2017年09月29日

ベン・ブランチ ラスト・リクエスト〜キング牧師に捧ぐ

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ベン・ブランチ ラスト・リクエスト〜キング牧師に捧ぐ

ツイッターでふと思い付いた

#あなたの心の鎮痛剤

という企画をやっております。

「企画をやっております」とはいえ、アタシは大体がいい加減で適当な人間ですので、このハッシュタグを付けることで何がどうなるとか、何かをどうしたいとか、そういう気持ちは全くなくて、ただこの感傷の秋にピッタリな音楽、皆さんはどんなのを聴いているんだろうなぁと、ふんわり思い付いただけなんですね。

だから何を挙げようが自由、別に音楽じゃなくてもokという、実に他愛もない企画です。はい、遊んでるだけですが、皆さんの書き込みを見ていると、じんわりくる名盤や、しんみりくる名盤などなど、思い思いに本気の”これがいいんだよなぁ・・・”を出して下さり、その愛の深さに圧倒されながら、感動を噛み締めておる次第です。

音楽って本当にいいもんですね。

そんな中、ある方が

「これはいいですよね」

と出してくださった一枚のアルバムがあり、そのジャケットを見たアタシ

「そうだよ!これこれ!これを忘れてしまっていた!!」

と、大いに慌てました。

心の鎮痛剤

や、心が痛む時ならず、その音楽の持つ素晴らしいパワーで、まるで全てを浄化してしまうようなグレイト・ゴスペルにして、60年代ディープ・ソウルのホンモノの傑作であるところのベン・ブランチ「ザ・ラスト・リクエスト」。

・・・えぇと

今、かなりのボリュームで「誰それ?」と聞こえました。

えぇ、ベン・ブランチという人はジャズ/R&Bのサックス奏者として、色んなセッションに参加している人ではあるんですが、確かに自分からリーダーになって作品を作るようなタイプの人ではなくて、どちらかというと他人のバックでホーン・セクションの要となるような、いぶし銀の職人サックス奏者だから、多くの人が「知らない」というのも確かに頷けます。

ですが、そんなベンの知名度を脇に置いといても、このアルバムだけはもうブルースだろうがソウルだろうがジャズだろうが、ブラック・ミュージックが好きな人にとっては「あぁ・・・いいよな・・・」と、それこそ多くの人に共通する心の灯となっている作品でありますし、事実1960年代後半という時代の、ゴスペルを軸にしたブラック・ミュージックのカッコイイ所が物凄い濃度で凝縮されたような、もう何というかマスターピース的な聖典と言ってもいい、この作品がもしブラック・ミュージックの歴史に残されていなかったら、その後のゴスペルやソウルは一体どうなっていたんだろうと、音楽好きに深刻に思わせてもいいぐらいの重要な作品なのであります。

あぁ、ちょいとアツくなってしまいました(汗)

「何でそんなに重要なの?」

と、ジャケットとタイトルを見てピンと来れなかった方のための説明は後に取っておくとして、まずはベン・ブランチです。

ベン・ブランチは、1924年にテネシー州メンフィスで生まれております。

メンフィスという街は、これまで何度か説明しましたが、ミシシッピからシカゴへと向かう南部の黒人達が中継地点として集う都市で、自然とブルースが盛んになる土壌が、早い段階から出来ておりました。

恐らくは地元の教会やマーチングバンドなどに参加しているうちにテナー・サックスを覚えたベン、20代の頃に同じ年代の人気ブルースマン、B.B.キングのホーン・セクションの一員として本格的なデビューを果たします。

その後は地元メンフィスを拠点にジャズやブルース、R&Bの数々のセッションを重ね、B.B.キングからブッカーT&ザMG's、ジャズピアニストのフィニュアス・ニューボーンJr.など、あらゆるジャンルの、この地を語るには外せないミュージシャン達と演奏しております。

1960年代には、既にベテラン・セッションマンとして、南部のスタックス・レコード、そしてシカゴのチェスのスタジオなどを行き来する日々でしたが、この時にやはり彼も黒人公民権運動に深く関わることとなり、特にカリスマ的な運動指導者だったマーティン・ルーサー・キング牧師の非暴力思想には大いに共鳴することがあり、5つ年下のこのカリスマとの間には、緩やかな師弟関係のようなものがあったと言います。

