2016年05月14日

ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第5番『春』、第9番『クロイツェル』、第8番(シェリング、ルービンシュタイン)

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ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第5番『春』、第9番『クロイツェル』、第8番(シェリング、ルービンシュタイン)

「春らしい一枚を」

ということで、今日は昨日までのギトギトとは打って変わって爽やかな音楽を紹介したいと思います。

今、彼方から「お前ちっともさわやかじゃないがな!」という声が聞こえたような気がしましたが気にしない、気のせいです。

ベートーヴェンといえば「運命」とかの壮大な交響曲とか、或いはピアノソナタのイメージ・・・いや、写真や伝記のイメージで、どうもこう「苦悩の作曲家」と言われたり書かれたりすることが多く、なるほど彼の波乱万丈の生涯や楽曲の数々をじっとこう真剣に聴いていると、彼が創り出した「美」の根幹には、実に人間らしい苦悩や葛藤がたゆたっているなとは思うのですが、ある盤を耳にしてその先入観はほろほろと優しく崩れ去りました。

それが、本日ご紹介するヴァイオリン・ソナタ「スプリング」と「クロイツェル」です。

「何かショパンでも聴きたいなぁ〜」と、何気なく買ったショパンのワルツ集がとても素晴らしくて、アタシはリーヴィンシュタインという人が好きになった訳なんですけど、ある日激安セールのワゴンの中に、このアルバムを見付けました。




【演奏】
ヘンリク・シェリング(ヴァイオリン)
アルトゥール・ルービンシュタイン(ピアノ)

【収録曲】
1.ヴァイオリン・ソナタ第5番へ長調 作品24「スプリング」 第1楽章 アレグロ
2.ヴァイオリン・ソナタ第5番へ長調 作品24「スプリング」 第2楽章 アダージョ・モルト・エスプレッシーヴォ
3.ヴァイオリン・ソナタ第5番へ長調 作品24「スプリング」 第3楽章 スケルツォ:アレグロ・モルト
4.ヴァイオリン・ソナタ第5番へ長調 作品24「スプリング」 第4楽章 ロンド:アレグロ・マ・ノン・トロッポ
5.ヴァイオリン・ソナタ第8番ト長調 作品30-3 第1楽章 アレグロ・アッサイ
6.ヴァイオリン・ソナタ第8番ト長調 作品30-3 第2楽章 テンポ・ディ・メヌエット、マ・モルト・モデラート・エ・グラツィオーソ
7.ヴァイオリン・ソナタ第8番ト長調 作品30-3 第3楽章 アレグロ・ヴィヴァーチェ
8.ヴァイオリン・ソナタ第9番イ長調 作品47「クロイツェル」 第1楽章 アダージョ・ソステヌート:プレスト
9.ヴァイオリン・ソナタ第9番イ長調 作品47「クロイツェル」 第2楽章 アンダンテ・コン・ヴァリアツィオーニ
10.ヴァイオリン・ソナタ第9番イ長調 作品47「クロイツェル」 第3楽章 フィナーレ:プレスト

「お、ルーヴィンシュタインがベートーヴェン弾いてるのか〜、珍しいのぉ」

ぐらいの本当に軽〜い気持ちで、セール特価¥500でラッキー♪という本当に俗な気持ちで入手して、自宅で聴いてたんですけれどもね、いや、これが実にいいんです。

「スプリング」も「クロイツェル」も、浅く想像していたベートーヴェンの曲とは全然違う雰囲気の、明るくて軽やかな感じの小品。

ルーヴィンシュタインのピアノを一言で言えばズバリ「気品」。

優しいタッチで鍵盤から導き出される音たちのひとつひとつが、えもいえぬ優雅な響きを宿しながら、大気中にふわふわといい香りを漂わせているような演奏であります。

気品に満ち溢れているとはいっても、決して聴き手を寄せ付けないような完璧無比のものではなくて、どこかいい感じに”隙”があるんです。

「よし、今日はクラシックを聴くぞ!ピアノがないとだめなんだ俺は、ぬがー!!」という時に聴く演奏家は、アタシの大好きなグールドやアルゲリッチを筆頭にたくさんおりますが、ルーヴィンシュタインはそういった時と場所を選ばずに聴けるからいいんです。

そしてヘンリク・シェリングの、繊細で軽やかな中に、秘めた哀愁を感じさせるそのヴァイオリンの音色、実はこのアルバムの主役なのに、ピアノの音と細やかに一体化しながら「ツツーー・・・」と、余韻を引きながら伸びてゆく旋律の、何と美しいことか。

ライナノーツによると、シェリングはユダヤ系ポーランド人で、第二次大戦の時にメキシコへ渡り(連合国軍への慰問の旅の最中だったと云います)、そこでそのまんま帰化してメキシコ人になったんですね。

メキシコではプロの演奏家としての仕事はせずに、とりあえず教師として生計を立てていたシェリングでしたが、1956年のある日、コンサートツアーでメキシコを訪れていたルーヴィンシュタインの前で演奏をしたところ「何て素晴らしい!君は音楽の世界へ戻ってくるべきだ!」との絶賛を受けただけでなく、音楽界のあらゆる関係者へとシェリングを紹介し、そして一緒にレコーディングまで行います。

この、1958年にニューヨークで録音されたアルバムは、正に”その時”の記念すべき作品であり、今や世紀を代表する名ヴァイオリニストとまで称されることになったシェリングの、その”再スタートの第一歩”が記録された歴史的名盤でもあるのです。

しかし、そんな凄い盤であるにも関わらず、二人の名手はこのジャケットのまんま、ニコニコと顔を見合わせながら軽〜く演奏して、美しい音楽を奏で合ってる。そんな心暖まる一枚です。

余談ですが、アタシは数年前までセキセイインコを飼ってました。

インコって音楽に反応して、一緒にさえずってとてもカワイイんですが、彼の一番のお気に入りがこのアルバムでした。やっぱり鳥さんはわかるんですね(^^



『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
http://ameblo.jp/soundspal/

posted by サウンズパル at 15:42| Comment(0) | クラシック | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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