
ソニー・クラーク・トリオ
(Time/Solid)
ジャズのピアニストの中で、不思議と日本でだけ異常に人気という人がおります。
それが今日ご紹介するソニー・クラーク。
1950年代のモダン・ジャズの典型的な”ファンキーで味わいのあるピアノ”であり、どちらかというと派手にダーッ!と弾きまくるタイプではなく、じんわりと情感を込めた一音で聴かせるタイプの職人的なタイプのピアニストなんです。
で、50年代とか60年代の、ジャズ全盛期の頃は「味があるよね〜」というタイプのピアニストってすごく多かったんですね。
ザッと名前を挙げますと、ジュニア・マンスだとかタッド・ダメロン、エルモ・ホープ、それからマイルス・デイヴィスは実はこのタイプのピアニスト大好きで、有名どころだけれどもマイルスのバンドにいたレッド・ガーランドやウィントン・ケリーなんかも実はこのタイプであります。
で、そのマイルスや初期のバンドのピアニスト達に多大な影響を与えたアーマッド・ジャマルなんかもいいですね。ジャマルの繋がりで言えば同じシカゴのARGOレーベルに一枚だけアルバムを残して儚く消えていったドド・マーマロサなんかも・・・あ、いや、キリがないのでこの辺にしておきますが、とにかく
「ジャズを聴いてみよう」
から
「自分だけの好きなジャズを見付けたい」
というステップを経るにあたって、こういった、まぁ簡単に言ってしまえば、渋く通好みな人達の演奏に
「うわぁ、何かわからんけどすごくいいわぁ〜」
となるのは凄く素敵なことなんですね。
おっとっと、話が大分横道を経てしまいそうなので、ソニー・クラークに戻します。
ソニー・クラークという人は、そんな”何かいいね”と言われてそこはかとなく愛されるタイプのピアニスト達の中でも、特に日本人に愛されるサムシング・エルスを持っております。
そのサムシング・エルスとは何か?ということになりますが、コレが
”そこはかとない哀愁”
なんです。
演奏の中で出てくるマイナー・コードを、ちょっとした間とタイミングでもって引きずるように切ない余韻を匂わせる独特の演奏と音色、それは一言でいえば”哀しさ”なんでが、といって哀愁タップリとかそんなのじゃなく、ファンキーな曲の中にジワッ、ジワッと染み込んでいる、本当の意味での”そこはかとない哀愁”であります。
その”そこはかとなさ”というのは、実はアメリカ人にはよーわからんらしく、日本人でソニー・クラークのファンが多いことを知ったアチラのジャズファンが
「ソニー・クラーク?うん、まぁ確かに味のあるいいピアニストだよ、でも何で日本でそこまで人気ダントツなのかがよくわからん」
と、首をかしげたという話もあちこちで読んだり聞いたりして、すっかりおなじみだったりするんです。
このクラークの”そこはなとない哀愁”をすっかり気に入ってかわいがっていたのが、ジャズではこれはもう支持率No.1の人気レーベル「ブルーノート」であります。
モダン・ジャズ・ピアノといえばこの人に影響を受けていない人はいない巨人、バド・パウエル直系の、よく跳ねるバップ・ピアニストでありながら、彼が繰り出すフレーズには、どこか後を引く切ない味わいがあった。
これを聴き逃さなかったブルーノートのオーナー、アルフレッド・ライオンは、クラークとすぐさま契約を交わし、その年(1957年)と翌年のうちに何と4枚のアルバムを作りました。
麻薬中毒で若くして亡くなったクラークが生涯に残したアルバムはたったの6枚なんですが、そのうち5枚がブルーノートでの作品であり、もう何か説明するのもまどろっこしいぐらいの、以下のアルバムなんかは、今でも大人気の名盤として多くの人に聴かれ、そしてこよなく愛されております。


クラークはそんなこんなで「ブルーノートを代表するジャズマン」と、我が国では認識されていて、その認識はおおむね間違いではないんですけど、実は、彼が整然にたった一枚だけ別のレーベルに残したアルバムがあって、そしてその一枚というのが、これがどう聴いても彼の本質を無駄なく浮き彫りにしたピアノトリオの名盤なのでご紹介します。
あ、散々ブルーノートの話で煽ってすいませんね(汗)「ブルーノートでのソニー・クラークに関しては明日以降気合い入れて書きますんで許してちょう。
【パーソネル】
ソニー・クラーク(p)
ジョージ・デュヴィヴィエ(b)
マックス・ローチ(ds)
【収録曲】
1.マイナー・ミーティング (take8)
2.ニカ (take5)
3.ソニーズ・クリップ
4.ブルース・マンボ
5.ブルース・ブルー (take3)
6.ジァンカ (take3)
7.マイ・コンセプション
8.ソニア (take1)
9.マイナー・ミーティング (take10)*
10.ニカ (take2)*
11.ニカ (take4)*
12.ブルース・ブルー (take1)*
13.ジァンカ (take1)*
14.ソニア (take3)*
* ボーナストラック
はい、1961年録音の「ソニー・クラーク・トリオ」であります。
実は同じタイトルでブルーノートからもピアノトリオのアルバムが出ていてややこしいので、アタシは「TIME盤」と呼んでおります。えぇ、そうなんです。クラークが、亡くなる2年前に突如フイッと違うレーベルで吹き込んだアルバムで、時期も時期だけにあぁそうか、ブルーノートとの契約が切れたから他のレーベルで仕事してたんだ。と思ったら、この後に再び古巣のブルーノートで「リーピン・アンド・ルーピン」というラスト・アルバムを吹き込んでいるので経緯はよくわかりません。
アタシも最初は
「ふーん、クラークのブルーノート以外でのアルバムねぇ。よくわからんけどカネがなくなったからテキトーに吹き込んだ”日雇い”の仕事なんじゃね?」
とか、結構ナメてかかってたんですが、ナメてました、すいません。コレ、クラークの本気が他のどのアルバムよりも凄まじく感じられる名盤です。
まず、クラークがトリオで一緒にレコーディングしているのが、ジョージ・デュヴィヴィエ(ベース)とマックス・ローチ(ドラムス)という二人の御仁。
実はこの2人、ビ・バップ時代からのベテランで、クラークにとっては最高に影響を受けて尊敬するバド・パウエルとしょっちゅうチームを組んで演奏していた、まさに理想のリズム隊なんです。
ズッシリと安定感抜群のフレーズを繰り出しながら、アドリブに即応して絶妙な”ハズし””スカし”が天才的なベースと、シャープなドライヴ感で気持ちよく突っ走るドラム。
この2人が繰り出す独特のエッジの効いたリズムに乗って、クラークはいつになくハードに、無駄のない音色で”ビシッ””バシッ”と、ジャズ・ピアノのアドリブとしては実に的確でクールなフレーズを次々に決めてくれるんです。
尊敬する先輩達のすこぶるカッコいいビートに、本能剥き出しで迫る気合いの入ったピアノは、それまでのクラークとは全く違う、いや、どっちがいいとかじゃない「これでしか聴けない」味わいです。
で、全曲オリジナル(おぉ!)で固めたクラークの楽曲もいいんですよ。例によって彼の楽曲は、カッコ良くスイングする中にやっぱり哀愁がじわっと滲み出てくる「あぁ、せつねぇ!」があります。はい、このアルバムでは、哀愁ありまくってます。
「TIME盤ソニー・クラーク・トリオ」は、まろやかな哀愁ピアニストのキャラクターをかなぐり捨てたクラークの、孤高で厳しい面が見られる、モダン・ジャズ・ピアノの美しいワン・アンド・オンリーなのです。
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