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2016年01月03日

デューク・エリントン マネー・ジャングル

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デューク・エリントン/マネー・ジャングル
(United Artist/BLUENOTE/EMIミュージック)

さて、スウィング・ジャズの巨人。いや、ビッグ・バンドの時代から、後に続くモダン・ジャズのアーティスト達にまで軒並み絶大な影響を与えまくったエリントンは、ジャズ史上最大の大物と言って良いでしょう。

水をも漏らさぬ綿密なアレンジでバンド全体を完全にコントロールする術を彼は最初から心得ておりましたし、また、作曲家としてもピアニストとしても、何というか全てにおいてエリントンが関わると「一流」の風格が出ます。

大物とはいえ、初期の頃は結構やぶれかぶれ、勢いだけでえーい!と突っ走る演奏なども残していそうなもんですが、エリントンに関して言えば、1927年のデビュー音源から、既に完成の域に達した洗練のサウンドを聴かせてくれるから大したものです。

アタシは戦前の録音を聴いて「最初からこんな完成度の高い音楽を、しかもビッグ・バンドで演奏できたデューク・エリントンという人は一体どんな人なんだろう?」と気になって調べました。

当時のアタシといえば「戦前ブルースしか聴けない病」の真っ最中で、ハードライフの行き着く果てにブルースを唄っていたようなブルースマン達のバイオグラフィーを読んではキャッキャしておりましたので、当時好きで聴きまくっていた戦前ブルースというやさぐれ音楽とは似て似付かぬエリントンの音楽とセットとなっている彼の前半生というのがまったく想像できなかったんですね。

で、調べて目にしたエリントンのバイオグラフィー。これが見事に「想像の斜め上」でした。

まずエリントンの父親が、白人家庭の執事でありました。

この時代(1800年代)の”執事”といえば、富豪家の財産管理から来客のもてなし、子弟の教育など全般を行う高級職であり、実務的な能力はもちろん、政治や歴史に関する教養やマナーに関する知識などが求められる非常にハードルの高い職業でありまして、しつけに厳しい父親から幼い頃よりマナーやエチケット、それに文化芸術に関する高い水準の教育を受けていたエリントンは、小学校の頃から既に学校のサロンにあるピアノを弾く事を許されており、また、学校の勉強とは別に、専門家から個人的にクラシックの理論や演奏法なども学んでいたといいます。

それだけでなく、少年時代からスマートな所作と穏やかな言葉遣いを完全に身に付けており、”デューク(公爵)”というあだ名も、優雅な貫禄を少年期から既に備えていた彼に友人達が敬意を込めて付けたものだそうです。

そんな風に、裕福な家庭に育ち、幼い頃からあらゆる面で優遇されていた”デューク”は、調子に乗って傲慢な人間に育ったのかといえばそうではなく、成長してゆく過程で更に謙虚で慎ましい性格に磨きがかかり、学校でも外出先でもジェントルマンシップを発揮しまくりで、周囲の尊敬をますます集めるようになった。と


アタシ、ここまで読んでポカーンとなりました。

これまでジャズマンやブルースマンの伝記みたいのを読んでも、まぁこういう育ちの人というのは見たことがない。大体が「貧乏暮らしがイヤで家出した」とか、まぁワルでワルでどうしようもないヤツが、ジャズとかブルースの世界へ転がり込むものとばかり思っておりましたが、読んでみて頭では分かるのですが「何じゃそりゃ!?」の”!?”がエリントンの前半生にはいっぱい付きました。

まぁそんな人なんだーと納得して、アタシはエリントンのゴキゲンなビッグ・バンドものを、ニコニコしながら優雅に聴いとったわけなんです。えぇ、ナメてました。

ある日、当時勤めておったCD屋に出勤して、何てことなくその日の仕事をしておったら、いきなり「ガラガラガン!ゴロゴロゴン!!」という物凄いピアノの”左手”のリフを聴きました。

「うはっ!このピアノ・・・ワルい!!(笑)」

と、思ったアタシは、その時の上司に

「もー、何なんすか?朝っぱらからセシル・テイラーなんかヤメてくださいよ〜」

と・・・まぁ、その時までナメておったんです。

上司は、コイツは何を言ってるんだ?という顔をして

「は?エリントンだよ」

と、真顔で言うもんですから、ははぁ、コレは冗談の続きに違いないと思って

「いやいやいや、もうそういうのには騙されませんよ」

と返したら、上司はますます真顔になって、若干キレ気味で

「このアルバムだよォ!」

と、一枚のジャケットをアタシの前にかざしました。

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いや、ホントに・・・えぇ!? えぇぇぇええええ!?

