
O.V.Wright/8Men,4Women
(Mca Special Products)
ブラック・ミュージックが好き、歌モノが好き。
という方で、今正に広大なるソウル・ミュージックの大海原に漕ぎ出そうとしている人には、まずは何を置いてでも聴いて頂きたいシンガーというのがおります。
いや、正直最初に聴くのは何だっていいんです。
今でも絶大な人気を誇るアーティストといえば、アレサ・フランクリン、マーヴィン・ゲイ、スティーヴィー・ワンダー、サム・クック、オーティス・レディングなどなどなど・・・。
これらの人たちの音盤ならば、ハッキリ言ってどれを最初に買っていてもいい。
時期によって、或いは作品やレーベルによって、それを聴くアナタの好みはありましょうが、この人たちはまずハズレがございません。
問題は”その次”であります。
今の時代ならyoutubeとかで好きなアーティストを検索して、関連動画で試聴して好みを探って行くなんて聴き方もできるとは思いますが、直感を頼りにしたいアナタ、もしくは
「あぁあ、”いかにもソウル”って感じの、とにかくパワフルで魂を揺さぶられるような歌が聴きたいわぁ〜」
と思ってるアナタにぜひとも聴いて欲しい天性のソウル・シンガーがこの人、O.V.ライトです。
と、その前に、一口に「ソウル」と言っても、大きく分けて”ノーザン・ソウル”と”サザン・ソウル”というものがありまして、これは”ノーザン”の方がシカゴやデトロイト、キャッチーでポップなモータウン・サウンドなんかがその代表ですね。
大して”サザン”というのはアメリカ南部、メンフィスを中心とする、よりブルースやゴスペルからの強い影響を色濃く残した泥臭くブラックなフィーリングが持ち味。
レーベルでいえばスタックスやゴールドワックス、初期のアトランティックなんかがよく知られております。
で、O.V.ライトは、このサザン・ソウルを代表するシンガーなんです。
この人の声がもう凄い。
1939年にアメリカ南部テネシー州に生まれ、幼い頃からブルースやゴスペル、R&Bを聴いて育ち、10代になるや地元で有名なゴスペル・グループにシンガーとして参加します。
当時のゴスペルといえば、今みたいに穏やかでハッピーなやつじゃなく(それも一部ではあると思いますが)、教会に集まる聴衆をハイにさせてトランスさせることこそが目的の、シャウトにつぐシャウトの、それはそれは凄まじい音楽だったんですね。
特に南部のゴスペル・グループというのは、それこそ強烈なシャウター(マイクなんざなくても全然コンサートできちゃうオッソロシイ人ら)が星の数ほど在籍し、しのぎを削っておりましたが、まだ若いO.V.は、そんな中で「凄いヤツがいる」とあっという間に人気者になり、1964年にはソウル・シンガーとして「That's How Strong My Love Is"」という曲でデビューするんですが、何とこの曲、あのオーティス・レディングがソッコーでカヴァーして、両人共に看板曲にしてしまいます。つまり”サザン・ソウルを代表する名曲”の2つの名唱が、ほぼ同時に生まれたんですね。
O.V.の歌は、とにかく腹の底から振り絞るような、理屈抜きで直接胸の内に”バコン!”とくる力強いものであります。
高音のスクリーム、空間が揺らぐほどの野太くどこまでも通るシャウト、かと思えばバラードでの感情表現を巧みにコントロールしてのストーリー性豊かな表現などなど、とにかくこの人のヴォーカルは”うた”として完璧なんですが、それだけじゃなく、タフで泥臭く、塩辛い。なのにどうしてこんなに繊細な切なさが胸にくるんだろう?というほどの、豊かな”余韻”をも備えております。
誰かが「どんな曲のどんなフレーズでも、O.V.ライトがワン・フレーズ歌うだけで魂が宿ってソウル・ミュージックになるんだよなぁ・・・」と、遠い目をしてしみじみと言ってましたが、正にその通り。アタシもO.V.を聴くときは、感動で散々に揺さぶられながら、気が付くと遠い目をしてその豊かなフィーリングの海に浸っております。
【収録曲】
1.Eight Men, Four Women
2.Ace of Spades
3.You're Gonna Make Me Cry
4.When You Took Your Love from Me
5.Nickel and a Nail
6.If It's Only Tonight
7.Monkey Dog
8.Gone for Good
9.Heartaches, Heartaches
10.What More Can I Do (To Prove My Love for You)
O.V.の”魂をゆさぶる歌”は、そのまま命を削るものでもありました。
派手な大ヒットには恵まれなかったものの、超一級のソウル・シンガーとして、ファンやミュージシャン達のリスペクトを一身に受けながら、70年代も数々の名唱を残したO.V.でしたが、いつしか心臓に持病を抱え、1980年に41歳という若さで天国へ旅立ってしまうのですが、その声は今もなお、多くの人を魅了しております。
特に日本では「泥臭いサザン・ソウルなんか売れないだろう」というレコード会社の思惑をよそにホンモノのソウルを求める若者達にバカウケし、しかも70年代末のディスコ・ブーム黎明期の頃、DJ達のプレイを期に、過去の音源も問い合わせが相次ぎ、日本国内でのレコード・プレス数にアメリカ本国のメーカーも「O.V.ライトの日本での人気はどうなってるんだ?何かあったのか?」と不思議がったほどだと言われております。
おっと、オススメのアルバムは、今一番お手頃な値段で入手しやすい「8Men,4Women」というベスト盤です。
シャウトなナンバーと、しっとりバラードのバランス最高な選曲はもちろん、アタシゃこの小細工ナシのどっからどう見てもソウルのアルバムにしか見えないジャケットが好き。タバコ持つ手の角度も必要以上にキラキラしてるグラサンも素敵♪
『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』
サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
http://ameblo.jp/soundspal/