2018年10月17日

フォークストーン Ossidiana

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Folkstone/Ossidiana
(Universal)


色々な音楽を聴きますが、不意に「これを集中的に聴きたい」というものがありまして、アタシにとってはそれはヨーロッパの古い音楽(俗にいう古楽)だったりします。

バグパイプとかリュートとか、ハーディ・カーディとかクルムホルンとか、そういういわゆる現代のポピュラー音楽ではちょっと見ない独特の郷愁をくすぐる音色を持った不思議な楽器が織りなすアンサンブルには、やっぱり他では聴けない味があり、そしてやっぱりどこかDNAに直接訴えかけるような、不思議な懐かしさを覚えたりするんです。

純粋な古楽や中世音楽アンサンブルの演奏ではなくても、たとえばロックやポップスでも、ちょいとバグパイプがアレンジの中に入ってたりするとキュンとなります。

そして、このテの音楽というのは、日本では極端に情報が少なかったりするんで、音盤やアーティストを探すにもなかなかに難しい。

だからジャケ買いなんかでえーいと買ってみて、ハズレなんてのもよくありました。

そんな中で、もうかれこれ10年以上前になりますかね、ふとしたことでオーダーシートに乗っていた『Tabra Rasa』というバンドが、古楽器を使ってヨーロッパの古い民謡なんかをやってるよと訊いて「おぉ、それは面白そうだ」と買ってみたら大当たり。

えぇ、実は”このテ”のCDの中で初めてちゃんとした”アタリ”が、そのタブラ・ラサだったんです。

そのタブラ・ラサというバンドが一体何者だったのか、その後ネットなどにも情報が全くなくて、今も謎なんですが、その中でも特に気に入った曲がありました。

『In Taberna』という曲ですね。

どんな曲から後程説明しますので、まずコレを聴いてください。






この曲です。色んな人が色んなアレンジで演奏している動画がyoutubeにたくさんあったので、これは有名な伝承歌みたいなもんだろうと思ったら、『カルミナ・ブラーナ』という中世写本に掲載されている、とてもポピュラーな曲でした。

ここで『カルミナ・ブラーナ』にピンときた人も多いかと思います。

そう、クラシックで有名なカール・オルフによる歌曲集『カルミナ・ブラーナ』は、実はこの中世写本に記載されていた詩篇を元にしたものなんです。

中世写本とは、文字通り中世(11世紀〜13世紀頃)に書き写された書物のことであり、まだ印刷技術が発達していなかった時代のベストセラーというのは「どれだけ書き写されたものが広まったか」というところの勝負でありました。

その時代は、日本もそうでしたが、本というものは字が読める人達、すなわち一部の教養のある人達のものであります。

こういったものを扱ったり、または写本にいそしむ人達がまとまっているところというのは、ズバリキリスト教会の修道院。

修道院で学ぶ修道士は、今でいう超エリートの学生であり、彼らはせっせと神学に関する論文を写したり、政治や経済、哲学などの書物も熱心に書き写し、それを他の土地の教会に送ったりするのが日課でしたが、世俗の、つまり土地の領主や貴族、あるいは富豪などの求めに応じて、世俗の書物も書き写したり、或いはそれをこっそり自分達が楽しむために保管していた、ということもまぁ日常的にあったようです。

『カルミナ・ブラーナ』は、ドイツの修道院で発見された古い写本であり、その内容は、教訓を書き記した真面目なものもありましたが、酒や恋や博打といった、実にくだけてユーモアたっぷりな内容のものも多く、19世紀に編纂され「中世流行歌集」として発表され、それが更にアレンジを加えられて歌曲になっていった。と。

『In Taberna』は、そんな中にあった酒宴の俗歌であります。

歌詞は「豪快に酒を飲んでバクチをやって、すっからかんになっても呑むぞ呑むぞ呑むぞ!」みたいな内容なんですね。なるほど中世の人々はこういった歌を酒場で合唱しながらバカ騒ぎしてたのかと、なかなかに楽しい気分になってきます。

で、youtubeで『In Taberna』を検索しておりますと、上記動画のように、当時のアレンジを再現するような感じの、オーソドックスな演奏も多かったのですが、意外に最近の音楽、特にヘヴィメタルな演奏の中に古楽器を大胆に導入してやっておる最近のバンドも多いようで



