2017年01月05日

J.S.バッハ ピアノ作品集(アルゲリッチ)

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J.S.バッハ/ピアノ作品集(アルゲリッチ)
(Grammophon/ユニバーサル)

ピアノをやっている人に話を聞くと

「もー、バッハやってる時が一番辛かった!」

と言います。

何でもバッハを弾く時は、もちろん間違えちゃダメ、その上で感情を込めないのはダメ、かといって感情を込め過ぎるのもダメ、譜面の支持通りに弾かないとピッチリ正確なリズムと強弱で作られた楽曲がてんでバラバラに聞こえてしまうからダメ。

・・・と、もうほんとに「ダメダメ尽くし」で大変なんだそうです。

バッハの何が大変かというとですね、聴いていると何となく分かるしさっきもチラッと言ったんですが、軸となる音符の長さがピッチリ均等に近いんですね。

しかも対位法といいまして(合ってるかしらん)、例えば右手がメインのフレーズをタラララと弾いている時に、左手は和音で伴奏じゃなくて、いわるゆ”ハモり”のフレーズを弾かにゃならん。

それも単純に均等にハモればいいというんじゃなくて、鳴っている音に対して均等に鳴らす時、駆け足で先導する時、やや遅れて輪唱みたいに絡まなければならない時・・・と、色々ありまして、もう読んでるだけでイヤでしょ?アタシも書いててやんなっちゃいます。

バッハの曲というのは、それだけ演奏する人によっては苦行なことこの上ない音楽なんですが、でも、だからこそ後の時代のクラシック全ての理論的な基礎となった訳ですし、ヘタすりゃジャズやロックに与えた影響は宇宙的だし、それより何より聴いていてこう特別なカタルシス、つまり今風の言葉で言えばちょっと特別なトリップ感とかトランス感とか、そういうのがいっぱい詰まった音楽の、これはもう最高峰に近いものなんですね、バッハは。

特にクラシック好きな訳でも何でもない人が「あ★*p×うぇ、バッハやばい・・・」と、中毒になってゆく生々しい現場をたくさん見てきているアタシとしては、全世界の「音楽聴いてぶっ飛びたい!」と思っている方には、こらもうハッパなんかよりバッハを・・・と、常日頃思っておりますが、あらいけないちょっと話が別の方向に行っちゃいそうだわということで話を強引に引き戻します。

バッハの、特にピアノ曲なんていうのは、それこそ本当に、例えばリストやらベートーヴェンやら、バッハよりもずっと後の時代の、構造的にとても複雑になった曲を弾く人達にとっても「とても難しい、ニュアンスを踏まえてエッセンスを出さねばならない」と、頭を抱えさせるものであるようで、特にバッハを弾くことに特化した「バッハ弾き」なる分野のピアニスト達がよく登場します。

有名どころではアンドラーシュ・シフ。この人はとても澄み切った音色と、スラスラと流れるような”正しい”演奏の中にしっかりと情感の味わいを感じさせる、いわば「誰も文句の付けようのないバッハ」を弾く人です。

一方でファンの多いのは、おなじみのグレン・グールド。この人の弾くバッハは、もう尾頭微々”独自の解釈”といっていいほど独創的で、でもアタシなんかはこの人のバッハの解釈というのは、ピアノが発明されていないバッハが実は本当にやりたかったことを天才ならではの洞察力と真面目な探究心で先読みして再現したのかなぁと思っております。

しばらくはアタシはこの両巨頭のピアノに親しみながら、バッハという素晴らしい音楽家の世界に浸ってのめり込んでトランスしてトリップしておりました。

といえばカッコイイのですが、実はあんまりクラシックに詳しくもないというのもあり、最初でいきなり「究極」を感じさせる2人の演奏を聴いてしまったので、他の人が弾くバッハは、ちょっと想像できなくて、手を出すのが正直怖かったというのはあります。

アルゲリッチのバッハを知ったのは”たまたま”でした。

アルゲリッチといえば、まずは何といってもショパンで、そのロマンティシズム溢れる楽曲に、相当な質量の情念をブチ込んで引きずり回すその壮絶な演奏に惚れていたアタシは、ある日何気に見たアルゲリッチのバッハのCDを見て「うわぁ、どんななんだろう・・・」と、しばらく想像を膨らませます。



【演奏】
マルタ・アルゲリッチ(p)

【収録曲】
(J.S.バッハ)
1.トッカータ ハ短調 BWV911
2.パルティータ 第2番 BWV826 Sinfonia
3.パルティータ 第2番 BWV826 Allemande
4.パルティータ 第2番 BWV826 Courante
5.パルティータ 第2番 BWV826 Sarabande
6.パルティータ 第2番 BWV826 Rondeau
7.パルティータ 第2番 BWV826 Capriccio
8.イギリス組曲 第2番 BWV807 Prelude
9.イギリス組曲 第2番 BWV807 Allemande
10.イギリス組曲 第2番 BWV807 Courante
11.イギリス組曲 第2番 BWV807 Sarabande
12.イギリス組曲 第2番 BWV807 Bouree I/II
13.イギリス組曲 第2番 BWV807 Gigue

サウンズパルでしばらく売れ残っていたCD、恐る恐る購入してみました。

はい「アルゲリッチが弾くバッハ」に関しては、あのバッハの楽曲を、アルゲリッチがガンガンに弾き倒す図しか想像できません。

更に恐る恐るCDをプレーヤーに入れてスタートボタンを押しました。


姐さん大変です・・・。


アルゲリッチ姐さんのバッハは、全く想像通りの「情念てんこ盛りのバッハ」。

しかし、その鍵盤にガンガン込められた激しい感情の質量は、アタシの予想なんざ軽く超えた、それはもうしばらく言葉を失うぐらいに凄まじいもの。

「これ・・・パンクだ・・・」

クラシック好きな方が聞けば怒られてしまうような言葉かも知れませんが、当時も今も、アルゲリッチ姐さんのこのバッハの演奏を表す言葉は、これしか知りません。

バッハの楽曲が、演奏家泣かせの完璧な構造を持つ”鬼”ならば、それに完全に真正面から挑みかかり、やや前にガッツンガッツン突っかかるようなアクセントでありながら、リズムや流れを一切乱すことなく、美しく狂おしい情感に満ちた右手と、容赦なく鍵盤に叩き付ける左手で、イメージを壮絶に塗り替えてゆくアルゲリッチ姐さんの演奏は、まるで美しい悪魔であります。

例えばピアノを先生に習ってる人がこんな風にガンガンに感情込めて弾いたらきっと怒られるでしょう。当然”習ってるレベル”の人がこんなことをやったら、感情に両手がついていかなくなって、演奏はたちまち破綻してしまうからです。

でも、アルゲリッチの演奏は破綻しません。バッハの時代はピアノがなく、ハープシコードのサスティンのない音で、平坦な演奏に、どうしてもなっていましたが、想像をたくましくすれば、もしもバッハの時代にピアノがあったなら、彼は秘めた感情を、ピアノを使ってこのように表現したかも知れない。そう思わせるぐらいに強靭な説得力がこの演奏にはあります。

それにしても聴く人を引きずり込んで話さない、魔力に溢れた演奏です。





(冒頭を飾るトッカータ ハ短調。これほんとに凄いんです・・・)



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『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
http://ameblo.jp/soundspal/
posted by サウンズパル at 13:16| Comment(0) | TrackBack(0) | クラシック | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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