2019年04月15日

在りし日のヴェトナム 1937-1954

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在りし日のヴェトナム 1937-1954
(ライス・レコード)


「知らない音楽をYoutubeで探す」という事を覚えて、以後好きな音楽からの関連関連でずーっとサーフィンしながら色々聴いております。

そんなこんなである日、とってもオシャレでセンスのいいヒップホップを見付けたんですよ。

中国語のような、でも何か違う東南アジアっぽい感じのラップと、涼やかなトラックの相性の妙がこらもうすこぶるカッコ良くてですねぇ。

で、調べてみたらどうやらこのグループはベトナムのヒップホップユニットらしいぞという事になっております。

おお、ベトナムか。そういや東南アジアはそれぞれ複雑な歴史を抱えていて、その過程で音楽も根っからある民俗の強烈なやつと西欧のポップソングが入り乱れた、なかなか独自の凄いのが生まれておったよな。

と、その昔カンボジアのサイケ(クメールルージュに蹂躙される前のアメリカ文化からの影響を受けたロック)ってむちゃくちゃヤバかったという衝撃体験を思い出し、それならばベトナムはどうであったかという気持ちがムクムクと膨らみ、ワールド・ミュージックといえば何かと頼りにしているライス・ミュージックからのコンピレーション・アルバム『在りし日のヴェトナム』を聴いております。

結論から言いますと、1930年代から50年代半ばのベトナムの音楽は思っていた以上に先進的でヤバい!ということなんですが、まぁその前にちょいとこの国の歴史と地理をおさらいしてみましょう。

ベトナムという国は、インドと中国の間にぽっかり突き出たインドシナ半島の右側を南北に細長い領土を有して存在する国であります。

この国は古くから王朝が存在し、北は中国、南はフィリピンやインドネシアなどとも近い。つまり南北で文化風習が違ったりするのです。

古くは秦の始皇帝の時代に中国と深い関わりを持ち、高い文明の影響を受けながら独立した王朝が生まれたり、中国に服属しながら更に文化や経済システムを吸収したりと、長い歴史の中でしたたかに命脈を保ってきました。

やがて近代になるとフランスがこの地を植民地として支配し、第二次大戦の頃は日本軍も駐留するようになって、そこに社会主義勢力も密かに根付き、3者入り乱れの泥沼の果てに終戦。と思いきや、戦後はそのまま冷戦の更なる泥沼に巻き込まれ、最終的にはベトナム戦争を経て社会主義国として統一され、現在に至ります。

政治的な事はさておき、音楽的に見ると古代からの中国由来のものと、元々の東南アジア的なものが常にクロスオーバーしながら民俗音楽の下地となり、それが原型を保ちながらフランス経由でのヨーロッパ音楽を呑み込み、社会主義国としての統一を見るまでの間、ベトナムの音楽は他のどの地域にもない独自のクセの強いごった煮感を楽しませてくれる、実に楽しく奥深いものであったといえると思います。




在りし日のヴェトナム 1937〜1954

【アーティスト/収録曲】
1.アンサンブル・ホアイ・チュン/この古いチュニックをまとって
2.ゴック・バオ/ 爪
3.ゴック・カン&グエン・ティエット/月下の白米
4. マン・ファト/もしあの道を行くのなら
5.チャウ・キー/山国の女
6.ゴック・バオ/絹の糸、愛の糸
7.ホアン・トラン/帰路
8.ゴック・バオ/音楽万歳
9.ゾアン・マン/夢想
10.ゴック・バオ/香江の歌
11.ゴック・バオ/人生のために愛する
12.チュ・ヴァン・トゥック&ミン・リー/2つの家族の水牛
13.ウト・トラ=オン/亡命の怨恨
14.イエン・フー村のフオン・ジアト/経典
15.ナム・カン・ト/女戦士の親密な感情
16.アイ・リエン&キム・チュン/金雲翹


