2019年01月26日

灰の音楽~シューマン&ホリガー 室内楽作品集

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灰の音楽~シューマン&ホリガー 室内楽作品集
(ECM)

冬の寒い時期に聴きたくなる音楽というのがありますね。

そして「眺めていたい雰囲気のジャケット」というのもあります。

アタシにとってそれはECMというレーベルの音楽で、そのジャケットだったりします。

ジャズやクラシックの人にはよく

「ECM独特の・・・」

と評される、透明感とキンと冷えた空気感に満ち溢れた音、そして風景や人物や静物をひたすらモノクロームで散りばめる、何というか独特の鎮静効果がありそうなジャケット。

このレーベルが制作する音楽作品と、ジャケットさえ眺めていたら、騒々しい世間の事は一旦脇に置ける。そう、そんな感じのある種の救済のように、アタシにとってECMというレーベルは存在しております。

このECMというレーベルは、元々ジャズのレコードをリリースするレーベルとして、1969年、当時の西ドイツで設立されました。

ジャズといえばアメリカの音楽で、レコードから出て来るサウンドも、どこか翳りのある都会の夜の空気を、ズ太く増強された中低音でもって響かせているのが当たり前だった時代、オーナーでありプロデューサーのマンフレート・アイヒヤーはその”逆”に挑戦しました。

演奏家のタッチの細かいニュアンスや、楽器の響きそのものを如何に雑味なく再現できるかということを徹底して追究し、録音から音響まで、とにかく細部にまでこだわった精妙な音作りで作品を仕上げており、こうやって出来上がった作品が、図らずもそれまでの「夜、ダーティー、ワイルド」といったジャズのイメージの真逆に位置するものを生み出し、その芸術性の高さはヨーロッパはもちろんアメリカや日本でも高く評価され、名盤として評価の高い作品を今も世に送り出しております。

カタログをザッと見ただけでも、キース・ジャレットやチック・コリア、パット・メセニー、スティーヴ・キューン、ポール・ブレイなどなどなど、音色の美しい人が代表作をリリースしております。

ほいでもってこのレーベルのコンセプトが

『沈黙の次に美しい音楽』

はぁぁ・・・もう最高ですね。


・・・


はい、気を取り直して続けます。

ECMはヨーロッパの新興ジャズ・レーベルとして成功を収め、80年代にはクラシックの作品もリリースするようになります。


リトアニア出身の現代音楽家アルヴォ・ペルトの作品を皮切りに、世にあまり知られていない気鋭の作曲家の作品のリリースに努め、次第に古典や有名演奏家などの作品も、ECMはリリースするようになりました。






のアルヴォ・ペルトのところにもちょこっと書いていますが、ECMはクラシックこそヤバい!!

アタシなんかはとにかくクラシックは未だによくわかんなくて、ただ単純に「バッハ中毒」というのと「カッコイイかそうでないか」という2つのセンサーだけを動かして、ミーハーに聴いているに過ぎないんですが、もうね、ECMのクラシック・シリーズはアタシのそんなチャチいセンサーにさえもガンガン引っかかってくれるんですよ。

クラシックっていう音楽は「え〜と、バロックから始まってモーツァルトからベートーヴェンとかの流れがあって〜、ロマン派がこうで〜」と、一通りの知識が頭の中にあれば、鑑賞がとても楽しい音楽なんですが(それはクラシックに限らずロックもジャズもブルースもそうなんですが)、それより何より「はぁぁあ、今日はとっても切ない音楽に胸を撃ち抜かれたいぃ!!」とか「もう別世界にワープしてそこに住みたいぃぃ!!」という願望だけで聴ける音楽でもあるんです。

作曲家のことや理論的な事はひとまず置いて、そういった衝動に突き動かされてしまった時にそのまんまECMのクラシックに飛び込んでしまえば精神が豊かに満たされる。そんな経験はこの20年ぐらいで17回ぐらいありました。なのでECMのクラシックシリーズは、今もジャケ買いとかしております。オススメです。飛び込んでごらんなさい。




