2019年02月10日

ウェイン・ショーター ジュジュ

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ウェイン・ショーター/ジュジュ
(BLUENOTE/ユニバーサル)

ジャズの世界ではよく「ジョン・コルトレーン以前と以後」というような言葉が使われます。

つまりはジョン・コルトレーンという人が出て来て、それまでのジャズの在り方みたいなのが凄く変わったと。

何がどう変わったんだと言われると、精神面とサックスの演奏技術面とがあります。

精神面でいえば、それまでジャズという音楽は、有り体に申し上げれば、娯楽と刺激のための音楽だった。

ゴキゲンなリズムに乗ってソロイスト達が得意のアドリブを披露して、お客さんにわーきゃー言われるための音楽。あるいは色気ムンムンのバラードでお客さんをうっとりさせるぜベイビーな感じで酔わせる音楽。ところがコルトレーンがソロ・アーティストとして大活躍した1950年代の末から60年代には、もっとこうなんつうか違うんだよ、そういう俗な感じじゃなくて、己は何であるのかとか、神って何だろうとか、そういう事を追い求めながらトリップしたりトランスしたりしようよ。

という、アーティストによっては実は内側でコッソリ持っていた哲学的な考え方みたいなのを、コルトレーンって人は”売れてるミュージシャン”としては初めて音楽の前面にそれを出して、世間に「どうだ!」とやってみせた。

60年代ってのは、丁度時代もそれまでの豊かさをがむしゃらに追い求めていた流れから「ちょっと待て、これでいいのか?」「俺達は一体何者なんだ?」という若者達の疑問が出て来て大きく揺れ動いていた時代だったので、コルトレーンのこういった姿勢は特に若者達に支持されて、大いに影響力を増したんですね。

で、もうひとつはサックスの演奏法においての変革。

コルトレーンはテナー・サックスをメインで吹いております(ソプラノも途中から吹くようになりました)。

テナー・サックスっていう楽器は、人間で言うと男性の声の音階と呼ばれる楽器であり、事実その通り技術を磨けば太く豊かに鳴り響く低音と中音域が非常に魅力的な楽器であります。

戦前の昔から、テナー・サックスというのはソロの花形で、そのソロの特徴といえば、太く豊かに鳴り響く中低域を活かした男性的なフレーズでありました。

戦前から戦後50年代にかけては、ジャズの表舞台には個性豊かなサックス奏者がたくさん出てきましたが、その中で「テナーっぽくない硬質な音色とフレーズ」でもってシーンに出て来たのがコルトレーンだったんです。


この人の特徴は、良く言えばシャープで現代的、悪く言えばどこかぎこちなく、実際最初の方は下手くそと酷評もされておりましたが、その個性を活かしながらぐんぐん成長し、デビューから5年も経たないうちに、コルトレーンのように吹く若手が続々と出て来るまでになりました。

そんなコルトレーンの影響を強く受けた新生代(1960年代当初)のテナー奏者の一人が、ウェイン・ショーターです。


この人は活動初期の頃はモダン・ジャズの王道中の王道でありますアート・ブレイキーのジャズ・メッセンジャーズのメンバーとして、テナーサックスの演奏と共に作曲とアレンジで大活躍しております。

ブレイキーの演奏は、50年代のモダン・ジャズ全盛の時代に大流行した”ファンキー”と呼ばれる実にノリやすく、一言で”カッコイイ”スタイルです。

ショーターという人は最初から独自の都会的なセンスを持っていて、そして音楽理論にもとても強かったんでしょうね。ブレイキーのところの音楽監督的な立場で持ち前の”ファンキー”な感覚を上手に損ねないようにしつつ、そこに最新のモードという理論を織り交ぜて、演奏をグッとオシャレなものに進化させ、そして彼自身のコルトレーンを意識したシャープな音色とフレージングもそのサウンドの中でとても効果的に鳴り響いております。

そんなショーターのセンスを「お、オレんところに欲しいな」と目を付けて声をかけたのが、その頃モダン・ジャズの帝王であり、ショーターが憧れた”モード”のいわば大元締めであったマイルス・デイヴィスです。

マイルスの誘いに応じ、彼のバンドに移籍したショーターは、リーダーのあくなき実験精神に感化され、さらに演奏法を独自のものへと進化、いや、深化させてゆくのです。

具体的にはアート・ブレイキーのバンドに居た頃はまだモダン・ジャズ寄りファンキー寄りだった「音数の多いスタイル」を、親分のマイルス同様に音数の少ないスタイルへと変えて行きます。更に、これはマイルスが提唱していたモード奏法の特徴に寄り添うような形なんですが、コードチェンジの数も極端に取っ払って生まれる、メジャーでもマイナーでもない不安定な雰囲気と不気味に調和する、横へ横へとゆらゆら揺れながら伸びて、着地点でないところに不時着するような、不穏で捉えどころのない独自のスタイルを、ショーターは確立しました。




