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2017年07月29日

ジョン・コルトレーン The 1962 Graz Concert

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John Coltrane Quartet/The 1962 Graz Concert Complete Edition

(IN Crowd)


1950年代から60年代を生きたジャズマン達のインタビューなどで

「いやぁ、60年代はアメリカじゃあ仕事がなくて大変だったしクラブの客の態度も相変わらず酷いもんだったけど、ヨーロッパはいいよね。どこ行ってもみんなちゃんと聴いてくれるしギャラも良かった」

という話を読むことがあります。

アタシなんかが今の時代から見たら60年代のアメリカはモダンジャズが成熟して、それこそスウィング時代から活躍しているベテランから、前衛やR&B/ソウルジャズとか新しいことをやっている若手まで、ブ厚い層でそれこそ百花繚乱、クラブは毎夜素晴らしい演奏が繰り広げられていてジャズ人気すごかった。

と思うのですが、どうやらそれは違うみたいで、流行の移り変わりの目まぐるしいアメリカでは、音楽を主に聴く若者層の関心がロックやソウルなど新しい音楽に急激に向かい、ジャズマンはよっぽどの大物でなければレコードやコンサートの収入で豪勢な生活を送ることは出来ず、クラブやツアーを回っての小さなコンサートなどで生計が立てば良いのですが、それもままならない人も多くおりました。

それと、アメリカには「ジャズはクラブで飲食と会話を楽しみながら聴くもんだ」という文化風習が根強く残っておりまして、それはそれでまぁいいのですが、モダン・ジャズ以降高まったミュージシャン達の

「ちゃんと鑑賞してもらうための音楽を演りたい」

という意識とそういったクラブ文化の名残りはクラブや聴衆とミュージシャン達の間に若干の不協和音を生じさせるようにもなっていったのです。

コルトレーンやマイルスは、当時のジャズ界で先陣を切って”鑑賞のための音楽を作ろう”と頑張っていた派です。

ところが頑張って良い曲を作っても、良い演奏をしても、いつも自分達がやっているクラブでは、真剣に聴いてくれる人達はいても、酔ってくだをまいたりおしゃべりに集中している人達も多くおりました。

簡単に言うと60年代、ジャズの芸術性はどんどん研ぎ澄まされて高まったいた。けれどもアメリカではそれを正面から受け止める器が社会に乏しいばかりではなく、ジャズ人気そのものが下火になっていたために、ミュージシャン達は真剣に作った音楽をキチンと聴いてもらえないわ生活はどんどん苦しくなるわでえらいこっちゃだった。

ということですな。

ところが海の向こう、ヨーロッパでは、ジャズは

「アメリカの最先端のオシャレでカッコ良くて、芸術精度が高い音楽」

として、60年代正に人気が沸騰しておりました。

アメリカでは黒人ジャズミュージシャン達の待遇の悪さには、人種差別というのっぴきならないものが根底にあったりしましたが、ヨーロッパでは白人であれ黒人であれ、ミュージシャンはきちんと”音楽家”として待遇されます(ヨーロッパは音楽に限らず職人や一芸に秀でた人に対するリスペクトは伝統的に篤いらしいのです)。

これは同じ時代の日本もそうですね、アート・ブレイキーだったか

「日本行ったらどこ行ってもオレらは人気者で、みんな好意的で差別もないし、駅員からその辺の街のにーちゃんまでオレらのこと知ってて”サインくれ”ってレコード持ってきたりするんだぜ。いや、おったまげたね。国賓か?アメリカでの俺らの扱いは何なんだろうと思うよね」


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(画像はイメージです)

というようなことを言ったとか。

ともかくアメリカとヨーロッパや日本でのジャズマンの待遇というのは素晴らしく、演奏もちょっと名の知れたミュージシャンだったらコンサートホールでマナーの良いお客さんの前でやらせてくれる。

だもんで60年代にはジャズマンのヨーロッパ・ツアーや、もういっそのこと移住しちゃえ!というのが流行りました。

さて、そんな60年代、ソロ・アーティストとしての評価を固めてようやく”一流”から”格別”の仲間入りをしたコルトレーンも、Impulse!レコードと契約したその年の1961年に最初のヨーロッパ・ツアーを行い、エリック・ドルフィー参加のこのクインテットは各地で熱狂を持って迎えられ帰国。

ヨーロッパでの反応や評価に気を良くしたコルトレーンとImpulse!レコードは、続けざまに翌62年にはドルフィーが抜けてカルテットになったグループのヨーロッパ・ツアーを行います。




【パーソネル】
ジョン・コルトレーン(ts,ss)
マッコイ・タイナー(p)
ジミー・ギャリソン(b)
エルヴィン・ジョーンズ(ds)

