
ソニー・ロリンズ/ナウズ・ザ・タイム
(RCA/ソニー・ミュージック)
世の中には、色んなポジティヴ・ミュージックが溢れてますが、アタシの中で「聴くと元気に、前向きになれる音楽」といえば、これはもうソニー・ロリンズです。
ズゴッと野太いテナー・サックスの音に、豪放磊落、それでいてメロディの骨の部分がしっかりと濃い輪郭で、アドリブの小節を重ねる毎にくっきりくっきり際立ってゆくプレイ・スタイル。ちょいとばかり実験的な方向性を取り入れたり電気楽器を導入したり、長いキャリアの中で色々とやってはいるけれど、基本は全く変わらない、安心して聴けるモダン・ジャズの王道そのものなストレートな音楽性。
だからロリンズのアルバムには、大ハズレという盤がありません。
どの時期のどのアルバムも
「よし、気合いを入れて聴くぞ」
ではなく
「ジャズ聴くよ〜」
或いは
「ジャズを聴くのだー」
ぐらいの気持ちに、サクッと気持ち良く男前なサウンドで応えてくれる。そして聴く人の気持ちをムクッと前向きにしてくれるのがロリンズです。思わず「兄貴、ワシついていきます」ってなっちゃいますね、えぇ、なっちゃうんです。
特にアタシが「ジャズを聴くのだー」の気分で楽しめるなぁと思うのが、1960年代RCAに移籍してから録音されたいくつかのアルバムたちです。
何というか、50年代若手のホープとしてバリバリに活躍していた頃の、理路整然と豪快なプレイと比較して、一層砕けて、肩の力を抜いて楽しめるんですよ。
ここに至るまでには、ロリンズ自身にちょっとした出来事がありました。ジャズファンにはすっかりお馴染みの「ロリンズ雲隠れ」であります。
そう、ロリンズは1959年に”人気絶頂なのに何故かふいっと失踪した”んです。
突然の雲隠れ(実は2度目)に「マジか!?」と「またか!」で騒然となったジャズ界隈でしたが、2年後にロリンズは「やぁやぁどうもどうも」と、何事もなかったように戻ってきたんですね。
理由については、実は今もよく分かっておりません。本人も訊かれる度に
「あぁ、オーネット・コールマンが出てきて、アイツのやってることが余りにも凄くて、オレのスタイルは古いんかなーとか色々考えたんだよね」
「毎日夜に演奏ばっかしてるとね、生活が乱れちゃうんだよね。寝不足で酒飲んで、運動不足で、あーこれはいかんなー、どっかで立て直さないとなーとか、色々考えたんだよ」
「ライヴとかレコーディングとか、本番ばっかりで練習する時間がなくてね。もっと巧くなりたい、ならなきゃ、と、色々考えたんだよ」
と、まぁ要するに「色々考えた」と本人が言っておるから、色々考えたんでしょう。
で、何をやってたかといえば、掃除夫のアルバイトをしながら、ヨガで体と精神を鍛えて、公園にテナー持ってって練習してたけど、公園で吹いてたら苦情が来たもんで、車しか通らない橋の上ならいいだろうと思って橋の上で練習してたよと。
この辺のメンタルが、実にもう兄貴ですよね。確かに繊細でストレスに弱い人だったから、雲隠れという行動に出てしまったんでしょうが「イヤんなったらとりあえず環境から離れて、やりたいことに集中すればいい」と思い立ったらポーンと出来ちゃうメンタルは見習いたいものです。
で、そんな生活を2年ぐらい続けて「もういいか」となってシーンに復帰。で、復帰した第一作目は、そうだね、オレ橋で練習してたから『橋』でいいんじゃね?と。
兄貴・・・。
【パーソネル】
ソニー・ロリンズ(ts)
サド・ジョーンズ(cor,C)
ハービー・ハンコック(p,@EF)
ロン・カーター(b,@D〜F)
ボブ・クラウンショウ(b,A〜CG)
ロイ・マッカーディ(ds,@〜G)
【収録曲】
1.ナウズ・ザ・タイム
2.ブルーン・ブギ
3.アイ・リメンバー・クリフォード
4.52丁目のテーマ
5.セント・トーマス
6.ラウンド・ミッドナイト
7.アフタヌーン・イン・パ
8.フォア
収録年1964.1月,2月
はい、そんなこんなで復帰作『橋』と共にロリンズ兄貴は、ファンに暖かく歓迎されて、再びジャズの人気テナー奏者として活躍することになります。
そんなRCAでの「やりたいことをそこそこ気合いを入れてやるのだ」な精神が、良い感じに小慣れてきた復帰2年後の『ナウズ・ザ・タイムス』が本日のオススメなんですが、ハッキリ言いますと、これ、ロリンズのアルバムの中で1,2を争う”適当さ”が、良い感じに作用したアルバムです。
やる曲はどれも、もうロリンズにとっては朝飯前ぐらいの、人気スタンダード曲、メンバーはハービー・ハンコックとかロン・カーターとか、その当時マイルス・デイヴィスのバンドで、バリバリにトンガッた洗練ジャズの最先端をやってた顔ぶれもおりますが、彼らもこのアルバムではマイルス・バンドとか、或いはその頃の自分の作品みたいな緊張感をそんなに出さず
「おぅ、いいねえ。楽しいねぇ」
みたいな感じで好きに吹きまくるロリンズ兄貴と、和気藹々で楽しんでおります
どの曲もいい意味で、曲の良さなんか全然活かしてない。ひたすら自分が楽しむため、気持ちいいプレイをしたいがために人気のスタンダードを持ってきて、その曲を単なる下敷きにして、アドリブを徹底的に伸び伸びと楽しんでいる。
と書くと誤解を受けそうですが、これはアドリブのセンスというものが人並外れてカッコいいロリンズ兄貴だから許される芸当なんですね。
で、実はその「曲を単なる素材としてアドリブに力を全振りする」ってスタイルをジャズの世界で最初に確立して必殺技にしちゃったのが、ロリンズが最も尊敬し、サックスのお手本にしたチャーリー・パーカーなんですが、1曲目のタイトル曲からしてこれはパーカーの曲(『ナウズ・ザ・タイム』は、曲としては全然大したことないっす。パーカーがアドリブを楽しむためだけに作った曲って感じするっす)で、あぁ、このアルバムは「オレはパーカーみたいにやるよ、楽しくね♪」と、大いに宣言しちゃってるアルバムなんだなーと、アタシも聴きながら楽しく感じております。
後は名盤『サキソフォン・コロッサス』の再演になる陽気なカリプソの『セント・トーマス』もいいですな。ハービーのピアノが抜けた、テナー+ベース+ドラムスのトリオで、和音の制約から離れた明るく健康的なプレイであります。
ロリンズが気の合う仲間達とお気楽なセッションを楽しんでる雰囲気、そしてどの曲もアドリブが最高なんだけど、アドリブ過多にならずに頃良い時間でサクッと終わる構成にも親しみを持てますね。ロリンズ兄貴はこれでいいのだ。
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サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
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