2018年06月08日

キッド・トーマス Here's My Story

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Kid Thomas / Here's My Story
(Wolf)


世に一発屋と呼ばれる人がおりますね。

全く無名ながら大ヒットロングセラーをひとつ出して、その曲のブームが去るとサッと世の中に忘れ去られる歌手や、お笑いの芸人さんとかです。

しかし、世の中には一発も当てることなく、何となく「ちょっと目立つか目立たないかぐらいの微妙なところ」に居たと思ったら、いつの間にかそこから消えてしまっている人もいます。

や、音楽やお笑いといった、特種な才能を武器とする世界では、むしろ一発でも当たればそれは成功で、むしろこの世界にはそういった”一発も当てられなかった屋”の方が遥かに多いんじゃないかと思うんですが、全国の歌手やお笑い芸人のみなさん、どんなもんでございましょう。


たとえば1960年代以前のブラック・ミュージックには、そういう”一発も当てなかった人”という人が多くて、もう名前を見てるだけでもワクワクしてきます。

考えてみればアレなんですよ、この時代のブルースやR&Bなどは”レース(人種)レコード”と呼ばれ、音楽業界全般ではポピュラーより格下に扱われ、アーティストはアルバムなんてもんは作ってもらえない、ヘタな鉄砲も数打ちゃ当たる方式で、ちっちゃいちゃいちいレコード会社から、とにかく色んな人の色んなミュージシャンのシングル盤が山のように”一回のレコーディングいくら”の契約で出されておりました。

そんな中でたまたま運良くヒットを連発し、50年代を生き残った人は60年代になってからシングル曲をまとまったLP盤などにすることが出来ておりますが、まぁシングルだけ出してその後シーンから消えて行ったり、レコーディングから遠ざかって行ってしまい、埋もれてしまった人達の何と多いことか。

しかし、ブルースやR&Bを聴く楽しみというのは、実にこういった”一発も当てなかった人達”を聴く楽しみなんですね。

これは別にマニアックな指向とかでも何でもなくて、ブルースという音楽には、どうも”それオンリーの芸の強み”というにがあるんです。

「この人はこのパターンしかないけど最高」

というアレで、ヒットを連発してビッグネームになった人とか、ロック世代の人達に後年支持されてレジェンドになった人とかいっぱいいる音楽です。

ジミー・リードやジョン・リー・フッカーなんか正にそうですよね。

でも、かつてシングル盤のみをリリースして、そんまま消えていった人達や、オムニバス盤にしか収録されていないような、ほとんど”詠み人知らず”に近いような存在の人達にも、”これしかないけどこの一瞬の輝きは強烈”というのが凄くブルースにはあって、いや、むしろこの人達とビッグネームやレジェンド達を隔てているものは、たまたま偶然の”運”ぐらいのものだったんじゃないかなと、その味わいとインパクトに満ち溢れた無名ミュージシャン達の音源を聴いて思います。


ブルースの有名どころを一通り知った後、アタシはオムニバス盤をとりあえずえいっ!と買ってみて、名も知らぬブルースマン達の渾身の”一発”にうち震えるということをやっておりましたが、その中でも「うはぁ、コイツはすげぇ!」と思ったのが、シンガー&ハーモニカ奏者のキッド・トーマスであります。


ジャケットにも写っておりますが、まぁ何と言ってもこのルックスですよルックス(!)

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ガッチガチにアイロンで固めた(であろう)鬼のリーゼントに、絶対にカタギじゃないやけに据わったオットロシイ目付き。

いやぁ「ブルースって渋い大人の音楽ですよね」とか言っている良い子のみんなは絶対にこんなヤツの音源なんか聴いちゃダメだよとアタシでも正直思ってしまうんです。






Here's My Story

【収録曲】
1.Beaulah Come Back
2.The Wolf Pack
3.The Spell
4.Come Here Woman
5.Jivin Mess
6.She's Fine
7.The Spell
8.The Wolf Pack
9.The Wolf Pack
10.The Wolf Pack
11.Beaulah Come Back
12.Beaulah Come Back
13.Come In This House
14.Beaulah Come Back
15.Here's My Story



そう、この見た目のアホみたいなインパクトに全く負けることなく、この人のブルースはとにかくアクの塊&強烈無比なんです。


きったない音でガチャガチャ鳴り響くバンド・サウンドをバックにしたロッキンブルースで、声帯をどっかに千切って捨てるようなシャウト、シャウト、とにかくシャウト。その声ときたらロックンロールヒーローだったリトル・リチャードにも負けないパワーで、いや、リトル・リチャードのシャウトよりも自分を全然大事にしてないヤケクソのボロボロ感がたまんないんです。

そして、そんな声のインパクトに負けないぐらいに力強いハープ。

同年代で、共にシカゴでツルんでたこともあったというリトル・ウォルターみたいに技巧があって、情感溢れるハープではありませんが、そんなのしゃらくせぇとばかりに下品な音でバフバフ吹きまくるハープはやっぱり他の人にはないキョーレツに野卑た魅力があるんですよ。

そんな感じで音楽的な説明をすると、あっという間に多分3行とかで終わってしまう人です。

どの曲も同じノリ、ほぼ同じテンションで、小技とかそういう事は全く出来ない、しようとしないキッド・トーマス。

だけれども、これこそがブルースのカッコ良さなんです。

ブルースマンってのは大体が不器用な人達だし、ブルースマンが不器用だからこそ、彼らが歌う人生のいろいろが説得力を持ってこちらのソウルにも直接訴えてくる。


キッド・トーマスのガラガラ声のぶん投げるようなシャウトと乱暴なトーンのハーモニカ聴いてると、もうヤケクソなんだけど、このあんちゃんはコレしか出来ないんだけど、だからこそ聴く人の心に何か強烈なもんを投げつけてくれる。何だか泣けてくる。

50年代までシカゴで暴れて、60年代には何を思ったか西海岸に引っ越し、そこでヒットは出ずともしぶとくブルースやってたキッド。しかし運命というものは残酷で、彼が世間の注目を一瞬浴びたのは1970年、殺人事件の被害者としてでした。

このアルバムは、主に彼が50年代にフェデラル・レコードで録音したシングル盤やその別テイクを集めて、死後大分経ってから発売された数少ないアルバムのうちの1枚です。とにかく見た目のインパクトに騙されたと思って聴いてもおつりは十分きますぜ旦那。








『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
http://ameblo.jp/soundspal/
posted by サウンズパル at 20:20| Comment(0) | ブルース | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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