2019年02月12日

チャンピオン・ジャック・デュプリー ブルース・フロム・ザ・ガター

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チャンピオン・ジャック・デュプリー/ブルース・フロム・ザ・ガター


テレビはあんまり見ませんし、スポーツもどちらかというとアタシは苦手なんですが、相撲とボクシングは小さい頃から好きでよく見ておりました。

ボクシングは小学生の頃から親父と一緒に見てまして、すると世界戦とかをやりますよね。日本人の選手が世界の相手に挑戦するとか防衛するとか、そういうのですっごい盛り上がる訳なんですが、大体「世界」といっても相手の選手は大体メキシコとかタイとか、あれ?アメリカとかソ連とかイギリスとかフランスとか、世界ってもっといっぱい色んな国があるんじゃないの?何でいつもメキシコとかタイとかフィリピンとかばっかりなの?と素直に疑問に思い、親父にそれを訊いたことがありました。

すると親父の答えはこうです。

「ボクシングってのはな、貧乏のドン底のヤツが、拳ひとつでチャンピオンになって賞金を稼ぐためにやってるんだ。だからメキシコとかタイとかフィリピンとか、そういう貧しい国のヤツがな、家族を食わせるためにボクサーになるんだぞ」

と。

ほいでもって、バリバリの戦中生まれでバリバリの下町少年愚連隊出身の親父から、あしたのジョーとかモハメド・アリのことも教えてもらったのが記憶にあります。

しかし、そこで親父が熱を込めてアツく語ったのが

「おォ、そいで黒人のボクサーってのは多いんだ、ジャズのピアノを弾く人でレッド・ガーランドってのが居てなァ、これはボクサーから世界一のマイルス・デイヴィスのバンドのピアニストにまでなった人なんだ」

という話だったんですが、小学生だったアタシには、レッド・ガーランドとかマイルスどころか、ジャズと言われても何のことやらさっぱり分かりません。


そんなこんなでボクシングはアタマの悪い中学生になっても高校生になっても、卒業して上京してからも、結婚して戻ってきてからも相変わらず好きで見ております。

その過程でレッド・ガーランドを知り「おぉ、この人がボクサーだったのか!」と思いましたが、ボクシング出身とはとても思えないハッピーで穏やかでエレガントなピアノに聴き惚れてしまいました。

そしてジャズやブルースの人達を知れば知るほど「ボクサーをやっていた」という人、ちょくちょく出てきます。

ほとんどの人はやっぱり貧しくて、それでガッツリチャンピオンになるためというよりは、やはり「カネのためのリングに上がった」というエピソードであり、ここで親父の言っていた「貧乏ドン底なやつが一攫千金を狙うためにボクサーになる」という話が初めてピンと来たのでありました。


はい、今日皆様にご紹介するのは、そんな「カネのためにボクサーやってたよ」というブルースマン、チャンピオン・ジャック・デュプリーでございます。

しかしこの人はですねぇ「音楽やってたんだけど食えなくてねー、しょうがないからオレになんか出来るかって思ったら、まぁ腕っぷしだけは自信あったからな。ボクシングやる?って言われてあぁいいよってリングに上がったら何か勝ち続けちゃってさ・・・」で、何と107回も試合をしてチャンピオンになっちゃった人なんです。

だから芸名が”チャンピオン”凄いですね。ブルースマンの芸名なんてのは大体が”カッコ良く思わせるためのハッタリ”だったりして、そこが何とも良かったりするんですが、この人はガチなチャンピオンですよ。

チャンピオン・ジャック・デュプリー、生年には1908年とか9年とか10年とか、諸説ありますが、とにかくブルースマンとしては古い世代の人であります。


出身地はルイジアナ州ニューオーリンズと言われておりますが、資料には一部ミシシッピ州ジャクソンという説もあります。そしてアフリカ系の父親と、先住民チェロキー族の血を引く母親の間に生まれます。

彼の人生は最初から波乱万丈でありました。

まず、幼い頃に火事で両親を亡くし、孤児院に引き取られて育ちます。

ピアノはここで少し習い、何となく音楽で生きて行こうと思ってやがて孤児院を出ることになったのですが、しかし、時は大恐慌が猛威を振るう1930年代。南部からは少しでも良い仕事を求めて北部や西海岸などに移住する人達が多く、盛り場も不景気になって、思うような音楽の仕事にはありつけることは出来ません。

結局北部の街シカゴに彼もまた移り住み、当時人気だった元説教師のピアニスト、ジョージア・トムと活動を共にしたり、はたまた更に移り住んだセントルイスで、戦前ブルース・ピアニストとしては破格の人気を誇ったリロイ・カーと親交を深めたりしますが、彼自身はミュージシャンとして、ピアニストとしての順調な活動の波には乗れませんでした。