その中でこの”Folkstone”という人達と出会いました。




かなりヘヴィにアレンジしてあって、聴く感じでは歌詞も曲調も大幅に変えている『In Taberna』ですが、しっかりとバグパイプなどの古楽器はメインとして使っているし、衣装も中世をしっかり考証した皮のやつで、気合いの入り方は尋常じゃない。演奏も上手いし、ヴォーカルも何というか、気取ったところがなくて、真剣にこの音楽が好きでやっているのが伝わってくるストレートな歌いっぷりが良いですね。

うひょー、このバンドかっこいいわ〜♪と、アタシはソッコーで気に入りました。

調べたら、いや、調べても困ったことにこの人達がどこの何者であるかがなかなかハッキリと説明されたホームページとかレビューは出てきません。


う〜ん、確かに何というか「欧州の土着全開!」だから日本で需要がないのは分かる。でも、もうちょっとこうこのテの音楽にハアハア言ってる人はいてもいいのになぁ・・・。

と、若干寂しい気持ちをグッと抑えながら情報収集に明け暮れること何日か。


・フォークストーンはイタリアのバンドである。

・2014年に自身のレーベルからアルバムをリリースし、界隈では結構知られている。

・こういったジャンルの音楽は”フォークメタル”といって、元々はブラックメタルとの関係から生まれてきた。

・何でかっつったら、ブラックメタルには「反キリスト思想」と「ペイガニズム」というキリスト教以前の多神教信仰の時代への回帰を唱える思想があるから

・フォークメタルはペイガニズム思想の影響が強いから、北欧神話とかバイキング伝説とかケルト民話に因んだ歌詞や曲が多いし、実際古楽器も使ってるからフォークなんだよ

とか、色々と知らなかったことを知ることが出来ました。

アタシにとっては「ほほぉ・・・」となることばかりですが、多分「お前今頃フォークメタル知ったのかよ」となっている、気合いの入ったメタルファンの方はもちろんこのブログをお読みになっているかと思います(ひぃぃごめんなさい)。





Ossidiana

【収録曲】
1.Pelle Nera e Rum
2.Scintilla
3.Anna
4.Psicopatia
5.Asia
6.Scacco al Re
7.Mare Dentro
8.E Vado Via
9.Istantanea
10.Supernova
11.Dritto al Petto
12.Sabbia Nera
13.Ossidiana



で、相変わらずフォークストーンが実際どんなバンドなのか、詳しい情報をアタシは未だに掴んでいないのですが、困った時のyoutube様でミックスリストなんかを連日観ているぐらい、すっかりハマッてしまいました。

いや、本当に素晴らしいと思ったのは、この方たち、中世の衣装も古楽器も「メタルやってる俺達は古いものへのリスペクトだって忘れてねぇぜ」という、一種のPRとかじゃなくて、ライヴでもレコーディングでも、ガッツリ”それ”を貫き通しているところ。

で、2017年リリースの『Ossidiana』で、メジャーのユニバーサルから配給をスタートさせました。

もうこれぐらい気合いの入った人達だから、メジャーになろうが何になろうが、音楽性には変わりはありません。

相変わらずヘヴィなサウンドに、何事もなかったように絡み合ってナチュラルに鳴り響くバグパイク等の古楽器、そう、何もかもが、たとえばアメリカやイギリスのロックやメタルが、当たり前に『ヴォーカルとギターとベースとドラムスの音楽』であるのと同じように、『ヴォーカルとギターとベースとドラムスと、たくさんの古楽器』の音楽なんです。


ルーツに対するリスペクトは素晴らしく深いとは思いますが、この音楽がいわゆる”当たり前”になった最先端の手法とか技法とかアレンジとか流行とかに対する強烈なアンチテーゼに思える瞬間がいっぱいあって、単なるノスタルジーとかミクスチャーなカッコ良さ以上のものを、アタシはヒシヒシと感じます。


『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
http://ameblo.jp/soundspal/
posted by サウンズパル at 23:20| Comment(0) | 世界の民族音楽など | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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