
ライトニン・スリム/ルースター・ブルース
(EXCELLO/ユニバーサル)
ブルースといえばシカゴにテキサス、ミシシッピ。ちょいとツウなら「メンフィスはどうだ?」「いやいや、デトロイトも捨てがたい」といった感じで、楽しく語ったてるうちに地名が出てくるもんでございます。
そう、皆さんにはぜひお手元にあるなら(今ならネットがある)ぜひ、ブルースを聴きながら、そのブルースマンがどこの人かを地図で確認しながら聴いてみてほしいんです。
今からおよそ100年昔、ディープ・サウスと呼ばれるミシシッピやテキサスで生まれ、徐々に南部全体、そして色んな街を経由して北部のシカゴや西海岸に運ばれていったブルースは、行った先々で独自の進化を遂げて、まったくその土地特有の風味を纏うようになりました。
後の時代のロックやソウルなんかでも、土地の名前を頭に付けた(フィラデルフィア・ソウル、リバプール・サウンド、めんたいロックなど)ものがあって、それぞれ聴くだけで「あ、この音はこれだね♪」と分かるものが多くありましたね。そんな感じでブルースも、人の個性と土地の空気感みたいなのが、最高にいい感じの味わいとなってギッシリと詰まって外側にむわんと漂っておるんです。
で、そういった「土地の風味」という意味で、シカゴやテキサスにも負けていない、独自の味わいを持った土地が南部にあります。
そこはルイジアナ!
テキサスとミシシッピに挟まれたこの州は、南の先っぽにジャズが生まれ育ったニューオーリンズがあって、更に歴史をたどってみれば、ほとんどがイギリスの植民地だったところからアメリカは始まってるんですが、ここだけ何と、フランスが入植して独自の風習文化を育んでいたという、他のアメリカの州と比べてかなり特殊な事情があります。
更に外海に開けた港町で、アメリカ全土はおろかカリブ海の島々や南米大陸からも色んな文化が入ってくるニューオーリンズのハイカラと、北部のバイユ―と呼ばれる広大な湿地帯近辺の街で生まれたブルースとでは、また味わいが全く違うって言うんですから、これはバイユ―のブルース達を聴かねば収まりません。
この地のブルースの特徴といえば、高温多湿な環境ゆえか、とにかくユルいんです。
代表的なブルースマンに、前にもご紹介したスリム・ハーポという人がおりますが、この人は”ユルユルの大将”なんですが、ルイジアナ・バイユー地域はこの人だけじゃない、まーユルくてトッポい連中の巣窟でございます。
「あっついしジメジメしてるし、なーんかやる気おこんねー。どーせ外から人も来ないしー、ダラダラブルースでもやるべぇかー」
という姿勢においては、みんな一致団結してブレが全くありません。大体この地のブルースマンの芸名の付け方なんかも
・スリム・ハーポ → ハーモニカのカッコイイ男
・ライトニン・スリム → 稲妻のカッコイイ男
・レイジー・レスター → ダラケたレスター
・ロンサム・サンダウン → 何かせつねー夕暮れ
とか、軒並み
で、本日皆様にご紹介するのは、上から二番目(俺も大概やる気がない)のライトニン・スリムです。
ね「稲妻のカッコイイ男」なんたる名前かと思いますが、話聞いたらもっとなんたるごとで、この「ライトニン」の部分、実は

はぁい、ブルースでライトニンといえばこの人、のライトニン・ホプキンスです。
実はライトニン・スリム、芸名を付けるに辺り、お隣テキサスにいる人気者ライトニン・ホプキンスを前から
「カッコイイなぁ〜、俺もあんな風になりたいべ」
と、リスペクトしており
「じゃあ、俺も名前をライトニンにするべ」
と、まんまな芸名にしちゃった。
「じゃあ」
って・・・。
お、おぅ。多分ムシ暑くて名前考えるのが途中から嫌になったんだ・・・。
そんでもって堂々”ライトニン・スリム”を名乗ったこの男、何だよパクリかよ、と思うなかれ。単純に名前を考えるのが嫌だった(?)だけで、実力はすこぶる付きのホンモノであります。
1915年生まれといいますから、実はライトニン・ホプキンス(1912年生)や、マディ・ウォーターズ(1913年)ら、戦後ブルース第一世代と言っていい人達と、トシはあんま変わらんです。どころかロバート・ジョンソンですら、たったの4歳年上ですから、若い頃からさぞ活躍していた、或いはギター一本持って地元ではそこそこ名の通った存在だったのかと思いきや、何とこの人がギターを持ってブルースを本格的に歌い始めたのが、1940年、年齢でいえばとっくに中年の35歳になった頃。
