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2016年08月30日

マディ・ウォーターズ シングス・ビッグ・ビル

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マディ・ウォーターズ/シングス・ビッグ・ビル
(Chess/ユニバーサル)

マディ・ウォーターズといえば、戦後シカゴ・・・いや、もうブルース全体を代表する、揺ぎ無いビッグ・ネーム中のビッグ・ネームですが、意外なことにこの人は初レコーディング(商業用の)が1946年で33歳の遅咲きです。

伝記によると、故郷ミシシッピで若い頃からボトルネックのスライドギターを片手にブルースを唄い、地元ではそこそこ知られた存在ではあったようなのですが、この頃のスタイルはまだ完全にサン・ハウスチャーリー・パットンら、先輩ミシシッピ・デルタ・ブルースマン達の影響をモロに受けたスタイルで、もちろん濃厚なデルタ・ブルースの深みや味わいは放っていたものの、後年のようにオリジナリティに溢れた革新的なサウンドは完成どころかその気配すら感じさせてはおりませんでした。

そうなんです、いかに”帝王”マディとはいえ、最初から斬新なことをやっていた訳じゃなかったんですね。

マディが”マディ・ウォーターズ”として、唯一無二の電気化されたドロッドロの新しく刺激に溢れたブルースを生み出すのは、いや、彼の”はじまり”の何もかもは、30代になってようやく「音楽で食って行く」と決めてシカゴに辿り着いてからなんですね。

ところが大都会シカゴに出てきても、実は人見知りのマディ、音楽の仕事を探そうにも、何をどうやって良いかさっぱり分からずに、とりあえず昼間の仕事をしながら、ストリートで弾き語りなどをやっていました。

時は1946年、長く続いた第二次大戦が終わり、アメリカは勝者の国として、空前の好景気に沸き上がっていた頃で、音楽も洗練された派手なものが、世の中の雰囲気と共に好まれるようになっていた頃、マディはシカゴの路上で、ミシシッピ・デルタ直送の、泥臭く洗練とは無縁のブルースを、黙々と演奏しておりました。

アコースティック・ギターでボトルネックを滑らせて、人生の困難や辛苦をブルースする。

これは、ブルースとしては実に正しいスタイルなのですが、都会の様々な娯楽や、これより正に明るく輝かしい時代に突入する予感に溢れた空気に酔わされていたシカゴの住民には「何だ?田舎モンがしみったれたことやってるぜ、ヘッ、そんなブルースなんざぁ今ドキ流行んねぇよ」と、極めて冷ややかに見られていました。

それもそのはず、シカゴのブルースは、マディがやってくる何年も前から、バンド形式の洒落たジャズ風味のものが流行し、重たく暗いミシシッピのブルースなんぞは、とっくの昔に廃れたスタイル(それでもシカゴに出てきてブルースを流行らせたのは、ほとんどがミシシッピやメンフィスなど、深南部出身の人達だったのでありますが)として、もう見向きもされていませんでした。

しかし、マディには意地がありました。

「ブルースはオレがガキの頃から、どうしようもない気持ちになった時、唯一支えになった音楽なんだ。それだけじゃねぇ、サン・ハウス、チャーリー・パットン、ロバート・ジョンソン・・・あの人達の演奏は本当に凄かったさ。ジューク・ジョイントで音楽なんか聴いちゃいねぇ、泥酔して暴れる連中を、彼らの声とギターが何度黙らせてきたか、オレは知ってる。そうさ、人間の根本は、シカゴだろうがミシシッピだろうが変わらねぇ、ブルースには特別な力がある。あぁ、あるはずさ。今は分かってもらえなくてもきっと・・・」

道行く人に冷淡に無視されながら、或いはタチの悪いヤツらに「田舎に帰んな」とバカにされながらも、マディはそんな雑音を無視して、それでも黙々と路上でブルースを唄っておりました。

で、そんなマディの評判を耳にした一人の男との出会いが、彼の人生をガラッと変えることとなります。

ある日マディが演奏している時、洒落たダブルのスーツに粋なハット、そして高級時計とつま先までピカピカの革靴で身を固めた紳士がやってきてこう言いました。

「お前、なかなかいいな。声もいいがギターにも何かこう迫るものがある。ちょいと垢抜けりゃあそれなりにいいもんになるぞ。・・・見たところ音楽の仕事を探してるようだが、どうだい?やってみる気はあるかい?」

「ありがとう旦那・・・だがアンタは一体・・・?」

「オレもブルースやってんだ、へへ、ついでに言うとミシシッピの生まれよ。名前はビッグ・ビル、よろしくな兄弟」

そう、この紳士こそがビッグ・ビル・ブルーンジィ

1920年代にシカゴに出てきて、この地のブルースに洒落たムードと演奏面で多くの洗練をもたらした張本人、マディにしてみれば、昔から評判で知っていた「目指す成功者」そのものでありました。