ジュジュ+2

【パーソネル】
ウェイン・ショーター(ts)
マッコイ・タイナー(p)
レジー・ワークマン(b)
エルヴィン・ジョーンズ(ds)

【収録曲】
1.ジュジュ
2.デリュージ
3.ハウス・オブ・ジェイド
4.マージャン
5.イエス・オア・ノー
6.12モア・バード・トゥ・ゴー

(録音:1964年8月3日)


さて、そんなショーターの個性が大きく花開いた時期のアルバムを、本日はご紹介します。

この『JUJU』は、ショーターのリーダー作としては5枚目、BLUENOTEレコードに移籍してから2作目のアルバムになりますが、録音年の1964年という年が、丁度アート・ブレイキーのジャズ・メッセンジャーズからマイルス・デイヴィスのバンドに移籍したその年になります。

メンバーはピアノがマッコイ・タイナーで、ドラムにエルヴィン・ジョーンズ、そう、当時バリバリに活躍し、ジャズの話題の中心で物議を醸していたジョン・コルトレーンのカルテットのメンバーであります。ベースのレジー・ワークマンも一時期メンバーでした。


ということは、おお、このアルバムは正にコルトレーン・サウンドの継承者としてのウェイン・ショーターに大々的なスポットを当てた内容なのか!と、アタシのような暑苦しいほどのコルトレーン・ファンは狂喜致します。実際アタシがショーターを知り、聴くようになったきっかけは、やはりコルトレーンとの関係あればこそでしたので、そもそもこのアルバムも裏に印刷されているメンバーの名前を見て購入を決意したようなもんでありましたから。


ところがどっこい、あえて尊敬するコルトレーンのバンドの、しかも現役のメンバーをわざわざ招いてレコーディングしたこの作品こそ、ショーターの「コルトレーンとは違うんだぜ」と言わんばかりの独自の味わいとか個性とかが物凄い密度で大々的に打ち立てられた作品なのであります。

のっけから半音階で不安になるようなリフから始まるオープニング曲の『ジュジュ』から、もう不気味で妖しくて、引きずり込まれてしまいそうな魔術的世界。そういえばタイトルの”ジュジュ”ってのはアフリカの黒魔術のことで、ショーターは大の読書好き&オカルト好きであり、アフリカの民俗学的な事や東洋の神秘思想などに相当のめり込んでいて、それを音楽で表現しようと熱心だったということで、彼が60年代ブルーノートに録音した作品には、その辺の影響がモロにうかがえる独自のおどろおどろしさに満ち溢れております。


テナー・サックスの音色は確かに金属的で、どこかドライな感じすらする、コルトレーン直径のトーンではありますが、そのトーンを使って描く世界は全く逆。


情念をMAXまで高めて、いや、最初っから頂点に達して洪水のように感情を吐き出すエモーショナルな吹き方がコルトレーンだとしたら、ショーターはドロドロとした情念の渦を常に胸に抱えながら、ソイツがまき散らすドス黒いものを辺りに振り撒きながらもしっかりとその効果とか風向きとかまで計算して、ニヤリと不敵な笑みを浮かべながら次の展開を考えているような感じ。

バックのマッコイやエルヴィンも、そんなショーターの個性と同化しているように、見事に”静と動”のコントラストを見せながらショーターの書く楽曲に沈み込んでゆくような思惑的なプレイでサポートしております。

そして、ショーターの演奏というのは、ただドロドロしているだけでなく、常にビシッバシッとキメるところはしっかりとオシャレにキメてしまうスタイリッシュな魅力があるんです。

最初は「うわ〜、何か妖しいな〜、不気味だな〜」と聴いてたショーターですが、恐ろしいことに回を重ねて聴いているうちに、そのふらふらとどこへ着地するかよく分からない不安なメロディーに耳がすっかり慣れてしまい、そのスタイリッシュなカッコ良さの方にシビレてしまう。こうなってしまうとすっかり中毒になってしまうんですが「ショーターが好き」っていう人は、最初は特にガツンと来なかったけど、聴いてるうちにいつの間にかハマッてしまったという方多いんですよね。

「ドロドロをドロドロとして聴かせる」よりも「最初はドロドロを印象付けるけど、最終的にそれを普通にカッコイイものと思わせて聴かせてしまう」って、・・・これはもう魔術ですね。ショーター恐るべしであります。










『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
http://ameblo.jp/soundspal/
posted by サウンズパル at 16:47| Comment(0) | ジャズ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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