻撃で押し寄せるカタルシスの波に撃たれる快感に特化した、これは「頭で考えるより感じて欲しい作品」です。
でもね、ガトー独特の”哀愁”どんなにフリーキーなスタイルでも、絶対にどこかから零れ出てるんですよね。
このアルバムでも「あぁ、ここ泣ける!」ってとこいっぱいありますんで、そこはまぁぜひ聴いてください。荒削りだけどしっかり”聴かせる”成分もむせ返るほど入っとりますよ。
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