ところがこのビッグ・ビル、人格的に大変よく出来た人で、マディのように随分年下で、おまけに田舎から出てきたばかりの人間にもちっとも偉ぶらず、気軽に声をかけて、仕事まで紹介してくれる。

人見知りなマディではありましたが、ビッグ・ビルの人柄と滲み出る「頼れる兄貴臭」にすっかりほだされて、ミシシッピから出てきて間もないこと、ブルースで成功したいが、今のところ自分のスタイルでは誰にも相手にされず、むしろ冷たく扱われていることなどを話し込みました。

「つうことはアレだな、生活もカツカツだろう。よしわかった、俺に任せろよ兄弟」

と、ニッコリ笑ったビッグ・ビルは、マディに色々な仕事を紹介したり、住まいの面倒を見たり、ミュージシャン仲間を紹介したり、それこそ手取り足取り何もかも世話をしたといいます。

それからマディはエレキを手にし、それまでの軽快なジャズ系アレンジのシカゴ・ブルース・サウンドの常識を覆す、タフでワイルドで目一杯泥臭くかつトンガッた新たな”電気化シカゴ・ブルース”を作り出し、ご存知のようにブレイクします。

マディの”親分”であるビッグ・ビルは、目をかけたマディのブレイクを大いに喜び「アイツは大したヤツだ、いつかはやると思ってた」と、周囲に語っていましたが、マディの新しいスタイルのブルースの成功は、結果としてビッグ・ビルのスタイルを”前の時代のもの”として彼方へ追いやることにもなってしまいました。

けれどもビッグ・ビルはそんなことちっとも意に介すことなく、自分はフォーク・ブルース・ブームの再評価時代に”ミシシッピの農夫兼ブルースマン”という与えられたキャラクターにも躊躇なくこなしながら、可愛い子分の成功を喜んでおりました。

マディは口には出さずとも「あぁ、結果的にそうなってしまったとはいえ、人気商売の宿命だとはいえ、ビッグ・ビルを辛い境遇に追いやってしまったなぁ・・・若い頃の恩返しも含めてあの人にはまた華やかな第一線で人気者になってもらわないと・・・」と、きっと思っていたことでしょう。




【収録曲】
1.テル・ミー・ベイビー
2.サウスバウンド・トレイン
3.ホエン・アイ・ゲット・トゥ・シンキング
4.ジャスト・ア・ドリーム
5.ダブル・トラブル
6.アイ・フィール・ソー・グッド
7.アイ・ダン・ガット・ワイズ
8.モッパーズ・ブルース
9.ロンサム・ロード・ブルース
10.ヘイ・ヘイ

ところがそんなことをマディが考えているうちに、ビッグ・ビルは1958年、喉頭がんで死去してしまいます。

その一報を受けてマディがすかさず「追悼盤」としてレコーディングしたのが本アルバム「シングス・ビッグ・ビル」なのであります。

当時はブルースなんて「ヒット曲が溜まったらそれを集めたアルバムをリリースする」という時代に「いや、こういうコンセプトで作りたいんだ!」と、我を通すことが出来たのも、マディの人気ならではのことでありましょうが、そんなことよりもとにかく

「ビッグ・ビルという人はな、みんな知らないかも知れないが、シカゴでいち早くブルースの歴史を作った凄い人だったんだ!このオレがこの世で一番尊敬してるんだ!ということを世の中に知らしめたい!!」

という気持ちが先に立ったんでしょう。全体的に統一された空気感の中で、ビッグ・ビル作曲の素晴らしい楽曲に、マディ渾身の力強い喉が炸裂する、物凄い希薄に満ちた一枚に仕上がっております。

実はこのアルバムで、マディはトレードマークのボトルネックをあえて封印(ビッグ・ビルはボトルネック使わなかったので、それに倣ったのでしょう)、そしてバンド・サウンドも歪みやエコーなどの”ギラギラな成分”を敢えてひかえめに、1930年代のブルースに歪みの少ない音であえて挑んでおります。

ところがところがこれが全然古さを感じさせない、むしろいつもより気合いの入ったマディの豪快なシャウトを中心に、いつものマディよりもちょいと小洒落たバンドの音がギュッと凝縮されて、これもまたリアル・ブルースと納得させる見事な演奏です。

シカゴ・ブルースの王者マディの成功の大元にビッグ・ビルあり、ブルースファンの皆さんにはぜひこれは知って頂きたいエピソードなんですが、やっぱりアレですよね、音楽ってスタイルとかテクニックとかもちろん大事ですが、それ以上に「気持ち」ですよね。





『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
http://ameblo.jp/soundspal/
posted by サウンズパル at 19:30| Comment(0) | TrackBack(0) | ブルース | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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