ベンはミュージシャンとして、キング牧師が参加する講演会や教会での演奏に積極的に参加しました。

キング牧師の主張は

「黒人も白人も、共に兄弟として歩み寄ろうぜ。同じ人間で同じ神様(キリスト教)を信じてるモン同士、必ず分かり合えるはずだぜ」

という、聖書の人類愛を基礎にした、非常にシンプルかつ平和的なものでしたので、ミュージシャン達も共感して非常に協力してたんですね。

ところがそんなキング牧師の主張は、1964年の公民権法制定(初めて法律で「差別を禁止する」ということが制定される)以降

「生ぬるい」

「結局法律で差別禁止とか言われても、オレらの貧しい生活や日常での差別は何にもなくなってねーじゃんかよ!」

と、批判の的にされることが多くなりました。

イスラーム教を黒人優位思想と解釈したネイション・オブ・イスラムや、革命思想を唱えるブラックパンサー党など、人権を勝ち取るためには暴力も辞さないという考え方が、フラストレーションを抱える若者達に徐々に支持されるようになり、各地で黒人デモは過激な思想に影響を受けた人達によって暴動になっていたのです。

もちろん暴動を起こして社会状況や、自分達を取り巻く環境が良くなるはずはありません。

むしろ「黒人はああいう風に野蛮で暴力的である」と、差別主義者によって宣伝されれば、せっかく味方に付いた世論すら敵に回す可能性は多いにある。

悲観したキング牧師は暴動を抑えようと、各地で自ら出向いて必死の呼びかけを行いましたが、1968年4月4日、遂に凶弾に倒れ、帰らぬ人となってしまいました。




【収録曲】
1.プレシャス・ロード、テイク・マイ・ハンド
2.イフ・アイ・クッド・ヘルプ・サムバディ
3.レット・アス・ブレイク・ブレッド・トゥゲザー
4.ウィ・シャル・オーヴァーカム
5.マザーレス・チャイルド
6.マイ・ヘヴンリー・ファーザー
7.イェールド・ノット・トゥ・テンプテーション
8.ハード・タイムス
9.バトル・ヒム・オブ・ザ・リパブリック


このアルバムは、そうしたキング牧師の悲劇を受けたベンが、師を追悼し、その平和と非暴力の意志を音楽で表現し、世界に知らしめたアルバムなのです。

彼がアルバムを作ってまでキング牧師を追悼しようと思ったのは、もちろんそういった意志の力もありましょうが、実はそこにはキング牧師との深いエピソードがありました。

ある日ベンが「プレシャス・ロード、テイク・マイ・ハンド」という伝統的なゴスペル・ナンバーを演奏していたところ、キング牧師が

「いい曲だね、怒り狂った聴衆に聴かせたらきっと穏やかに静まってくれるに違いない。今度の集会でその曲演奏してくれよベン」

と、声をかけました。

「あぁいいよ。次の集会が楽しみだな」

と、ベンも軽く請け負ったんですが、実はこの会話が交わされたのがキング牧師が暗殺される直前のことで、結果としてこの約束が果たされることはありませんでした。

で、アルバムのタイトル「ラスト・リクエスト」は、この時のキング牧師のリクエスト、つまり「プレシャス・ロード、テイク・マイ・ハンド」をやってくれよ、という最後の約束そのものだったんです。

アルバムはこの曲で始まります。

祈りの静けさに満ち溢れたオルガンとピアノ、そしてたっぷりの感傷と郷愁にまみれたベンのテナー・サックスから、ドラム、ベース、ギターが入り、アツくシャウトするヴォーカルが、一気にクライマックスに盛り上げてゆく、正にゴスペルかくあるべし!の名演で幕を開け、最後までそのテンションが下がることがありません。

アタシはもちろん本場のゴスペルを生で体験したことはありませんが、きっと60年代の黒人教会で演奏されるゴスペルは、このレベルの盛り上がりが集会の最後まで続いたんだなと思わせるに十分すぎるほどエモーショナルであります。

メンバーとして名を連ねているのは、フィル・アップチャーチ(b)、ウェイン・ベネット(g)、レナード(レオナルド)・キャストン(p,g)など、この時代のR&B、ジャズファンク系には欠かせないいずれも凄腕のセッションマン達、そしてヴォーカルはホンモノの牧師でありゴスペル・シンガーの方々。もう、凄いノリです。感情の全部が持っていかれます。何度聴いても「すげぇ、これがゴスペル・・・」としか言葉が出てこんのです。


最初の方で申し上げましたが、ベン自身は決して表に立ってリーダー・アルバムを作ったりコンサートを行ったりする人ではなく、あくまで裏方として優れたリーダーの作品作りを手伝おうという思考の持ち主だったので、生涯を通じての作品は少ないです。

でも、そんな人が自分が表に立って作品を作り上げ、何とかメッセージを伝えようとした。そして、出来上がった作品はこの時代のゴスペルとして最高水準のもので、ソウル・ミュージックとしても最深部まで到達しており、何より聴く人の心をあらゆる意味で豊かなものにしてくれるものとしか、言いようのない傑作なんです。

ブラック・ミュージックという言葉に少しでも心ゆらめく人ならば、きっと一生モノの財産になると思います。






『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
http://ameblo.jp/soundspal/
posted by サウンズパル at 19:29| Comment(0) | ソウル、ファンク、R&B | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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