2017年08月29日

ジョー・ヘンダーソン イン・ン・アウト

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ジョー・ヘンダーソン/イン・ン・アウト
(Bluenote)

ジャズの歴史には、1960年代のコルトレーンブレイク後に出てきた、いわゆる”ポスト・コルトレーン”という若手サックス奏者達がおりました。

まずはコルトレーンが所属していたImpulse!レコードで活躍していた、アーチー・シェップ、ファラオ・サンダースといった人達で、彼らはコルトレーンの演奏スタイルというよりは、その演奏から感じられる神秘的な部分や、60年代の”時代の闘士”のように言われていたカリスマ性などにシンパシーを覚え、自己の存在やパフォーマンスを磨いていった人達であります。

一方で、ジャズのメインストリームに位置し、モダン・ジャズの数々の名盤を作り上げてきたBLUENOTE、ここで気鋭の活躍をしていた”ポスト・コルトレーン”の人達もおりました。

代表的なのが、ウェイン・ショーターとジョー・ヘンダーソンであります。

この人達は、コルトレーンの神秘的なムードや、その昔盛んに言われていた”精神性”みたいなものはとりあえず置いといて、その”テナー・サックスなのにズ太く泥臭い方向へ行かない、シャープでソリッドな質感の演奏”をひたすら自己のスタイルに取り込んで、そこからオリジナルな個性を築いていった人です。

特にこの2人に関しては、50年代末にマイルス・デイヴィスが大成させた”モード”の使い手でありました。

モードってのは一体どんなものなのか?それを説明するとややこしい音楽理論の話になってしまいますので今回もザックリ行きますと「要はスケール(音階)を自由に使え。ただし演奏が壊れない範囲でセンスよく」という考え方でありまして、マイルスは自由なメロディ展開を促すために、曲からコードそのものを大幅に削減してしまった。で、そんなマイルスのバンドで一緒にモードの開発にいそしんでいたコルトレーンは、逆にコード・チェンジを細かく激しくした上で、更に速く激しい自分のソロを限界まで敷き詰めちゃった。

で、大事なのは、彼らがそんな新しい理論を発明しちゃったよ。ということではなくて

「ほうほう。で、そのモードってやつをすることによって演奏はどうなっちゃうの?」

という方ですよね。

一言で言うと

「マイルス達の演奏には、クールで都会的な独特の浮遊感が出てきて、何だかそれまでのジャズと違って知的な質感になった」

「コルトレーンの演奏は、アドリブの体感速度が急上昇して、更にどこへ飛んでいくか分からないスりルが加味された」

ということになるんです。

それまでの、たとえばビ・バップやハード・バップ等のモダン・ジャズだと、テーマ→アドリブ→盛り上がり→テーマみたいに、曲の起承転結がハッキリしておりました。

コードに合ったスケールを使って演奏すれば、それはおのずからそうなるんですが、モードなら”和音にちょっとでも関係ある音なら何でもOK、着地しなくてもセンス良くキメたらOK”ですから、縦にピシャッとハマるはずの音がすら〜っと横へ伸びてったりする。それがとてもクールで新しい”感じ”に聞こえる。

まぁ多分この抽象的でヘタクソな説明で「おぅ、わかるぜぇ」となる人はあんまいないと思いますんで、もっと簡単にいえば

「今っぽくて頭のよさそうな音楽に聞こえる種類のジャズは、モード奏法使ってるかもだぜ♪」

と、言ってシメます。はい、何事も理屈よりフィーリングが大事です(苦)

で、今日皆さんにご紹介するのは、そんな”コルトレーンのフォロワーにして、モードの使い手”ジョー・ヘンダーソンですね。

この人は、一言でいうと「とっても面白い人」です。

ゆらゆらフラフラして、終始どこへ行くか分からないフレーズが、いきなり”キメ”のところで最高にキャッチ―なフレーズに化けたり、音に情念をほとんど込めずに淡々と弱い音で吹いてるなーと思ったら、聴いたあと何か不思議な感触を耳に残してくれる。でもそれが具体的になんなのかは結局分からない。

