2016年10月11日

ドクター・ドレー クロニック

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ドクター・ドレー/クロニック
(Death Low/ビクター)


さて、前回スヌープ・ドッグの1993年のデビュー・アルバム「ドギー・スタイル」をご紹介し、皆さんには90年代から2000年代にかけて怒涛の快進撃を繰り広げた”ウェッサイ”と呼ばれるアメリカ西海岸ヒップホップの魅力をほんの少しお伝えしたような形になっておりますが、今回は

「うわぁー、しまったぁー、西海岸といえばスヌープより先にコイツだろってことを言うの忘れたー!!」

な、決定的名盤、とにかくコレがなければウェッサイも西海岸発のギャングスタ・ラップも恐らく何も始まらなかっただろう。いや、始まったとしても10年ぐらい送れて「何か、西の方ではこんなスタイルのヒップホップが流行ってるらしいよ」ぐらいで終わってたかも知れないとは本気で思います。

はい、1992年リリースの、稀代のトラック・メイカー、ドクター・ドレーのファースト・ソロ・アルバムにして、西海岸発の最高にディープでキャッチーでハイセンスなヒップホップの雛形となるすべての要素が詰まったエポック・メイキングな決定盤であります「ザ・クロニック」を、本日はご紹介いたしましょうねー。




【収録曲】
1.ザ・クロニック (イントロ)
2.ファック・ウィズ・ドレー・デイ(アンド・エヴリバディズ・セレブレイティン)
3.レット・ミー・ライド
4.デイ・ザ・ニガズ・トゥック・オーヴァー
5.ナッシン・バット・ア・G・サング
6.ディーズ・ヌーツ
7.リル・ゲットー・ボーイ
8.ア・ニガ・ウイッタ・ガン
9.ラッタッタッタッ
10.ザ・$20・サック・ピラミッド
11.リリカル・ギャングバング
12.ハイ・パワード
13.ザ・ドクターズ・オフィス
14.ストランディッド・オン・デス・ロウ
15.ザ・ローチ (ザ・クロニック・アウトロ)
16.ビッチズ・エイント・シット [BONUS TRACK}

スヌープの記事で「言うほどギャングスタ要素ない」と書きましたが、ドレーはそもそもN.W.A.というゴリゴリのギャングスタ・ラップのグループの中心メンバーで、このグループは徹底して反権力・喧嘩上等なスタンスであり、その過激で暴力的なリリックは社会問題にまでなって、警察やFBIからも徹底してマークされていたほどでした。

N.W.A.は1986年に結成され、91年にメンバー内のいざこざが原因で解散しますが、ドレーはいち早くソロとして活躍することを具体的に考え、自己のレーベル「デス・ロウ」を立ち上げて、そのボスマンとして君臨します(経営者はシュグ・ナイトというゴリゴリのギャング、マジでワル)。

デス・ロウには設立当初からN.W.A.時代からの関係者や、N.W.A.を聴いて育ったギャングなラッパー達が続々と集う訳なんですが、ここでドレーは「ギャングスタなポリシーは保ちつつも、音楽的にはより洗練された奥深いものを作りたい!」と、方向性を定める訳なんです。

元々がファンクやソウル、ジャズの熱狂的な愛好家であったドレーは、これまで黒人音楽がどのような推移で若者文化の流行の先端でブレイクし、そしてまた新しい時代になるとどのような形で新たな流行が生まれていったかを、ストイックなまでに徹底して研究します。

ここでドレーが気付いたのは

「とにかくラップを進化させなければならない、そのためにはラップを引き立たせるシンプルでストーリー性に溢れたトラックを量産せねばならない。」

ということでした。

なので、ドレーのトラックはいずれもシンプルでぶっといビート、どんな局面でもそのフレーズがジワジワ効果的に響く中毒性の高いシンセや上モノのフレーズ、サビのラップをとことん盛り上げるキャッチーで盛大なコーラスという3点セットがもれなく付いております。

トラックにおける構想は完璧、でも待てよ?と思ったドレーは、自分の最大の欠点に気付きました。

それは、彼がラッパーとしては「普通」だったことです。

いや、ソロ作でもところどころ聴かれる彼のラップは、悪くはないんですが押しが弱く、雰囲気は上等でもインパクトに欠けるんです。

そこで彼は、デス・ロウに集まってくる多くの若いトンガッた連中から、ズバ抜けたセンスと持つ天才ラッパー、スヌープ・ドッグを見出します。

はい、ドクター・ドレーの記念すべき初のソロ・アルバムの本作なんですが、実はラップの主役はドレーが連れてきた、当時まだ無名の若者だったスヌープです。

彼のラップはタフでメロウで、どんなトラックの上でも自由に華麗に泳ぎ回り、語りギリギリの巧みな緩急で、ドレー渾身の華のある楽曲に見事魂を入れております。

特に代表作であるADなんかは、Gファンクの色褪せぬ名曲であり、ヒップホップ全体で考えても「これ以上、これ以外」がちょっと思い付かないほどのエバーグリーンな歴史的な「ラップ+練りに練られたトラック」のお手本のような曲だと思います。

ちなみにこのアルバムとスヌープの「ドギー・スタイル」でアメリカのヒップホップシーンは、一時的に「西海岸一色」になりました。

本来敵対してるはずの東海岸の若者達も「アレは最高にクール」と言って、ドレーやスヌープのレコードを買いまくってたんですね。そこに危機感を覚えた東海岸のヒップホップ関係者が総力を挙げて作り上げたのが、Nasの「イルマティック」だったりします。

ちなみにGファンクの”G”は、アタシずっと「ウォーレン・Gの"G"」だと思ってたんですが、ゲットーの"G"らしいです。



(このサビのコーラスは、ヒップホップ好きなら一度は口ずさんだことがあるでしょう)


『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
http://ameblo.jp/soundspal/
posted by サウンズパル at 20:32| Comment(0) | TrackBack(0) | HIPHOP | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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