2017年10月23日

アレステッド・ディベロップメント/ズィンガラマドゥーニ〜踊る大地


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アレステッド・ディベロップメント/ズィンガラマドゥーニ〜踊る大地
(EMIミュージック)

あれは1994年とか95年とか、その辺りの頃だったので、今からもう20年以上前のことになります。

”ラップ”と呼ばれていたヒップホップは、当時オルタナやメロコアと呼ばれていた人気のロックを凌駕する勢いで、急速にメディアに進出しておりました。

その露出の仕方というのは「新しく刺激的な音楽」という側面もありましたが、どちらかというと「流行の不良音楽」というような売り出し方が多かったように思えます。

ワルな黒人が、大音量で重低音を響かせながら、独特のファッションと身の動きで、歌ではない”しゃべり”を次々とリズミカルに吐いてゆく。そしてそのライフスタイルも、ゴージャスなクラブ、そこにまつわる銃や麻薬やその他もろもろの犯罪とリンクして、何だかヤバそうな未知の世界として、彼らの存在はブラウン管に映りました。

実際にヒップホップは、1970年代のニューヨークの下町ブロンクス地区で、その最もヤバいエリアに住む(主に)ジャマイカ系移民の間で”ファンクのレコードに合わせて自由に言葉を繋いでゆくリズムの遊び”として産声を上げてから、ニューヨークやロサンゼルスなどの大都市の、常に犯罪や暴力の危険に曝されるエリアの生活の音楽として、アメリカ黒人音楽の裏の先端をずーっと担ってきた音楽でした。

更に80年代後半から90年代になる頃には、レーガン大統領による”強いアメリカ”政策の失敗により、都市部における貧困の格差は深刻なものとなり、その煽りは元々貧しく不安定だった黒人社会を直撃し、結果貧困から抜け出せない環境にいる若者達は次々とギャングになっていき、彼らが愛好していたヒップホップの中から”ギャングスタ・ラップ”というひとつのジャンルが確立されます。

この頃”ヒップホップ”といえばそのままギャング達のライフスタイルであり、また、加熱していた東海岸と西海岸のギャング・グループの過激な抗争の勢いに乗って、瞬く間にその勢いは全米から全世界へと伝播していき、世界中のいわゆる不良文化みたいなものに大きな影響を与えるようになります。

日本においても、1990年代ぐらいからダボダボの服を着て”ラップ”(当時の呼び方)を聴いてるヤツというのが、ぼちぼち幅を効かせるようになってくるんです。はい、アタシが十代の頃ですね〜。

正直その頃アタシは”俺はロックだぞ”という変な自負もあって、ヒップホップには好意的にはなれませんでした。

「何だよ、チャラチャラしやがって」

というのが正直な感想。



「そんな連中が聴くラップなんか聴くか!」

と。

でもね、本音ではファンクがベースになっているヒップホップのグルーヴィーなサウンドはとっても魅力的だったし、それ以前にレッチリやビースティ・ボーイズとか、限りなくヒップホップなロックバンドは、好きで聴いてた訳なんですよ。もちろんその前の、エアロスミスとランDMCの「お説教」なんてもう最高だと興奮しておりましたから、ヒップホップという音楽が嫌いだった訳ではないんです。要はつまらん意地です。

で、そんなある日

「最近出てきた奴らなんだけど、アレステッド・ディベロップメントってのはお前の思ってるラップと違うから聴いてみなよ、全然チャラチャラしてないよ」

と、友達から教えられたんですね。

話によると、アメリカの南部の田舎から出てきた連中で、オシャレで心地良い音だし、歌詞も平和を訴えてるし、何より深いんだ、と。

最初は「へー、そうかい」ぐらいに思ってましたがね、ソイツの部屋で、淡い夕日が何となくいいムード作ってる時間帯に(注・部屋には野郎2人)、ぼへーっとタバコ吸いながら聴いたアレステッド・ディベロップメントの音は、何だか思ってたヒップホップと全然違う、優しく包み込むような暖かなサウンドで、不思議とじんわりきてしまったんです。



【収録曲】
1.WMFW
2.ユナイテッド・マインズ
3.エイキン・フォー・エーカーズ
4.ユナイテッド・フロント
5.アフリカズ・インサイド・ミー
6.プライド
7.シェル
8.ミスター・ランドロード
9.ウォーム・センチメンツ
10.ドラム
11.イン・ザ・サンシャイン
12.祭壇にひざまずいて
13.回春の泉
14.イーズ・マイ・マインド
15.プレイジン・ユー
16.エッグビーターズ

その時の忘れもしないアルバムが「ズィンガラマドゥーニ〜踊る大地」1994年リリースの、彼らのセカンド・アルバムです。

フロントマンのスピーチを中心に、若者もいて、女性もいて、それから一番衝撃だったのが、ラッパーでもDJでもシンガーでもない”スピリチュアル・アドバイザー”というパートの、白髪白ひげのオッサンがいて、何をやってるかといえば、何だかアフリカっぽい旋律を「アァアァ〜」と歌ったり、詩みたいな言葉のフレーズを朗読してたりするんですけどね、それが怪しくなくて、ゆるやかにアフリカを感じさせるジャズっぽい洗練されたサウンドと優しく知的なラップと絶妙に絡んでてバランスが取れていて、素晴らしくカッコ良かった。

そしてアルバム全体を聴いても、刺々しいところは一切なく、聴いてから何ともおだやかな気分がずっと残りました。友達に「貸してくれ」と言ったのは、言うまでもありません。そして数か月後に、やっぱり自分でも欲しくなってコッソリ買ってしまいました。

激しいロックやディープな戦前ブルースばかりを聴いていたアタシにとっては、どこまでも心身を癒してくれる稀有な音楽であり、また、好きで聴いている音楽の本質みたいなものを、何故か彼らの穏やかなヒップホップ・サウンドが上手く解説してくれるようでいて、不思議な話ですがこの一枚があるが故に他の色んなジャンルの音楽も、より深く好きになれる。そんなアルバムでした。

音楽に与えた影響としては、それまでヒットチャートに上るヒップホップといえば、ギラギラしたギャングスタ系一辺倒だったシーンに緩やかな風穴を開け、90年代後半にエリカ・バドゥやアンジー・ストーンなど、ナチュラルでブラック・ミュージックの深いルーツを感じさせる、いわゆるオーガニックなR&Bを世に出すことに一役買った重要なグループがアレステッド・ディベロップメントだと思います。

でも、そんなことよりもこの優しくて暖かくて、行ったこともないアメリカ南部やアフリカに、奇妙な懐かしさすら覚えさせてくれる、静かな知性に溢れるこのアルバムが、今も自分の心の中で「音楽っていいよな」と変わらず思わせてくれる大事なところにあることの方が、きっと大事なんです。



『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
http://ameblo.jp/soundspal/
posted by サウンズパル at 19:18| Comment(0) | HIPHOP | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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