シカゴではコックをしたり、密造酒の販売などにも絡んでいたそうで、そんなこんなでギリギリの生活をしながらシカゴに住んだりデトロイトに住んだり、不安定な生活をしているある日、デトロイトで伝説の黒人ボクサー(ヘビー級チャンピオン)のジョー・ルイスに「お前ボクシングやってみない?」と声をかけられ、「まぁそうだな、こんなうだつの上がらねぇ生活してるよりはボクサーにでもなった方がいいかな」と、ライト級ボクサーになってみた。そしたらあれよあれよという間に試合数は100を超えて、何とあっさりチャンピオンになってしまいました。


順風満帆のボクサー人生は、それなりにスリリングで金銭的にも充実したものでありましたが、それでもやはり音楽への思いは絶ち難く、デュプリーは再びシカゴへ行って、そこでようやくミュージシャンとしての仕事に多く恵まれ、クラブで忙しく演奏する日々を送っておりましたが、今度は第二次世界大戦が始まり、コックの経験を買われて海軍の調理兵として招集されます。

どこでどんな戦歴を送ったのかはあまりよく分かりませんが、この兵役で彼は最終的に日本軍の捕虜となって2年間を収容所で生活しております。

やがて戦争が終わり、母国へ舞い戻って再びピアニストとして大活躍。南部のバレルハウス(音楽が聴ける安酒場)で鍛えたゴツいタッチから繰り出される強靭なブギウギ・ビートでヒット曲も出すようになりました。

50年代後半に、ブルースの人気が下火になってくると思い切ってヨーロッパに移住。スイスやデンマーク、スウェーデンやイギリス、ドイツと行く先々で現地のオーディエンスやアーティスト達から「アメリカのすげぇブルースマン」として尊敬を集めるほど受け入れられました。特にイギリスではエリック・クラプトンらブリティッシュ・ブルースロックの若い連中とのセッションにも積極的に参加し、同地のブルースムーヴメントの盛り上がりに一役買い、最終的にアメリカでの再びのブルース人気にも多大な影響を及ぼしているのです。






ブルース・フロム・ザ・ガター

【収録曲】
1.Strollin'
2.T.B. Blues
3.Can't Kick the Habit
4.Evil Woman
5.Nasty Boogie
6.Junker's Blues
7.Bad Blood
8.Goin' Down Slow
9.Frankie and Johnny
10.Stack-O-Lee



長く充実したキャリアの中で名盤は数知れず。そしてどの時期のアルバムも奇をてらわない、時流に媚びない男気で骨太のブルース一本で聴く人の口から「く〜」という究極の感嘆詞を引き出すチャンピォン・ジャックですから、とりあえずどのアルバムも聴く価値はあります。

その中でも特に自身のヴォーカル&ピアノ、ギター、テナーサックス、ベース、ドラムスという程良い編成でじっくりとそのズンと腹にくるパワフルなピアノと深い味わいのヴォーカルを心行くまで味わえるといったら、1958年アトランティックに残した『ブルース・フロム・ザ・ガター』でしょう。


「ガター」とは貧民窟のこと。実際に社会の最底辺で泥水をすすりながら力強く生きてきたデュプリーが、それまでの人生を噛み締めるようにしみじみとしたコブシを効かせて歌うスローブルースや、陽気なブギウギにもしっかりと下町の夜の空気が隅々まで充満しております。

1950年代後半といえば、時代はロックンロールやR&B、カネと車と男と女みたいな歌が、できるだけ派手なアレンジの小粋なビートに乗せられて歌われておりましたが「オレに歌えるのはブルースだけだけどそれがどうした」と言わんばかりの、このヘヴィで男臭い歌唱、どんな言葉よりもズッシリと重厚なメッセージを伝えてくるピアノ。どうでしょう、彼自身の実にニヒルで媚びない魅力ってのも最高なんですが、それに合わせたシンプルで土臭いアレンジのバックも実に素晴らしい。

特にラリー・デイルの、まるで高倉健主演の任侠モノで、最後の死闘に途中から黙って付いてきて来て渋い立ち合いを演じる池部良のような、タメと弾きを心得た見事なサポート・ギターはその武骨極まりないトーンも含めて最高じゃあありませんか。

古き良きバレルハウス/ブギ・ウギ・ピアノの奏法に生まれ育ったニューオリンズの絶妙な軽快さが隠し味で効いているといったスタイル云々以前に、これはどの瞬間を切り取っても男の哀愁と心地良く重い夜の空気に満ちた極上のブルースであります。





『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
http://ameblo.jp/soundspal/
posted by サウンズパル at 21:45| Comment(0) | ブルース | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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