
ベニー・ゴルソン/グルーヴィン・ウィズ・ゴルソン
(Prestige/ユニバーサル)
え〜、世の中には「ジャズが好き」という方が結構いらっしゃいます。
で、そういう人達というのは、ほとんどが大人になってから
「何か家で落ち着いて聴ける音楽がいいなと思ってたらジャズが良かったんだよね」
と、何となくジャズの”イイネ”に気付いた方がほとんどです。
これはとっても素晴らしいことだと思うんですよね。
若い頃は流行の音楽を夢中で追っかけたり、刺激が欲しくてライヴやフェスなんかに行くでしょう。
でも、大人になって気付けば仕事に追われ、結婚したら家庭が最優先になって、すっかり「音楽を聴く生活」から離れてしまう。
そんな時、名前も曲名も知らないけど「何となく耳に入ってきた音楽が素晴らしかった」これ、本当は一番理想の音楽との出会いとか再会だと思うんですよね。
そうして「ジャズを好きになる人」が出てくると、今度はミュージシャンの名前とか、どんな感じの曲が好きなのか、少しづつ知ってくるようになるんです。
大体の人が、最初に出会うジャズ・ミュージシャンというのが、いわゆる”ジャズ・ジャイアント”という人達だと思います。
マイルス・デイヴィス、ジョン・コルトレーン、ビル・エヴァンス、アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズ、ソニー・ロリンズ、バド・パウエル、チャーリー・パーカー、セロニアス・モンク。
或いはハービー・ハンコック、チック・コリア、キース・ジャレット、ジャコ・パストリアスなどなど・・・。
この人達は、ジャズの中でもズバ抜けて大きな足跡を残した人達で、録音された音源も、何というかズバ抜けてカッコイイことをやっております。
で、ここからが大事なんです。
実は、ジャズを「あ、何かよくわかんないけどかっこいい音楽だよね」という雰囲気、そう、名前を知らずとも、曲を知らずとも、多くの人をジャズという素晴らしい音楽に惹きつけてくれる、あの暖かくて優しくて、ちょっぴりニヒルでワルな独特の雰囲気。
これを醸し出している「そんなに有名じゃないけどいい感じの人達」というのがジャズにはいっぱいいて、実はこの人達の演奏というのが、ジャズを聴く人達を
「ジャズが好き」
から
「ジャズいいよね〜、たまんなく好き〜」
にアゲてくれる演奏だったりするんです。
はい、ちょっと訳がわからんですよね。
つまり「超一流シェフの作る高級料理」が、さっき挙げたジャズ・ジャイアンツ達の一世一代の名演や名盤なら、「近所のたまんなく好きなカフェとかレストランの美味しい料理」を作る、ジャズマン達というのがおるんですね。
当ブログの”ジャズ”のカテゴリでは、そういった超有名ではないけれども、その人ならはの飽きない味を持つミュージシャンの作品を、できるだけ多く紹介しております。
えぇ、高級料理の味わいは格別だけれども「私だけのお気に入り」ってやっぱり近所の「ここのお店好きなんだよね、落ち着くんだよね」っていうお店のごちそうだったりするんですよ。
で、今日は皆さんに、アタシの”近所のごちそう”をご紹介します。
ジャズ、テナー・サックス奏者のベニー・ゴルソンといえば、1950年代から60年代のモダン・ジャズ(ハード・バップ)全盛の頃に活躍した人で、テナー、トランペット、トロンボーンによる必殺”ゴルソン・ハーモニー”っていうキメのフレーズで世のジャズ好きをして大いに「イェ〜イ♪」と言わしめた人です。
一番有名な例を挙げますと、アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズの代表曲であり、最近はNHK「美の壺」のテーマ(?)としてお茶の間でも有名過ぎるほど有名な「モーニン」。
アレの冒頭の「タッタターラララタッツター♪」というメロディのアレンジは、このゴルソンの手によるものです。
他にもこの人のアレンジした曲で、ジャズ詳しくない人でも「お、それ聴いたことあるぞ」な名曲名演はいっぱいあるのですが、ひとつひとつを挙げるとキリがありませんので今日は
「美の壺のあの曲のアレンジはベニー・ゴルソンなんだな」
ということだけ、何となく頭の片隅にでも置いてやってください。
とにかくこの人は、表に立って華やかなスポットを浴びるスターというよりも、アレンジャーや作曲家としての裏方としてのいい仕事が有名なんです。
でも、実はアタシ、この人のまろやかな渋味に満ちたテナー・サックスこそ、ジャズを好きになって「あ、これは何かたまんなく好きな部類のスタイルだ」と、こよなく愛しておるんです。
この人のテナー・サックスは、太くゆったりした音で、とにかく「ズズズズ・・・・」という吐息の混ざった音(サブトーンといいます)が心地良く暖かい。
で、多分サックス奏者として過小評価されているポイントはここだと思うんですが、どちらかというと速いテンポの曲でテクニカルなフレーズでグイグイ前に出るのよりも、ちょいとテンポを落としたブルージーな楽曲で、その太く豊かなトーンを活かした噛み締めるようなプレイにそこはかとない味わいの妙がある人なんですよ。
この人の「ぼへぼへぼへ〜」というテナーの音が出てきたら、どんな演奏でもいい感じにダウナーで、ちょっと影のある”大人のジャズ”になってしまう。
時代の先端を行く革新性も、天才的なアドリブの煌めきもないけれども、その噛み締めるワン・フレーズからジワッと沁みる男の哀愁や優しさの、何とカッコイイことだろう。テクニカルでは決してない、でもその音やちょっとしたフレーズの味わいには、誰にも真似できない豊かな響きとコクに溢れているのです。
【パーソネル】
ベニー・ゴルソン(ts)
カーティス・フラー(tb)
レイ・ブライアント(p)
ポール・チェンバース(b)
アート・ブレイキー(ds)
【収録曲】
1.マイ・ブルース・ハウス
2.ドラムブギー
3.時さえ忘れて
4.ザ・ストローラー
5.イエスタデイズ
そんなゴルソンの、テナー吹きとしての魅力を味わいたいならコレ!なアルバムが『グルーヴィン・ウィズ・ゴルソン』であります。
アレンジャーとしての得意分野は3管以上のちょっと大きめの編成ですが、ここでホーンを担当するのは本人とトロンボーンのカーティス・フラーのみ。で、バックはレイ・ブライアントのブルース職人ピアノと、ポール・チェンバース、アート・ブレイキーの超絶一流リズム隊であります。
ジャズの2管編成っていったら、普通はサックスとトランペットなんですよね。でも、ここでは高音担当のトランペットではなく、あえてミドル音域のトロンボーンを持ってきているところがヒジョーに重要なところなんですね。
カーティス・フラーのトロンボーン、アタシは”まろみ”って言ってますが、何とも人なつっこい味があるんです。
トロンボーンという楽器は、ボタンが付いてなくて、横についているハンドルをスライドさせることで音程をコントロールするんですけど、これがなかなかに難しくて(何人か例外的なテクニシャンはいますが)大体音がスパッと繋がらずにボホホンとした感じになってしまう。でもこれがジャズだと大変にそれっぽい泥臭い雰囲気が出てカッコイイんです。で、カーティス・フラーは、その”雰囲気”の塊のような音を出す人です。
この”まろみ”と、ゴルソンの中〜低音域を中心とした、男らしく実に渋いテナーの音色が、もうほんと絶妙であります。
どっちもまろやかな感じになるんだったら、機動力の高いサックスの方が高音使ってエッジの効いたフレーズを使った方が演奏にメリハリが付くと思うところなんですが、あえてそっちに行かず「どっちも溶け合って気持ちいい」演奏にしっかり軸足を置いてブレない、曲もスピーディーなものは極力使わずに、ミディアム以下のブルースやバラードでまとめているところも流石です。そしてこういうミディアム・テンポの曲にこそ、聴く人を飽きさせない、尽きせぬブルースの美味しさがギュッと詰まっていることを、ゴルソンはちゃーんと分かっています。
そしてバックの中心になっているドラムのアート・ブレイキー。
似たようなキャラの溶け合う音色とフレージングで仲良くソロを交換しているフロントを、どっしり支えつつ、ポール・チェンバースとガンガン煽るスタイルで、演奏を単調なものにしません。
「似たような曲ばかりで飽きるかな」と思わせておいて、それぞれの曲の持ち味、ゴルソン、フラー、そしてレイ・ブライアントとそれぞれ職人タイプながら微妙に違う個性が一瞬光った時を漏らさずにオカズを加えるドラミングは、これも真似しようと思って出来るものではありませんね。
アルバムで最高に「イェ〜イ」となるのが4曲目「ザ・ストローラー」です。
この曲だけややアップ・テンポでノリノリなんですが、ここでのゴルソンは凄いですよ。ズ太い音でゴリゴり吹きまくって「いや、ゴルソン本気出したら凄いじゃん!」と、思わせる勢いがあります。そんなゴルソンゴルソン言われても、何か全然ピンとこんという人は、この曲だけ聴いてもらってもいいです。この音、このズッシリとした加速、この渋さ、これがジャズ・テナーです!
サックス奏者としての確かな実力は持っているんだけど、それより何より曲やバンド全体のアレンジを聴かせるために、普段は一歩引いて共演者を立てているゴルソンが、純粋なプレイヤーとして遠慮なく吹いていて、その愚直な力強さにはジャズの良心みたいなものを感じて止みません。
もし「ジャズ聴きたいけど、やっぱり最初は有名な人のアルバムを買わなきゃダメ?」と悩んでる方がいらっしゃいましたらそんなことは全然ないですよ。有名じゃないけど、こういういい感じの飽きないものもいっぱいありますよ〜。と。
『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』
サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
http://ameblo.jp/soundspal/