2016年06月17日

ノエル・ローザ ヴィラの詩人

1.1.jpg
ノエル・ローザ/ヴィラの詩人
(ライス・レコード)

ショーロの巨人、ピシンギーニャを紹介したら、やっぱりこの人を紹介しないわけにはいかんでしょう。

黎明期サンバの大物にして、ブラジル音楽におけるシンガーソングライターの先駆け、ノエル・ローザ(正確には”ノエル・ホーザ”ですが、ここではCDの表記に従います)。

1910年生まれ、20代にして既に200曲以上のレパートリーを持ち、戦前のブラジル大衆音楽は、正に彼の色に染められておったと言っていいでしょう。

1937年に、病のために26歳の短い生涯を閉じた彼でありますが、その楽曲は若き日のジョアン・ジルベルト、アントニオ・カルロス・ジョビンといった後にボサ・ノヴァを生み出すことになるアーティスト達に多大な影響を与えました。

ブラジル音楽の第一線を生きてきたアーティスト達は口々に言います。

「ノエール・ローザがいなくても、サンバはサンバとして歌われていただろうが、それは恐らく今のサンバよりももっと陳腐で薄っぺらいものになっていたであろう」

と。

サンバは元々ブラジルにやってきたアフリカ系移民の音楽をルーツに持つ音楽でした。

今、ほとんどの人が”サンバ”といえば思い浮かぶ、あのリオのカーニヴァルのサンバのように、その構造は実にシンプルで力強いリズムと、覚えやすい(つまり歌にするとメイン・ヴォーカルに対してコーラスを付けやすい)メロディが主軸でした。

サンバの歴史は古く、17世紀にはその大まかなスタイルが固まっていたとも言います。

やがて18世紀、19世紀になってきて、サンバという音楽が元々の土着の「手を叩き、足を踏み鳴らし」というスタイルを軸に、メロディのある歌が付き、それを伴奏する楽器(主にギターなどの弦楽器)を従えるようになると、これが街で独自の進化を遂げていわゆる流行歌みたいになります。

20世紀になると、逞しくもどこか哀切を漂わすサンバの調べは、アフリカ系の人々のみならず、ポルトガル系の白人達をも魅了するようになります。

そんなこんなで1920年代、南米はまだまだ差別などがあったものの、奴隷解放後のアフリカ系/ヨーロッパ系の人々は、世界的な大恐慌の嵐が吹き荒れる中、貧困の中で互いに接近し、労働の場や酒場などで比較的すんなり苦楽を共にするようになります。

ノエル・ローザは、そんな世相の中、膨大な自作曲とどこかアンニュイで物憂げな声をひっさげて、街の酒場で唄うようになります。

「白人初のサンビスタ(サンバを唄う人)」

として、彼はたちまち有名になりましたが、そんなことよりも何よりも、彼のポップで覚えやすい楽曲を作る才能、恋や日常の他愛のないことをつぶやくように唄いつつも、その歌詞の根底には人間が抱える悲喜こもごもの真に迫る哲学のような概念、そしてさり気なく鋭い社会批評も短い歌詞の中にまとめ上げる詩人としての才能、さほど力強く訴えている訳でもないのに、一度耳にしたら不思議とずっと離れない天性の声の魅力と、才能を3拍子も4拍子も揃えたその圧倒的な存在感に、全ブラジルの全ての人種の老若男女があっという間に熱狂しました。




【収録曲】
1.天国のフェスタ
2.何を着てゆくの?
3.臆病なマランドロ
4.愛すべきドモリ
5.拝啓
6.遊び好きなムラータ
7.時間のせいで
8.けっしてそうじゃない
9.女の嘘
10.ぼくたちの物
11.不快な女
12.誰がもっと払う?
13.心臓
14.踊らない人は
15.ジャシントさん
16.言い回しを思いついた
17.正直さはどこに?
18.夜明けを眺めて
19.実証主義
20.居酒屋の会話
21.ジョアン・ニンゲーン
22.十万レイス
23.スカートの飾り
24.さんざん試したよ
25.行きたければ行きなよ
26.笑顔が最高



ちょっと上の楽曲を聴いていただければ分かると思うんですが、彼の作風は非常に軽やかで洗練があり、実にブラジルらしい(このスタイルが後のボサ・ノヴァになってゆくことが容易に想像できる)のですが、アレンジは当時最先端だったジャズのエッセンスをふんだんに取り込み、一枚も二枚も上の”上質”を感じさせます。

日本の良心レーベル「ライス・レコード」からリリースされたこのベスト・アルバムは、後に色んな人がカヴァーすることになる楽曲を中心に、じっくり聴けばどこまでもその深みにハマること請け合いのオススメの一枚です。

「ボサ・ノヴァは知ってるけどブラジル音楽にはそんなに興味ない」という人にこそ、コレと先日ご紹介したピシンギーニャのアルバムは聴いていただきたいです。世界が豊かに広がりますよ〜♪





『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
http://ameblo.jp/soundspal/

posted by サウンズパル at 19:19| Comment(0) | ラテン/ブラジル | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: