2016年10月28日

ジョニ・ミッチェル ミンガス

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ジョニ・ミッチェル/ミンガス
(ワーナー・ミュージック)

チャールス・ミンガスをご紹介しましたので「ミンガス」といえばコチラの名盤を紹介しない訳にはいかんでしょう。ジョニ・ミッチェルが1979年にリリースした、憧れのジャズとチャールス・ミンガスへの目一杯のオマージュを幻想的なサウンドに込めた、ポップスとジャズの間を美しく浮遊するそのタイトルも「ミンガス」でございます。

ジョニ・ミッチェルという人は、1960年代にデビューした女性シンガー・ソングライターです。

透き通るハイトーンのヴォーカル、非常に高い文学性を持った歌詞にピッタリの知的でかつ自由闊達な雰囲気の楽曲と、独自のチューニングを施したギターを自在に操るスタイルで、当時のフォーク・シーンに革命をもたらした凄い人なんですけど、その音楽性は70年代半ば以降、アコースティックなアレンジやフォーク調の曲に捉われない、より自由なものへと進化させてゆくんですね。

シンガーとして、作曲家として、ギターの名手として、詩人として、そして画家として・・・彼女の個性の塊のような声にうっとりして、その才能の底のなさを思うといつもドキドキしてしまいます。68年のデビュー作「ジョニ・ミッチェル」から近年の作品に至るまで、どの作品も自由で心地良い風が吹いているのを感じると共に、創造に対する彼女の徹底してストイックな姿勢が感じられて心地良く身が引き締められる気持ちに、アタシはいつもなるのです。

さて、そんなストイックなアーティスト、ジョニ・ミッチェルにとって、自身をインスパイアさせてくれる素晴らしい音楽は、どれも傾倒に値する神聖なものでした。

彼女はデビュー当初、優れたフォーク系ポップスの歌い手でしたが、既にその頃には世界中のあらゆる音楽を聴いて感動し、特にジャズやブルースなどのブラック・ルーツ・ミュージックには、一言では言い表せないほどの大きな感銘を受けていたそうです。

そんなジョニが、ジャズ界における天才的なアーティストであり、コチラも作品というものに対しては恐ろしくストイックな身上を持っていたチャールス・ミンガスと出会ったのは、ミンガス自らが執筆した自伝「敗け犬の下で」がきっかけでした。



この本は、若き日のミンガスとチャーリー・パーカーやセロニアス・モンクといったモダン・ジャズ・レジェンド達とのリアルな回想を交えた黎明期のモダン・ジャズ・シーンの様子が生々しく描写されていて、ミンガスがというよりは、同じ時代のジャズマン達が何と戦い、葛藤していたかが実に迫ってくる良書ですので、ジャズにちょっとでも興味がある人は読んでいただきたいのですが、ひとまずジョニの話に戻ります。

ジョニがミンガスの本やレコードに、決定的な衝撃を受けて「ぜひ共演したい!!」と申し出た・・・と思われがちなんですが、1970年代半ばからジャズに傾倒して、ジャコ・パストリアスやパット・メセニーらとの共演作を既にリリースしていたジョニのアルバム(恐らくは「逃避行」「ドンファンのじゃじゃ馬娘」辺りか)を聴いたミンガスの方から感心して「このコはいいね、機会があれば是非ともこのコのために曲を書きたい。いや、書かせろ!」と、申し出た。というエピソードがあります。

実はミンガスは1970年代後半には持病が悪化して演奏活動が出来なくなっていたんですね。だから自宅で療養しながら曲を書くことをその時のライフワークにしていたのです。

で、ジョニがミンガスの所に通うような形で打ち合わせを重ね、ミンガスの新曲や、代表曲の「グッド・バイ・ポークパイ・ハット」などをジョニが歌うということで、話はトントンで進み、更に演奏するミュージシャン達は、ジャコ・パストリアス、ハービー・ハンコック、ウェイン・ショーター、ピーター・アースキンら、ジョニのお気に入りで、ミンガスも認めるジャズ/フュージョン系の実力派達で行こうという風になりました。

レコーディングは順調で、ジョニもミンガスも納得の作品が出来上がろうかというその時、ミンガスが病のため、1979年1月に死去しましたので、このアルバムは図らずもミンガスの追悼盤になってしまいました。






【収録曲】
1.ハッピー・バースデイ 1975
2.ゴッド・マスト・ビー・ア・ブーギ・マン
3.葬儀
4.ア・チェアー・イン・ザ・スカイ
5.ザ・ウルフ・ザット・リヴズ・イン・リンジー
6.アイズ・ア・マギン
7.スウィート・サッカー・ダンス
8.コイン・イン・ザ・ポケット
9.デ・モインのおしゃれ賭博師
10.ラッキー
11. グッドバイ・ポーク・パイ・ハット

アルバムは、ミンガスと奥さんのスー・ミンガスが、誕生パーティーで無邪気に掛け合う会話から始まります。その後の展開がどのようになるのか、このオープニングからは全く想像すら出来ませんが、これは見事なジャズ・アルバムです。

といっても、単純に「ポップスの人がジャズ唄ってる」とかそんな生ぬるいものじゃなくて、ジャズのエッセンスと、素晴らしいジャズ・ミュージシャン達の本気の演奏力を借りながら(特にジャコのベースが凄いんですよ、彼の参加してる作品の中ではこのアルバムは屈指の出来です)、彼女が持つ淡く幻想的な世界観が全くオリジナルな雰囲気と、どこまでも深く静かに拡がってゆくみずみずしさをたたえながら、儚く美しく展開していきます。

裏ジャケに描かれたジョニ作の絵「車椅子のミンガス」が、すごくいいんですよね。これを眺めながらぼうっと切ない気持ちに優しく包まれつつ、CDを聴くのがたまりません。



(ジャコのなめらかに唄うベースと、ジョニの叩き付けるギターの絡みに鳥肌。美しい・・・)


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『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
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posted by サウンズパル at 19:10| Comment(0) | TrackBack(0) | ロック/ポップス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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