灰の音楽~シューマン&ホリガー:室内楽作品集

【収録曲】
1.カノン形式による6つの小品 作品56 (オーボエ・ダモーレ、チェロとピアノのための) 第1曲:速すぎずに
2.カノン形式による6つの小品 作品56 (オーボエ・ダモーレ、チェロとピアノのための) 第2曲:心からの表現で
3.カノン形式による6つの小品 作品56 (オーボエ・ダモーレ、チェロとピアノのための) 第3曲:アンダンティーノ
4.カノン形式による6つの小品 作品56 (オーボエ・ダモーレ、チェロとピアノのための) 第4曲:心から
5.カノン形式による6つの小品 作品56 (オーボエ・ダモーレ、チェロとピアノのための) 第5曲:速すぎずに
6.カノン形式による6つの小品 作品56 (オーボエ・ダモーレ、チェロとピアノのための) 第6曲:アダージョ
7.3つのロマンス 作品94 (オーボエとピアノのための) 第1曲:速くなく
8.3つのロマンス 作品94 (オーボエとピアノのための) 第2曲:素朴に、心から
9.3つのロマンス 作品94 (オーボエとピアノのための) 第3曲:速くなく
10.ロマンサンドル (チェロとピアノのための) Kondukt I(C.S.-R.S.)
11.ロマンサンドル (チェロとピアノのための) IAurora(Nachts)
12.ロマンサンドル (チェロとピアノのための) IIR(asche)S Flugelschlagen
13.ロマンサンドル (チェロとピアノのための) III“Der Wurgengel der Gegenwart”
14.ロマンサンドル (チェロとピアノのための) IV“heiter bewegt”(“Es wehet ein Schatten darin”)
15.ロマンサンドル (チェロとピアノのための) Kondukt II(“Der bleiche Engel der Zukunft”)
16.間奏曲-FAEソナタ イ短調 WoO2から (オーボエ・ダモーレとピアノによる)
17.ヴァイオリン・ソナタ 第1番 イ短調 作品105 (チェロとピアノによる) 第1楽章:情熱的な表現で
18.ヴァイオリン・ソナタ 第1番 イ短調 作品105 (チェロとピアノによる) 第2楽章:アレグレット
19.ヴァイオリン・ソナタ 第1番 イ短調 作品105 (チェロとピアノによる) 第3楽章:生き生きと


【演奏】
ハインツ・ホリガー(オーボエ)
アニタ・ルージンガー(チェロ)
アントン・ケルニャック(ピアノ)



はい、そんな訳で今日はECMクラシック・シリーズの中から、ホリガーのシューマン作品集であります。

ホリガーといえばクラシック界ではオーボエの名手、いやもう現代の演奏家の中では頂点に立つ人として評価の高い名人中の名人であり、演奏家以外でも指揮者としても著名で、また現代音楽の作曲家としても、あらゆる方面で大活躍する音楽家です。

で、シューマンといえばクラシックちょっとでも好きな人はもうご存知ですよね、バッハとベートーヴェンを崇拝し、ベートーヴェン後一気に広がった宮廷音楽から脱却したポピュラー音楽(と言った方がわかりやすい)としてのクラシックの進化に大きく貢献した作曲家、ロベルト・シューマン。

この人は凄い人で、作曲をさせればもう純真さと悲哀が狂おしく満ちたものを書くし、音楽だけでなく文学や哲学にも非常に造形が深くておまけに評論はキレッキレのマルチな才能を持つスーパースターなんですが、若い頃から精神の病にさいなまれ、特に40代の晩年から最期に至るまでは本当にその生き様が悲痛で、楽曲もその悲痛が音になったようなものを多く残しております。

一般的に人気だったりするのは何故か初期の作品が多く、晩年のシューマンの作品といえば、どちらかといとマイナーで、知る人ぞ知る隠れた名曲が多い、ぐらいの位置付けであると、どこかで聞いた事があるのですが、ホリガーは演奏家として、音楽家としてそんな晩年のシューマンの、作品をこよなく愛しました。


「シューマンの晩年の作品は本当に素晴らしい、この狂気一歩手前の旋律の中に輝く美しさ、胸が詰まるほどの詩的な抒情を演奏したいねぇ」

と、ホリガーは切実に願っていたと思うんですが、こういう所に事細かく気付くのがECMです。

「じゃあやりましょう、一緒に演奏したい人は誰っすか?」

という訳で、ホリガーとは気の合う音楽仲間だというルージンガー(チェロ)とケルニャック(ピアノ)の3人で、リラックスした雰囲気の中でレコーディングされたのがこの『灰の音楽』であります。

ホリガーのオーボエは、本当にクリアで研ぎ澄まされていて、オーボエ独特の「べらーん」とした雑味がないんです。そこは超一流だから当たり前だよと言われたらそこまでなんですが、それにしてもこれほどまでに綺麗なオーボエの音は聴いた事がありません。

共演のルージンガーとケルニャックのチェロとピアノの豊かな情感に溢れたチェロとピアノの音も最高ですね。特にホリガーとはコンサートでもよく伴奏を務めるケルニャックのピアノの音色の何とも切々と訴える力に満ち溢れた詩的な弾きっぷりが激しく胸を撃ちます。

「晩年のシューマン」に全然前知識なしで、何となくシューマンはピアノ曲がいいんだよなぁとか思っておりましたが、いや、晩年のシューマンの、どの曲のどの演奏からも迫ってくる詩情って本当に凄いです。

後半にはホリガー自作曲の「ロマンサンドル(チェロとピアノのための)」が収録されていて、こっちはガラッと趣を変えたヒリヒリする現代音楽ですが、ここでのチェロとピアノの緊張感溢れるやりとりと、フレーズを繰り出す毎にどんどん鋭く輝く刃のような演奏の質感、これも良いですね。

「シューマン作品集」としてはもちろん、純粋に「クラシックの凄い演奏を、最高の音質で聴きたい」という気持ちも満たしてくれます。




『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
http://ameblo.jp/soundspal/
posted by サウンズパル at 12:26| Comment(0) | クラシック | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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