【収録曲】
(Disc-1)
1.Bye Bye Blackbird
2.The Inceworm
3.Autumn Leaves
4.Everytime We Say Goodbye
5.Mr.PC

(Disc-2)
1.I Want To Talk About You
2.Impressions
3.My Favorite Things


さてさて、そんなコルトレーンのヨーロッパ・ツアー音源は、公式非公式を問わず、様々なレーベルから素晴らしい音盤が世に出され続けておりますね。

本日ご紹介いたします「1962 Graz Concert」は、1962年の二度目のヨーロッパ・ツアーで訪れた、オーストリアのグラーツで行われたコンサートを収録した、これもLP時代からその優れた演奏密度の濃さに定評がある私家盤コルトレーンの定番アイテムであります。

グラーツという街はオーストリアで二番目に大きな都市で、街には美術館や劇場が立ち並ぶ、いかにも歴史と伝統と文化に育まれたヨーロッパの古都。

この街がどれだけ音楽に対する意識が高かったかといえば、クラシック界におけるカール・ベームやニコラウス・アーノンクールなどを輩出したといえば、音楽好きの方には少しピンときてもらえるでありましょうか。

つまりそういう、住民のほとんどがクラシック音楽に自然と慣れ親しんでいた街で、ちゃんとしたコンサート・ホールで、ガッツリ”聴き”に来ているお客さんを相手にしたコルトレーン・カルテットの良い意味での緊張が、演奏を通して伝わってくるライヴです。もちろんお客さん達の反応も最高なんです。

まず、このアルバムでは「マイ・フェイバリット・シングス」や「ミスターP.C.」「インプレッションズ」等の、この時期のコルトレーンお得意のレパートリーに加え、マイルス・バンドの定番曲「バイ・バイ・ブラックバード」や、コルトレーンがやってるのはほとんど貴重な「枯葉」が聴けます。

その「枯葉」なんですが、これがもう凄い。

元々はシャンソンの曲ですが、小粋でちょっぴり切ないジャズのスタンダードとして今は有名です。で、多くのジャズマンのカヴァーを聴いても、ほどんどが小粋でちょっぴり切ない演奏なんですが、やはりというか何というか、コルトレーンの手にかかったらそうはいかんのですよ。

まずは早めのテンポに乗って、マッコイのエモーショナルなピアノ・ソロ。そして満を持してコルトレーンのソプラノが「びひゃらぁらぁあぁぁぁーー!」と入ってきて、あとはもう

『私達が友達だったあの楽しかった日々』も

『シャベルに集められた枯葉』も

『想い出と後悔』も

『忘れてはいない、あなたが唄ってくれたあの唄』も

(*いずれも原曲の歌詞です)

ぜーんぶコルトレーンのソプラノが吹き散らかす灼熱の音符にかっさらわれて、どこかに飛び散ってしまっております。

もうね、コルトレーン、これ、原曲の歌詞とかムードとか、何っにも考えとらんですよ。ロマンチックなスタンダードのメロディーなんか、コルトレーンからしたら、壮大なアドリブの実験と手前のスパークのための材料とか燃料でしかない。

そういうところが最高なんですね。もうアドリブに全て賭けとるぞ、ワシにはこれしかないんぞ、という猪突猛進で一本気なスタンダード解釈はコルトレーンにしか許されないものだと思います。だって聴いてると原曲とかどうでもよくて、ひたすら演奏そのものの熱気に引き込まれますもんね。

そしてアタシが個人的にグッときたのは、Disc-2の「アイ・ウォント・トゥ・トーク・アバウト・ユー」です。

色んなアルバムで演奏されるコルトレーンお気に入りのバラードで、エンディングまでの長い無伴奏のサックス独奏がこの曲の肝と言われてます。

で、やはりこのヴァージョンでも、エンディングまで結構な時間を無伴奏で吹き切っていて、その瞬間瞬間にアドリブで紡ぎ出されるメロディが、他の盤での演奏と比べても、絶句するほど格別に美しいんです。

そしてこの感動の名演からテンポを上げての「インプレッションズ」「フェイヴァリット・シングス」が続きます。静かに固唾を飲んで聴き入っていた聴衆が、、最後の最後で割れんばかりの万雷の拍手を送ります。ライヴ盤ですとクラブやフェスのくつろいだ雰囲気がいいなぁとか思いますが、このアルバムはお客さんの真剣な意識が、コルトレーン・カルテットの演奏を、ひたすら高密度/高純度なものに高めてる。そんな印象が感動と共に強く脳裏に焼き付きます。




(こちらは1961年、ドルフィー入りクインテットでのヨーロッパ・ツアーの音源)


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『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』


サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
http://ameblo.jp/soundspal/
posted by サウンズパル at 11:57| Comment(0) | TrackBack(0) | 大コルトレーン祭 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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