うん、とにかくクセはあるしアクもあるんだけど、まるでイカのようにその音色やフレーズが掴めない。でもその”掴めなさ”こそが個性で、故にとっても面白いと、聴く人に思わせてくれる、そんな稀有な個性を持っておる人であります。

そのフレーズ展開からは、コルトレーンから強い影響を受けているのは分かるのですが、よくよく聴くと「あらゆる点でコルトレーンとは逆のことをやってる人」とも言えます。

例えば音色。

マウスピースを深くガッと加えて、サックスから出てくる音にどれだけの感情をぶっ込めるかで勝負しているような、とにかく熱い、暑い、厚い音を出すのがコルトレーンだとしたら、ヘンダーソンのトーンは「あれ?」っていうほど軽やかなんです。

どんなに感情が高ぶっても、盛り上がる展開でも、音量は一定でフレーズが感情に乗っからない。

えぇ?じゃあ機械的でつまんないじゃん?

という人もいるかも知れませんが、それがその逆で、常に一定の音量、あえて抑揚を抑えたフレーズは、楽曲の核を見事に引き立たせて、アドリブは掴みどころがないのに、素材本来の味で唸らせるオーガニック料理職人みたいな、不思議なナチュラル感をこの人出すんですよ。



(↑ホレス・シルヴァーの「ソング・フォー・マイ・ファーザー」という有名な曲がありますが、コレのソロを聴いてください。凄くかっこいいです)



【パーソネル】
ジョー・ヘンダーソン(ts)
ケニー・ドーハム(tp)
マッコイ・タイナー(p)
リチャード・デイヴィス(b)
エルヴィン・ジョーンズ(ds)

【収録曲】
1.イン・ン・アウト
2.パンジャブ
3.セレニティ
4.ショート・ストーリー
5.ブラウンズ・タウン


アルバムとしてまず面白いのは、マッコイ・タイナーとエルヴィン・ジョーンズという、憧れのコルトレーンのバックをメンバーに迎えて、1964年にレコーディングした「イン・ン・アウト」。

64年といえば、マッコイとエルヴィンが、コルトレーンのバックでバリバリに活躍してた頃。

「オレらの大将と似たよーなプレイするっていうジョー・ヘンダーソンってヤツなんだけど、一緒に演奏してみたらドカンとまっすぐな大将と真逆のウネウネクネクネしたテナー吹いて、アレ面白いなー」

と、二人は思ったはずです。

両名ともユニークな構造を持つ変化球尽くしのヘンダーソンのオリジナル曲、良心的なハードップでファンキーなケニー・ドーハムの曲で、いつもの”コルトレーン風味”全開でガンガンやってますが、”ふにくね”なヘンダーソン、堅実なドーハムのデコボココンビのボケと柔らかい突っ込みみたいなアドリブの応報に楽しく乗ってるような感じがしますし、コルトレーンのバックでやってることとほぼ同じことやっていながらも
コチラは妙にスタイリッシュでおしゃれーな感じがするんですよね。

最初から最後まで、とにかくポップな”掴み”には溢れてるんですが、結局何がどうカッコイイのか、ギリギリの所で言葉にさせないヘンダーソンの、優しい呪いがかかったような、そんな世界は何故だかやみつきになってしまいます。


ところで「サックスでずっと一定の音量をブレずに出す」って、実は一番難しいことなんですよ。それをしれっとやってのけている、更に音量ほぼ一定でありながら演奏が全然無機質にならないって、アンタ実は相当凄いんじゃないか・・・。と、最近アタシは畏敬の念でジョー・ヘンダーソン聴いてます。

コルトレーンの単なるエピゴーネン、ではないよなぁ・・・。

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『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
http://ameblo.jp/soundspal/
posted by サウンズパル at 19:12| Comment(0) | ジャズ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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