2019年04月24日

ジェシー・フラー フリスコ・バウンド

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Jesse Fuller/Frisco bound
(Arhoorie)


ブルースという音楽は、その100年の歴史の最初の30年ぐらいのうちに、徐々に形を整えていきました。

初めてブルースがレコードに録音されて人々の耳に届いた頃の1920年代という時代は、それこそ演奏する人歌う人が、それぞれ思う「これがブルースだ」というスタイルがあり、それがまたゆっくり弾かれたりガツガツとリズムを強調してワイルドに弾かれたり、例えば同じ曲を同じコード進行でやるにも、それぞれ違った解釈の演奏が楽しめて、良い意味で実に自由なんです。

加えて、古い世代のブルースマン達は、形式としての”ブルース”だけを歌うのではなく、ブルース以前のどちらかといえばフォークとかカントリーとかに近い感じのバラッドと呼ばれる民謡や、スピリチュアルと呼ばれるゴスペルの原型の曲、はたまたフィドル(ヴァイオリン)やバンジョー、マンドリンといったちょいと変わった楽器などもバックに付けたり、歌ってるのは思いっきりブルースなのに、コルネットやクラリネットを加えてのジャズ・アレンジ(そう、昔のジャズは戦後ほど複雑ではないので、ブルースとも自然と合うのだ)もやったり、何もかもが戦後のエレキギター+ベース+ドラムスのようなバンド形式のブルースとは、何もかもが違う感触だったりもするんですが、アタシなんかはそこに何とも言えない本質的なアナーキーさを感じたりしておるんですよ。

で、本日ご紹介するジェシー・フラーです。

ブルース聴き始めの頃にガイドブックに書かれていた

「12弦ギターとハーモニカとカズーと自作の足踏みベースを同時に操る」

という一文に、意味不明の凄味を感じ、更に意味不明な演奏写真を見て、アタシ一目惚れしたブルースマンです。


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見てくださいこの写真(!)


「12弦ギターとハーモニカとカズーと自作の足踏みベース」

どころか、左足の所にはドラムセットに付いてるハイハットらしきものまであって更に訳が分かりません。


何でこういう訳のわからんスタイルになったのか?という問いへのジェシーさんの答えがまたいい。

「バンドでやりたかったけど、一緒にやってくれるヤツがいなかったんだ。だから自分で全部やることにしたんだ」

おお、これぞDIY!アタシの大好きな初期ハードコアのスピリッツではないですか(!!)


しかも、このジェシーさん、1896年頃の生まれで、さっき言った「自由でアナーキーなブルース誕生初期」の空気を肌で身に付けているお人。

戦後のフォーク・ブルース・リヴァイバルの中で発見されて、本格的なミュージシャン活動をして若者に大人気になった人。

本格的な活動を始まる前は何をやっておったのかというと、南部ジョージアで生まれて、何か楽しそーだなという理由だけで、南部一帯を巡る旅芸人一座やサーカスに付いて回り、そのまんま一座の演奏家になったんですね。

こういう一座の演奏家ってのはアレです、客からブルースやれと言われたらブルースやるし、ノリノリの流行歌と言われたら当然やるし、ラグタイムやってくれと言われたらラグタイムをやる。つまり自然と持ち歌も芸の幅も増えて物凄い名人になっていくパターンが多いんです。

その芸の凄さについては後程言及しますが、とにかくジェシーさん、旅回りをしているうちに西海岸のサンフランシスコが気に入ってそこに住み着きます。

西海岸といえばハリウッドという巨大映画産業のある映画の都であります。

根っからの芸人ですから、まぁそういうのにのっかって食い扶持を得ようと思ってた訳です。

という訳でジェシーさんは

「えぇと、人が集まる所で歌えばいいんだな」

と、割とカラッと考えて、撮影所の前で靴磨きをしながら芸人としての自分を売り込むための商売を始めます。

撮影所に出入りする有名スターや業界のお偉いさんに

「旦那、いい靴を履いてますね。あっしが磨きやしょう」

と、声をかけ、靴を磨いている最中に

「いえね、あっしも実はここに落ち着くまでずっとサーカスと一緒に旅してましてね」

とやる訳です。

ついでに

「お望みの曲があれば何でも歌いやすぜ、ギターも弾きましょう、ハーモニカだって吹ける。おっと、こんなところにたまたま偶然ギターが!」

とやってるうちに


「お前面白いやつだなぁ、オレは気に入った」

と、戦前の大スターであり、脚本家プロデューサーとしても超大物だったダグラス・フェアバンクスという人に目をかけられて可愛がられ、何と映画にまで出演してしまいます。

やったぁ!これで俺もハリウッドスター

・・・という風にはなりませんでしたが”ギターと何でも一人で演奏する芸人”としては徐々に知られるようになり、1950年代にはクラブなどでの仕事もぼちぼち入るようになっておりました。