でした。

ジャケットに写っているのは紛れもなく”あの”デューク・エリントンその人でありましたが、一緒に写り込んでいる2人のミュージシャンの顔に、アタシは更にぶったまげたんですね。

「マックス・ローチと・・・・ミンガスぅ!?」

いや、頭では理解出来てはいたのです。

マックス・ローチはチャーリー・パカーらと共にモダン・ジャズの原型となる”ビ・バップ”を作った人で、ミンガスは同じく”エリントン以降”の革新的なベーシストであると共に、バンドリーダーとしても常日頃からエリントンをリスペクトして止まない発言の多かった人ですから、共演の辻褄は合うんです。

それにしても・・・恐らくは1960年代のこの時期、ミンガスもローチも、音楽的な意味だけでなく、色んな意味で”トンガりまくってた時期”であります(ミンガスもローチも人種差別等やミュージシャンから不当に搾取する音楽業界などに攻撃的な発言をバンバンやっておりました)。

そんな気鋭のミンガス&ローチ(ミンガス40歳、ローチ38歳)組に対し、63歳のエリントンが

「君たち元気いいね。どうだい、私と共演しないかい?」

と、余裕の笑顔でニコニコ申し込んだのかどうかは不明ですが(いや、そこは多分レコード会社の企画だとは思うのですが・・・)、とりあえずミンガスは

「ビビり過ぎて足がすくんだ・・・」

と回想しております。

先にネタバレしてしまいましたが、ミンガス&ローチの「イケイケな武闘派プレイ」に御大エリントンが大人の対応で暴れん坊共をクールダウンさせるような演奏どころではなく

「むしろこの中で一番暴れているのがエリントンのピアノ」

と言っても過言ではないぐらいのガンガンゴンゴン、鬼のようにヘヴィな演奏で「若い子二人」の個性を見事に引き出しまくっているのであります。



(冒頭「Money Jungle」一発目から凄い迫力あるピアノ!)



エリントンにしてみれば

「いや〜、あの子たちが元気だったものだからちょっと本気を出してしまってね・・・」


ぐらいのノリではありましょうが、その”本気”のレベルがハナッから常人離れしているエリントンの”ピアニストとしての凄さ”に、驚愕の声をただもう挙げながら聴き入るしかないピアノ・トリオ・アルバムがこの「マネー・ジャングル」なのであります。




【パーソネル】
デューク・エリントン(P)
チャールス・ミンガス(b)
マックス・ローチ(ds)

【収録曲】
1.マネー・ジャングル
2.アフリカの花
3.ヴェリー・スペシャル
4.ウォーム・ヴァレー
5.ウィグ・ワイズ
6.キャラヴァン
7.ソリチュード


冒頭の「マネー・ジャングル」と6曲目「キャラヴァン」がとにかく”鬼”です。


エリントンは言うまでもなくスウィングジャズの黄金時代を築いたヴァーチュオーソであるんですが、おいおい、バックがビッグバンドじゃないっていうだけでこんなにもドスの効いた凄まじいタッチの演奏になるんか?

で、コレを聴いて今まで聴いてきたエリントンのビッグバンドものの演奏を、ピアノに集中して聴いてみると

「うわぁ・・・あんなニコニコして聴き易い曲をオシャレなアレンジでやってるくせにピアノ、鬼だわ・・・」

という驚愕&戦慄の演奏をたくさん見付けました。

それと”デューク・エリントン”という人の人間的な魅力も、本作にはギッシリ詰まっております。

恐らくエリントンは、ひとクセもふたクセもあるビッグバンドのメンバー達を暴力やカネで従わせてたんではなく、穏やかな物腰と知性と品性に裏付けられた説得力で上手に束ねていたわけで、でも、リハーサルの時とかにこういった「恐ろしいピアノ」をさり気なくメンバーに聴かせて

「怖い・・・この人だけは絶対に怒らさない方がいい・・・」

と思わせていたのだろうと、アタシは想像してにんまりするんです。


ともあれスタイルやジャンルはさておきて「凄い音楽」を聴きたい人は、デューク・エリントンの「マネー・ジャングル」という究極の一枚があるということをぜひ頭の片隅にでも置いといてくださいね。

最後にレコーディング時のエピソードを。。。

実はこのレコーディングの直前に、刎頚の友であるはずのミンガスとローチは、あろうことかエリントンの目の前で殴り合いの大喧嘩を始めてしまいます。

頭にキたミンガスは、スタッフの制止も聞かずにスタジオを飛び出して行ったのですが、その様子を黙って眺めていたエリントンが、ミンガスを追いかけて取り押さえ、張り詰めた緊張感の元、セッションは行われたとライナーには書いてありますが・・・

「頭に血が上ると誰も止められなかった」と言われてたミンガス(性格も激しいがガタイがあって腕力も常人離れしていたらしいです、ハイィ・・・)を”追っかけ”て”取り押さえた”エリントン・・・やっぱり怖い、怒らせたらいかん・・・。




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『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
http://ameblo.jp/soundspal/

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posted by サウンズパル at 14:11| Comment(0) | ジャズ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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