2018年01月28日

ガトー・バルビエリ アンダーファイアー

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ガトー・バルビエリ/アンダーファイアー
(Flyng Dutchman)

ここ数日に渡って、70年代ジャズそれぞれのスタイルの中からアタシの好きなアルバムをご紹介しております。

で、もうそろそろ飽きたと。別のを紹介してくれという声もちらほら挙がっておりますので、本日でキリ良く一旦この特集の打ち止めとさせて頂きます。

さてさて、ビリー・ハーパーデヴィッド・マレイというフリー・ジャズ系の人から始まって、大ベテランのディジー・ガレスピーによる見事なソウルジャズ/ジャズファンク、そしてフュージョンの立役者、コーネル・デュプリーによる見事なギター・アルバムと、紹介してきて、ひとつ気付いたことがあります。

それぞれにジャズという枠組みの中で、みんな”違い”を意識して、それぞれの信ずる表現にひた走っていた70年代ですが、実は彼らの手法には、”融合”という共通したものが必ず使われております。

その動機には「何か流行りのものを取り込んでおかないと時代に取り残される」という現実的な焦りの感情もあったにはあったでしょうが、この時代音楽はビシッとフォーマルにスーツをキメて演奏するものから、GパンにTシャツとか、或いはジャケットを羽織るにしてもネクタイなしのカラフルなものだったりとか、何というか
「音楽なんだから気軽に楽しもうぜ」という空気が世界中に良い感じに拡がっていったんではないかなぁ。

その結果として、ジャズの人達もソウルの人達も、ロックの人達も互いのフィールドを、古い慣習に囚われることなく行き来出来るようになったんじゃないか、そして、そういったセッションの中から「これは新しい!」と思われる音楽が、自然発生的に生まれていったんじゃないか(ファンクだってプログレッシブ・ロックだってそうですもんね)と、前向きに捉えていい部分もいっぱいあると思います。

で、ジャズの世界には、アメリカ国内で演奏されるポピュラー・ミュージックのみならず、国境を越えてやってくる音楽との、古くからの付き合いというものがございました。

それは何か?キューバやプエルトリコなどから、或いは中南米、メキシコを経由してやってきたラテン・ミュージックであります。

ラテンといえば戦前には既にデューク・エリントンらビッグバンドの人達が、そのリズムや扇情的なフレーズなどをスウィングジャズに上手に取り入れて料理しておりました。元々ニューヨークには独自の結構な数のラテン・コミュニティがあり、そしてジャズ・ミュージシャンも黒人なら、キューバとかからアメリカに移住してくる人達も、元々は先祖を同じくする黒人同士。

リズムで会話すれば、自然と打ち解けて深い交流が始まるんですね。

そんなこんなでジャズやブルースといったアメリカン・ブラック・ミュージックに根付いたラテン音楽は、1940年代には今度はアメリカのジャズの様式をキューバ音楽に取り入れることで成功して生まれた”マンボ”という音楽がアメリカに逆輸入(?)のような形でもたらされ、例えばディジー・ガレスピーや、R&Bジャンプ・ミュージックの巨匠、ルイ・ジョーダンなんかが、コミカルな自分達の楽曲に”ノリ”の要素としてラテンのリズムやエッセンス、ルンバのリズムなどをそのまんま取り入れて、すっかりポピュラーなものにして行くのです。

で、戦後50年代にキューバ革命が起こり、アメリカに亡命して来たミュージシャン達によって、本格的な”マンボ・ブーム”が起こり、社交ダンスにもラテンがちゃんとした項目として入ったりと「ラテン」というのは、これはもうお茶の間レベルでのポップな音楽として、アメリカで周知されて、アメリカで周知されちゃったらもう世界中でそんな感じに周知されるようになったんですね。

だがしかし!そんな”ポップなラテン”のあり方に一石を投じた、いや、図らずも一石を投じることになった男が70年代に颯爽と登場します。

肩まで伸びた長髪に黒いハット、大きなサングラスに胸元を大胆に開いたシャツで武装してサックスを吹く、アルゼンチンから来た伊達男。それが本日の主役、ガトー・バルビエリであります。

この人は元々「チャーリー・パーカーみたいなストレートなジャズをやりたくて」アメリカにやってきたんです。

でも、アメリカには凄腕のバップ吹きなんていくらでもいる。

そんな中で見事に芽が出なくて、ヨーロッパに移り住んだり、師匠のドン・チェリーと一緒にフリー・ジャズに手を染めて、ESPなんていうアンダーグラウンドで相当ヤバいレーベルから初リーダー作なんかを出しているうちに、音の根源に目覚め

「オレはラテン・アメリカンとしてのルーツを前面に出せばいいじゃないか。ショーで演奏されるような洗練されたラテン・ミュージックじゃあなくて、オレがちっちゃい頃から聴いてきた、喜びも哀しみもそのまんまブチ込まれたような、飾りのないアルゼンチンの音楽をやるんだ」