ラッキーなのは、この時代のサンフランシスコという街が、時代に反抗する若者達のカウンターカルチャーの聖地であり、その中でルーツ・ミュージックに対する再評価の機運が盛り上がって来たこと。


白人の若者の間では、ジェシーさん達が当たり前に歌っていた南部の古い民謡が「フォークソング」と呼ばれる新しいトレンドとなり、ジェシーさんのような人は彼らの尊敬の対象になり、若者が集うカフェや大学のコンサートに引っ張りだこになってレコードも録音できるようになります。





Frisco Bound


【収録曲】
1.Leavin' Memphis, Frisco Bound
2.Got a Date at Half Past Eight
3.Hump in My Back
4.Flavor in My Cream
5.Finger Twister
6.Just Like a Ship on the Deep Blue Sea
7.Cincinnati Blues
8.Just a Closer Walk With Thee
9.Motherless Children
10.Amazing Grace
11.Hark from the Tomb
12.As Long as I Can Feel the Spirit
13.I'm Going to Sit Down at the Welcome Table
14.Together Let Us Live
15.Memphis Boogie
16.Footdella Stomp
17.Crazy About a Woman
18.99 Years
19.Stranger Blues
20.Bill Bailey, Won't You Please Come Home
21.Preacher Lowdown
22.San Francisco Bay Blues


ジェシーさんは、南部に住む伝説のブルースマン達が再発見され、レコーディングをするのに先駆けて、1950年代に何と2枚のアルバムをリリースし、76年に亡くなるまで、結構な量の作品を残しています。

そのどのアルバムでもバラッド、ブルース、スピリチュアルなどを自由自在に歌い、弾き、吹き、叩く究極の”ひとりバンドスタイル”の至芸が楽しめるんですが、個人的にアタシの思い入れがあるアルバムは、1968年にアーフーリーからリリースされた『フリスコ・バウンド』です。

あのですねこの人が作った曲で『サンフランシスコ・ベイ・ブルース』という曲があるんです。

エリック・クラプトンがアンプラグドでカヴァーして有名になり、アタシもクラプトンのヴァージョン最初聴いた時うひょうと喜んだクチなのですが、実はアタシが最初に聴いて感激したのがジャニス・ジョプリンが2枚組のアルバム『ジャニス』で聴いた彼女のデビュー前のアコースティック・セッションのヴァージョンで、ほいでジャニスで知ってクラプトンを聴いた後にオリジナルが入ってるぞということでこのアルバムを買いました。

やや鼻をつまんだような素朴な声で、12弦ギターをチャカチャカ鳴らし、おもむろに軽快なハーモニカやカズーを吹く。何というか美しい”土着”を感じさせる原曲のカッコ良さには素直にヤラレましたが、ここへ至るまでの収録曲21曲がまぁ凄いんです。

リズミカルなラグタイムやスライドギターで奏でるブルース、カントリー調のバラッドなどなどなど、大体こういう”ひとりバンド”の人ってのは同時に色んな楽器をやるもんだから、ギターはシンプルなぶんちゃかのコードストローク一発で全曲通しそうなもんですが、まぁ何をどうやってるのか、よくよく聴くとぞれぞれ違うスタイルの曲で、細かくアプローチを変える、相当なテクニシャンぶりも発揮しております。

それでいて全体的に「ほんわかで賑やかで楽しい雰囲気」を醸せるのは、やはり長年の芸人生活で身に付けた凄味というものでしょう。ブルースは大好きですが、この人を「ブルース」という狭い枠で語るのは、何だかもったいない気がします。















(一人で同時に色んな楽器を演奏するワンマンバンドスタイルといえば、ジェシーさんとはまるでスタイルの違う、ロッキンなこの人もお忘れなく!)



ブルース入門編 〜初心者のための優しいブルース講座〜



『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
http://ameblo.jp/soundspal/
posted by サウンズパル at 22:59| Comment(0) | ブルース | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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