2018年10月25日

インクレディブル・ストリング・バンド The Incredible String Band

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The Incredible String Band
(Electra/ワーナー・ミュージック)

音楽っていうのはそれぞれジャンルに分けられていて、まぁアタシ達は例えば「ロックが好き」とか「ジャズが好き」とかそういう風に音楽の好みを便利に紹介したり主張したりすることが出来る訳なんですけれども、世の中にはそういうジャンル分けというものが全く意味を成さない音楽というものがあって、これがまた独自の妖しい魅力というものを放っていたりするもんですから音楽を掘るということは止められません。


いわゆる”ジャンル分けが意味を成さない”という音楽には、大きく分けて2種類あるような気がします。

ひとつは世界中の古今東西様々な音楽の要素を吸収して、それを独自のセンスで融合させて演奏しているバンドやアーティスト。

これはわかります。でもこういう音楽のことを一言で”ミクスチャー”と呼ぶ文化みたいなのも、最近はしっかりと定着している。

で、もうひとつがですね。

「色んな音楽の要素は確かにブチ込んでるんだけど、結局のところコイツ(ら)何なのかよくわからない」

というバンドやアーティストが奏でる音楽であります。


60年代イギリスに登場したイングレディブル・ストリング・バンドというのは、正にそんなバンド。

あのですね、コイツらほんとよーわからんのですよ。

色んなことを無茶苦茶やってるんじゃなくて、むしろその逆で、アレンジは徹底してアコースティックだし、曲はいわゆる60年代70年代のひとつのトレンドであったフォークの範疇に入れていいものだとは思います。


でも、ここからがこの人達のオカシイところで、ギターを中心としたアンサンブルだけでなく、世界中のありとあらゆる楽器を、多分正しい演奏法を完璧にマスターしたとかそんなんじゃなくて”それっぽく”自由に演奏してたりするんです。

で、都会の大きなレコード屋さんとかに行くと『プログレ』の棚に置かれてたりします。

うん、訳がわからん。

そんな所にアタシは惚れてしまい、もうかれこれ20年ぐらいこのバンドにハマッてる訳なんですが、イングレディブル・ストリング・バンドは1960年代半ばにイギリスで結成されたアコースティック・グループであります。

中心となったのは、ヴォーカルその他のマイク・ヘロンと、同じくヴォーカルその他のロビン・ウィリアムスン。

その後アルバム出す毎ぐらいの頻度でメンバーは激しく入れ替わりますが、音楽性の重要な部分である「英国フォークの深淵みたいな部分と世界中の民族音楽をぶっこんでかきまぜたよーな音楽性」というのは、恐らく終始中心人物2人の奇妙なアイディアによるものと思います。

ちょいと解説をすれば、イギリスには1950年代から始まったスキッフル・ムーヴメントというのがありまして、これは何故か戦後すぐぐらいの頃にイギリスでトラディショナル・ジャズ(スウィングよりもっと古い時代のニューオーリンズのジャズ)が流行った時期があって、更に戦前アメリカのジャグ・バンドに触発されて、アコースティック楽器と洗濯板やたらいのベースなどの手作り楽器を持ち寄ってぶんちゃかやることに若者が熱狂しました。

これが”スキッフル”なんですが、かのポール・マッカートニーなんかも、音楽を始めたきっかけがこれだったりして、イギリスのロックの根っ子を掘ると必ずブチ当たる、とっても重要なムーヴメントなんですね。

で、イギリスの音楽というのは、アメリカの音楽と密接に関わりながら、影響を受けたり与えたりして発展していきます。

スキッフルのムーヴメントも、アメリカで沸き起こったフォーク・リヴァイバルの流れと深く呼応していて、徐々に楽しくぶんちゃかやるだけでなく、今度はイギリス人、つうことはイングランドとウェールズとスコットランドと北アイルランド、それぞれのルーツをもっと独自にさかのぼって音楽なんて出来やしないかと、若者は考える訳です。

そんな中からイギリスでは、独自のルーツ・ミュージックである”トラッド”を戦後に復活させた優れたアーティスト達が次々と出てきます。以前紹介したスコットランドのシャーリー・コリンズなんかもその一人です。



1960年代半ばにはロックがグイグイ出て来るので、この英国のフォーク/トラッド・ブームというのは下火になるんですが、そのムーヴメントの最後に出て来たのが、フォークでもトラッドでもあるんだけど、何だか無国籍でサイケな感じすらするイングレディブル・ストリング・バンドだったという訳であります。

そう、彼らがデビューしてしばらくしてからアメリカでヒッピー・ムーヴメントが起きて、サイケデリック・ロックというのが生まれ、それに影響を受けたフォークは”アシッド・フォーク”と呼ばれるようになり、奇しくもイングレディブル・ストリング・バンドは”アシッド・フォークの先駆け”みたいな感じで評価されるようにもなったという訳で、この人達の無秩序に広い音楽性は、60年代から70年代のリアルタイムと過去と未来が交錯する、その微妙な接続点みたいなところの全てにかかっているところから発生したと言っても過言ではありません。




ジ・インクレディブル・ストリング・バンド <SHM-CD>


【収録曲】
1.メイビー・サムデイ
2.オクトーバー・ソング
3.ホエン・ザ・ミュージック・スターツ・トゥ・プレイ
4.シェイファーズ・ジグ
5.ウーマンカインド
6.ザ・トゥリー
7.ホイッスル・チューン
8.ダンデライオン・ブルース
9.ハウ・ハッピー・アイ・アム
10.エンプティ・ポケット・ブルース
11.スモーク・ショベリング・ソング
12.キャント・キープ・ミー・ヒア
13.グッド・アズ・ゴーン
14.フットステップス・オブ・ザ・ヘロン
15.ニガータウン
16.エヴリシングズ・ファイン・ライト・ナウ



そんな彼らの”奇妙な無国籍感”は、1966年リリースのファーストの1曲目から妖しく花開いております。

『メイビー・サムデイ』という、実にフツーのタイトルが付いたこの曲なんですが、再生すると2秒ぐらいで「メイビー」も「サムデイ」も吹っ飛びます。

何だこのアラブみたいな曲は!コイツら本当にイギリスなのか?イギリス人なのか?あぁん!?

というのが、最初に聴いたアタシの正直な感想です。

ついでに言うと

「これをやりたかったのは分かるが何故こうなった」

とも思いました。


更にタチの悪い(?)ことに、この人達の音楽性は、アルバムを出す毎に混沌としていきます。

このファースト・アルバムでは、無国籍にぶっ飛んだ曲は、実はこの1曲目だけ。

でもこの1曲で「フォークとは?」と聴き手の常識や固定概念が気持ちよく吹っ飛ぶ破壊力は凄いし、とにかく何度も何度もリピートして聴きたくなるような、摩訶不思議な中毒性が溢れた曲です。

2曲目以降はボブ・ディランとドノヴァンが袖を引っ張り合っているような、割としっかりしたフォークですが、これらの曲がまた1曲目が嘘みたいに完成度が高いので「あぁ、相当おかしいけどただのイカレ野郎じゃないな」と思わせるに十分なアルバムのクオリティで、アルバム全体としても、聴いてくうちにジワジワしびれてくる不思議な中毒性に溢れています。


アラブとイギリス伝統音楽と、アメリカン・フォークからの影響が、妖気を十分に含んで湿ったもやの中で、ゆらゆらと揺れながら漂ってるかのような、初期イングレディブル・ストリング・バンドの”毒”ぜひ味わってみてください。効きますよ〜♪





『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
http://ameblo.jp/soundspal/
posted by サウンズパル at 23:15| Comment(0) | ロック/ポップス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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