と、それまでやっていたフリーから大きく舵を切って、フォルクローレやタンゴなどの要素をそのまんま煮込んだような楽曲、そして中南米の民族楽器をジャズのフォーマットにフツーに取り込んだ編成のバンドを組み、70年代に大ブレイクを果たしました。

その路線は大いに当たり「ジャズに注入したラテンの濃い血」とか「激情のテナー」とか言われておるうちに、日本ではその哀愁とコブシの効きまくったサックスが、演歌の血を持つ日本人から多大なる共感を引き出して、ジャズ喫茶でのリクエスト上位の常連になるほどの人気者となったんです。



【パーソネル】
ガトー・バルビエリ(ts,vo)
ジョン・アバクロンビー(g)
ロニー・リストン・スミス(p,el-p)
スタンリー・クラーク(b)
ロイ・ヘインズ(ds)
アイアート・モレイラ(ds,perc)
ジェームス・エムトゥーメ(perc)
ムーレイ・マリ・ハフィッド(perc)

【収録曲】
1.エル・パラナ
2.月に歌う(トゥクマンの月)
3.アントニコ
4.マリア・ドミンガス
5.エル・セルタオ

(録音:1971年)


そんなガトーがまず「オレはラテンで行くべ」という宣言のようなアルバムを出したのが、フライング・ダッチマンという”新しいジャズをやるべよ!”と気炎を上げていた新興のジャズ・レーベルであります。

ここのプロデューサーが、60年代に”インパルス・レコード”のプロデューサーとして、コルトレーンやそれに続く新しい感性を持ったジャズの若手を次々世に送り出した人で、こういう人がまぁガトーのような、どこにも寄りかからない個性(クセともいう)を持った人は放っておかなかったんですな。ガトーの”これがやりたい!”という、当時のジャズの常識からしたら相当無茶なコンセプトを、フライング・ダッチマンというレコード会社は見事なフォローでしっかりと作品化してくれておるんです。

メンツを見ればロニー・リストン・スミスにジョン・アバクロンビー、スタンリー・クラークにアイアート・モレイラ、そして何故かロイ・ヘインズという、脈絡もへったくれもない、ジャズのあらゆるスタイルからの選抜メンバーが顔を揃えてますが、顔ぶれからはほとんどラテン色は見えてきません。

強いて言えばパーカッションを3人揃えた辺りに意気込みを感じますが、やっぱりロニー・スミスやスタンリー・クラーク辺りから感じるのは、柔らかファンク、スピリチュアル・ジャズ路線かな〜?という感じです。

ところがどっこい、このアルバムで見事主導権を握っているのはガトーとパーカッション部隊で、サウンドは見事にラテン。いや、当時アメリカで流行っていたマンボやサルサなんかのああいうポップな感じは一切なく、むしろもっともっと"土着"が濃い、見事にサイケデリックな密林音楽の趣が、それぞれのはっちゃけた即興演奏を軸にカラフルに展開され、その中でガトーのテナーが目一杯の感情を爆発させて、泣き叫び、むせび泣くのであります。

最高なのがアルゼンチン・フォルクローレの英雄のアタエアウタ・ユパンキ『トゥクマンの月』のカヴァーです。

これ、マイナー調の三拍子なんですが、ガトーのテナー、目一杯コブシを効かせてアドリブを吹かず、原曲の美しいメロディーをひたすら忠実にやってます。

で、オープニングからアドリブを敷き詰めるのがロニー・リストン・スミスのピアノだったりするんですが、これがもうこれがもう、これがもう素晴らしい!原曲メロディを忠実に吹くガトーと対象的にアドリブだけで弾き切るピアノ、この流れが美しくて毎度言葉も出ませんのよ。

で、ガトーがメロディ吹いて歌うんです。ガトーはサックスと違ってヘナッとした声で決して上手くはないんですけど、実に味があって切ない節回しで、あぁ、この曲のこのアレンジだったらこの声じゃなきゃっていう、妙な説得力があるんです。ジョン・アバクロンビーが弾く中南米臭プンプンのガットギターのカッティングもたまりません。

「ガトーはどれもいい」が私のモットーですが、特に70年代のガトーは、ジャムセッションならではのスリル、そしてジャズのあれこれを知り尽くしたメンバー達による独自の解釈が良い方向に作用した「ラテン・ミクスチャー」なムード、そしてこのアルバムの『トゥクマンの月』みたいな必殺哀愁曲が入っておりますので、皆さんにはたまらなくオススメ致します。良いよ。



(フォルクローレの英雄、ユパンキのアルバム。コレ聴けばガトー・バルビエリが何を表現したかったのかの理解もグッと深まりますぜ♪)


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『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
http://ameblo.jp/soundspal/
posted by サウンズパル at 19:21| Comment(0) | ジャズ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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