それまで何やってたんだ!と突っ込みつつ、色々と経歴を調べても、実際何をやっとったかよーわからん。まぁ多分暑いしダルいので、テキトーに仕事しながらウダウダやっておったんでしょうな。
レコード・デビューしたのは更に14年後の1954年で、もうやがて40代の後半になろうとかいう時でありますから、人生というのは何が起こるかわかんない。
この時ライトニン・スリムやスリム・ハーポ、それから先に名前を挙げたバイユ―の「いい加減な名前の凄腕ブルースマン達」をまとめてレコードデビューさせたのが、ケンタッキー州にあったエクセロというレコード会社であります。
ルイジアナのブルースを、何でカントリー王国ケンタッキーのレコード会社が?と思うところですが、まぁそこは深く考えない。とにかくエクセロ・レコードが他のどの地域のサウンドとも似ていない、ルイジアナ・バイユ―地域のユルく独自のレイジーさに溢れたブルースを世にたくさん出してくれたお陰で、アタシ達もこの個性的なブルースを聴くことが出来るんです。
【収録曲】
1.ルースター・ブルース
2.ロング・リーニー・ママ
3.マイ・スターター・ウォント・ワーク
4.G.I.スリム
5.ライトニンズ・トラブルス
6.ベッド・バグ・ブルース
7.フードゥー・ブルース
8.イッツ・マイティ・クレイジー
9.スウィート・リトル・ウーマン
10.トム・キャット・ブルース
11.フィーリン・オウフル・ブルース
12.アイム・リーヴィン・ユー・ベイビー
13.ライトニンズ・ブルース
14.ジャスト・メイド・トゥエンティ・ワン
15.シュガー・プラム
ライトニン・スリムのブルースは、一言でいえばユルさは強烈にありつつも、やや筋ばった男らしい濁った声と武骨なギターのインパクトで、かなり泥臭いものであります。
いや、濁った声と武骨なギターが、バイユ―独特のユルいアレンジの毒気にあてられて”沼”と化してると言うべきか。そんなユルいけど薄くない硬派な味わいがこの人の魅力であり、また、この地のブルースに共通する味であると思っていただけると幸いであります。
「まずはこの一枚!」
として、エクセロ時代の代表作といってもいい、オシャレなニワトリジャケットが最高の「ルースター・ブルース」を聴きましょう。
実はスリムは、その歌い方やギター・プレイの部分はライトニン・ホプキンスに影響を受けておりますが、楽曲のほとんどは、マディ・ウォーターズに影響を受けております。
聴いてると「お、この曲はアレだね」と思える曲がいくつもあって楽しくなりますが、どうやらスリムはへヴィでギラついたシカゴ・ブルースの音を、ルイジアナで再現したかったと思えるフシがあります。
ピアノこそ入っていないけど(きっと湿気ですぐ調律がダメになるんだ)やさぐれたエレキギター、ひなびたハープ、ベースにドラムという鉄壁のバンド・サウンドは、ほとんど当時大人気だったシカゴ・ブルースのそれでありますが、ハープはどこか洗練とは程遠い、ほんわかしたトーンだし、ドラムはもっと何かべっちゃりしてるし、結果として「南部の、しかもかなり湿度が高い場所のサウンド」になっているところがいいんですよ。
自己をどんどん変化させていってオリジナリティを確立していくというミュージシャンは多いですが、影響を受けた大物(ライトニン・ホプキンスやマディ)の路線をやろうと思っても、やっぱりどうしてもオリジナルなレイジーさがどわっと前に出たものになってしまう。もっといえば、無意識でブルースというよりも、この辺のサウンドにすっごく影響を受けた、タフでルーズなアメリカン・ロックンロールのエスプリを、どうしようもなく感じてしまいます。
実際このアルバムは、ロックンロール全盛の1959年から60年にかけて「新しいサウンド!」と、ロックンロール好きの若者にウケました。そして、南部の小さなレコード会社、エクセロのサウンドは、シカゴブルースから入ったイギリスの若者の耳に「や、これはすげーかっこいい」と響き、後の英国発ブルース・ロックを構成するサウンドに欠かせない要素となってゆくのです。
とにかくまぁまだ残暑も厳しいこの季節、できればやっすいオーディオで、ライトニン・スリムを適当なボリュームで流しながらダラダラ聴いてみてください。このレイジーでダウンホームな「あ〜、えぇなぁ〜感」は、やっぱりこの人、そしてエクセロ近辺のルイジアナ・ブルースでなきゃ味わえませんです、はい。
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