さぁ、こんな風にサラッと解説しても、その幅広く奥深い往年のベトナム音楽の魅力を伝えるには、なかなかに難しいものがありますので、これはぜひ皆さんにこのコンピレーションをちょろっとでも聴いて頂きたいものです。どの曲もLPより古いSP盤からの音源で「シャーシャー」と混じるスクラッチノイズが、ノスタルジックな想いを掻き立てます。

南曲か拾って解説します。

まずは1曲目、アンサンブル・ホアイ・チュンは、戦前に欧米で流行した男性複数による甘い感じのグループ・ヴォーカル。ゆったりしたのどかな曲調はアジアの田園地帯が似合いますが、アレンジはモダンなオーケストラで、ジャズっぽい洗練さも感じさせるなかなかに粋なもの。

続く2曲目はゴック・バオさん。全16曲入ってるこのコンピの中で5曲もセレクトされているところを見るに、戦前から戦後にかけて、恐らくはベトナムの国民的歌手だったと思うんですが、この人も声がとても素朴で優しく、聴いてるだけでほわ〜んといい気分になってきます。優しく語り掛けるような歌い口と、軽〜く弾むような曲調は、これはもう間違いなくフランスのシャンソンからの影響だと思うんですが、メロディやバックの楽器は実に中国歌謡っぽい。その全く正反対の持ち味が何だか合ってるから凄いんですね。ギターのみをバックにした11曲目『香江の歌』のじんわりと深い歌唱は世界レベルでファンが増えていいぐらいの名唱であります。

ゴック・カン&グエン・ティエット『月下の白米』は、びっくりしたんですがコレがラテン。でも、曲がアジアンで男女の掛け合い(女声メイン)のかな〜り怪しげなムードとか、バックで鳴ってるクラリネット(?)の醸すエスニックな雰囲気とか、あぁ、これこれこのテのアジアのコンピではこういうのを期待してたんですよ!と思わず握り拳にぎっちゃいます。

そして7曲目、ホアン・トランの『帰路』、おお、これは全く正統派なタンゴ!他の「〇〇風」な楽曲は、ことごとく”地”の感じが混ざってカオティックな良さがあるんですが、コチラは編成もバンドネオン、ピアノ、管弦楽団でむちゃくちゃ洗練された、カルロス・ガルデルみたいなアルゼンチン・タンゴの古典的なヤツみたいな上質なカッコ良さです。

いきなりハワイアン・ギターのようなラップ・スティールが鳴り響き、高音女性ヴォーカルが見事なアジア旋律を歌い上げる9曲目、ゾアン・マン『夢想』も、そのジャンルレス民族レスな響きがとてもいい感じに遠くへ連れていってくれます。こっちのヴォーカルはどこか詩的で聴けば聴くほどしみじみした良さがありますな。


後半はより民俗っぽいものが全面に出た曲が多く、圧巻はタイトル通りの仏教のお祈り、イエン・フー村のフオン・ジアト『経典』ウト・トラ=オンの『亡命の怨恨』。トリップ感強烈な2曲ですが、特に凄いのがウト・トラ=オンでしょう。

このコンピそのものが、西洋からの影響も織り交ぜたポップなもので成り立っているような感じがしますが、これに関してはバックの楽器(琴と胡弓?)も、それに合わせて「びよん、びよよん」と歌ってるような、語ってるような、いや、これこそ「朗詠」と呼ぶべきか。そんな不思議な不思議なウトトラおじさんの声の起伏は、耳で追いかけるうちに、確実に”ここでないどこか”へ誘われてしまいます。

ネットで調べれば色々と情報に出会える時代であり、ベトナム音楽もネットを通じて知ることが出来ましたが、ここに収録されているアーティストの情報は、実は日本語のネット検索ではほとんど出て来ません。うんうん、そういうのがいいんですよ。本当にまっさらの”知らない音楽”どんどん聴いて豊かになりましょう。







『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
http://ameblo.jp/soundspal/
posted by サウンズパル at 23:20| Comment(0) | 世界の民族音楽など | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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